※この京子は天然ではありません。   作:ジュースのストロー

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決壊しました。

 

 

その日何故か私は、小さな中華服の女の子、イーピンと街を歩いていた。

 

「イーピン、餃子拳法使う。とても強い!」

 

「へぇ〜、そうなんだ。まだ小さいのに凄いね。」

 

褒められた事に満更でもなさそうなイーピンを見て、思わず頬が緩むも、すぐにこの状況を思い出して憂鬱な気持ちになる。

一時間前、たまたま街を歩いていたら目の前からイーピンが歩いて来た。そこまでは別に良かった。道ですれ違う人なんて沢山いる。私もその内の1人だったのでこれは良かったのだが……

 

「イーピン、人探してる。この人分かる?」

 

急に引き留められ、そう言って渡された写真には何と、私自身が写っていたのである。

 

「な、何でイーピンはこの人を探しているのかな?」

 

「イーピン、仕事しに来た。この人、〝めっ!〟する!」

 

イーピンが拳を打ち込む振りをして仕事への意気込みを表わしてくれたのを見て、私は一気に冷や汗が流れた。

あれ? どうして私の命がマフィアに狙われているんだ? って言うかイーピン、この距離で写真が本人か分からないって視力悪過ぎやしないか??

 

「ちちちなみに、どうしてこの人を〝めっ!〟するのかな?」

 

「この人、ボンゴレに爆弾の手紙送って来た! 危ない人、やっつける!!」

 

「っあーーー…………はいはい。」

 

確かに送った、送ったとも…………丁度一年前位にボンゴレの10代目候補者の暗殺を防ぐための注意喚起として爆弾テロを匂わす手紙を送ったよ!! しかも肝心の暗殺は止められなかったのが後日分かったよ!!

送った過去の私、馬鹿!! それで自分の命が危ないってどうしようもないよ!

そんな訳で、イーピンと離れる事も出来ず、取り敢えず探すのを一緒に手伝うと言って歩いている訳だが、勿論探し人を見つけてもらっては困る。

取り敢えず写真をどうにかして処分するとして…………イーピンに殺しの依頼をしたボンゴレ上層部がいるので、根本的な解決にはなっていない。せいぜい余命が増える程度の違いだ。

そもそも何故送り主が私だとバレたのだろうか。きちんと封筒は市販の大量生産品を使い、指紋が付かない様に注意しながらワープロで作ったのに……ボンゴレの諜報機関を舐めていた訳ではないが、1年かかったとは言え、よく私と特定出来たものである。

これはリボーンに土下座して説明すれば命は助けて貰えるだろうか…………いやでもどうやって? 原作知識なんて言える訳がないし、じゃあ平行世界の未来とでも言えば良いのか? それにそんな事をしたら今まで避けていたマフィアと、どうしても関係を持ってしまう。

 

「イーピン、写真の人見つけた! 」

 

「えっ……」

 

イーピンの声に驚いて振り向くと、イーピンは少し先を歩いている人を指差していた。良かった私じゃない…………いやでもあれは…………

 

「あれ? 笹川さんどうしたの?」

 

「さ、沢田君……」

 

沢田綱吉が何故かそこにいた。

 

「イーピン、危ない人〝めっ!〟する!」

 

「どわぁっ?!」

 

沢田綱吉に向かって行ったイーピンは、そのまま中国拳法の様なゆらゆらした動きで沢田綱吉の頭を狙って掌打を繰り出した。尻餅をつきながらも何とかギリギリでそれを避けた沢田綱吉だったが、とても追撃を全て避けるのは厳しそうだ。

 

「やつは餃子拳法の使い手のイーピンだぞ。餃子まんの臭い匂いを拳法で圧縮させて、相手の脳に送り込んで麻痺させるんだ。」

 

突然聞こえて来た高い声の方を見ると、塀の上に立ちこちらを見下ろしているリボーンの姿がそこにあった。

 

「チャオっす。そう言えば名乗ってなかったな。俺はヒットマンでツナの家庭教師をやってるリボーンだ。」

 

「……どうも。笹川京子です。」

 

リボーンの黒いつぶらな瞳に見られているだけなのに、体じゅうの産毛が逆立ち、心臓がドクドクと激しく打つ。

そもそもイーピンに私の殺害命令が出ていてリボーンがそれを知らない筈がなかったのだ。となると、今までもリボーンはそれを知っていて私を泳がせていた可能性もある。本当にこの赤ん坊は底知れない。

リボーンの手が帽子のつばに載っている形状記憶カメレオのレオンに延びる。それが銃の形を作り私の方に向いても、心臓の音が大きくなるだけで指先一つとして動かす事が出来なかった。

視線を合わせたまま、一瞬の筈なのに何十分にも何時間にも感じる程にリボーンが銃の引き金を引く動作が遅く感じられた。思わず目を瞑った私は迫り来る弾丸に体を震わせていたが、時間がいくら経っても何も変化がない。

 

「復活! 死ぬ気で笹川京子を守る!!」

 

「えっ……」

 

目を開けてまず入って来たのはオレンジ色の炎。沢田綱吉が額に炎を灯して私の目の前に立っていた。

一瞬何が何だか分からなかった私だが、先程リボーンが打った弾丸が沢田綱吉への死ぬ気弾だったのだと思えば話は繋がった。

それから沢田綱吉は私に攻撃の余波がいかない様に立ち位置に気を付けながらもイーピンの攻撃をかわし続け、最後にイーピンの首元をトンと叩く事により気絶させて死ぬ気から元に戻った。

それらを呆然としながら眺めていた私だが、正直自分の命が助かった事よりも気になった事がある………沢田綱吉は何と言って死ぬ気の状態になった? 笹川京子を守ると言わなかったか? いや、もしかしたら聞き間違えかもしれないが、もしそうなら沢田綱吉は死の間際に私を守ろうとしたと言う事か??

 

「あ、あの……大丈夫? 笹川さん……」

 

「あっ…う、うん。大丈夫。」

 

私がじっと沢田綱吉の方を見ていたのに気付いたのか、沢田綱吉は気まずそうにしながら私の心配をして来た。

嫌だ。何だこれ……。何で沢田綱吉は未だに私の心配なんかするんだ? 私はあんな言葉を言って彼を突き放したのに……どうしてそんな私なんかをまだ、想ってくれるんだ? そもそも私は、元から沢田綱吉と意図的に距離を取っていたのにどうして彼は私を好きになったんだ?

分からない、怖い、分からない、分かりたくない、怖い、怖い…………

恐らく私の顔は強ばっている事だろう。沢田綱吉が何を考えているのかが分からなくて、沢田綱吉がどうしてここまでの事をしてくれるのかが分からなくて、沢田綱吉を恐ろしいと感じているのに、人として好きになってしまいそうな自分がいて、怖い。彼を好きになってしまったら、自分の大切な守るべき対象の1人だと認識してしまったら、私は一般人として生きて行けない。

私は普通の家庭で幸せに生きたいのに、彼を大切だと思ってしまったら彼の境遇を見て見ぬ振りは出来ない。マフィアとしてしか生きられない。それは嫌だ、嫌なのに…………

 

「さ、笹川さんっ?!」

 

気が付けば私は走り出して彼の前から逃げていた。涙でぼやけた視界でただひたすら走って、走って、息が切れてもう走れなくなった所でしゃがみ込んでしまった。

 

「……うっ、ぐすっ…………うぅー…………」

 

道の端っこで、声を押し殺しながらも止まらない涙にイラついて、泣く資格なんてないのに泣いている自分が嫌で、心の中で早く泣きやめと自分を叱咤した。

 

 

 


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