※新宿のアサシンと不夜城のキャスターの真名ネタバレが含まれています。
「ニトちゃん、強い。かわいい。シコい」
イエスは「右の頬を打たれたら左の頬を差し出しなさい」と言われたらしいが、
俺がそう発言した直後、右の頬をマシュにビンタで、左の頬をぐだ子にグーで殴られた。
キミたち、息ピッタリダネ。
非戦闘時にサーヴァントたち定期的に行っている面談。
今日はエジプト第6王朝最後のファラオ、ニトクリスを呼び出していた。
俺はその面談の最中に突如ゲス発言を放ったのだった。
「もう!私というものがありながら!もう!もう!」
マシュが顔を真っ赤にしながら俺に迫ってくる。
「いや違うんだよ、マシュ!俺の主食はマシュだよ!昨日もマシュで二回自家発電したよ!」
「そういうことじゃないです!もう!もう!」
「二人とも、変な方向に話逸れてるよ?」というぐだ子のツッコミが入ったところでニトクリスの反応を確認すると、彼女はポカンとしていた。
「同盟者ぐだ男、『しこい』とは、なんですか?聖杯の知識にない言葉なのですが」
二人からツッコミが入る前に俺はニトクリスの疑問に即座に反応した。
「それはね。最高のオナ●ーのオカズっていうことだよ。言い換えるとめっちゃエロい」
ニトクリスは神代の魔術を扱う彼女は強力なサーヴァントだ。
そして生前ファラオという人を導く立場であったため、いつも威厳を保とうと努力をしている。
だが……
「ふ……ふふふふふふふ、ふけ、ふけい、不敬!不敬です!」
俺の限りなく上品な言葉にニトクリスは顔を真っ赤に上気させてカクカクと震えていた。
彼女はいつも威厳を保とうとしているが根っこの人の良さのせいか威厳を保てない。
そして勘違いと早とちりの達人で、よくうっかりをやらかすそこはかとないポンコツ臭を漂わせている。
「ふふふふふ不敬です!不敬です!不敬です!不敬です!フケツです!不敬です!
ふぁ、ファラオたる私を見てそのような破廉恥なことを……はわわわわわ……」
なのでからかうと面白い。
からかうと面白い子は他にもいるが、オルタちゃんとニトちゃんは格別だ。
俺は「かわいいwww」と思いつつゲス顔でニトちゃんの反応を楽しむのだった。
成り行きでぐだ子と共同マスターになってもう二年以上になる。
からかうのもコミュニケーションの一つなので「大丈夫そう」と判断した場合はこういうこともやる。
もちろん、危険のブラックリストに入っているサーヴァントもいる。
今年もハロウィンの季節がやってきた。
ハロウィンといえば、エリザベート・バートリことエリちゃんが中心というのがお決まりのパターンだ。
今年は成り行きで燕青と武則天とカーミラさんがお供だった。
カーミラさんは武則天のことを「ふーやーちゃん」と呼んでいた。
当初「不夜城のアサシン」と通称されていたから「ふーやーちゃん」らしい。
それを聞いたぐだ子は思わず口を滑らせた。
「『ふーやーちゃん』って……やっぱりカーミラさん、どことなくネーミングセンスがエリちゃ……」
「ガシャン!」という壮絶な金属音がぐだ子の鼻先をかすめて通り抜けていった。
「あら、ごめんなさん。
カーミラさんはいつもの鉄面皮(仮面してるので文字通り)だった。
ぐだ子は恐怖に顔面を引きつらせながら絞りだした。
「ご……拷問器具って滑るんですね。シラナカッタナー」
ついうっかりしていた。
エリちゃんをからかうのはOKだが、カーミラさんはからかうとこういうことになる。
カーミラさんはエリちゃんの後年の同一存在だがアーチャーのガメッシュさんとキャスターのガメッシュさんみたいに基本的なところが一緒の英霊とは違う。
ぐだ子は勿論心得ているが、気の緩みでエリちゃんに接するときのノリで行ってしまったのだった。
「ところで、さっきなんと言おうとしたのかしら?年を取ると耳が遠くて。もう一度言って下さる?」
そしてカーミラさんは結構執念深い……
「いえいえ!私のような下民の言葉、カーミラさんのお耳に入れるまでもないです!!!」
ぐだ子は必死で命乞いした。
俺は彼女と一緒に土下座し、どうにか許しを得たのだった。
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「いいハーブが手に入ったの。お茶を淹れるけど、飲んでいく?」
今日はぐだ子と一緒にメディアさんの部屋に魔術を教わりに来ていた。
召喚した当初、メディアさんの態度はつれないものだったが長い時間を過ごすうちに普通に仲良くなった。
メディアさんが召喚に応じてくれたの初期の頃だったのでカルデアにいる英霊たちなの中でも古参の部類に入る、
裏切りの魔女などと言われているが、少なくとも俺とぐだ子はメディアさんのことを育ちのいい優しいお嬢様だと思っている。
以前に素直にそう言ったらメディアさんは割と普通に喜んでいた。
「ええ、ありがとうございます」
メディアさんのお茶の誘いに俺たちはありがたく応じることにした。
メディアさんは部屋(工房と言うべきだろうか)の奥に引っ込んでいった。
「ん……?なんだろ、この薄い本?」
いつも整頓されたメディアさんの部屋だが、部屋の片隅に無造作に薄い本が一冊おかれていることに俺は気づいた。
「メディアさん、あれで普通にイケメン好きそうだから、なんかそういう系統のNL本じゃない?
メディアさん中身はちゃんと乙女だから」
ぐだ子は腐っているが乙女ゲーと少女漫画も好物だ。
彼女曰く、メディアさんに以前そういうものを貸したら「まったく。お子様ね、あなた」と言いながら結構熱心に読んでいたそうだ。
「こっそり見てみようか?」
俺たちはイタズラ心を起こし、薄い本を開いた。
そして俺たちは、それが見てはならないものだったとすぐに悟った。
本は二章立てで一章はベディヴィエールが満員電車で痴漢されているというもの。
二章はラーマがバスで集団痴漢にあっている内容だった。
しかも痴漢役は一章がフェルグスさんで、二章はベオさんとスパさんとイスカンダルだった。
……なんだこの絶妙な配役。
……メディアさんの心の闇は俺たちが思った以上に深かった。
そしてお決まりのパターンで、「ガシャン」と何かが砕ける音がした。
メディアさんがショックのあまりポットを床に落としたのだった。
メディアさんは顔面を蒼白にしてカタカタ震えていた。
「「メディアさん……」」
俺たちは膝を折り、床に頭をこすりつけた。
「「ごめんなさい」」
心の底からそう思った。
「やめて!やめなさい!丁重に謝罪しないで!余計に痛いでしょ!
いっそ殺して!楽にして!」
この世にはからかってはならないものもある。
俺たちは学んだのだった。
三騎ともうちのカルデアの大事な戦力です。
メディアさんには聖杯2つ捧げてしまいました。