小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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これが……スパルタだぁあああ!!!!


レオニダスVS大自然

「あったらしい朝が来た!希望の朝が!!

マスター!!!おはようございます!!!!実に気持ちのいい朝ですね!!!!!」

 

 暑苦しい声で目が覚めた。

 目を覚ますと半裸の筋骨隆々とした男が立っていた。

 

 カルデアに常駐するサーヴァントの一人、スパルタ王レオニダスだ。

 

「レオニダス……朝4時だよ?」

「唐突ですがサバイバルに行きましょう!

レッツサバイバル!」

 

 説明になっていない。

 

「待って。いったん落ち着こう。とりあえず話を聞くから何がしたいか説明してもらえるかな?」

「ですから!サバイバルです!サバイバル!!レッツサバイバル!!!」

 

 やっぱり説明になっていない。

 興奮して300人のスパルタ精鋭を呼び出したレオニダスを令呪1画を使ってどうにか宥めると

レオニダスの言葉にならない言葉から俺はどうにかこの筋肉密度の高い暴挙の理由を拾い上げた。

 

 レオニダスの言い分をまとめると下記の通りだ。

 

 特異点では何が起きるかわからない。

 カルデアからの通信が途絶える可能性もある。

 

 思わぬバカンスとなったあの時はスカサハ師匠の知恵で生き延びたが

師匠が常に同行しているわけではない。

 だからカルデアのシュミレーターを使いサバイバル技術を身に着けるトレーニングをしましょう。

 とのことだった。

 まあ理屈はわからないでもない。

 

 だが、レオニダスにサバイバル技術と言われても嫌な予感しかしない。

 本人は認めたがらないがレオニダスは脳筋だ。

 しかも彼の行動は全てがスパルタ基準だ。

 とても真似できる気がしない。

 

 しかしいったんこの手の主張を始めたレオニダスを止める手段を俺は知らない。

 

「わかった。ドクターとダヴィンチちゃんに相談してみるよ……」

 

 俺はただ溜息交じりにそう答えるしかなかった。

 

×××××

 

 まず、ダヴィンチちゃんとドクターロマンに事情を説明した。

 意外にも2人は乗り気だった。

 

「あまり無茶はしないでね」

 

 という言葉ともにサバイバルに適したシュミレーション環境を用意してくれるとのことだった。

 

 では、次は道連れだ。

 

 何人かの手隙のサーヴァントに声をかけた。

 結果は全員ノーだった。

 

 アンデルセンなど俺とレオニダスの姿を見た瞬間に光の速さでどこかに行ってしまった。

 

 こうなったら頼れるのはあの2人だ。

 

「へえ……そんなんだ。頑張って」

 

 まずもう一人のマスター、ぐだ子を誘った。

 

 すると彼女はただ一言そう言って白目を剥いた。

 どうやら俺と同じ目にすでに遭っていたらしい。

 ご愁傷様だ。

 当然、返事はノーだった。

 

 俺たち3人の運命共同体のもう1人、マシュは首を縦に振ってくれた。

 ああ、ありがとう俺の後輩ちゃん。

 君は最高だ。

 臆面もなく感謝の言葉を述べると

「いえ……先輩のお役に立ててうれしいです」とちょっと照れていた。 

 ナイス後輩力。

 

 準備は整った。

 というか整ってしまった。

 

「さあ!では行きましょう!!レッツマッスル!!!」

  

 

 まず着いたのは平原だった。

 サバイバルという事で無難にそれらしいマップが選ばれたらしい。

 

「さて!マスター!!問題です!!!

人はどのくらい飲まず食わずでも生きていられると思いますか!!!!!?」

 

 レオニダスのテンションは高い。

 

「さあ?2、3日かな?」

 

 俺の大雑把な回答にマシュが補足を加える。

 

「そうですね。1週間生き延びた例はありますが、何も口にしないと1日ごとに人は衰弱します。

災害などで生き埋めになった場合72時間が救出までの一般的なタイムリミットなので

大体そのぐらいが限界と思われます」

 

 ナイス後輩力だ。

 そしてレオニダスは相変わらずテンションが高い。

 

「はい!マシュ殿!!パーフェクトアンサーです!!

つまり!サバイバルの上で食料の確保は急務!!!急務です!!!!

……おや?あんなところに美味しそうな食料があるではありませんか」

 

 レオニダスの目線の先を見る。

 嫌な予感しかしない。

 

「あの、レオニダス。それバイコーン……」

「いただきマッスル!!!!!!」

 

 やはりテンションの高いレオニダスは俺とマシュが静止するのも聞かず

雄たけびを上げてバイコーンにとびかかった。

 数分後、バイコーンは大雑把な焼肉になっていた。

 

 気の進まない食事を終えるとさらに歩く。

 今度は森林に入った。

 

 1本の木の根元でレオニダスが足を止めた。

 

「マスター!キノコです!!キノコ!!!

ベジタブルです!!!!ヘルシーです!!!!!」

 

 テンション高い。

 

「キノコは低カロリーで高たんぱくな食品です。

食べられるキノコならば大きな収穫ですね」

 

 マシュがフォローを入れる。

 ありがとう、マシュ。

 

「ところで、マスター!食べられるキノコと毒キノコの見分け方をご存知ですか!!!?」

「さあ?見た目とか?」

 

 無知な俺に変わりマシュのフォローが入る。

 

「見た目で判断するのは危険ですね。

ニセクロハツは見た目はシイタケそっくりですが猛毒ですし

タマゴタケは見た目はグロテスクですが高級食材です。

小さく裂いて舌の上に30分ほどのせて

何も体に異常がなければ食用キノコと判断できると聞いたことがありますが

安全な方法とは……」

「なぜそのようなまどろっこし真似をするのですか?」

 

 レオニダスはポカンとしていた。

 

「え?じゃあどうやって見分けるの?」

 

 嫌な予感しかしない……

 

 レオニダスは部厚い胸板を張って言った。

 

「簡単ですよ!食べてみればいいのです!

食べて平気ならば食用キノコ!

体調を崩したら毒キノコです!

人間には自然治癒能力というものがあります。

スパルタ兵は皆これで判別しておりました!

さあ!レッツマッスル!!!」

 

 結局キノコの見分けはマシュの必死の説得で取りやめになった。

 ありがとう。俺の後輩ちゃん。

 レオニダスはあまり納得していない様子だったが引き下がり

今度は水辺を目指した。

 

 水辺を目指し歩き続けると体よく川にたどり着いた。

 中々きれいな水に見える。

 

「マスター!!我々は食料の確保に成功しました!!!

しかし!!!人間の体は60パーセントが水分!!!!

水を飲まねば衰弱し!!!トレーニングができなくなります!!!!

つまぁり!!!!!!水の確保は死活問題ということになります!!!!!」

 

 なぜトレーニングできるかどうかを基準にするのかはわからないが確かに水の確保は大事だ。

 

「さて!我がマスターよ!!ここで問題です!!!!

水分の確保はどのように行うか!!!!考えてください!!!!!

シンキングタイム!!!!!レッツマッスル!!!!!!」

 

 暑苦しい……

 

「そうだな。川とか飲める水がある場所を探すことかな?」

「そうですね。

沼や池など水が滞留しているところはいけません。

ボツリヌス菌が発生している可能性が高いです。

流れのある場所、特に水が地面から湧き出しているところがいいです。

土壌の成分で水が濾過されている可能性が高いので。

煮沸できればより安全いいですね」

 

 ナイスだマシュ。

 これならパーフェクトアンサーだろう。

 

 レオニダスを見る。

 彼はポカンとしていた。

 

「なぜそのようなまどろっこしい真似をするのですか?」

 

 え?違うの?

 もう嫌な予感以外何もしない。

 「え?じゃあレオニダスはどうするの?」と恐る恐る聞くと予想の斜め上をいく答えが返って来た。

 

「飲尿です!

排出したての尿は無菌で飲んでも安全!!

さらにぃ!!!

自分の体から出た水分を補給しまた排出する!!!!

これぞ永久機関!!!!!

すばらしい!計算通りです!!!」

 

 これがスパルタクオリティか……

 

 今度はマシュが絶句した。

 ここは俺がしっかりしないと。 

 ここはレオニダスの人格にかけよう。

 

「あの、レオニダス……引いてる、マシュが引いてるよ」

 

 レオニダスは申し訳なさそうな顔をして引き下がった。

 

 良かったレオニダス。脳筋だけど紳士だ……

 

「さて!サバイバルの仕上げです!!いかに屈強な肉体を持とうと

文明のない場所でそう人間は長く生きられません。

つまぁりぃ!!!!人の住んでいるところを探さなければいけません!!!」

 

「はい。そうですね。ですが、レオニダスさん。人の住んでいる場所をどうやって探すのでしょうか?

私にも想像がつきません……」

 

 マシュが申し訳なさそうにそう答える。

 レオニダスは立派な大胸筋を張り上げて言った。

 

「すべての道はローマに通じるという諺をご存じでしょうか!?」

 

 え?まさか……

 

「ローマ……文明……すなわち人が住んでいる場所!

全ての道は人の住んでいる場所に通じているのです!!

ならば!!!ひたすら歩けばたどり着く!!!!

すばらしい!!!!!計算通りです!!!!!!」

 

××××

 

 レオニダスのサバイバルトレーニングはあまりにも無茶過ぎたため

ドクターとダヴィンチちゃんから物言いが入り中止となった。

 

 レオニダスは渋々従った。

 

 カルデアに戻り、マシュに「ありがとう」と「お疲れ様」を言うと俺は疲れきってベッドに潜り込んだ。

 

 睡魔にかき消される意識の端っこで

 スパルタってすごい。

 俺は心からそう思った。

 




史実を紐解くとレオニダス一世がただの脳筋でないことはよくわかります。
スパルタではびこっていた不正を一掃した賢王だったそうです。
でもfateではこういうキャラなので。

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