タイトル通り王様たちの話です。
いつもどおりギャグです。
偉大な王の条件って何だろう?
ある日の夜中、俺は突然思い立った。
カルデアには生前、王位にあったサーヴァントが数多くいる。
話を聞いてみようと思った。
「雑種か。少し待っていろ」
翌日。俺はいつもの三人。俺とマシュとぐだ子で英雄王ギルガメッシュの部屋を訪れていた。
ギルガメッシュはメソポタミアの神話に登場する伝説的な王様だ。
バビロニアの特異点でのあの王気にあふれた姿を俺は忘れない。
まず話を聞くならガメッシュさんに決まりだと思った。
「いいぞ。入れ。雑種」というありがたい上から目線の言葉を受けて俺たちはガメッシュさんの部屋に立ち入った。
「入りますよ。ガメッシュさん
……って何で全裸なんですか!!?」
ガメッシュさんは全裸だった。一糸まとわないマッパ。キャストオフ状態だった。
肉体は均整の取れた細マッチョボディーで、股間には原初のTNKがそそり立っていた。
エリちゃんが「あの裸族!」とガメッシュさんのことを言っていたが、マジにガメッシュさんは裸族だった。
マシュは真っ赤になって後ろを向き、ぐだ子は「きゃあ(棒読み)」と叫んで手で顔を隠していたが明らかに指の隙間から見ていた。
……コイツ、BL本のネタにするつもりだな。(カップリングはエルキドゥだろうか)
動揺する俺たちの姿を見て、ガメッシュさんは高笑いを上げつつ言い放った。
「フハハハハ!我の玉体に怖れ慄いたか!いいぞ!目を背ける不敬を許す!」
「ギルガメッシュ王……恐れながら申し上げますが……服を着てください」
マシュが顔を背けながら恐る恐る言った。
もちろんガメッシュさんがそんなことを聞くはずもない。
「断る!我の玉体に隠すべきところなど何一つない!」
予想通りの反応が返って来た。
「ガメッシュさん。服を着てください……」
この人のTNKを見ていたら自信を喪失しそうだ。
恐る恐る俺もお願いした。
「断る!人は生まれてきたとき全裸だ。ならば全裸でいるべきだ!」
「令呪をもって命ずる。服を着てください、ギル」
さすがにマシュが可哀そうになったのか、ぐだ子が令呪を切った。
「おのれおのれおのおのれ!」と絶叫しながらガメッシュさんは服を着た。
「ガメッシュさん。ところで俺たちが部屋の外で待っている間、何してたんですか?」
ようやく落ち着いたガメッシュさん俺の問いに頬を赤らめながら釈明した。
「……日記を書いていてな。恥ずかしいから見るなよ///」
日記って……女子中学生かよ。
俺はさっそく本題を切り出した。
英雄王ギルガメッシュの君主論だ。
「我の君主としての哲学か?いいぞ、我が雑種共よ。特別に教えてやる。それはな……」
どんな答えが返ってくるのだろうか?
「『我のものは我のもの!お前のものも我のもの』だ!」
原初の英雄王は原初のジャイアンだった。
××××××××××××
「良き王の条件ですか。簡単です!計算ができることです!」
今度はスパルタ王レオニダスの元を訪れていた。
予想通りの不安な答えが返って来た。
ぐだ子は俺の隣で曖昧な表情をして黙っていた。
レオニダスのことを尊敬しているマシュは目を輝かせて聞いていた。
レオニダスを信奉しているマシュは以前、毎日のようにレオニダスのマッスル強化塾に参加していた。
ある日、彼女は突然、俺とぐだ子を呼び出し
「先輩!見てくださいこの筋肉!カッチカチです!」
と言って十代の女の子が持っていてはいけないような上腕二頭筋を見せつけた。
俺とぐだ子は必死の思いでマシュを説得して過度なトレーニングをやめさせた。
だが、今でもマシュはレオニダスのことを尊敬している。
暑苦しいレオニダスの君主論はさらに暑苦しく加熱した。
「数が数えられなければ味方の戦力が把握できません!味方の数が把握できなければ作戦も立てられません!
数が数えられなければ適切な負荷をかけられません!100キロのベンチプレスと200キロのベンチプレスは全く違います!」
予想通り脳筋な回答だった。
いや、わかってたんだけどね……
「つまり良き王の条件とはトレーニングです!さあ!!ともにパーフェクトマッスルを目指しましょう!!!」
××××××××××××
「王の条件?妻と財産は多ければ多いほどいいと思うよ」
「マシュ、ぐだ子、撤退」
「はい。人選を間違ったようですね」
「あ、待っておくれよ!」
ダビデ王は四十年にわたってイスラエルを統治し、イスラム教においても預言者の一人に位置づけられている偉人だ。
オケアノスで縁を結んだ彼が召喚に応じたのはありがたかった。
だが、偉大なるダビデのイメージはいともたやすく瓦解した。
「おかしいなあ。僕けっこういいこと言ったと思うんだけどなぁ……」
ダビデさんは俺たちの反応に対して首を傾げていた。
とはいえ、この人は本物の偉人だ。
イスラエルに繁栄を築いたダビデ王がどんな君主論をもっているのか、興味深かった。
俺は君主論に関する問いをダビデさんに再びぶつけてみた。
するとダビデさんは爽やかな笑顔と爽やかな口調で言った。
「ところでいい儲け話があるんだけど、君たちも一口乗らないかい?」
「ぐだ男、マシュ、やっぱり撤退しよう」
「はい。時間の無駄でしたね」
「ああ、待っておくれよ!」
一連のやり取りで人選ミスの疑いは極めて濃厚だったがもう少し話を聞いてみることにした。
「うーん。でも改めて王様としての在り方を問われると少し困るな。今の僕は君たちに仕える身だし、今の僕は若年の頃の姿だからね。
どちらかというと羊飼いだった頃の精神が前に出ているようなんだ」
なるほどと俺は思った。
ダビデさんはセコいし、コスいが決して権威を笠に着るようなことはしない。
生前は偉大な王様なのに偉ぶったところがない。
そういえばダビデさんが即位したのは30歳の頃のことだと言われている。
きっと今のダビデさんはそれより若いころの姿なのだろう。
「ダビデさん、私からも質問していいですか?」
「うん。何だい言ってごらん?」
マシュが話を始めた。
ユダヤの経典、タルムードに乗っている話らしい。
寒い冬、人間が道を歩いている途中で、寒さに凍って死にそうなヘビを見かけた。
やさしい人間は蛇を哀れに思って慎重に自分の懐の中に入れ、体温で暖めたが気力を回復したヘビは男を殺そうとした。
人間とヘビは口論したが、他の仲裁者によって解決することにして調停者の牛に会った。
ヘビは「聖書には、ヘビと人間は敵と書いてあるので、私は当然のことをしただけだ」と主張した。
普段から人間に苦しめられていた牛はヘビの肩を持った。
人間は不服としては今度は狼に調停を求めたが狼もヘビの味方をした。
人間は今度も不服を申し立て公平な仲裁をしてくれると期待できるダビデ王に調停を求めた。
しかしダビデ王は「ヘビの言葉通り、聖書を踏まえてヘビが人を殺すのは仕方ないことだ」と結論を下した。
絶望した人間はその場から退いて、ダビデの子ソロモンを訪ねた。
ソロモンは「なぜあなたは命を救ってくれた人間を傷つけようとしているのか?」とヘビに問うた。
ヘビは「聖書にそう書かれてあるからです」と答えた。
ソロモンは裁定を下した。
「聖書には、『人間はヘビの頭を砕いた』と記録されているので、命じるところに従いなさい」
人間は裁定通りヘビの頭を砕いた。
なんか身も蓋もない話だ。
「ダビデさんはなぜあのような身も蓋もない裁定を下されたのでしょうか?なぜご自身ではなくソロモン王のところに行かせたのですか?」
マシュの問いにダビデさんは爽やかに笑って答えた。
「ああ、あの時ね。ちょっと違うなあ、実際はこう言ったんだ」
今、タルムードの真実が明らかになる。
「『うーん、聖書にもそう書いてあるし、君が蛇に食べられちゃうのは仕方ないんじゃないかな?』ってね。
納得しなかったから『そうだ。ソロモンに聞いてみたら?あいつ千里眼持ってるし、僕よりよっぽど役に立つと思うよ。いやあ、我ながら効率的なアドバイスだな』って言ったんだ」
予想以上にヒドい真実だった……
「いやあ、あの時は僕も大変でね。牧場経営で大損したばかりで損失の補てんで頭が一杯だったんだ。ファイナンシャル・プランナーと会う約束もあったし、むしろ僕が相談に乗ってほしいぐらいだったんだよ。
アビシャグとも喧嘩しててね。あの時はどうしてアビシャグが怒ってたのかわからなかったけど、今思うとほかの若い子とゲイシャガールごっこしたのがよくなかったのかもね」
マシュは呆気にとられ、ぐだ子はこれ以上ないあきれ顔で大きくため息をついた。
「ダビデさん、ガチでクズですね……」
ぐだ子のどストレートな感想にダビデさんはまたしても爽やかに笑って答えた。
「そうだね、こうして客観的に見ると僕って結構クズだね。我ながらちょっと引くなあ。
でも、大丈夫。僕は君たちの命になら真摯に向き合うつもりだよ。君たちの破産は僕の破産でもあるからね。
あーでも、僕の破産は僕だけのものだから、その時は縁をきっぱり切ってくれ。
あ、でもちょっと損失を補てんしてくれると嬉しいかな」
後編に続きます。