小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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いつも読んでくださっている皆さん。
コメントくださっている皆さん。お久しぶりです。
今回はホームズ実装されたのでホームズを主役に。

注・新宿のアーチャーの真名ネタバレが含まれています。
  それでもイイゾイイゾな方は進んでください。


シャーロック・ホームズの奇妙な冒険

 なんかわからないがいつの間にかシャーロック・ホームズと正式契約してた。

 「君たちと縁を結んだ」とホームズはしれっと言っていたが、しれっとクラスチェンジしてキャスターからルーラーになっていた。

 

 シャーロック・ホームズ・シリーズの大ファンのマシュは大喜びして彼との正式契約を祝ってくれた。

 俺にしても悪い気分じゃない。なんといってもホームズは男の子の憧れだし、ダヴィンチちゃんの負担軽減にもなる。

 マシュほどではないが、ぐだ子も彼との契約を喜んでいた。

 

 正式に契約を結んだことでもあるし。俺たちはホームズと面談の機会を持つことにした。

 

「あの、いくつか質問してもよろしいでしょうか?ミスター・ホームズ」

 

 いつもは控えめなマシュだが、憧れの人が目の前にいるのだ。

 珍しく、積極的に彼女が話をした。

 

「いいとも、ミス・キリエライト」

 

「私たちはシャーロック・ホームズをサー・アーサー・コナン・ドイルが創造した架空の人物と考えていました。

あなたは、私たちの問いをはぐらかしましたが、実際のところコナン・ドイルの小説と実際の事件はどの程度の違いがあるのでしょうか?」

 

 マシュの問いにホームズは「ふぅむ」といつものように涼しげな顔でどうともとれる曖昧な態度を示した。

 彼はしばらく黙っていたが「それ、私もすごい気になる」「俺もすごく気になる」と俺とぐだ子が畳みかけるとホームズはゆっくりと口を開いた。

 

「いいだろう。ミス・キリエライトは良き読者だし、マスターたちは良き助手になりそうだ。今後の君たちとの関係の発展を考え、

少し話をするとしよう」

 

 ホームズは淡々と語った。

 マシュは目を輝かせていた。

 

「では、まず最初の事件のことを話そう。私とワトソンが出会って初めての事件だ。確か『緋色の習作』と題していたね。

カルデアのアーカイブから現代に伝わっているものを見たがあれには些かの脚色が加わっているな」

「やはり、そうなのですね!では、グレグスン警部に呼びだされたあなたは、実際にどのような現場を見たのですか!?」

「私はグレグスンに呼び出され、ブリクストン通りの屋敷でイノック・ドレッパーの遺体に相対した。

検視官が到着する前に、ワトソン遺体を検分したのだが、彼の所見を聞いてすぐに犯人がわかったよ」

 

 ……あれ、そんな展開だったかな?

 俺は熱心なファンじゃないが、なんかおかしい気がする。

 

「あなたがドレッパーの屋敷を去った後にしたのはクリーヴランドの警察署長に電報を打ったことでは?」

 

 マシュが首を傾げながら尋ねた。

 

「違うとも、ミス・キリエライト。そんな必要はない。なにせあの遺体の状況は異常だったからね」

「私の知っている話とだいぶ違いますね。……では、実際はどうだったのですか?」

 

 おかしい、なんか微妙に嫌な予感がする……

 

「ドレッパーは一切の外傷なく、心臓だけを潰されていた。そんな芸当が可能なのは妄想心音(ザバーニーヤ)の習得者だけだ。

つまり犯人はハサン・サッバ……」

「「「ストップストップ!」」」

 

 俺たち三人は一斉に叫んだ。

 

「ん?どうしたんだい。外傷をつけずに心臓だけを潰すなど、他に方法があるまい」

 

 ホームズは変わらず涼し気な表情のままだった。

 

「あの……すごく嫌な予感がするのですが、どうやって事件の決着をつけたのですか?」

 

 巌窟王の件がトラウマになっているらしくマシュは表情を曇らせた。

 

「彼らの廟に乗り込んで決着をつけた。ドレッパーは敬虔なモルモン教徒でムスリムたちを目の敵にしていた。

それで彼らの怒りを買ったのだ。私はワトソンを伴い、彼らと拳で語り合った。そして和解した。

ワトソンを助手にしようと決めたのはその時だ。あれには驚いた、なにせ彼もバリツの使い手だったのだからね」

 

 やっぱりホームズは顔色一つ変えなかった。

 

「……ホームズ、冗談だよね?少年サ●デーみたいな展開になってない」

 

 聞き役に徹していたぐだ子が口をはさんだ。

 

「ハハハ!面白いことを言うね、ぐだ子君。現代日本のポップカルチャーは大変面白い。

私の時代にもウィルキー・コリンズのような大変楽しい通俗作家はいたが、現代の通俗文学はより洗練されているな」

 

 ホームズは笑って聞き流した。

 

「ひょっとして他の事件も小説とは違うの?例えば『バスカヴィル家の犬』とか」

 

 今度は俺が尋ねた。

 

「あの事件か。あれも一瞥して犯人が分かったよ。チャールズ・バスカヴィル卿は全身から夥しい出血、現場には獣の足跡。

つまり犯人は……」

 

 全員が息を呑んだ。

 

「ものすごく頭のいい獣だ」

 

 全員が唖然とした。

 

「……ホームズ、それは推理したことになるの?」

 

 俺が聞くとやはりホームズは涼し気な表情のまま答えた。 

 

「ぐだ男君。不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実だ。実際に犯人はものすごく頭のいい獣だった。

ワトソンが素因数分解の競争をして敗れたぐらいだからね」

「あの、そもそもそんなに頭の良い獣が存在するとどうして確信できたのでしょうか?」

「ミス・キリエライト、君は『ウォレスとグルミット』を知っているかい?

グルミットはビーグル犬だが、車を運転できるしパンも焼ける。主人のウォレスよりも賢い。

ならばもっと大型の賢い獣が居ても不思議ではあるまい」

 

 世紀末の大英帝国ハンパねえ……

 

「あ、そうだ!では『赤毛連盟』はどうですか?」

 

 マシュの問いに、ホームズの涼し気な顔が一気に強張った。

 

「ああ、彼らは強敵だった」

 

 なんか小説から一切連想不可能なワードが飛び出してきたんだが……

 

「彼らは赤毛の優性遺伝子を持った特殊な一族で、垂直飛びで五十フィート跳躍し、ホワイトスタッコの壁を指一本で粉々にした。

奴らを一網打尽にするまで、ワトソンはあばらを五本折り、あのマイクロフトが掠り傷を負った。

マイクロフトに掠り傷を負わせた人物など他に覚えがない」

 

 おかしい……小説と何一つ一致してない。

 

「おかしいですね……小説ではあなたのお兄様、マイクロフト・ホームズは政府そのものと呼ばれる存在だったはずですが」

 

 マシュの疑問は当然だ。誰だってそう思うし俺だってそう思う。

 

「マイクロフトが政府そのものと言われた理由は簡単さ。マイクロフトは人知を超えたレベルで腕っぷしが強かったんだ。

ビッグベンが微かに傾いているのは知っていると思うが、その原因は酔っぱらったマイクロフトがビッグベンにお見舞いした右ストレートだ。

力こそパワー。基本的なことだよ」

 

 マジかよ。ホームズ兄弟ハンパねえ

 

「もの凄く嫌な予感がするのですが……」

 

 ここまで来たらとことんということだろう。

 マシュが別の質問をぶつけた。

 

「ライヘンバッハの滝での出来事は『バリツでモリアーティ教授を投げ飛ばした』とごく簡単に説明されていましたが、

実際はどうだったのですか?」

 

 ホームズ

 

「……少し長い話になる。構わないかい?」

 

××××××××××××

 

 私は長年追いかけてきた犯罪王モリアーティ、あのライヘンバッハの滝で相対した。

 さしもの犯罪王も智謀は底をつき、残すは己が肉体のみとなった。

 何が起きたのか。君たちにも想像に難くないだろう。

 

「よろしい!ではこの先は拳で語り合うとしよう!行くぞ!シャーロック・ホームズ!」

「来い。犯罪王モリアーティ」

 

 彼は「WRYYYYY!!!」と奇声を発しながら飛び込んできた。

 

 ――速い。

 

 私はそう思った。

 

 それは常軌を逸したレベルの早さだった。 

 

北斗有●破顔拳!(カタストロフ・クライム!)

 

 犯罪王の一撃に私は崩れ落ちた。

 

 勝利を確信し、モリアーティは高笑いを上げた。

 

「敗れたり!シャーロック・ホームズ!これで我が野望の障害は無くなった!

待っていろ、イングランドよ!取りに足りぬ愚民どもめ!支配してやるぞ!このモリアーティの知と力の前にひれ伏すがいいぞ!」

 

 瀑布の音とモリアーティの高笑いが響き渡っていた。

 そして、モリアーティの声が突如止んだ。

 

「何だ……足が……私の足が、勝手に動いている。

足が!私の足が勝手に滝つぼの方へ!!」

 

 想像力豊かな諸君ならもうお分かりだろう。

 

「特殊なツボを突いた。

……キス・オブ・ザ・ドラゴン。このツボを突かれたものは自傷行為へと駆り立てられる」

「馬鹿な!なぜ生きている!シャーロック・ホームズ!」

「君ともあろうものが調べが足りなかったようだな。バリツを極めた者は時を止めることができる。一瞬だがな。そして脱出できた。

私には十分な時間だ。君の注意を逸らし、ツボを突くのにな。基本的なことさ」

 

 彼は自身の体を取り戻そうとあがいた。

 だが、キス・オブ・ザ・ドラゴンはバリツ最大の禁じ手だ。

 即席で解けるような技ではない。

 

「フフフ……どうやら私の命はここまでのようだな」

 

 彼の最期は犯罪界のナポレオンと呼ぶにふさわしいものだった。

 

「だがしかし!私は負けたのではない!自ら命を絶つのだ!

引かぬ!媚びぬ!省みぬ!犯罪王モリアーティに敗北などないのだ!」

 

××××××××××××

 

「「「いやいやいやいやいやいやいや!!!」」」

 

 俺たちは三人同時にツッコんだ。

 ホームズ涼し気な顔のままだった。

 そして

 

「君も聞いていたのだろう?」

 

 と、背後に声をかけた。

 案の定、なぜかアーチャーとして召喚された当のモリアーティがいた。

 

「さすがに嘘ですよね?」

 

 とマシュはモリアーティに聞いたが

 

「いいや、概ね合っているネ」

 

 と彼はあっさり否定した。

 

「しかし、君、脚色は良くない。私は『WRYYYYY』などとは言っていないよ」

「ハハハ、それは悪かった。私も少々興が乗ってしまってね。ついワトソンの真似をしてしまった。

やはり私は語り手には向いていないようだ」

 

 世紀末の大英帝国ハンパねえ。

 俺たちはそう思ったのだった。

 




ホームズ出ました。宝具3になりました。
実は、私そこそこのホームズシリーズのファンで、ロンドンのシャーロック・ホームズ博物館にも行ったことがあります。

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