長めなので二回に分けます。
「……静謐ちゃん。部屋に入ってくるときはちゃんと許可を取ってからにしようね……」
朝、起きたら静謐のハサンが俺の枕もとにいた。
比喩表現ではない。
「……ん?どうしてそこで不思議そうな顔をするのかな?」
静謐ちゃんは不思議そうに小首を傾げた。
きよひーも頼光さんも静謐ちゃんも何度言ってもどう対策を立ててもなぜか部屋に侵入してくる。
「わかりました。では、ぐだ子の部屋に行ってきます」
「止めてあげて。普通に迷惑だからね?」
「……はい。迷惑にならないように潜入してきます」
駄目だ。この子、絶対わかってない。
小さくため息をついて俺は起き上がるのだった。
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「朝起きたら、静謐ちゃんが私の枕もとでBL本読んでた……。本棚の奥の方に隠しておいたのに……。
静謐ちゃんに純真な目で『……こ、こういうのがお好きなんでしょうか?私、理解できるように頑張ります』って言われた。
死にたい……いや、いっそ殺して……」
いつもはマシュが起こしてくれるが、マシュは夕方までメディカルチェックらしい。だが、静謐ちゃんのせい……おかげでいつもより早く起きた俺は
同じく静謐ちゃんのおかげで早起きしたぐだ子と合流し食堂で朝食をとっていた。
「大丈夫だ。俺も朝起きたら、静謐ちゃんが俺のPCでエロゲのCG見てたことがあるから。
『……わ、私も「ふええ」と言ってドジっ子すれば気に入っていただけるのでしょうか?』って言われたよ。
死にたいと思ったけど3日くらいで立ち直ったから大丈夫だ」
話し込んでいると配膳にエミヤがやってきた。
ニヒルなこの弓兵だが、見かけによらずオカン体質なので彼は色々世話を焼いてくれる。
「また侵入されたのか……そろそろ警備体制を見直す頃か。私とクー・フーリンと呪腕のハサンでは不十分か。
希望なら見回りを増員するが、誰がいいか希望はあるか?」
俺たちは顔を見合わせ、何人かの名前を挙げた。
「アルトリア、アーラシュ、マルタさんあたりかな。この辺は大丈夫だと思う」
「私たちから頼んでおくよ」
「そうか。ではそうしてくれ。君たちの精神衛生は大事な問題だからな」
そう言うとエミヤは厨房に戻った。
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「師匠、お願いします。これじゃ安心してオ●ニーできないです」
「師匠、お願いします。これじゃ安心して薄い本が書けないです」
いままでこういう問題が起きるとダ・ヴィンチちゃんに相談していたが、そういえばダ・ヴィンチちゃん並みの万能な人が居るのを忘れていた。
俺たちはスカサハ師匠の元を訪問していた。
今日まで師匠に相談しなかったのはケルト流なバトルマニア的要求をされる可能性が怖ったからではない。
断じて違う。
ホントだよ。
「……お前たち、私に打ち明ける勇気はあるのに自慰行為を見られる勇気とホ●同人の執筆を見られる勇気はないのか?」
師匠は顔色一つ変えずに言った。
顔色一つ変えずに「自慰」とか「●モ」とか、さすが師匠だわ。
「はい。それとこれとは別問題なので」
「はい。それとこれとは別問題なので」
俺たちは力強く即答した。いつも思うが息ピッタリだ。
俺たちの言葉に師匠の目が光った。
「うむ。なんかわからんが、その意気や良し!私が策を考えよう」
スカサハ師匠は力強く答えてくれた。
さすが師匠。男前だ。
ちゃんとお礼を言わなければ、
「ありがとうございます。今夜は師匠をオカズにします!」
「ありがとうございます。兄貴×フェルグスさんの薄い本書きますけど、読みますか!?」
今まで顔色一つ変えなかった師匠がちょっと呆れていた。
「そんな返礼はいらん」
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師匠の部屋を出て、トレーニングルームの前を通る。
いつものようにカルデアが誇るマッチョ集団がレオニダスの号令で筋トレに励んでいた。
暑苦しい……
トレーニングルームを通り過ぎ、子供サーヴァントたちのプレールームとなっているスペースを通ると
ジャックちゃんとナーサリーちゃんが初代様こと山の翁と遊んでいた。
「ジャック……ナーサリー、今日は何をして遊ぼうか?」
「かくれんぼ!」
「かくれんぼするの!」
「……選んだな。では、十数える。隠れるがいい」
初代様の号令でジャックちゃんとナーサリーちゃんが駆け出した。
「逃げろー!妖怪首を出せがくるー!」
「きゃー!首を取られてしまうわー!」
初代様は十数え終わるとゆっくりと立ち上がった。
「……どこだ。……どこだ!?」
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「オルタ!あなたの書いた『ハチミツとク●ーバー フューチャリング・ジャンヌ・オルタ』とても面白かったです!」
カレデアのスタッフたちと世間話をしているとちょうどいい時間になったので昼食を取りに食堂向かった。
食堂に行くとジャンヌがオルタちゃんことジャンヌ・オルタにとんでもない話題をブッこんでいた。
ジャンヌはオルタちゃんとどうにか仲良くしたいらしく、いつも話題探しをしている。
結果は常に逆効果だったが、今日もどうやらそのパターンになりそうだ。
オルタちゃんはあまりのことに絶句していた。
近くでたまたま聞いていた天草はプルプルと震えながら必死に笑いをかみ殺していた。
ジャンヌの隣にいるサンタ・リリィは開いた口がふさがらなかった。
ところで、オルタちゃんのトップシークレット(笑)を一体誰が漏洩したのだろうか。
少なくとも(今回は)俺ではない。
ぐだ子でもない。
一体誰が……と思って食堂を見渡すと、少し離れた席で黒髭がキショイ笑顔を浮かべてオルタちゃんの方を見ていた。
俺たちは全てを悟った。
黒髭氏の口から微かに「デュフフフフwwwかわいいなーwwwかわいいなーwww」という碌でもない感想が漏れていた。
「原作の根幹は片思いなのに、全員がオルタのことが好きという大胆なアレンジ!とてもいいと思います!」
オルタちゃんの反応を見て何を思ったのかわからないがジャンヌはさらに畳みかけた。
オルタちゃんは顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。
サンタ・リリィは「痛いです暑いです寒いです!」と絶叫しながらゴロゴロ転がって悶絶し、天草は思わず「ブフォ!」と噴き出した。
「天草四郎!何がおかしいのですか!?」
天草の分かりやすすぎるリアクションにジャンヌが鋭く反応した。
「いえ、聖女ジャンヌ・ダルク。私はおかしくなど……」
天草は弁明しようとしたようだが、思い出し笑いがこみあげてきたらしく再び「ブフォ!」と噴き出した。
これはいけない。ジャンヌは真面目な性格で歯止めが利かない。
きっとますます悪い方向に行く。
俺とぐだ子は青ざめた。
「天草四郎!いいですか、オルタは本気なのです!本気で愛されたいと思っているのです!愛とは本来、恥ずかしいものです!
何人たりともそれを笑うことはできません!黒髭さんの妄想がどんなに気持ち悪くても、オルタの同人誌がどんなに乙女趣味でも
彼らは本気なのですよ!それを笑うとは何事ですか!?」
離れた位置で黒髭がニヤニヤしている。
とりあえず令呪でキモ髭を黙らせると、俺たちは全力でジャンヌに駆け寄った。
「ジャンヌ!もう止めてあげて!時に善意は人を傷つけるんだよ!さりげなく黒髭氏ディスるのも止めて!」
「ジャンヌ!もう止めてあげて!オルタちゃんのライフはゼロよ!」
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どうにかジャンヌとオルタちゃんを宥めた俺たちは黒髭氏に一週間のレオニダス・ブートキャンプ強制参加の罰を宣言すると食堂を後にした。
会議室として使っているフリースペースに向かうとエウリュアレとアステリオスとドレイク姉さんが何か話していた。
「冒険が」どうという話だった。
またアステリオスの迷宮の探検でもするのだろうか。
「あ、ますたあ」
アステリオスがこっちに気づいて話しかけていた。
アステリオスは俺たちが手に持っている短冊を見て「それなに?」と問いかけた。
「たなばた?」
ぐだ子が答えた。
「そうだよ。この短冊に願い事を書いて葉竹にかけるんだ」
そろそろ七夕の時期だったのでダ・ヴィンチちゃんに頼んで模造の葉竹を会議室に設えてもらっていた。
アステリオスが興味を示したのでアステリオスにも余っていた短冊をあげた。
俺は「嫌なら言わなくてもいいけど」と注釈した上でアステリオスに願い事を聞いた。
アステリオスは少し照れながら教えてくれた。
「……もっとこのじかんがつづくといいな……って」
アステリオスの素朴な一言は俺たちのハートにクリティカルヒットした。
「……どうしたの、ぐだお、ぐだこ?おなかでもいたいの?」
「いや、尊くて……」
「ごめん、尊くて……」
ただ、そうとしか言えなかった。
横で見ていたドレイク姉さんが背を向けたまま呟いた。
「煙が目に沁みちまったよ……」
今日もカルデアはにぎやかだ。
次回に続きます。