他のものを書いていたら一か月以上空いてしまいました。
今回はタイトル通りの内容です。
ちょっぴり下ネタも混ざっています。
よろしければどうぞ。
「えっとね、きよひー。きよひーみたいに人のあとをこっそり付け回す人のことをなんて言うか知ってるかな?」
カルデアには大勢のサーヴァントが常駐しているが残念ながら困った行為に及ぶサーヴァントもいる。
特に困った三人の一人。
それが彼女、清姫だ。
清姫はなぜか俺とぐだ子が安珍の生まれ変わりだと信じている。
ダ・ヴィンチちゃんの話だと俺とぐだ子は魂の形が似ているらしい。
彼女とは血縁上の関係はないが、前世で双子レベルの近親者か、あるいは同一の存在が分裂したぐらいの深い縁があるはずというのがダ・ヴィンチちゃんの見解だ。
彼女とは出会ってすぐに仲良くなったがそれも当然の結果なのだろう。
ぐだ男とぐだ子という呼び名も二人とも本名が偶然にも藤丸立香であるため紛らわしいから便宜上つけた呼び名だ。
どこで聞いていたのか知らないがそれをきよひーは聞いていたらしい。
ダ・ヴィンチちゃんの考察を聞いた後日
「嗚呼!安珍さまが二人に分裂するなんて!安珍さまはそれ程までに私のことを思ってくださっていたのですね!」
と目を血走らせて歓喜していた。
正直その発想はなかった。
安珍・清姫伝説に伝わっているそのままに彼女の思い込みの力はすさまじく、俺たちのプライバシーは常に危険に晒されている。
エミヤと兄貴とハサン先生に見回りをしてもらい、ダ・ヴィンチちゃんに部屋を強化してもらってもどうやってだか部屋に忍び込んでくる。
ダ・ヴィンチちゃんの俺とぐだ子に関する考察は清姫の思い込みを更に加速させていた。
もはや看過できないレベルのプライバシーの危機だった。
半ば無駄であるとわかっていたが俺とぐだ子は清姫を呼び出して彼女の説得にあたっていた。
俺はまず、清姫に自分の行為を自覚させるため彼女に質問をぶつけた。
清姫はにっこり笑って答えた。
「うふふ。旦那様、私をからかってらっしゃるのですか?ストーカーです」
「うん、そうか認めちゃったか。でね、きよひー。ストーキングっていうのはさ、人のプライバシーを侵害する行為だからね?犯罪になっちゃうよ」
「私と旦那様たちは前世から相思相愛の仲です。愛し合う仲ならば冥府の果てまで共にいるべきではありませんか?この清姫間違ったことは何一つしておりません。
むしろ夫婦の仲を裂こうとする法律の方が間違っています」
「うん。予想通りの反応ありがとう。ある意味安心したよ。あと、俺たちときよひーって結婚してたんだ。衝撃の事実だね」
「何をいまさら仰られているのですか。私と旦那様たちは主従として契約で結ばれています。それは婚姻したのと同じことではないですか?」
「うわあ、そう来たか。弁護士もびっくりの解釈だね。きよひーの発想力はすごいなあ」
「うふふ。ありがとうございます」
なんだこれ。もう無理ゲーだよ。
でも何もしないわけにはいかない。プライバシーがかかっている。
上杉鷹山は言った「成せばなる。成さねばならぬ何事も」と。
昔の人は立派なことを言う。
が、上杉鷹山でも清姫を説得しろと言われたら「ごめん、無理」と言うに違いあるまい。
俺は九割がたの絶望的な気持ちで彼女の行為が正直迷惑であることできるだけ言葉を選びながら説明した。
俺が疲れるとぐだ子が、ぐだ子が疲れると俺が交互に話した。
説得は一時間にも及んだ。
思い付く限りのことを話すと清姫がゆっくりと沈痛な面持ちで口を開いた。
ひょっとして解ってくれたのか?
「……まさか!夫婦の愛を受け入れられない程に世を儚んでいるなんて!承知いたしました。この清姫、冥府にお供いたします。
さあ、一緒に辞世の句を詠みましょう。お墓の手配をして参ります!」
駄目だ。やっぱりわかってねえ……
頭を抱える俺に代わりぐだ子が口を開いた。
「待って待ってきよひー。私たちきよひーのこと嫌いなんて一言も言ってないよ?」
「ではやはり愛してくださっているのですね」
「うん、そのゼロかイチのデジタル思考をやめようか?玉藻にも言われたよね。
伝わってないみたいだからもう一度言うけど、私たちはプライバシーを守って欲しいって言ってるだけだからね?」
「はい。承知いたしました。旦那様に存在を感づかれてしまうとは私もまだまだのようです。これからは旦那様たちの生活を邪魔しないようにこっそりストーキングできる腕を磨かせていただきます」
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「あのね、頼光さん。部屋にこっそり入ってくるのやめてくれないかなー……なんて」
ぐだ子と話し合った結果、結局「清姫の説得は無理」という結論に達した。
そもそもバーサーカーと話し合いとか無理ゲーだった。
狂化ランクの低い金時とベオウルフさんは普通に話が通じるし、アステリオスなんてむしろ素直ないい子なのだがきよひーの説得はあまりにも難易度が高すぎた。
なので今度は源頼光を呼び出していた。
この人は基本、世話好きないい人なのだが(おっぱい大きいし)「母の愛」が突き抜けたレベルに達しているため困った行為に及んでしまう人でもある。
会議室に呼び出した頼光さんにぐだ子はためらいがちに話を切り出した。
頼光さんは大きく目を見開いて
「なぜでしょうか?……まさか!母のことが疎ましくなったのですか!?反抗期なのですか!?」
やばい。初っ端から前途多難の匂いがプンプンするよ。
「私もぐだ男もプライバシーとかあるし、それにここはカルデアの施設だけどさ、あそこ私たちの部屋だから、不法侵入になっちゃうよ?」
「不法侵入……!」
頼光さんは明らかにショックを受けていた。
ああ、良かった解ってくれたか。
「何ということでしょう!私はただ子供たちを見守っていただけなのに!母と子の愛を断絶するなんて!
法律とは人を守るためのものではないのですか!ああ!なんと世は無慈悲なのでしょう!」
……わかってなかった。
「頼光さん。世の理不尽を嘆いてるところ悪いんですけど、俺もぐだ子も頼光さんの子供じゃないから……金時はまあ、育ての親みたいなものだから
まだわかるけどさ……」
「……私の子ではない無い?」
「うん。驚いているところすいませんが、俺もぐだ子も頼光さんのことは好きだけど、子供になった覚えはないからね」
厳しいことを言うようで少し気が引けるが仕方ない。
色々気を使ってくれるのは嬉しいが頼光さんのは明らかに行き過ぎだ。
またしても頼光さんはショックを受けていた。
よし。今度こそわかってくれたか。
「……誰がそのような根も葉も無いことを吹き込んだのですか!?」
よし。やっぱり通じてなかった!
ある意味安心したよ!
「……ひょっとしてあの虫たちですか?うふふ、やはり鬼などと一緒にいるのはいけませんね。少々お待ちを。ただ今『ぷち』っとして来ます」
「うん、えっと思い込み中すいませんけど、酒呑ちゃんも茨木ちゃんもそんなこと言ってませんから」
「まあ!虫たちに脅されているのですね!いけません、今すぐ楽にしてあげます!」
童子切安綱を持ち出した頼光さんをぐだ子がとっさに使った令呪で何とか鎮まらせた。
俺とぐだ子は交互に辛抱強く、「プライバシーの侵害」を訴え続けた。
話し合いは一時間にも及んだが、頼光さんは何が嫌がられているのか明らかに分かっていなかった。
しまいには彼女はこう言った。
「よく解りました。あなたたちに『子供ではない』などと言われてしまうとは、私の愛もまだまだ浅かったのですね……申し訳ありません。
これからは今まで以上の慈愛を以ってあなたたちに接するとしましょう」
話通じねえ……
やっぱりバーサーカーだわ……
俺とぐだ子は頭を抱えた。
「それはそうと、ぐだ男。手淫は男の子ですから仕方ありませんが、『マシュ、マシュ!』と絶叫するのはいかがなものかと思いますよ。
ここの防音は完ぺきとは言え、近所迷惑になってしまうかもしれません」
一体、いつ見られたんだ……
心当たりがありすぎて見当もつかない……
「……あの、一体いつそれを?」と俺が聞くと
「うふふ。母はなんでもお見通しなのですよ」
と頼光さんは答えた。
はい。ストーキングしたんですね。
ぐだ子は「うわ、ひくわー。マシュに言いつけちゃおうかな」と俺に冷たい視線を向けていた。
「ぐだ子も衆道は程々に。私の時代も僧侶たちの間では度々そのような行為が行われいたと聞き及んでいましたが、あまり人に見せる趣味ではありませんよ。
うふふ。でも、あなたは大丈夫ですね。えっと『おとめげえ』でしたか?ちゃんと女の子らしい趣味も持っているのですね」
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「ねえ、静謐ちゃんの説得どうしようか?」
徒労に終わった説得の後、二人きりになった会議室で俺は言った。
静謐のハサンは清姫、頼光さんと並ぶ困ったサーヴァントの一人だ。
何度言ってもどう対策をうっても部屋に忍び込んでくる。
だが、もう説得しようという気力はなかった。
ぐだ子は項垂れて答えた。
「うん、諦めた」
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近、映画サイトに連載を持ち始めました。
ここで書くようなことでもないので活動報告かtwitterをご覧ください。
次回はしょうもない下ネタ連発の話にする予定です。
少々お待ちを。