※この京子は天然ではありません。   作:ジュースのストロー

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日曜日がやって来ました。

 

 

 

袖の長いぶかっとした白いトレーナーにカーキのサルエルパンツと言う軽装が本日の私の格好である。

何故勝負服で戦闘服の真っ黒コーデではないのか、あれは隠密に適しているため顔バレを防ぐ目的で着る事が多いのである。しかし今回は元から私だとバレているために顔バレを防ぐ必要がない所か、勝負服を着ていく事により黒服=私と言う方程式を成り立たせてしまう悪手になってしまう。

そんな訳で随分とボーイッシュな格好をしている私だが、勿論これは顔出し用の戦闘服の内の1つである。そもそも私が休日に出掛ける時に着る服はヒラヒラふわふわした物が多く、収納は多いがとても戦闘には適さない。その点この戦闘服は、武器の収納性だけではなく、動きやすさや武器を隠して投擲するのにも適している素晴らしい一品である。

全体的に対雲雀先輩を意識してスピードアップのために軽量化を目指したため、装甲は薄い。服に隠れて見えないが、両方の腕に薄い篭手を一つずつ、靴には仕込みナイフ、胴体も服の中にプロテクターがあり、後はサルエルパンツのポケットに軽い爆弾が数個程度しかないのである。

私の耐久値では装甲を厚くした所で防御力なんて無に等しい。それなら雲雀先輩の攻撃を受けるのに重いプロテクターを付けるのではなく、最低限で軽い体で攻撃を避ける方が余程有利に闘いを進める事が出来る。

何とかトンファーを奪い、空いた隙を突いて気絶させると言う作戦が成功するか…………いや、絶対にしてみせる!!

 

「京子、極限楽しんで来い!」

 

「えぇ……それはちょっと。……まぁ、頑張って来るね!」

 

2人きりの方が集中出来るだろうと言う配慮から家でお留守番のお兄ちゃんを置いて、目的地の並盛中グラウンドへと向かう。本来ならば野球部がいつも使っているグラウンドだが、流石風紀委員は見事に貸切にしている────筈だった。

 

「え? あれ…………」

 

野球部が普通に練習をしている……それだけでなく、そこにいたのは何故か私服姿の雲雀先輩であった。風紀委員の腕章はしっかり付けているものの、とても戦闘服とは思えない黒のジャケットをきっちり着込み、細身のパンツを履いている。

取り敢えず朝の挨拶を雲雀先輩にすると、何故か私の全身をちらりと眺めた雲雀先輩が首を傾けた。

 

「君…………まぁいいか。」

 

何かを言いかけて止めた雲雀先輩は、そのままこっちに掛け声も掛けずに校門へと向かった。私も取り敢えず付いていくが、一体彼は何処に向かっているのだろう。てっきり並盛中のグラウンドで闘うのかと思っていたが違うのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの…………ここは一体……」

 

「並盛町、グルメ選手権会場だけど。」

 

「はぁ…………。」

 

見渡す限りぐるっと露店が軒を連ね、美味しそうな匂いが辺りに漂っている。それなのにも関わらずお客さんらしき人影が全くないと言う不思議空間に私はいた。

会場の係の人に渡されたパンフレットを読むと、今日の午後からだが、確かにここで並盛町のグルメ選手権が開かれるらしい。並盛町の数あるお店が自慢の一品や選手権のための特別メニューを出してお客さんに投票してもらい優勝を決めると言うものだ。

何故こんな所に私を連れて来たのだろうか、雲雀先輩に視線で訴えるも、その視線に全く気付かない先輩はすぐ目の前のお店の店主に声を掛けた。何かを話していると思ったら何かの袋を手に取って戻って来た雲雀先輩。

 

「はい。」

 

「えっ、ありがとう、ございます?」

 

渡された袋の中身はたこ焼きのパックであった。これを食べれば良いのだろうか………それとも私は荷物持ちか?

 

「? 何してるの?? 早く食べようよ。」

 

食べよう? 一緒にたこ焼きを食べるのか? どうして??

雲雀先輩に半ば急かされつつも、袋からお箸を二膳とたこ焼きのパックを出して箸を一膳雲雀先輩に渡す。取り敢えずパックの蓋を開けて雲雀先輩の方に差し出したら、雲雀先輩は普通に箸でたこ焼きを口に持って行った。

分かりにくいが微妙に口角が上がっているので、美味しかったのだろうなと思う。二つ目を食べて三つ目に手を出そうとした雲雀先輩が、ふと気付いた様に私の顔を見た。

 

「食べないの?」

 

「あー……えぇっと、いただきます。」

 

たこ焼きを一つだけ取って口に入れる。

 

「!? ほ、ほれ、何なんれふか…………」

 

中身が確実にタコじゃない。何故かドロッとしてるし、と言うかソースが甘いし…………

 

「チョコ焼きだよ。」

 

「んぐっ…………ちょ、チョコ焼き?」

 

よくよく見れば、ソースはブラックとホワイトのチョコレートで鰹節は薄ーくスライスしたアーモンドだった。ぱっと見た感じはたこ焼きでびっくりした。

私がチョコ焼きを一つ食べている間に残りを平らげた雲雀先輩は、同じ様に隣の屋台に声を掛けてまた袋を貰って来る。今度は一体何だろうかと戦々恐々しながら渡された袋を開けると、中には唐揚げとポテトらしき物体が入っていた。

雲雀先輩が一つ食べたのを見届けてから私も一つ唐揚げを食べてみる。

 

「…………普通の唐揚げだ。」

 

「何馬鹿な事言ってるの。」

 

「いや、だってスタートのたこ焼きがおかしかったでしょう!!」

 

「そうかな?」

 

「そうです!」

 

しきりに首を傾けている雲雀先輩を見て、私は今更ながら気付いた。この人は言葉が足りな過ぎる!!

恐らく見た目たこ焼きな物体の正体がチョコ焼きなのも最初から分かっていたのだろう。聞かなかった私も悪いが、間違え易い商品名を言わなかった雲雀先輩はもっと悪い。

今まで風紀委員では草壁先輩と言う良妻が阿吽の呼吸で雲雀先輩の言いたい事を汲み取っていたのだなと、変に感嘆してしまった。

しかしながら、今の私にはとてもそんな芸当は出来ない。今までは雲雀先輩があまり話す事が好きでないのかと思って出来るだけ話さず尋ねずにいたが、もう無理だ。

 

「あの、雲雀先輩。どうして私達はここで商品を食べる事が出来るんですか? まだ開始時間でないのに、私達がこうして食べる事が出来る理由が分かりません。そもそも私は何をしたら良いんですか? 今日の待ち合わせ場所と時間と雲雀先輩と闘うと言う事しか情報がなくて、何をすべきかさっぱりです。」

 

「えっ、そうなの?」

 

「そうです。」

 

あれだけの事を言って、恐らく嫌な顔をされるだろうと考えていたその通りに雲雀先輩は眉間に皺を寄せた。その時に何かをボソッと呟いた気がしたが、私にはよく聞こえなかった。

 

「はぁ…………どうりで。うん、まぁ良いよ。それならそれで…………」

 

「えっ、どう言う意味ですかそれ……」

 

寄せていた眉間の皺を元に戻した雲雀先輩だが、何故か遠い目で何もない方向を見始めた。何だか自分のせいで雲雀先輩を傷付けてしまったみたいで、そわそわと落ち着きなくなってしまう。

 

「……ほら、パンフレットのここを見て。」

 

「あ…………はい。」

 

私が持っていたパンフレットの隅を雲雀先輩が指したので私もそこを見る。何だかはぐらかさらたみたいで面白くないが、仕方ない。

雲雀先輩に指摘された部分には〝主催、提供 : 風紀委員〟の文字が。成程、このグルメ選手権と言うイベント自体が風紀委員の主催ならば開始時間よりも前にこうして商品が食べられるのも分からなくもない。

 

「僕は並盛の風紀委員長だからね。今日はここの会場で主催者挨拶をしないといけないし、僕は僕で各露店の商品を全部食べて評価をしないといけないんだよ。」

 

「ぜ、全部ですか…………」

 

目の前に広がる露店の長さを見る。恐らくだが、規模としては東京ドーム一つ分位はありそうだ。

 

「だから言ったでしょ。今日は闘いだって。」

 

「えっ?! ………………………………ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!! 闘いってそっち?! 食べる闘い?! 物理的な方じゃなくて??」

 

「なに、そっちで闘いたかったの?」

 

「いえっ! 全然! 全く! これっぽっちも!!」

 

あ、頭が痛い……まさか、ここまでの勘違いをしていたとは…………良い意味で裏切られた気分だ。思わず頭を抱えてしゃがみ込んだ私の頭上から溜息が聞こえて来る。うぅ……恥ずかしい、私が自意識過剰みたいじゃないか。

それから何とか回復した私は、雲雀先輩と2人で協力して、グルメ選手権の商品を制覇して行った。海鮮スパゲッティ、岩塩ラーメン、激辛麻婆豆腐、サーターアンダギー、クレープ、生ハムメロン等の様々な料理が商品として出され、私が最近行ったラ・ナミモリーヌではドリアンケーキが出品されていた。……何故よりにもよってそれをチョイスしたのだろうか。まぁ、美味しかったが。

そして息も絶え絶えの状態で制限時間のイベント開始時間までに、何とか全ての露店の商品を食べ終えた私は、私よりも何倍もの量を食べていた筈なのに涼しい顔の雲雀先輩とベンチに座って食休みをしていた。

私が想像していたよりも随分と多い客入りとなったグルメ選手権会場だが、この周辺は少し物寂しいせいか人が滅多に来ない。お客さんがグループで歩いているのを見かける度にトンファーを出そうとする雲雀先輩をあやしてここまで来るのにも苦労した。

 

「ふぅ、やっぱり並盛の名店が揃っただけあるね。これなら来年度も期待出来そうだよ。」

 

「た、確かに味は美味しかったですね。たまにゲテモノも混じっていましたけど……」

 

どうせならば普通にお客さんとして来たかった。空腹は最大の調味料と言うが、満腹はその逆で軽く私は地獄を見た。

 

「あ、そろそろ挨拶する時間じゃないですか?」

 

目の前にあった時計を見れば、あと15分で午後2時になる所だ。主催者である風紀委員長の挨拶は2時からで、事前打ち合わせ等は終わっていると言っていたが、多少は早めに行くべきだろう。

 

「……そうだね、行って来る。…………君は?」

 

お腹に手を当てて考える。正直お腹が苦しすぎて今はあまり動きたくない。

 

「私はもう少しここにいます。……ちょっと遠いですけど、ここから雲雀先輩の挨拶を見させて頂きますね。」

 

「そう…………もし…いや、君はここで待っていてね。」

 

「? …………はい。」

 

雲雀先輩はそれだけ言ってさっさと中央のステージの方へと行ってしまった。

 

「もし……何だったんだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージ脇のテントにて、雲雀はソファに座って寛いでいた。副委員長の草壁が挨拶の前だからと喉に良い生姜茶を入れて雲雀の前に置くと、雲雀は自然にそれに口付ける。

 

「委員長、どうされたんですか?」

 

「何が?」

 

「いえ、少し落ち着きがない様に見えたので…………自分の勘違いでしたね。すみません。」

 

この時、言葉では謝ってはいたものの、雲雀との付き合いが長い草壁は何となく事情を把握していた。今日は風紀委員主催の並盛中町グルメ選手権であると同時に草壁が常日頃から慕っている風紀委員長の一台イベントでもあるからだ。

今週の風紀委員長の職務中にやけに嬉々としてトンファーで生徒を飛ばして行く雲雀を見て、余程今日が楽しみなのだなと草壁は捉えていた。

 

「ふぅん、そう。」

 

不思議そうに首を傾けたものの、雲雀はすぐにどうでもいいかと疑問を投げ捨てる。

 

「委員長、出番です。」

 

私服からいつもの学ランに着替えた雲雀は、肩に掛けられたジャケットをはためかせてソファから立つと、堂々とした足取りでステージへと歩いて行った。

途端に明るくなる視界に目を細めて、ステージの中央へと立つ。先程まで騒がしかったのが水を打った様に静かになってしまったのは、雲雀の持つ独特のカリスマ性からなのかもしれない。会場にいる大勢の客やスタッフがゴクリと唾を呑み込んでその姿を目に焼き付ける。司会者の紹介の後に彼が何を発するのか、耳を最大限に澄まして声を聞き漏らさない様に努めた。

 

「群れてる暇があったら、箸を動かしなよ。」

 

一瞬だけポカンとした会場だったが、その殆どが彼はきっと素晴らしい言葉を発したのだと気付いて大歓声が巻き起こった────が、はっと思い出したかと思うと箸を動かし始めた。

それらを満足そうに眺めていた雲雀であったが、ふと視線を遠くにやるとその表情を険しくさせる。

先程まで二人が座っていたベンチには、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うぅっ、気持ち悪い…………どうしよう、吐きそう。

食休みをして随分と落ち着いたとは言え、あれだけ食べた後に走ればそりゃ気持ち悪くもなる。でもそれも仕方なかった。

 

だってまさか、こんな所に沢田綱吉達がいるなんて!!

 

沢田綱吉、獄寺隼人、山本君、リボーン、ビアンキの五人で歩いていたためにとても目立ち、すぐに気付いて急いで距離を取ったが、後もう少し気付くのが遅れていたら危なかった。リボーンと一瞬目が合ってニヤリとされた様な気もするがきっと気の所為だろう、そうに違いない、絶対そうだ。

 

「んぅっ、やばい。トイレ、探さなきゃ…………」

 

喉元まで込み上げて来ている嘔吐をなんとか抑え込んで、ふらふらと歩き出す。必死に口に手を当てているが、何かの衝撃でも危なそうだ。

 

「あれ、君大丈夫? どこか具合悪いの?」

 

声を掛けられて俯いていた顔を上げると、茶髪の大学生らしき男性が目の前にいた。

 

「おっ、どうした、どうした? お兄さん達が落ち着く所に連れて行こうか?」

 

「おー、結構可愛い娘じゃん。君、歳いくつ?」

 

恐らく声を掛けた男性の友達らしき大学生達が、私に気付いて声を掛けてくる。正直に言って落ち着く所よりも切実にトイレに行きたい……こんな所で吐くのも嫌だ。

 

「あの、私今急いでいるんで。すいません。」

 

「えー、良いじゃん良いじゃん。急いでいるようには見えないし。」

 

さっさと横を通り過ぎようとしたら腕を掴まれて体が引っ張られた。その衝撃で再び襲ってきた吐き気に口を歪め、反対の手で抑える。我慢をし過ぎて嫌な汗をかいているし、気が遠くなりそうだ。体がぷるぷると震えているのが分かり、気持ち悪さも相まって目に薄い膜が張る。

 

「そんなに怯えなくても大丈夫だって! 俺達すっごい優しいから!!」

 

「そーそー、俺達本当に親切の塊だよなー。前世は仏様かもしれんわ。」

 

「いやお前はチュパカブラだろ。」

 

「流石にひでーよ!? せめて人間にして!!」

 

掴まれたままの腕を振りほどこうとしても、震えのせいか力が入らず逃げる事が出来ない。刻一刻と迫る制限時間(嘔吐)に恐怖しながらも私はなす術もなく、私は彼らに囲まれていた。

 

「あの、その人僕の連れなんで離してくれませんか?」

 

「あぁっ?」

 

「えっ…………」

 

いつの間にこっちに気付いてやって来たんだろうか。気が付けば沢田綱吉が私の隣に立っていた。と言うか何故一人なんだろう。他のメンバーは一体どうしたんだ?

 

「大丈夫笹川さん? 待たせちゃってごめんね。さ、行こう。」

 

「っちょっと待て! 今この娘はお兄さん達と遊んでんの。坊やはお呼びじゃないよ。」

 

「っ……!」

 

腕を掴む力が強くなる。鈍い痛みに身を強ばらせるも、それは一瞬の内に取り払われた。

 

「っにすんだっ! っこの……っ!!」

 

沢田綱吉が私の腕を掴んでいた男性の腕を捻って外させると、そのまま関節技で痛みを与える。男性は痛みに顔を歪めて腕を外そうとしているが、上手くいかずに余計痛みを感じている様だ。

 

「笹川さん…………つい手が出ちゃったけど、これで良かった? もし本当にこの人の言う通りなら悪い事しちゃったから。」

 

「うっ、うぅん。そんな事はないけど…………その、ありがとう。」

 

私を助けてくれた……のだろうか。沢田綱吉は本当によく分からない。あそこまで邪険に扱っているのに変わらず優しいままだし、気を遣ってくれるし、こうして助けてくれる。それは彼が私に未だ恋をしているから、なのだろうか。分からない。分からないが、分かってはいけない気がする…………

急激な展開に頭が付いて行かないまま、取り敢えず感謝を伝えれば、何故か沢田綱吉は苦笑した。

 

「おいおい、そんな中坊にやられてるなんてダッセーなぁ!!」

 

「痛い目見たくなかったらさっさと立ち去りな。」

 

私は碌に身動きが取れず、沢田綱吉が少しはやれるとしても武器も持たずに三対一は無謀だ。体力的に自信はないが、掴まれていた腕は自由になった訳だし逃げた方が懸命だろうか。

 

「沢田く「大丈夫……大丈夫だよ。」」

 

私を自身の後ろに追いやって前に出た沢田綱吉に目を瞬いた。碌に武術も学んでいなくて、相手は自分よりもずっと年上で体格の良い大学生三人で、私と言うお荷物がいて、死ぬ気弾も撃たれていなくて、手足が少しだけ震えていて…………だけど、手を広げて私の前に立つ沢田綱吉がそこにいた。

 

「へっ、粋がりやがって。女の前だからって格好つけて震えてちゃ仕方ねぇな。」

 

一人の男性が沢田綱吉に殴り掛かる。沢田綱吉は掴んでいた男の腕をパッと離すとその大振りのパンチをさっと避けて、反撃に一撃殴り付けた。殴られた男は少しよろけたものの、未だ倒れる気配はない。

それを皮切りにして、他の二人も沢田綱吉に殴り掛かる。一人なら何とか捌けていた沢田綱吉だったが、一度に三人を相手するのはやはり堪えるのか、少しずつ相手の攻撃に当たる数が増えて行く。

 

「ぐうっ! っ……おぉおおお!!」

 

「ちっ、こいつしつこいな……。」

 

攻撃を食らって痛みから蹲れば、容赦無く袋叩きにされる沢田綱吉。しかしそれでも私の前に立つ事は止めず、こちらには全く攻撃が来なかった。

 

────ヒュン

 

風切り音が聞こえてはっと目を見開けば、そこにはトンファーで三人の男達と何故か沢田綱吉をもぶっ飛ばす雲雀先輩の背中が見えた。

 

「風紀を乱したやつは咬み殺す。」

 

いつか見た時と同じ様に、容赦無く相手を追撃してボコボコにする雲雀先輩。そのあまりもの容赦の無さに思わず引きつった顔になる。

 

「ん? あれ? …………沢田、君??」

 

トンファーで最初にぶっ飛ばされてしまったのには気付いていたのに、いつの間にか雲雀先輩が攻撃しているのは大学生三人だけだった。周りを見渡しても何処にも沢田綱吉がいない。…………さっきはちゃんとお礼を言えなかったから、今度こそしっかりと言おうかと思ったのに。いや、でも……どんな顔をして言えば良いのか分からないので都合が良いと言えば、良かったのかもしれない。

 

「大丈夫? どうして君がこんなやつらに捕まってたの?」

 

男性達をボコボコちして満足したのか、雲雀先輩がこちらにやって来る。

 

「………それは…………っ!! ちょっとお手洗い行ってきます!!」

 

指摘されて、先程まですっかり忘れていた吐き気を思い出し、私は慌てて駆け出────そうとして、更に気持ち悪くなりそうだったので早歩きした。

 

 

 

 

 

 

 

 

体が軽い。少し汚い表現かもしれないが、お手洗いでスッキリした私はすっかり気持ち悪さがおさまっていた。

 

「どうやらもう大丈夫そうだね。」

 

「すみません、お騒がせしました。もうすっかり良くなりましたので大丈夫です。」

 

体調は良くなって逆に元気が有り余る位だが、色々とやらかしてしまった自分が恥ずかしい。

 

「よし、なら食後の運動をしようか。」

 

「ん?」

 

「準備はしていたんでしょ? なら…………ね?」

 

ね?って何だ、ね?って…………いや、まさかここまで来て闘うなんて事ある筈…………ないよ……ね?

 

「…………あ、あれー? 何だか急にまた、気持ち悪くなって来た様なーー……」

 

「君、嘘つくの下手くそだね。」

 

「うっ…………。」

 

に、逃げ道が…………ない。

 

 




次回、何だかんだで引き延ばしたけどやっとバトル回になります。お楽しみに!


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