小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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タイトル通り黒髭メイン。
ぐだ男とぐだ子が両方出てきます。
下ネタ注意。


黒髭、完

 俺とぐだ子のマスター陣は俺の部屋で打ち合わせをしていた。

 正確には打ち合わせ兼雑談だ。

 あの爆発の日以来運命共同体になった彼女とは親友以上の仲良しだ。

 打ち合わせもするがだらだら過ごしている時の方が多い

 

「失礼します。マスター」

 

 インターフォン越しに声が聞こえた。

 

 俺たちマスターの部屋は厳重なセキュリティで守られている。

 サーヴァントには困った行動をとる者も残念ながら少なくないからだ。

 

 勝手にベッドに入ってくるきよひーとか。

 勝手にベッドに入ってくる静謐ちゃんとか。

 勝手にベッドに入ってくる頼光さんとか。

 性欲魔人のフェルグス伯父貴とか。

 

 そのため俺たちマスター陣はサーヴァントの入室許可を三つのレベルに分けた。

 

 マシュ、エミヤ、ハサン先生、アーラシュのような危険性ナシと判断されたサーヴァントはセキュリティコードを渡し入室自由。

 注意が必要と判断されたサーヴァントは事前許可制。

 危険サーヴァントたちは入室禁止だ。

 

 ドア口から聞こえるのは事前許可が必要なサーヴァントの声だった。

 知ってる声だが誰かが偽っている可能性もある。

 俺は合言葉を口にした。

 

「ぺったんは?」

「ニッチではありませんぞ」

「よし。入れ」

「デュフフwww失礼しますぞwwwマスターwww」

 

 黒髭ことエドワード・ティーチはにゅるにゅると軟体動物のような動きで入ってきた。

 ――呼んだのはこっちだが呼んだのを後悔していることに気付いた。

 

 気持ち悪い。とにかくキモい。何かがキモいのではなくただひたすらにキモい。

 ベオウルフがグレンデルの事を「ただひたすらに邪悪な存在だった」と語っていたが

グレンデルが「邪悪」の実例なら黒髭は「キモい」の実例だろう。

 

 ぐだ子は隣で軽く表情を歪めていた。

 二人は共通の趣味のおかげで割と仲は良いがそれでも気持ち悪いものは気持ち悪いらしい。

 

 おっと。あまりのキモさに危うく本題を忘れるところだった。

 

「黒髭氏。お願いしてた宝物庫のQP集めは?」

「それがですな……」

 

 俺が戦果の報告を求めると黒髭が真剣な表情で黙りこんだ。何かあったのか?

 

「ぐだ子氏の部屋からパクったエロ同人読んでてすーっかり忘れておりました!

てへぺろ☆」

 

 沈黙――であるか。

 ノッブならきっとそう言っただろう。

 

 ぐだ子の同人――うっかり読んでしまったことがある。

 あれは――確か。※

 

「……え?黒髭氏、そういう趣味なの?う!お尻の穴がムズムズしてきた」

 

 黒髭は全力でかぶりをふった。

 

「いえいえ!違いますぞぐだ男氏!腐向けではありませんぞ!NLのヤツですぞ!

かわいらしいおにゃのこがイケメンに顎クイとか壁ドンとかされて終いにはアーン♡なことしちゃうヤツですぞ?

デュフフwwwぐだ子氏なかなか乙女チックな趣味をお持ちですな!デュフフwwwだから気に入った!!」

 

 ぐだ子がBL趣味なのは知っていたが乙女ゲー的なNLも趣味だったらしい。

 そんなこと知りたくなかったが――。

 

 趣味を暴露されたぐだ子は――怒りと羞恥で真っ赤になってプルプル震えていた。

 

 黒髭はキモいとしか形容しようのない笑顔を更にキモくして続けた。

 

「あ、ぐだ男氏の部屋からパクった『血の繋がらないお兄ちゃん大好き妹コレクション お兄ちゃんのことを思うとおまたがジュンジュンしちゃうの』もなかなかwwwデュフフwwwマスターたちは良い趣味をしておられますなwww

拙者、マスターに恵まれて嬉しいでござるwwwデュフフwwwオゥフwww」

 

――ついでに俺の趣味まで暴露しやがった。

 ――こいつ。どうしてくれようか。

 っていうかどうやって忍び込んだ?お前、ライダーなのに気配遮断スキル持ちか?

 

「エミヤ、ハサン先生」

 

 俺が有罪判決を下そうと思った矢先。

 ぐだ子が先に動いた。

 俺たちマスターとサーヴァントはレイラインで繋がっており念話ができる。

 ぐだ子がサーヴァントに呼びかければもう一人のマスターである俺はもちろん。

 複数人のサーヴァントと会話が可能だ。

 様子から察するに黒髭にも聞こえているらしい。

 

「どうした、ぐだ子」

「どうなされたぐだ子殿」

 

 念話の相手はカルデアが誇る主夫二人組だった。

 エミヤと呪腕のハサンは見た目は正反対だが、どちらもお人好しで常識人で家事が得意と人格的には共通点が多い。

 

 カルデアのサーヴァントでも古参で元祖アサシンとも呼べる存在である呪腕のハサンは他のアサシンたちから慕われており、いつしかハサン先生と呼ばれるようになっている。

 

 色々振りきれてしまっているサーヴァントたちとの付き合いはそれ自体が激務だが、常識人で気の利くハサン先生との時間は癒しだ。

 

 そんなハサン先生の属性は実は「悪」らしい。

 悪の定義って一体何なんだろう?

 

「黒髭が今すぐ部屋を掃除してほしいって。ベッドの下の物は全部燃やして欲しいってさ」

「ノーーー!ストップ!ストッププリーズ!!」

 

 黒髭のキモい笑顔が必死の形相に変わった。

 

「じゃあ今すぐQP集めに行く?」

「行きます!行かせていただきます!!百万でも二百万で集めてきます!!!」

 

 黒髭は必死な顔もキモかった。

 すでに冷静さを取り戻していたぐだ子は冷たく言い放った。

 

「ふぅん。……だが断る。エミヤ、ハサン先生。終わった?」

「エミヤ殿のブロークンファンタズムで塵に返しました」

 

 黒髭は今度はニヤニヤしていた。

 今では全方位オタだが、元は大海賊。

 姦計には長けている。

 さては秘密の隠しスペースでもつくったな。

 

「ふっ、甘いな。海賊たるこの黒髭に抜かりはない。ベッドの下を片付けても第二第三の……」

「ベッドの下に隠しスペースを見つけたのでそちらも焼却しておきました」

「流石です。ハサン先生」

「ふふふ。アサシンの技を侮らないで頂きたいですな。では、またご用命があれば」

 

 山の翁の方が一枚上手だった。

 黒髭はこの世の終わりでも来たような顔でシクシク泣き始めた。

 

「ああ……拙者がせっせと集めてきたお宝写真が……ジャンヌ氏の揺れる聖パイが……メアリー氏のちっぱいが……ぐだ子氏のポロリが……」

 

 黒髭うっかりだった。

 「あ、しまった」と呟いたがもう遅い。

 

「お前……そんなものいつ撮った」

 

 彼女は怒っていた。誰がどう見てもそうとわかるぐらいに。

 ゴゴゴゴゴと背景音でも聞こえそうな勢いだ。

 

「無人島の時、つい。出来心で。反省はしている。だが後悔はない」

 

 黒髭。堂々と答える。

 すごい。さすが大海賊。こんな状況でも動じない。

そこにシビれないし憧れないが。

 

 ――それに対してぐだ子は。

 ――にっこり笑って右手を持ち上げた。

 サーヴァントに対する絶対命令権。令呪が刻まれた手だ。

 

「令呪を以って命ずる――」

「ちょ、ちょっと何する気ですか?ぐだ子氏?ぐだ子氏?」

 

 令呪による魔力の奔流と共にぐだ子の口から紡がれたのは無慈悲な命令だった。

 あまりの無慈悲さに俺も口を開けなかった。

 唖然とする黒髭にぐだ子は止めをさした。

 

「次にお前は『やめて――それだけはやめて!』と言う」

「やめて!それだけはやめて!!……ッハ!!!」

 

××××××

 

「これが……スパルタだぁああああああああああ!!!!!」

「ローマ!ローマ!!ローマ!!!」

「わが愛を受け取りたまえ!愛!!愛!!!」

「ムハハハハハ!血ダ!!血ダ!!血ダァァァァ!!!」

 

 右も左も筋肉ならば前も後ろも筋肉。

 筋肉と筋肉がひしめき合い、汗で汗を洗う漢の聖域。

 それがカルデアのトレーニングルームだ。

 

 それから一週間。黒髭は令呪の強制力でレイシフト時以外は常にトレーニングルームに縛り付けられていた。

 今はレオニダスの先導でマッチョマンたちとクレイジープッシュアップ中だ。

 

レオニダスの指導で俺の腹筋はすでにバッキバキだ。

 ぐだ子も十代女子としてはありえないぐらいバッキバキだ。

 彼女は「シェイプアップのエクササイズのはずがビルドアップさせられてた。何を言ってるかわからねーと思うが私もわからない」と嘆いていた。

 

「ひどぅい……ぐだ子氏、御慈悲を」

「マシュ。許してあげていいと思う?」

「ぐだ子先輩。……さすがにもういいのでは?」

 

 事情を聞いて様子を見に来たマシュは慈悲を示した。

 俺の後輩ちゃんマジ天使だ。

 

「マシュのフィギュア作ってキャストオフしてたらしいよ」

「反省の色が見えませんね。もう一週間延長にしましょう」

 

 黒髭の余罪が発覚してマシュはあっさり翻意した。

 天使の慈悲もこのキショい生き物は対象外らしい。

 

 黒髭は泣きながらマッチョマンたちとプッシュアップしている。

 

「確かに撮ったのは拙者ですが、ぐだ男氏も回覧してましたぞ!

ぐだ子氏のポロリもガン見してたし、マシュ殿のマシュマロとかアン氏の揺れるメロンとかも凝視してましたぞ!

なのにどうして拙者だけこんな目に?あぁんまりだぁぁ!」

 

 黒髭め。ゲロしやがって。鋼鉄の掟を破ったな。

 

「ぐだ男?」

「はい……」

 

 ぐだ子はかわいいが怒るとちょっと怖い。

 

「見たの?」

「……はい。見ました。ごめんなさい」

「マシュのも見た?」

「……はい。見ました。ごめんなさい」

 

 「変態」「先輩最低です」

「美少女二人からの罵倒とかwwwご褒美ktkr!!!」

 

 罵倒と羨望の言葉が返ってきた。

 ぐだ子ごめん。マシュ、俺は最低です。軽蔑してください。

 黒髭。お前は黙ってろ。

 

「反省してる?」

「……反省してます。ごめんなさい」

「じゃあ許す。マシュ、いいよね?」

「はい。真剣に反省しているようですので、情状酌量の余地があると思います。

謝罪もしているのでそれで十分かと」

 

 あっさり許された。

 

 ありがとう。黒髭。君はいい友達だったよ。

 そしてさようなら。

 

「ちょ、ちょっと何ですかそれ?主人公補正?エロゲ主人公ですか?

かぁぁぁぁあ!!!裏山死ぃぃぃぃ!!!!」

「うるさい。もともと普段から行いに問題があるからこうなるんでしょ?

はい。一週間延長決定!」

「ノオオオオオオオ!!!!」

 

 黒髭の悲痛な叫びは筋肉の饗宴でかき消された。

 

「黒髭殿!プッシュアップが止まっていますぞ!!さあ!!!レッツマッスル!!!!」

「 ■■■■■■■■■■■ーーー!!」

「イスカンダルゥゥゥ!!!」

「ネロォォォォォォォ!!!」

「オラオラオラ!どうしたどうした!!」

「クール!ゴールデンなマッスルじゃねえか!」

「いやああああ!増えてるぅ!!!」

 

 

 増えていくマッチョマンたちの気合ヴォイスと黒髭の悲鳴がこだましていた。

 

 今日もカルデアは平和だ。

 




『カルデア男子たちの日常』に触発されて書きました。
黒髭とエミヤは使い勝手良すぎです。
描き分けしやすいようにぐだ男とぐだ子に色々独自設定を追加してます。
ゲーム制作の都合上仕方ないと理解してはいますが性別の違いでシナリオにほとんど差異がないのが不満で。
なら勝手に作ってしまえと。
今後もこの二人の絡みはちょいちょい書きます。

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