タイトル通りジャンヌが出てきますが、ほかにもいろいろ出てきます。
「できればチビっ子たちにも何かプレゼントをと思っているのですが、これは異教の祭り故、下手をすると首を出せ案件になってしまうかと……」
今年という一年が終わりに近づいている。
年末も近くなるとあのイベントがやってくる。
イエス様の誕生日、キリスト教の祭日、クリスマスだ。
思わぬ騒動が終着した後、カルデアにはバビロニアで縁を結んだ冥界の主エレシュキガルが新たに召喚され、無事にクリスマスを迎えることが出来そうだった。
俺たちいつもの三人はサーヴァント達からクリスマスの要望を聞いているわけだが、カルデアきっての常識人、ハサン先生こと呪腕のハサンは
そう、控えめに要望を述べた。
どう見ても悪党にしか見えないハサン先生だが、この人は子煩悩でお人好しな常識人だ。
イスラムの信仰とキリスト教のイベントの間で葛藤していた。
「うーん、そうですね。ハサン先生が何かやってくれると子供サーヴァントも喜ぶと思うんですけどねぇ……」と俺がおざなりな意見を述べると、
ハサン先生の視線が突如、あらぬ方向に逸れた。
ハサン先生の視線の先を見ると――「サンタ!」と無理やり主張するように赤い衣装を纏った巨大な体躯があった。
「しょ、初代様……?……その恰好は!?」ハサン先生は驚きと恐怖に腰を引かせながら呟いた。
「……我はそのような者ではない。通りすがりのサンタさんだ……」
「妖怪首を出せ」「初代様」こと、山の翁、はノリノリだった。
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「拙者!世話好きで!おっぱいが大きくて!彼氏無しの!拙者の事が大好きな美少女幼馴染が欲しいでごじゃる!」
俺たちいつもの三人は引き続きサーヴァント達にクリスマスの要望を聞いていた。
黒髭ことエドワード・ティーチの答えは予想の範疇内だった。
黒髭氏の予想通りの回答に――俺たちの間に虚無も空間が広がった。
――果てしない虚無だった。
ぐだ子は感情をどこかに置き忘れた表情をし、マシュはただ無表情で虚空を見つめていた。
時が止まった。
止まった時の中で――俺は黒髭の肩に優しく触れた。
「――夢から覚めたか。海賊王」
「――ごめん。ぐだ男氏。拙者どうかしてたよ」
海賊王、黒髭は語り始めた。
「ぐだ男氏、ぐだ子氏、マシュ氏
――拙者は
――海賊王になりたかったのでござる。
――少年誌の海賊王みたいになって、あわよくばヒロインとキャッキャウフフしたかったのござる……」
「なりたかったって――諦めたのかよ、黒髭氏……」ぐだ子が憧憬を込めてそう問い返した。
「――でも、海賊王は子供の頃限定で、拙者の英雄譚、モロにR18だから――少年誌には掲載できないんだよね……
そんなこと、もっと早くに気付くんだったよ」
……そうか、じゃあ仕方ない。
……でも
「安心しろって。黒髭氏、黒髭氏の夢は俺たちが必ず……」
俺の言葉に黒髭氏は満足げに項垂れた。
最後の時が近づいていた。
「マシュ、最後だから。黒髭氏に言ってあげて」
「……はい」とマシュは沈痛な面持ちで頷き
「見ているのですか、黒髭氏。 夢の、続きを――」
黒髭氏は真っ白に燃え尽きた。
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「私は過去の影、あなたたちの背中を押すのが私の務めで、私の望みです」
ルーラーのサーヴァント、聖女ジャンヌ・ダルクの要望は「何もいらない」だった。
無私無欲な彼女らしい答えだ。
無私無欲と言えば、自己評価マイナスなジークフリートの要望は「他のサーヴァントのピックアップ時にすり抜けで召喚されてマスターを悲しませないこと」だった。
俺たちはジークフリートの健気さに涙した。
、
贔屓は良くないのだろうが、ジャンヌは初期からの戦力で大事な仲間だ。
長くいるから情も写るし、何度彼女に助けられたかわからない。
だから、食い下がった。
「いいえ、私は誰かから施しを受けるような存在ではありません。一方的に施しをし、見返りを求めない。それでいいのです。
理解できないかもしれません。ですが、私はそういう存在なのです。聖人とはそういうものなのですよ」
という訳で、ジャンヌは物の施しは拒否した。
だが、何もしないのは気が収まらない。
なので、俺とぐだ子は一計を案じることにした。
マシュにそのアイディアを話すと「手放しでは賛成できませんが……先輩らしくていいと思います」と答えてくれた。
「ありがとう、マシュ。大好きだよ」と言うと「……私もです。えへへ」と彼女は控えめに笑顔を見せた。
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「やりません。どうせ碌でもないことを企んでいるのでしょう。お見通しです」
ジャンヌの別側面、ジャンヌ・ダルク・オルタに「オルタちゃん。トランプしようよ」と誘ったがにべも無くもなく断られた。
こういう時のオルタちゃんの扱いをもちろん、俺たちはよく知っている。
「すごい!さっすがオルタちゃん!いやーオルタちゃん賢いなぁ!オルタちゃんには敵わないなぁ!」
「そうだよ、ぐだ男。オルタちゃんは無敵なんだよ!『PS●CHO-PASS』の同人で、オルタちゃんは監視官で免罪体質の無敵キャラだもん。当たり前じゃん!」
「殺す!焼き殺す!」
オルタちゃんの御し方――それはとにかくオルタちゃんを怒らせることだ。
怒らせて冷静さ(笑)を失わせればもうこちらは勝ったも同然だ。
「……そうか。そうだよね。オルタちゃんはカードゲームなんてバカバカしくて出来ないよね。
ビリーくんと兄貴に良いようにやられて悔しかったからやらないわけじゃないよね……」
俺がさらに一押しすると、オルタちゃんは容易く挑発に乗った。
ちなみにオルタちゃんには『or●nge』と『ストロボ・●ッジ』の全巻をプレゼントするつもりだ。
「バ、バカじゃないの!フン!でも、どうしても渡したいというならば受け取ってあげないこともないです」とオルタちゃんは言ったが、
きっといざ渡したら夢中になって読破することだろう。
実際、オルタちゃんは言葉と裏腹にアホ毛をピコピコ揺らして喜んでいた(かわいい)
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「あ……あんたたち、悪魔?そんなこと出来るわけないでしょ!」
オルタちゃんと大貧民をして、俺たちはボロ負けしたオルタちゃんに罰ゲームを命じた。
勝負の前に俺たちは「負けた方は勝った方の言うことをなんでも一つ聞く」という約束をした。
「フン!ボロ負けしてほえ面かくんじゃないわよ!」とオルタちゃんはフンフン鼻を鳴らしていたが(かわいい)、結果はオルタちゃんのボロ負けだった。
ルールは三回勝負して、一度でもオルタちゃんが平民か大富豪でアガリになれば勝ちというものだったが
オルタちゃんは三回とも大貧民だった。
念のために言っておくと、俺たちはイカサマの類は一切やっていない。
勝てた理由はただ単純にオルタちゃんの持ち札が表情でバレバレで信じられないぐらい弱いからだ。
「嫌です!絶対に嫌です!そんなことをするぐらいなら死んだ方がマシです!」
「でも約束したよね?」とぐだ子は言ったが、なおもオルタちゃんは食い下がった。
そうか、では仕方ない……
「じゃあ、代わりにオルタちゃんのトップシークレット(笑)を10位から順々に公開するよ?」
「ハァ!?フン!面白いじゃない!やってみなさいよ!」
俺たちはニヤリと笑って見合った。
そして
「じゃあ、まず俺から行くね。オルタちゃんのトップシークレット第10位!
オルタちゃんが、ヴラドさんに、こっそり裁縫を習って……」
オルタちゃんが一瞬で必死の形相になった。
「わかった!わかったわよ!やればいいんでしょ!」
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クリスマス当日。
サーヴァントが増えた今年はさらに賑やかな様相になっていた。
エミヤは新しい圧力鍋(俺たちのプレゼント)で新しい煮込み料理を試し、アルトリアが片っ端からそれをつまみ食いし、
黒髭氏は刑部ちゃんと炬燵で同人造りに精を出し、初代様とハサン先生は子供たちと戯れていた。
エルキドゥはイシュタルにえげつない奇襲を仕掛けて間一髪それを躱されていた。
「あんた、私を殺す気か!」
「何言ってるんだい、殺す気でやったんだから当たり前じゃないか。躱すなんて空気が読めない駄女神だなぁ」
という物騒な会話が交わされていた。
ガメッシュさんとエレシュキガルはエルキドゥの隣で青ざめて引き攣った笑いを浮かべていた。
ジャンヌはクリスマスを楽しむ面々を少し離れた位置から微笑を浮かべて見ていた。
「オルタちゃん」
俺たちは嫌がるオルタちゃんを促し、ジャンヌの元に赴いた。
しかし、この子、嫌がってるけどいつも最後には言うこと聞くんだよな……
やっぱり根はジャンヌなんだな……
「ぐだ男、ぐだ子……それにオルタ?」
オルタちゃんが自らジャンヌの元を訪れたことに彼女は驚いていた。
召喚の時以来、オルタちゃんはずっとジャンヌの事を避けている。
クーフーリン兄貴たちのように自身の別側面同士でも特に諍いなく過ごしているサーヴァントもいるが、別側面のサーヴァント同士は上手くいくときもあれば行かない時もある。
エリちゃんとカーミラさんは犬猿の仲だし、エミヤとエミヤ・オルタも友好とは言えない。
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「フフッ、そんなに固くならなくてもいいじゃない、下らない聖女様? 私はお前を無視するし、お前も私も無いものとして扱う。それでいいのよ」
召喚当初、オルタちゃんはジャンヌに怨嗟の言葉(笑)を吐いた。
「そうですか……私は貴方にそのような評価を受けているのですね」
「フン。分かれば結構。これが最初で最後の会話です。ごきげんよう」
しかし、ジャンヌはそれを斜め上から受け止めた。
「いいえ。それはお断りします。――だって寂しいではありませんか!」
「ハァ!?」オルタちゃんは開いた口が塞がらなかった。
「おかしいかもしれませんが……妹が出来たみたいで嬉しいんです!
なので、どうやったらその『下らない聖女様』という評価は覆るか教えてください!」
「ちょ、ちょっと!グイグイ来るんじゃないわよ!裁判所に接近禁止令を申請するわよ!」
「まぁ!読み書きが出来るだけではなく、そんな難しいことも知っているのですね!あなたは頑張り屋さんなんですね!オルタ」
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回想終了。
「ほら、オルタちゃん。言ってあげなよ?」
オルタちゃんは「ぐぬぬ……」と唸った。
そして
「お、おね……」
ジャンヌは「おね?」と小首を傾げている。
「お……お姉ちゃん」
パァァ!
ジャンヌの顔に光が差した。
「はい!お姉ちゃんです!」
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そしてさらに後日。
「おはようございます。リリィ」
「はい。おはようごさいます。本来の私」
「違いますよ、リリィ。そうではないですよね?」
「――そうでした。ごめんなさい、本来の私……ではなくて……ジャンヌお姉ちゃん」
「はい!よくできました!貴女は立派なサンタで立派なサーヴァントです!私も鼻が高いです!」
「はい。ありがとうございます。ジャンヌお姉ちゃん」
「うふふ。リリィはかわいいですね」
すっかり「お姉ちゃん」呼びに愉悦を得てしまったジャンヌは今度はジャンタちゃんにもそれを要求していた。
ジャンタちゃんはオルタちゃんと違い素直な性格なので、特にためらいなくお姉ちゃん呼びに従っていた。
二人は傍らで知らんふりをしようとしているオルタちゃんの事をチラチラ見ていた。
「絶対に呼ばないわよ!絶対に呼ばないからね!」
「もう、オルタは素直じゃないですね。うふふ、でもそんなところもかわいいと思います!」
「成長した私、ツンデレですか?流行りじゃないですよ。黒歴史です」
「うっさいわね!燃やすわよ!」
そう言いながらもオルタちゃんがそんなに嫌がっているようには見えなかった。
彼女たち三人の姿を俺とぐだ子とマシュと、そしていつの間にか現れたジル・ド・レの旦那は生暖かい笑顔で眺めていた。
怒るオルタちゃんをジャンヌとジャンタちゃんが宥めながら――その最中、ジャンヌがこちらに顔を向けた。
ジャンヌは小さく口を動かした。
「ありがとうございます」と言ったように俺には見えた。
メリークリスマス。聖女様。
実は結構前からジャンヌ、自分のカルデアにいるので愛着があって。
本当に宝具のスタン、解除されてよかったです。
アポクリファのアニメが佳境なので、また近くジャンヌのネタになるかもしれません。