小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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後編です。


男たちの絆 後編

 数日後。

 決戦の時が来た。

 

 俺たち男衆は予定通り先に入浴を済ませた。

 覗きのことで頭が一杯だった俺は思わず股間をふっくらさせており、兄貴と黒髭氏にさんざんからかわれた。

 

 入浴を終えた俺たちはほかの男衆(エミヤのおかんとか明らかに止める側に回りそうな連中)に気づかれぬよう闇夜に紛れて合流し、最後の打ち合わせをしていた。

 

「よし!行こう!あの先に僕らのアヴァロンが待っている!」

 

 騎士王アーサーの力強い言葉で全員(とばっちりのオリオン以外)は力強く立ち上がった。

 ついでで下半身も立ち上がっていた俺は思わず前かがみになってしまったのは内緒だ。

 

 その時だった。

 

「まったく。男衆がコソコソ何かしていると思ったら……予想通り過ぎてなんと言っていいか反応に困っているところだ」

 

 やたらとよく響く声のガングロおかんが俺たちの前に立ちはだかっていた。

 

 エミヤ……

 やっぱりただでは行かせてくれないんだな。

 

 全員に緊張が走る。

 

「主殿。拙者の後ろに」

 

 小次郎の一言で俺は後退した。

 

「どけ。侍。私はぐだ男に教育的指導をしなければならない。君たちももちろんお説教だ」

「それはできぬ相談だな。ここを通りたくば……押し通れ」

 

 小次郎がゆっくりと鯉口を切る。

 エミヤがいつもの双剣を握る。

 全員に緊張が走り、臨戦態勢となった。

 

「あくまでも抗戦するつもりか。……では仕方ないな」

 

 あちら側の男たちが――強敵たちが立ちはだかっていた。

 

「契約者よ……首を出せい!」

 

 初代様……

 

「マスター。あなたは尊敬に値する人物ですが、正すべき事はあります。嘘や不誠実、無責任な行い。そういったものは、あなたの為になりません。覗きなど言語道断です」

 

 ゲオル先生……

 なんという聖人オーラ……

 

 聖人と言えばジャンヌのおっぱいは一級品だと思う。

 一番好きなのはもちろんマシュだが聖女様のパイオツ、つまり聖パイもすばらしい。

 ……しまった。想像したらまた股間がふっくらしてきてしまった。

 

 平常心、平常心……

 今は危機なのだから……

 

「すまない……すまない……のだが、覗きはよくないと思う。本当に……すまない」

 

 ジークフリート……

 一体どこまで謙虚なんだ……

 

 やたらと腰の低い竜殺しは「君が謝る必要は全くないぞ」とエミヤに諭されてまたしても「すまない」を連呼していた。

 どこまで謙虚なんだこの人。

 

「ドワァァァォォォォ!ダダダダダダダダ!!(すまない。ぐだ男。君に加担したらグンヒルドに何をされるかわからないのだ!)」

 

 エイリーク……

 やっぱり大変なんだね……

 

「ランスロット卿、トリスタン卿、ガウェイン卿……もともと困った人たちだと思っていましたが、見下げ果てました!」

 

 ベディヴィエール……

 やっぱり君、苦労人なんだね……

 

「ベディヴィエール……一人だけ好感度アップ狙いですか?ずるいですよ」

「どこまで下種な発想なのですか!違います!」

 

 トリスタンに下種な勘繰りをされてベディヴィエールは力強く否定した。

 きっと生前からこんなんだったんだろうな……

 そりゃブリテンも亡ぶわ……

 

「それにあちらの世界の我が王まで!一緒になって何をやっているのですか!」

 

 ベディヴィエールのツッコミはもっともだ。

 俺だって良いことをしてるとは思ってないし。

 

「ベディヴィエール……君は、僕が間違っていると、言うのかい?」

「え……あの……それは……間違ってます!あまりにも堂々とされているのであらぬ回答をすることろでした!」

 

 うん。なんかごめんね。ベディヴィエール。

 

「俺のマスターなら善を成せって言ったよな?……これはアウトだろ」

 

 アーラシュ……

 

「お前には流星を見せてやらなきゃならないようだな」

 

 え?ここでぶっぱなすつもりか?

 いやいやヤバイヤバイ!

 

「アーラシュ、早まるな!自爆を安売りするんじゃない!」

「おっといけねえ。最近じゃ金腕を見るだけでステラしたくなる始末だ。ありがとよ。エミヤの兄さん」

 

 エミヤの一言でアーラシュは踏みとどまった。

 

「ぐだお……のぞき……よくない……ぐだこおこるよ……ましゅもさすがにおこるよ」

 

 アステリオス……

 

「やめてアステリオス。そんな純真な目で見ないで。良心にチクチクくるから」

「う……ごめんなさい」

 

 アステリオスは素直ないい子だ。

 うまくすれば懐柔できそうだ。

 

「アステリオス。謝る必要はないぞ」とエミヤに諭されたアステリオスは我に返ったが、もうひと押しすればいけそうだ。

 

「う……そうだった……。わるいことするなら……くっちまうぞ」

「えーたべられちゃうのか」

「う……」

 

 よし!効いてる。あと一押しだ。

 

「食べられちゃったらもうアステリオスとお話できなくなっちゃうな。

寂しいな……」

「う……ぼくも……さびしい」

「止めろ!アステリオス!耳を貸すんじゃない!」

 

 またしてもエミヤの邪魔が入った。

 ッチ!あと一歩だったのに!

 

 ……あれ?

 

「あの、フェルグスさん?なんでそっちにいるの?明らかにこっちでしょ?キャラ的に」

「ぐだ男。お前の願望は至極当然のものだ。俺も主に女の裸が好きだ。お前は間違ってない。だがな」

「だが?」

「覗きなどというセコい真似が許せんのだ!!!!」

 

 なんという豪傑……

 ん?

 

「……フェルグスさん。なんか足元透けてません?」

「ハッハッハ!正面突破を試みたところ集中攻撃を受けてしまってな!もはや虫の息だ!

おまけに湯気でよく見えなかった!!お前たち、湯気対策はちゃんとしておよ!!!!」

 

 フェルグスさん……

 

「いいか!俺の犠牲を無駄にするなよ!!」

 

 シュウウウウウウ……

 

 ありがとう……フェルグスさん……

 

 これで両軍が揃った。

 こちらは引く気はない。

 向こうも引く気はなさそうだ。

 

 ――ならば。

 ――戦わなければ進めないなら蹴散らすまで!

 

「みんな!俺に力を貸してくれ!」

 

 男たちが力強く頷く。

 

「勝って一緒に……皆で一緒におっぱいを見よう!!」

 

 カルデア男子たち最大の戦いが、ここに始まった。

 

××××××××××××

 

「これは一体……?」

 

 マシュの声で目が覚めた。

 そして俺は事の顛末を思いだした。

 

 アーラシュがステラったのだ。

 死者こそ出ていなかったが(アーラシュ以外)両軍が等しく戦闘不能状態になっていた。

 

 マシュは訳が分からないようだった。

 女性サーヴァントたちの反応は様々で、すでに状況を悟っている者もいれば、混乱している者もいた。

 

 ぐだ子は明らかに悟っている側だった。

 表情が怒りと呆れで引きつっていた。

 

「で?もう大体わかってるけど、ぐだ男たちは何をしようとしてたのかな?」

 

 駄目だ。

 隠せない。

 

「覗き!」

 

 とりあえず勢いよく言ってみた。

 

 ぐだ子の等身が縮みリヨ形態に変化し始めた。

 

「『覗いたら殺す』って言ったよね?」

「待った待った!まだ見てない!見ようとしただけだ!」

 

 彼女の怒りに油を注いだだけだった。

 

「マシュ!助けて!」

「先輩……今回は擁護できません。最低です」

 

 マシュは怒ってそっぽを向いてしまった。

 ……なんてこった。最悪だ。

 ……でも、怒った顔のマシュもかわいい。

 

 「マシュ、ごめん。でも、怒った顔もかわいいね」と言ったら「だ、駄目なものは駄目です!今回は擁護しませんからね!」

と言って顔を赤くしていた。彼女は「もう。先輩のバカ///」と言ってそのまま立ち去ってしまった。

それを見ていた黒髭氏は「ぐだ男氏すごい。エロゲ主人公みたい」と感心していた。

 

 もちろん、ぐだ子の怒りは収まらない。

 あと俺にできることは……ハラを決めるしかなかった。

 

「俺が一人で画策して、皆を強引に誘ったんだ。マスター命令だって言ってね。

皆には手を出さないでほしい。俺一人が罰を受ければ十分だろ?」

「ほう?いい覚悟だ。じゃあ、覚悟してもらおうか……」

 

 暴力の権化、リヨぐだ子がユラリと俺の前に進んできた。

 みんな、今までありがとう……

 

 俺は死を覚悟した。

 その時だった。

 

「僕が誘ったんだ!」

 

 ……アーサー

 

「僕が!強引に!ぐだ男を誘ったんだ!聖剣で脅して従わせたんだ!彼は悪くない!僕を罰してくれ!」

 

 ……アーサー

 ……このイケメンめ!

 

 アーサーの勇気ある行動をきっかけに次々と男たちが立ち上がった。

 

「いいえ。誘ったのは私です。私がアロンダイトでマスターを脅したのです。ぐだ男は悪くありません。罰するなら私を罰してください」

 

 ……ランスロット

 

「いいえ。私です。私が琴の妙なる響きでぐだ男を勾引かしたのです」

 

 ……トリスタン

 

「いいえ!私がバスターで殴ると脅したので!悪いのは私です!」

 

 ……ガウェイン

 

「違えよ。俺がゲッシュで脅したんだ。ぐだ男は逆らえねえんだから仕方ねえだろ?」

 

 ……兄貴

 

「私がスパルタクスだ!行くぞ!圧政には反逆だ!!」

 

 ……スパさん?

 

 男たちは次々と立ち上がり、自分が主犯だと主張した。

 マーリンは気づいたら逃げていた。

 種火刈りで酷使してやる……

 

 黒髭氏は「キモオタの拙者がソロでやったことでござる。拙者ぼっちですから、イケメンたちとか知らないでーす」と主張したが

あまりにも供述が真に迫っていたため、アンとメアリーにどこかに連れていかれた。

 黒髭氏の犠牲は忘れない。

 

「いいだろう。まとめて相手をしてやる……」

 

 暴力の権化、リヨぐだ子はすでに戦闘態勢に入っていた。

 俺たちは最期を覚悟した。

 

 だが皆(とばっちりのオリオン以外)満足げだった。

 当然だろう。

 最高の男たちと一緒に死ねるのだから。

 

「ありがとう」

 

 俺の感謝の言葉に男たちは最高の笑顔で応えてくれた。




戦士たちに……敬礼

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