※この京子は天然ではありません。   作:ジュースのストロー

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原作開始
告白されました。


 

 

学校の校門の前、ほぼ裸の男が私に詰め寄って来る。

 

「笹川京子! 俺と付き合って下さい!!」

 

「っ……」

 

手をこちらに差し出して来る男を見て、私はその場を駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう京子、あんた朝から沢田に告られたんだって?」

 

自分の席に座って人心地ついていた所、後ろから肩を叩かれて、親友にそんな言葉を掛けられた。

 

「おはよう花ちゃん……」

 

振り向いて私が挨拶を返したのは、黒川花。学校で1番仲の良い親友で、いつも良くしてもらっている。

 

「……大丈夫、京子? 何だか顔色悪いよ。沢田に嫌な事でもされた?」

 

「いや…何だか朝から調子が悪いみたい…………ごめん、ちょっと保健室行って来るね。」

 

心配そうな顔つきで一緒についてこようとする彼女に何とか言い含めて、私は教室を出た。

花があんな顔をするなんて、私はよっぽど酷い顔をしていたのだろうか……。自分を心配してくれる彼女には悪いが、私の顔色が悪い理由を教える事は出来なかった。彼女まで巻き込んでしまう訳にはいかないから……

 

「はぁ…本当に嫌になるな…………」

 

脳裏に浮かんだ裸の男の事を考えて、私は眉を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……んぅ…………」

 

何処だここは……。寝起きの回らない頭でそう考えていると、寝る前の記憶が段々とハッキリしてきた。

そうだ、私は保健室に行って……ちょっとだけ休憩するつもりだったが、先生にベッドに押し込まれて……いつの間にか寝てしまっていたのか。

ツキンと痛む頭に眉を寄せる。寝たら本格的に体調を崩してしまったらしい。気持ち悪くてお腹の奥がグルグルするし、頭がガンガンして眩暈までする。

正直辛くて寝ていたいが、これ以上悪化しても嫌なので先生に言って家に帰った方が良いだろうか。それとも、手を煩わせてしまうのは悪いが、先生に病院に連れて行ってもらった方が良いだろうか。

教室が遠いので花に荷物を取ってきて貰って、担任の先生に連絡して、忘れずに雲雀先輩にも連絡して────と、考えていると何やら保健室に誰かが入って来たみたいだ。その声が騒がしくて頭に響く。思わず耳に手を当てて塞いだが、あまり効果はなかった。

 

「なっ、何ですか貴方は?!」

 

「ここにいるのか?」

 

先生の焦った声と共にシャーッとカーテンを引かれ、現れたのは話した事もない不良の様な男子生徒だった。

 

「えっ……何ですか…」

 

私に何か用なのだろうか。正直今は体調が最悪なので後にしてもらいたいのだが……。

 

「なんだ起きてるじゃないか……丁度よかった、持田先輩が呼んでるんだ。さっさと剣道場に行くぞ。」

 

「えっ、行くって何で……私今、体調が悪いので後にしてくれませんか?」

 

これはまさか、持田先輩にダシに使われるあの剣道部の決闘に立ち会えと言う事だろうか。

原作通りになるのを回避したくて持田先輩とは距離を取っていたのにも関わらず、何故か気が付けば私達は周囲公認の男女となっていた。たまに言い寄ってくる持田先輩に結構辛辣に言葉を返している筈なのに、何をどう勘違いしているのか、あの男は私が自分に好意を持っているととんでもない事を思っている。

今朝だって告白された時に実は持田先輩も隣にいたのだ。ことごとく私に付き纏って来る先輩は、正直ストーカーで訴えられてもおかしくないと思う。

 

「駄目だ。とっとと行くぞ。」

 

「えっ、ってちょっ痛っ!?」

 

腕を強く掴まれて、ベッドから引きずり降ろされる。そのまま碌に上履きも履けずに私は保健室から連れ出された。

 

 

 

 

 

 

 

「っ……もう、離して下さい!」

 

男子生徒を睨み付けて手を振ると、何故そんな顔をするのかと不可解そうな顔をしながらも男子生徒は手の拘束をゆるめた。私は思いっきり手を離すと、また男子生徒を睨んでその場から少し移動した。

 

「おいっ、逃げるなよ!!」

 

後ろから何かを叫んでいるのを完全に無視して、私は部屋の隅の壁に寄り掛かった。掴まれていた腕が痛い。体が熱い。視界がぼやける。どうやらすっかり体調が悪化してしまったみたいで、正直さっさと保健室に戻りたいのだが、ここから移動してもまた連れ戻されてしまうのがオチなので大人しく事が終わるのを待つ事にした。

目の前の人だかりの中心にいるのは持田剣介先輩。剣道部のキャプテンで黒髪のイケメンだが、ナルシストで自意識過剰な所が私は苦手だ。

やはり、今回私が呼び出されたのは先輩が沢田綱吉と剣道で勝負するダシに使われたかららしい。先輩に圧倒的に武がある剣道で勝負をし、先輩が10本とる内に1本でもとったら沢田綱吉の勝ち。もし先輩が勝ったら私は先輩の物だと。これで私も先輩が好きだったりしたらキュンとする場面なのかもしれないが、生憎私はドン引きするだけだ。どころか、自分を物の様に扱われて嫌悪感さえ抱いている。

待ち合わせ場所の剣道場に来ない沢田綱吉にギャラリーが逃げたのだと言って暫定的に先輩の勝利が決まりそうな時に、彼は現れた。

朝とは違い服は着ていたものの、表情はかたく、手足は震えていた。ギャラリー達に前へと押しやられて、嫌そうな顔をしながらも持田先輩の前に対峙したのは沢田綱吉。いかにも重そうな竹刀を握らされて無理やり構えをさせられると、試合開始の合図と共に先輩に強い一撃を食らわされていた。

私はそれをただ眺めるだけだが、正直立ってるのも辛くなって来た。座るとギャラリーのせいで試合内容がさっぱり分からないが、座っても良いだろうか。勝負が終わって感想を聞かれでもした時に適当な事を言えば良いのだし、試合に集中していて誰も気付かなそうなので大丈夫な気がする。

 

バァ────ン

 

意識が落ちかけていた所に聞こえて来た銃声に思わず肩が揺れて覚醒した。周りが騒がしくて聞き取りずらかったが、誰もこの音に気付かないのだろうか。

 

「復活! 死ぬ気で先輩に勝つ!!」

 

額のど真ん中へと打ち込まれた弾丸に、沢田綱吉の額から炎が湧き出る。着ていた服がやぶけて朝と同じパンツ1枚の姿になると、竹刀を投げ捨て先輩に掴みかかった。

ブチブチと抜けて宙を待って行く髪の毛に、何とも言えない気持ちになる。正直に言って先輩が哀れだ。確かに最近付き纏われてて迷惑をしていたが、それで髪の毛を全部抜かれるのはあまりにも可哀想過ぎる。

ギャグ補正なのか、単に抜くのが上手いのか、流血は全くなしに美容クリニックもビックリの脱毛技術で頭皮の毛が全て抜かれてしまった先輩の頭はつるりと輝いていて、私は心の中で合掌した。もう、先輩に対して感じていた怒りも何処かに行ってしまった位である。今度話しかけられたら、少し位は先輩に優しくしようと思った。

沢田綱吉にスキンヘッドにされた先輩は、涙を豪快に流しながら床に倒れ込んだ。ギャラリーがまさかの大逆転に盛り上がるも私の表情は引き攣っている事だろう。

 

「京子ちゃんっ、あのっ!」

 

ギャラリーを掻き分けて私の目の前までやって来た沢田綱吉は、しどろもどろになりながらも何かを私に言おうとしている。これは時間がかかるやつだと判断した私は、自分から話を持って行く事にした。

 

「沢田君…朝は逃げちゃってごめんね。」

 

「うぅんっ! 全然良いよ!! もしろこっちこそごめんね! 驚かせちゃったよね!!」

 

「まぁ……そうだね、ビックリしたよ本当に。」

 

あまりにも衝撃的過ぎて、体調が最悪になったよ。

 

「そっそのっ! 今度こそ返事貰っても、良いかな……」

 

顔を真っ赤にして口ごもりながら言った沢田綱吉は、それでも私の目を見ながら真剣な表情をしていた。

 

「そうだね……うん、ごめんなさい。」

 

頭を下げて、私は沢田綱吉の告白を断った。

今朝は思わず逃げてしまったが、私は沢田綱吉に恋愛感情は持ってないし、逆に持っているのは恐怖感だ。彼に近付けば私は危険に陥る可能性がある、それが私にはとても怖かった。

勿論、それは沢田綱吉のせいではなくボンゴレの血を引いてしまったが故なのだが……それでもどうしても、私は彼に恐怖を感じていた。

 

「ガーン! 断られた…………」

 

膝から崩れ落ちる沢田綱吉に多少申し訳なく思いながらも、告白を断った私が変に慰めても仕方ないので、さっさと場所を移動する事にした。

何かもう駄目だ。手足に力が入らないし思考が途切れる。頭が真っ白になって────

 

 

 

 

 

 

 

「君は……」

 

突如現れた風紀と書かれた腕章を付けた生徒に、騒いでいたギャラリーは一気に静まった。

雲雀恭弥、並盛中学校で絶対の暴君である彼は、何故か先程までの試合の景品として扱われていた笹川京子の体を支えている。よもやそのまま手に持ったトンファーで彼女を殴り付けるのではあるまいかと、生徒達が顔を青くする中、雲雀は京子の体をヒョイと持ち上げるとそのまま肩に担いだ。

周囲が雲雀の行動に驚きの声を上げる中、雲雀は生徒達の中にそのまま歩って行き、生徒達は急いで進路から遠ざかる。そして雲雀が止まったのは銀髪のしっかりとした肉付きの男の前だった。

 

「なんだ雲雀じゃないか! どうした…っておぉっ、京子?!」

 

笹川了平、笹川京子の兄である彼もまた、後輩の男子生徒達が決闘をしていると人づてに聞いて、急いで試合の見物に駆けつけていた。彼は試合内容に大変満足して、沢田綱吉と言う男子生徒の事を是非ボクシング部に勧誘したいと1人考えており、雲雀の登場にも気付いていなかった。

了平に有無を言わさず気絶した京子を持たせた雲雀は、如何にも機嫌が悪いと言わんばかりに眉間にシワが寄っている。

 

「……兄貴なら自分の妹くらい、ちゃんと見ときなよ。」

 

そう言って了平に背を向けた雲雀は、そのまま周りを囲んでいた生徒達を見ると、武器のトンファーを構えた。戦闘態勢へと入った雲雀に周りが急いで逃げ始めるも、もう遅い。京子を抱えた了平を残して全ての生徒がトンファーの餌食になって、宙をまっていった。

その中には京子に振られた事により落ち込んで手を床に付いていた沢田綱吉も含まれており、雲雀は彼を高々くトンファーで打ち上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌々日に何とか体調が回復して学校に行くと、私の事を保健室から連れ出した男子生徒とスキンヘッドの持田先輩が何故か学校の校門にて土下座で謝って来た。

 

「すいません! 本当にすみません!!」

 

「お願いですから風紀委員長にだけは言わないで下さい!」

 

つまり、私が雲雀先輩に言いつけないかが心配らしい。全くそんな事をするつもりはないが、ここまで手のひらを返されて謝れると逆に言いつけたくなって来る。まぁ、実際にはしないが。

 

「まさか風紀委員長の彼女だとは知らず……数々の無礼をお許し下さい。」

 

「……は?」

 

「すみません! 許して下さい!!」

 

馬鹿の一つ覚えみたいに土下座を続ける男達2人に私は困惑しながらも、先程の言葉を聞き逃す訳にはいかなかった。

 

「えぇと……何で私が雲雀先輩の彼女に?」

 

「本当にすみません! 命だけは! 命だけはぁあああ!!」

 

「…………。」

 

こいつらは何を言ってもこの調子なんだろうか。それならもう、用はない。ガタガタと震えながら謝罪の言葉を繰り返す彼らを残して、私はさっさと移動する事にした。周囲の野次の目も合わさり、彼らに少しくらい優しくしようとした気持ちは既に消え失せていた。

 

「行かないで下さい! どうか俺達を助けて!!」

 

ひしっと2人に足元に縋りつけられる。無理やり動こうとしても動かない足に眉を寄せるも2人はお構いなしの様だ。

 

「もう本当に離して──

 

その時耳元で何かがヒュンと風を切る音がした。気が付けば私にみっともなく縋り付いていた男達は空を飛んでおり、私の目の前には黒い学ランがたなびいていた。

 

「風紀を乱すやつは咬み殺す。」

 

そして未だ宙をまったままの男達に向かって走って行った雲雀先輩は、容赦なくトンファーで追撃をし、彼らをボコボコに叩きのめした。

私は突然の出来事にポカーンと口を空けるしかなかったが、やがて男達をのした雲雀先輩がトンファーをしまうと、彼に声を掛ける事にした。

 

「あの、雲雀先輩……ありがとうございます。今日も、昨日も助けて下さって。」

 

あの後目が覚めて兄から聞いたのだが、雲雀先輩が気絶した私を兄まで運んでくれたらしい。兄は私が持田先輩に迷惑していた事に全く気付いていなかったので、後から友達に聞いて驚いたそうだ。

何故俺を頼らないんだと怒られたが、剣道の強い持田先輩を漢だと認めて語っていた兄に頼むのは気が引けた。それに、それくらい兄に頼らずに自分で何とかしたかったのだが、持田先輩のしつこさと話の聞かなさは尋常じゃなく、どうやら私には荷が重かったみたいだ。反省。

 

「……別に君を助けた訳じゃない。風紀の乱れが許せないだけだよ。」

 

学ランをバサリと翻して、それだけ言うと雲雀先輩は何処かへ消えた。

雲雀恭弥、近い将来にボンゴレの雲の守護者として力を奮う先輩。彼は何を考えているのかが本当に分からない人で戦闘狂なきらいがあるが、その曲がらないあり方は尊敬出来ると私は思っている。

空を見上げると、真っ白な雲が気持ち良さそうに浮かんでいた。

 

「何にも囚われる事の無い、孤高の浮雲か……」

 

ボンゴレ自体は嫌いだが、雲の守護者を表したその言葉は、彼にぴったりだと思った。

 

 

 


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