※この京子は天然ではありません。   作:ジュースのストロー

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対 雲雀恭弥 編
覚悟を決めました。


 

 

「聞いたぞ京子! 極限、日曜日の事を何故教えてくれなかったのだ! 兄妹なのに水臭いではないか!!」

 

放課後、家に帰って勉強中の私にそう声を掛けてきたお兄ちゃんの表情は満面の笑みだった。

 

「あのねお兄ちゃん…………前に雲雀先輩に私が鍛練してる事をバラした、そもそもの今回闘う事の原因となったお兄ちゃん…………」

 

「お、おう……」

 

私の目が笑ってない事に気付いたのか、珍しくも少しだけ怯んだお兄ちゃんに冷や汗が流れる。

 

「嫌だ嫌だと思っても現実は変わらない…………このまま殺られるのを待つなら、抗うしかない。お兄ちゃん…………私、雲雀先輩をぶっ潰すよ!」

 

言いながら、言葉とは裏腹に遠い目をしてしまうのは仕方ないだろう。自分でも自分の発言がおかしいのは自覚している。でも本当にそうでもしなければ私の命は来週にはないのである

お兄ちゃんの目が驚きに見開かれる。そして急に大声で笑い出したと思ったら、ガシッと私の肩を掴んだ。

 

「京子!! よく言った!! 極限、雲雀を倒してみせるぞ!!」

 

「えぇ、そこまで喜ばれると反応に困るんだけど…………って言うか、妹が先輩にリンチされそうになってるのに心配とかしないの?! もっとこう、妹に対して守ってあげたい庇護欲的なものはないの??」

 

「極限、何を馬鹿な事を言ってるんだ京子。毎日俺と鍛練をしているお前が簡単に負ける訳がなかろう。確かに京子が一人闘うのは心配だが、それ以上に俺は師として京子の強さを信頼している。」

 

「お、お兄ちゃん…………!」

 

「よし、対雲雀の鍛練の内容を今から考えるぞ!! 京子が勝てる様に、俺も極限力を貸そうではないか!!」

 

「うん! ありがとう!!」

 

リミットが決まっているのならば、それまでに何とか対雲雀先輩の武器と作戦を用意しなければならない。今まで過ごして来た中で把握している雲雀先輩について考察しながらも作戦を詰めていく。

雲雀先輩の主力の武器となるのは仕込み武器が搭載されたトンファーである。これは、一撃がとんでもない重さであるにも関わらず中々の速度であり、人が軽々と宙を舞う程。正直、一度でもまともに食らってしまったら、耐久値の低い私は即アウトだ。更に雲雀先輩は武器の扱いだけではなく、脚さばきや耐久値も優れているのだから、もう泣きたいレベルである。

体格から圧倒的にハンデのあるこちらは、雲雀先輩の弱点を狙うか、一点特化の武器で勝負するしかないのだが、雲雀先輩には分かりやすい弱点もない。従って、狙うとすればトンファーと言う武器の弱点を突くしかない。トンファーは防御する時にどうしても防御範囲が狭くなる。これは刀程長くない上に腕に沿わして使うと言う構造上仕方ないのだが、どうしても防御出来るのは腕が稼働する範囲に留まるし、フック等の変則的な攻撃に弱い。

また、トンファー最大の弱点が、それ自身を掴む事さえ出来れば、簡単に敵に奪われてしまうと言う点だ。これは所謂てこの原理の応用で、釘抜きを想像してもらえると分かりやすい。トンファーの攻撃する最も長い棒の部分の先を掴む。すると、持ち手の棒の部分よりも何倍もそれが長いために捻る事によって簡単に手からトンファーを外す事が出来るのである。

しかしながら、そんなトンファーの弱点を塞いだとも言えるのが雲雀先輩の仕込み武器の搭載されたトンファーである。いつどのタイミングでどんな武器が発動するのか分からないトリッキーさは、防御範囲の拡大や攻撃の強化にも繋がる。おちおちトンファーを掴んでもられない。

 

「なら、トンファーの仕込み武器だけ壊せば良いではないか。」

 

「いやいや、そう簡単に壊せたら苦労は………………」

 

雲雀先輩のトンファーは、普段先輩の懐にしまっていつでも取り出せる様になっている。だがそんな雲雀先輩も武器を手放すタイミングがあるのではないか? 例えば寝る時……は携帯してそうだな。例えばお風呂…………………………は武器が錆るので流石に携帯はしてないだろうが……が、これは人としてちょっと所ではなく拙いのではないか?

 

「京子! 極限、勝てば官軍だ!! 」

 

「お兄ちゃん、何でそんな言葉知ってるの?!」

 

結論、雲雀先輩のお風呂中にこっそりトンファーの仕込み武器の部分だけを壊す。その後は耐久値や運動神経がとんでもない雲雀先輩に対して短期決戦の全力でトンファーを奪い、その隙に攻撃する事にした。ここでトンファーそのものを壊さないのは、雲雀先輩の経済力の高さから、トンファーの替えがあると踏んだためである。仕込み武器の破壊はこっそり気付かれない様にやらなければならない。

そして雲雀先輩を倒すのに必要な鍛練はお兄ちゃんが女の私でも武器になる様なものを考えてくれるであろうので、私は私がすべき事をしなければならない。それ即ち、早急なトンファーの仕込み武器の破壊工作である。

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、すご………… 」

 

雲雀邸の塀の上にて、私はそんなありきたりな小学生並の感想しか言えなかった。

庭は日本庭園で白い砂利が敷き詰められ、松や紅葉が綺麗に剪定されており、平屋の建物も何処ぞの武家屋敷かと思う程の広さである。

並盛の雲雀家と言ったらこの家しかなく、簡単に辿り着けたのは良かったが、自身のやろうとしている事への不安が更に募る。取り敢えず今日は、建物の下見とカメラ等の設置を行うつもりだが、この様子では監視カメラや番犬なんかもあるかもしれない。この時間では雲雀先輩は風紀委員の仕事をしている筈なので未だ家に帰っておらず、侵入は容易だと思っていたがもう少し慎重になるべきかもしれない。

塀から見下ろした位ではカメラの存在は分からなかったが、屋敷内には何人かの気配を感じた。恐らく雲雀先輩の家族か警備員かお手伝いさんのどれかであろう。

音をたてない様に塀から飛び降りた私は、そのまま砂利道をゆっくりと進んで屋敷に近付いて行った。所々見かけた監視カメラの死角に身を潜め、また木の葉等を飛ばす事によって作り出した一瞬の死角を利用して屋敷を一周する。

感じた気配の正体は、広い屋敷の手入れをしているのであろう初老の男女4人であった。内2人が屋敷の清掃、2人が庭の手入れをしており、他に警備を担当している様な者は見受けられない。これならカメラにさえ気を付ければ侵入は簡単だと見切りをつけ、早速玄関からこっそりと侵入する。正面玄関は最も注目されやすいが、逆に不意をついて侵入しやすい場所でもある。実際に分かりやすい位置に設置されている感知センサーやカメラさえ凌げば、他に機器が設置されている訳でもなく、本当に簡単に中に入る事が出来た。

靴を懐にしまい、中で働く人に出くわさない様に屋敷の構造を確認して行く。どうやら建物の中にはカメラ等を設置してはいない様だ。これは有難い。カメラだと雲雀先輩に気付かれる恐れがあるので、ラジオ等の周波数と被らない盗聴器を念入りに隠して設置して行った。放課後に作っていた電子工作が初めて役に立った。取ってて良かったアマチュア無線技士一級。

さて、やる事をやったらさっさと帰らないと……長居して見つかる危険を増やしたくはないし、雲雀先輩が帰って来てしまうのも大変だ。行きに確認したカメラの位置に気を付けながらも道具を使って屋根に飛び乗り、塀を伝って雲雀邸を脱出した。

仕込みは万全。残りは雲雀先輩の仕込み武器の破壊のみである。まぁそれが、とてもとても大変なのだが…………

 

 

 

 

 

 

「極限、時速150kmのバッティングマシーンの球を片手でキャッチだ!!」

 

「押忍!!」

 

次の日の放課後、お兄ちゃんに連れて来られたバッティングセンターにて私はバットも持たずにマシンから1mの距離にいた。お兄ちゃん曰く、これを簡単に掴める様になれば雲雀先輩のトンファーも掴めるであろうと。

こうやって私を鍛えてくれるお兄ちゃんの指導は厳しいが、女の身である私のために色々と考えられている。天然で突っ込み所が多いお兄ちゃんだけど、私を想って色々としてくれるので少しだけ擽ったい気持ちにもなってしまう事が多い。

私の背後で声を出しながら、私がミスして後ろに逃がしてしまった球をホーンランの場所まで遠投するお兄ちゃんを見やる。恐らく私のせいで原作のお兄ちゃんといくらか乖離しているだろう……。根本にある天然さ加減は同じであるが、言うなれば多少生きやすくなったお兄ちゃんと言うべきか…………言ってはなんだが、原作のお兄ちゃんは天然で更に良い意味でも悪い意味でも馬鹿だった。それが今では勉強もそこそこ出来るし、鍛練もただガムシャラにするのではなくて、自分に合ったもの、必要なものを練習する様になった。恐らく原作のお兄ちゃんは勝てば官軍なんて言葉をそもそも知らないし、そう言う考えは好まないだろう。これは小さいが大きな違いだ。

 

「極限、球を全て避けろ! マシーン10台でそれぞれのスピードも違うぞ!!」

 

「押忍!!」

 

今度は高速で振るわれるトンファーを避けるための鍛練らしい。

成程、確かに効果が期待出来そうだ。

お兄ちゃんの温情から身体中にプロテクターを装着しているとは言え、体に球が当たれば当たり前に痛い。……が、そこで踞れば待っているのは次の球である。私はもうガムシャラと言うか死ぬ気で頑張った。始めは球の速度にビビって腰が引けていたが、目が慣れてくれば球の軌道が読める様になり、痛みが麻痺して来た頃には軽く目を瞑りながらも球を軽々と避ける事が出来ていた。

 

「京子! これで慢心してはいかんぞ!! 明日からは更にハードに特訓するぞ!!」

 

「押……忍!」

 

恐らく身体の危機的状況にアドレナリンがドバドバ出ていたのであろう。鍛練中は感覚が麻痺していたが、お兄ちゃんの終了の声を聞いて安心した私は見事にぶっ倒れ、気が付けば私は布団で寝ていた。

 

 

 





京子「いつからこの小説が、恋愛物だと錯覚していた?」

了平「なん……だと……。」

京子「ありがとうお兄ちゃん。そんなノリの良いお兄ちゃん大好きだよ。」

了平「京子……!!」

京子「はいはい。」


かつてここまで雲雀さんを倒そうと本気で努力したヒロインがいたでしょうか…………
チートもない。特殊な力もない。非力な女子の体。それでも殺らなきゃ殺られる。ならばぶっ潰す!!
…………感想にトンファーの攻略法大募集です。



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