※この京子は天然ではありません。   作:ジュースのストロー

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最後ちょっと付け加えました。

ちょっとしつこいかなと思ったのですが、書き始めたら止まらなかった(言い訳)。



突撃されました。

並盛中の屋上にて、男子生徒3人とイガ栗のコスプレをした赤ん坊が雑談をしていた。沢田綱吉、獄寺隼人、山本武にリボーンの4人である。

 

「応接室?」

 

「あぁ……ここをファミリーのアジトにするぞ。」

 

リボーンが3人に見せた学校の見取り図によると、応接室は中々の広さがあり、応接室と言うからには机やソファなんかも揃っているので、確かに集まって話をしたりするには適した場所だと言えた。

 

「へぇ……良いんじゃないでしょうか10代目! ファミリーにアジトは必要ですよ!」

 

「秘密基地みたいで格好良いのな!」

 

「秘密基地か……」

 

彼らはまだ知らなかった。応接室が風紀委員の所有物で、リボーンの策略により雲雀恭弥と彼らが戦わせられようとしているとは……

 

 

 

 

 

 

 

 

ラ・ナミモリーヌで購入した抹茶ケーキは、どうやら雲雀先輩のお眼鏡に叶ったらしい。パッと見は変わらないが、何処か嬉しそうな雰囲気でケーキを食べている雲雀先輩を見て、私はほっと息を吐いた。

流石男の子と言うべきなのか、私よりも随分と早い速度で自分のケーキを食べ終えた雲雀先輩は、草壁先輩にと用意していたケーキにも手を付けている。丁度私が応接室におじゃました時に草壁先輩が雑用でおらず、ケーキを駄目にしても勿体ないので良かったが、自分のケーキを食べ終えた後の雲雀先輩がケーキを見つめる狩人の様な目は何だか微笑ましかった。

 

「ふふ、気に入って頂けたようなら良かったです。」

 

「……別に。」

 

ふいっとそっぽを向いて否定した雲雀先輩だが、丁度顔の向きを変えた事により気付いてしまった口の端に付着した金箔に、私は一瞬吹き出しそうになってしまった。

えっ、これはどうすべきなんだ? 正直に伝えて以前の草壁先輩みたいにトンファーで殴られないか? でも何も言わなかったら、それはそれで怒られそうだし…………

 

──ガラガラッ

 

「えっ……」

 

突然ノックもなしに開かれたドアの音に驚いた。目の前のソファに座っていた筈の雲雀先輩がいつの間にかドアの方まで移動していて、トンファーを構えている。

 

「えぇっ?! 雲雀さん?! って笹川さんがお茶飲んでるー?!」

 

「あはは……沢田君、こんにちは。」

 

こっちにツッコミを入れられてしまったので、取り敢えず手を上げて挨拶しておく。

 

「何だてめぇ、やんのか? おら」

 

応接室の扉の正面に立ち塞がった雲雀先輩に、獄寺隼人がチンピラの様に威嚇し始めた。さっと手にダイナマイトを構えてすぐに投げ付けるその反射神経は流石スモーキンボムと言えるが、少しはTPOを考えて欲しい。こんな所でダイナマイトを爆発させたら、下手したら校舎が崩壊してしまうぞ。

雲雀先輩がトンファーを光の速さで振った事により、着火した火がヒュッと掻き消えてほっと息を吐く。唯一の武器であるダイナマイトを無力化させられてしまった獄寺隼人は、その後トンファーで思いっきり殴られて床に倒れる。獄寺勇人が落としたダイナマイトは、暴発したら怖いので私がこっそり拾って窓から外に投げ捨てておいた。

 

「僕の前で群れないでくれる? 咬み殺すよ。」

 

「やっぱ強ぇーな雲雀! よっしゃ、俺もやるぜ!!」

 

山本君も持っていた竹刀で応戦しようとしたが、あえなく撃退。山本君の攻撃を全てトンファーで防ぐか避けられ、隙が出来た所をトンファーで一撃入れると言う雲雀先輩が終始圧倒していた試合内容だった。今更だが、雲雀先輩はちょっと強すぎやしないだろうか。いつもどんな鍛練をしてるんだろう。正直筋トレとかは想像がつかない。

 

「ひぃっ?! ごめんなさい! 群れてないです!! ごめんなさい!!」

 

「逃げても無駄だよ。咬み殺す。」

 

「ふぎゃ?!」

 

沢田綱吉もあっという間どころか、何も抵抗出来ないまま一瞬の内にやられてしまった。うーん、この間の沢田綱吉に比べると今日はダメツナらしさが伺えた。どう言う事なんだろう、まさか二重人格な訳ではないだろうし。

3人共見事に気絶してしまったが、そこから更に追撃しようとしている雲雀先輩を見て冷や汗が流れる。

どうしようか、このままではリボーンが3人を助けるために、この部屋にやって来てしまう。いや、それだけなら全然構わないどころか雲雀先輩の機嫌がこれ以上下がらない様に是非ともお願いしたいのだが、3人を助ける手段が部屋に爆弾を投げ込んで敵が怯んだ隙に逃げ出すと言う荒業なので、こちらの身の安全のためにも来ないで欲しい。かと言って雲雀先輩を止めるにも応接室の中に気絶した3人が転がっており、誰も3人を運ぶ人がいないために群れたくない雲雀先輩の機嫌は最高に悪い。

雲雀先輩は3人の方に近寄って行くと、全員の服を掴んで引き摺り始めた。流石に気絶した人達相手に攻撃はしないのかとほっとしたのも束の間、雲雀先輩が移動したのは唯一ある出入口ではなくて窓の前。これは拙いだろうと手を出そうとした瞬間、振動で気が付いたのか沢田綱吉だけ意識が戻り、雲雀先輩から慌てて距離を取った。

 

「なっ?! ぇえっ……?!」

 

気絶から目覚めたばかりで何が何だか分からない様子の沢田綱吉だが、2人が窓から落とされそうになっていると気付いたのか、冷や汗をかきながらも必死に雲雀先輩を止めようと手を伸ばした。

 

「やめろっ!!」

 

伸ばした手は無慈悲にも空を掴んで、それでも諦めない沢田綱吉は窓から身を乗り出して2人を助けようと飛び降りた。

 

バァ────ン

 

窓に足をかけた沢田綱吉を見て、窓とは距離があるものの思わず体が追いかけそうになっていた私はその銃声を聞いて瞬時に振り返った。

私の目の前のソファの上に立って銃を構えている、ボルサリーノを着込んだ赤ん坊、リボーンは、銃からたなびく煙をふっと吹き消すとこちらに視線を向けた。

 

「レディに物騒な所を見せちまって悪かったな。」

 

「っ…………。」

 

息が詰まり、体が小刻みに震える。どうしてこの赤ん坊を見て、可愛いなんて言う感想を抱けるんだ。ランボも何処か異常ではあるが、今目の前にいる人物はどう考えても化け物だ。

その身のこなしも、オーラも、底の読めなさも、全てが超人で、一般から逸脱している。羊の皮を被った狼なんて言葉が優しく感じられてしまう程に、見た目とは裏腹の者が中に潜んでいる様に感じられた。

しばらくの間その空気に呑まれて目が離せないでいたが、窓から物音がしたのに気付いてはっと目をそちらに向けると、獄寺隼人と山本君を持って、何とか落下を免れた沢田綱吉の姿がそこにあった。脱力した姿勢で息を切らせていた沢田綱吉だったが、すぐに身を強ばらせる事となる。

 

「ねぇ、ぐちゃぐちゃにして良い?」

 

質問の体を取っている筈なのに有無を言わせない様子で沢田綱吉の前に立った雲雀先輩は、トンファーを振り返って再び3人を攻撃しようとし始めた。

 

「そこまでだ。」

 

全然気が付かなかった。いつの間にか雲雀先輩と沢田綱吉の間に移動していたリボーンは、十手で雲雀先輩のトンファーを止める。

 

「っ素晴らしいね、君。」

 

「やっぱ強ぇな、お前。」

 

「勝負したいな。」

 

にぃっと口の端が持ち上がり、好戦的な笑みを浮かべた雲雀先輩。すっかり忘れていたが、口の端に金箔が付いていなかったら最高に決まっていた。雲雀先輩が舌なめずりすれば取れるかもしれないと思ったが、そんなに都合良く事が起こる訳もなく、金箔は未だ付いたまま。

 

「また今度な。」

 

こちらも好戦的な笑みをしているものの、これ以上戦闘をするつもりはないらしい。リボーンが十手を構えたまま懐から取り出した手榴弾を見て、慌てて私はソファを壁にして隠れた。

体を縮こめて頭を抑えると、爆発すると思ったのにも関わらずいつまで経っても衝撃は来ない。おかしいと思ってソファから顔を出せば、そこにはリボーンは勿論沢田綱吉達3人の姿はなく、目を抑えた雲雀先輩と手榴弾らしき物が転がっているだけだった。

 

「だ、大丈夫ですか?! 雲雀先輩……」

 

何処か目の焦点があってない雲雀先輩は、軽く目をパチパチ瞑ると、眉間に皺を寄せたまま大丈夫とだけ呟いて少しよろついたがソファに歩いて行った。

床に落ちている手榴弾を拾えば、一見普通の手榴弾の様に見えるが、中身は所謂閃光弾と呼ばれる物になっていた。流石一流のヒットマンでもイタリア紳士と言うべきか、女に被害が行く様な真似はしなかったみたいだ。

 

「あの赤ん坊、今度こそ……」

 

ソファに座って、未だ金箔が付いたままの口元で好戦的な笑みを浮かべる雲雀先輩の元に戻って食べかけの抹茶ケーキに手を出すのは非常に勇気が必要だが、残す訳にもいかない。内心バクバクしながらも何とかソファに座って、すっかり冷えてしまったお茶を一気に飲み干して正面を向くと、雲雀先輩の口の端にキラリと光る金箔がはっきりと見えてしまい、過去の自分を呪いたくなった。

金箔がオシャレだなんて思った能天気な過去の自分、本当に馬鹿。貴女のせいで私は今、断崖絶壁に立たされています。

取り敢えずお茶を飲む事により金箔が取れたりしないだろうかと、新しいお茶を入れて雲雀先輩に差し出す。気付かれない程度にちらとらと雲雀先輩の方を見ながら観察していると、何と金箔が取れていた。

 

「……よしっ!」

 

「ん?」

 

「い、いえ……何でもないです。」

 

「そう…………あれ? このお茶、金箔入ってるの?」

 

雲雀先輩の言葉に、湯呑の中を覗くと確かに金箔が浮いていた。これは…………口に付いていた金箔が落ちたと思っていたらお茶に浮いていたのか。…………拙い、雲雀先輩がこれから口に金箔が付着していた事実に気付いてしまうと私の命が危ない。

 

「あぁ、これは金箔が浮いたお茶なんですよ。オシャレですよね。」

 

「……ふーん。」

 

まさか怪しまれている? 固唾を飲みながら雲雀先輩を見つめていると、やがて私は再びお茶を飲んだ先輩に、またもや吹き出しそうになった。

金箔が……金箔が、また付いている……! どうしてなんだ?! しつこ過ぎるぞ金箔!!

 

「……どうしたの?」

 

「へっ? いっ、いやっ、そのっ…………」

 

これはもう正直に言った方が良いのではないか? 殴られる事も覚悟で腹を括ろうとした時、天からの救いがやって来た。

扉をノックして入室して来たのは草壁先輩で、私の存在に気付いて挨拶をして雲雀先輩に視線を向けると、彼は見事に固まった。即座にこちらに寄越される視線に眉を下げて何とかしてくれと視線で訴えると、紳士的な草壁先輩は溜息をついて頷いてくれた。

本当にありがとうございます。そんな草壁先輩の事、尊敬してます。今度個人的に何か差し入れます。

都合の良い事を考えながらも草壁先輩の動向を見守っていると、彼は雲雀先輩の耳元で何やら囁いた。途端に耳元を赤くしながら口の端を拭いた雲雀先輩には気付かないふりをして、お茶を一口飲む。美味しい。

 

「笹川京子……」

 

「はっ、はい?! 何でしょうか…………」

 

何故私は気付かなかったのか…………草壁先輩が雲雀先輩の口の端に付着した金箔を指摘したと言う事は、私も気付いていて黙っていたとバラした様なものである。

雲雀先輩がスッと食べ終えたケーキのフォークを掴むとそれを勢い良くお皿に突き刺す。フォークの刺さったお皿にはヒビが入って粉々に砕け、何故かフォークも持ち手からボロっと崩れた。

 

「……っ………………。」

 

雲雀先輩から出されている怒りのオーラに汗が滝の様に流れ落ちる。

 

「笹川京子…………分かるよね?」

 

私は赤べこの様に首をこくこくと振る事しか出来なかった。…………その後私は必死に謝罪を繰り返して、気が付いたら約束させられていた。

 

今度の日曜日は雲雀先輩と闘います。

 

 




金箔って薄くて軽いので、くっつきやすいですよねって話。
この作品の雲雀恭弥は、8割の戦闘狂と2割の照れ(物理)で出来てます。
正直原作そのままだと面白くないのでネタに走ったのは自覚してます。だけどまぁ……伏線の1つと言う事で、許して下さい。


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