小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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別のものを書くつもりだったのですが、アポクリファのカルナが格好良すぎて。
タイトル通り、カルナさんが主役です。


施しの英雄

「へいよーかるでらっくす。マスター、オレに用があると聞いて赴いた」

 

 いつものようにマイルームでいつもの3人でぐだぐだしていた俺の元にジークフリートと並ぶ控えめな大英雄――太陽神スーリヤの息子――カルナさんが訪れた。

 理由は俺とぐだ子が呼びたてたからなのだが、ちょっとどうしても彼に言わなくてはならないことがあったからだ。

 

「ああ、カルナさん。……ちょっと言いづらいんだけどさ」

 

 先日、いつものように種火狩りの周回をしていた際のことだ。

 その日は弓の種火の日だったので、たまには孔明・マーリンの過労死コンビを休ませようとチャージスキル持ちのカルナさんについて来てもらったのだが……この選択が失敗だった。

 いつものように開幕即ステラで焼き払った後、カレスコお爺ちゃんを持たせたカルナさんに即チャージからの宝具を発動させた。

 

「命令とあらば」

 

 神を焼き払う伝説の槍が真名解放され、凄まじい爆風とともにその姿を露わにする。

 露わに……え、ちょっと待って。

 

「神々の王の慈悲を知れ。絶滅とは是、この一刺」

 

 しまった、忘れていた。この生真面目ド天然な大英雄は加減を知らない、ちょっと引くぐらいいつでも全力な人だった。

 

「カルナさん!ちょっと待って!そんな全力で撃ったら種火ごと燃え尽きちゃうよ!!」

「灼き尽くせ、『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』!!」

 

 ……遅かった。

 雷光でできた必滅の槍の一撃は文字どおり跡形もなく腕を焼き払った。

 

「カルナさん。今度からは腕相手にする時はもう少し加減して撃ってね」

「――そうだったのか……。オレは命じられるままにいつも通り全力だったのだが、まさかそれがお前たちにとっては逆に不利益になっていたとは。謝罪する」

 

 カルナさんは心底申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。

 そのあまりに控えめな姿は逆に俺たちの良心にチクチクと刺さる。

 俺とぐだ子はむしろお使いクエストに慣れないスケールの大きすぎるインド神話の英雄を連れて行ったことを謝罪しその話は終わった。

 

「ところでオレもお前たちに問いたいことがあるのだが、構わないか?」

 

 この大抵の事を良しとし受け入れる彼には珍しい事だった。

 その質問にぐだ子が答えた。

 

「いいけど、何?」

「先日、エミヤがぐだ子の部屋を掃除していた時、オレも立ち会っていたのだが。お前の部屋に置いてあった薄い冊子の中にオレとアルジュナが全裸で昂め合っている本を見つけた。あれはお前の趣味か?」

「え?え!?」

 

 ぐだ子……お前インド兄弟までネタにしてたのか。

 動揺を隠せないぐだ子に対してカルナさんが続けて話す。

 

「いや、それは構わない。衆道は罪ではないからだ。お前がそれを趣味とするのならばオレはそれはそれとして受け入れよう。それよりもオレが気になっているはその時エミヤが言った『アルジュナが攻めでカルナが受けなのか』という言葉だ。

これはどういう意味なのか問いたい。攻めの反対は守りではないのか?エミヤにも同じ問いを投げたが彼はただ無言で曖昧な表情をするだけだった。この問いは彼が答えに窮するほどに深遠な問いなのだろうか?」

 

 動揺するぐだ子を尻目に心底不思議そうな表情でカルナさんは訪ねた。

 この純粋すぎる問いかけに対して欲望にまみれた作者(ぐだ子)は赤面しながら受けと攻めについて答えた。

 

「なるほど、つまり交わる際の役割を示した比喩的表現だったのだな。回答に感謝する。……この間、オレはぐだ男が黒のライダーの臀部を撫で回しているのを見た。お前にも同じ趣味があるということか。つまりお前たちは同好の士という事だな。相性が良いのも頷ける」

 

 とんでもないところから飛び火して来た。

 

「……先輩、最低です」

 

 マシュとぐだ子が俺の事をゴミを見るような目で見てくる。

 

「マママママシュ!誤解だよ!ちょっとスキンシップ取ろうとしただけだって!」

「そうか。あのような手つきで撫で回すのもスキンシップの一環ということか。オレも機会があれば試してみるとしよう」

「カルナさん!もう余計に話がこじれるから少し黙っててくださいよ!――あれ?なんかカルナさん手震えてません?」

 

 今まで気がつかなかったが、カルナさんの手が明らかに異常なレベルで小刻みに震えているのに気が付いた。

 

「これか?オレにも原因が皆目検討つかない。今朝パラケルススから『健康になる薬だ』と言って手渡されたモノを飲んでからずっとこうなのだが」

「絶対それが原因ですよ!」

「しかし彼は健康になる薬だと言っていた。お前たちも知っての通りオレはあらゆる虚言を見破る。彼の言葉に偽りはなかったからそれが原因ではないのだろう」

 

 後に問いただした俺にパラケルススはこう言った。

 

「申し訳ありません。副作用が出る可能性について(意図的に)伝えるのを忘れていました」

 

 カルナさんに俺たちが震えの問題について対処することを告げるとカルナさんはさらに隠された問題をサラリと口にした。

 

「そういえば、カエサルから英雄の証は倍になって帰って来ただろうか?」

「え?なんの話」

「聞いていないのか?カエサルが大きな利子を付けて返済すると言っていたので彼に素材を渡したのだが。オレはあの素材を大量に消費する。お前たちの負担を和らげるためにもあの判断は間違いではないと思っているのだが」

 

 そういうとカルナさんはカエサル商会との取引のあらましを話し始めた。

 

 ――絶対に騙されている。

 それは大事な部分を巧みに隠しながら身ぐるみを剥がす悪徳業者のやり方そのものだった。

 

「――あの言い難いんですけど、それ多分騙されて……」

「しかしオレは納得して素材を受け渡した。これは騙されたことになるのだろうか?」

「少しは人を疑いましょうよ!世の中には嘘をつかないで人を騙せる人もいるんですよ!」

 

××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 後日、いつもの種火集めから帰って来た俺の元にマシュが血相を変えて走り寄って来た。

 

「先輩!すぐに購買に来てください!カルナさんとジークフリートさんが!」

 

 マシュに連れられて購買に行くと件の2人、カルナさんとすまないさんことジークフリートが明らかに剣呑な空気で対峙していた。

 これはただ事ではない。

 召喚された際二人は以前から縁があったらしく、互いを最大の好敵手と認め再会を喜び合っていた。

 しかも2人ともカルデアきっての謙虚な性格の持ち主だ。

 一体何が彼らをこうさせたのか……

 

「黒のセイバー、その手を離してもらおう」

「いいや、手を離すのは貴公の方だ赤のランサー」

 

 二人は何かを手にするために対峙しているようだった。

 あの無視無欲を絵に描いたような2人の大英雄にそこまでさせるなんて一体……。

 

「その焼きそばパンから手を離してもらおうか。黒のセイバー」

「いいや、この焼きそばパンを手にするのは俺だ。赤のランサー」

 

 想像以上に下らない理由だった。

 二人は購買の最後の一つの焼きそばパンを巡って争っていた。

 ……嘘だろ?

 

「二人とも先輩から頼まれたと仰っていて…」

 

 そういえば出撃前にカルナさんにお使い頼んだような。

 

「いや、ごめん。ジークフリートには私が頼んだんだけどまさかこんなことになるなんて」

 

 いつの間にか傍にいたぐだ子が言った。

 

「施しの英雄よ。衆生からの願いに応えるのが貴公の在り方のはず。であればこれを俺に譲るのが貴公の正しいあり方なのではないのか?」

「それはできない。なぜならこれはオレの望みではなくマスターであるぐだ男の望みであるからだ。生前から人々の願望器として生きたお前の方こそ手を引きべきとオレは考える」

「それはできない。自分のためではなく、自分の意思で誰かの望みを叶える。俺はずっとそう望んできた。傲慢で浅はかな望みだとは思うがぐだ子が焼きそばパンを望んだ以上、俺はネーデルランドの竜騎士としてこの焼きそばパンを持ち帰る義務がある」

「黒のセイバー、ジークフリートよ。お前らしい清廉で高潔な願いだ。しかし、この焼きそばパンをぐだ男の元に持ち帰るのはオレのクシャトリアとしての義務。命に代えても守らなければならない戦士としての約定だ」

「やはり、引くことはできないのか?」

「無論だ。お前が引かない以上、オレは戦士としてお前を討ち、この焼きそばパンを持ち帰る」

「受けて立とう」

 

 洋の東西を代表する大英雄2人の魔力が高まりその伝説の武具に魔力が充溢して行く。

 やばい、カルデアが崩壊してしまう。

 

「カルナさん!そこまでして焼きそばパン食べたくないし、いいって!」

「ジークフリート!私も他のパンでいいから!」

 

 俺たちの呼びかけに対峙する大英雄が答える。

 

「ぐだ男、お前が嘘を言っていないのはわかる。しかしそれではお前の焼きそばパンが食べたいという本来の望みを果たすことができない。お前に我慢を強いるのはオレの望むところではない」

「ぐだ子、俺は誰のためでもない。お前の望みのためにここに立っている。俺に自由なる勝利の輝き(焼きそばパン)を!」

 

 もう!

 いつも控えめなのになんでこんな時だけ物分かり悪いんだよ二人とも!!

 

「このような形とはいえ、お前のような強者と立ち会えることを誇りに思う。我が第二の生における最大最強の好敵手よ!」

「こちらにとっても貴公のような強者と刃を交えることは至上の喜びだ」

「お前のような強者を打ち倒すため、絶対破壊の一撃がオレには必要だ」

「推して参る」

「神々の王の慈悲を知れ。絶滅とは是、この一刺。『 日輪よ、」

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす。『幻想大剣」

 

 その瞬間、凄まじい殺気を2人ではなく隣から感じた。

 

「マシュ、ちょっと盾借して」

 

 そこにはマシュから借りた大楯を持ったリヨ形態ぐだ子が立っていた。

 暴力の権化と化したぐだ子は楯でカルナさんとジークフリートを殴り倒すと静かに言った。

 

「……お前ら、いい加減にしろよ」

 

こうしてカルデア崩壊の危機は収束した。

真面目すぎるのって怖い。

俺は心底そう思った。

 




お目汚しすいません。
だいぶネタが溜まってるのでまた来週、お会いしましょう。

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