小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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タイトルそのまんまの内容です。


ハサン・サッバーハ(秩序・善)

 

「先輩。朝ですよ。起きてください」

 

 カルデア職員でデミサーヴァントのマシュ・キリエライトは毎朝俺のことを起こしに来てくれる。

 美少女の後輩ちゃんが起こしに来てくれるのはエロゲとラノベの主人公の特権だ。

 

「うーん。まぢむり……」

 

 ゲーティアを打倒した後にやってきた調査団はあわただしく作業するとあわただしく去っていった。

 拘束される時間は思ったほど長くなかったが連日の聴取で疲れが溜まっていた。

 

「駄目です。マイルームを掃除する約束ですよ」

「マシュが膝枕してくれたら起きる」

 

 駄々をこねてみた。

 

「仕方ないですね……」

 

 マシュはベッドに腰かけると膝の上に俺の頭を載せた。

 ……はふぅ。

 ……柔らかい。

 ……良い匂い。

 香水もハンドクリームもつけていないはずの彼女からどうしてこんなに良い匂いがするのだろう。

 きっとマシュは良い匂いがする物質で出来ているのだろう。

 

「あの……もういいですか?さすがにそろそろ恥ずかしいというか……」

 

 そういわれて止められる筈がない。

 美少女の後輩ちゃんに膝枕してもらえるのはエロゲとラノベの主人公の特権だ。

 俺は思い切り調子に乗った。

 

「まだむり。マシュがおっぱい枕してくれたら起き」

「いいから起きろ」

「痛い!痛い!ごめんなさい!調子に乗りました!宝石剣で殴らないで!多次元屈折現象おこしちゃぅぅぅぅ!!!」

 

 お目付け役が一緒だった。

 マシュと一緒に来ていたぐだ子に宝石剣と黒鍵で殴打された俺はその勢いのまま飛び上がったのだった。

 

「マシュはぐだ男を甘やかさない」

 

 ぐだ子にありがたいお説教をされて俺は渋々準備した。

 

×××××××××××××

 

「さて。ここが勝負所よな……」

 

 とりあえず掃除は終わった。

 ここから――女子二人が出て行ってからが俺の本番だ。

 

 ベッドの下にそれはある。

 盟友・黒髭と共に集めたお宝写真の数々が。

 

 これは誰にも手伝わせるわけにはいかない。

 黒髭に手伝ってもらうのも無理だ。

 黒髭に手伝ってもらったら片づけるふりをしてパクっていきそうだから。

 

 ベッドの下から夥しい収蔵品をだして。

 ふむ。我ながら素晴らしいコレクションだ。

 ……片づける前に一回ぐらいオ●ニーしてもいいよね?

 

「……さて。果たし合おうぞ」

 

×××××××××××××

 

 結局夜遅くまでかかってしまった。

 やっぱり日頃から整理整頓は大事だね……

 

 わき目もふらずにやっていたせいで夕飯食べるのも忘れていた。

 十時過ぎか。

 エミヤに頼めばなんか作ってくれるだろけどちょっと気が引けるな。

 

 自分で調達しようか。

 と思ったところで来訪者があった。

 

 開けるとゴリゴリマッチョの半裸の大男が立っていた。

 

「おう。ちょいといいか?」

「ベオさん。どうしたんですか?」

 

 訪問者はベオウルフさんだった。

 ベオウルフさんは北欧の伝承に登場する王様で巨悪から民を守ってきた大英雄だ。

 ステゴロ戦法で上半身裸。いかにも粗暴そうだが伝承では賢王だったと語られている通り実際には面倒見のいい兄貴分だ。

 アーラシュ、クーフーリン、ベオウルフはカルデアにいる三大兄貴だと思う。

 

 ソロモンの神殿から帰った時ベオウルフさんの姿を見つけた俺が「どうして残ってくれたんですか?」と聞くと

「あん?そんなの決まってんだろ。テメエのことが放っておけねえからだよ。言わせんな。恥ずかしい!」

 

 とバンバン背中を叩かれた。

 

 部屋にやってきたベオウルフさんは手に何か持っていた。

 

「エミヤのあんちゃんから聞いたぜ。晩メシ食い損ねたんだろ。そら、くれてやるよ」

「あの、これ……」

 

 すごいいい匂いがする。 

 これたしか……

 

「竜のステーキだ。前に旨そうに食ってたからな。修練場行くついでに狩っといたぞ」

「ありがとうございます。あの俺……」

「ああ、言わねえでいい。マシュとぐだ子に見せられないもんでも整理してて夢中になってたんだろ?

何かは聞かねえよ。悪いことする時は目瞑ってやるって約束だからな。まあ!この生臭え匂いでバレバレだけどな!」

 

 やっぱり生前は王様。

 俺の考えてることなんてお見通しらしい。

 

「育ち盛りなんだからしっかり喰えよ!いいな!」

 

 良い人だ……

 肉汁滴るステーキを一口食べてみる。

 

「旨い……ベオさんありがとう……」

 

 

 ちょうど食べ終わる頃合いになってまた訪問者があった。

 

「闇に潜むは我らが得手なり」

 

 アサシン軍団の最古参、ハサン先生こと呪腕のハサンだった。

 

「ベオウルフ殿から聞きました。そろそろ食事を終える頃合いかと思いまして片づけに参りました。

あとこちらをどうぞ。そろそろ切れる頃合いかと」

 

 ハサン先生からティッシュを渡された。 

 

「片づけの方もお手伝いしようか迷いましたが魔術師殿のプライバシーを優先しました」

「いつもありがとうございます」

 

 一番見た目とのギャップが激しいのがこの人だ。

 見た目は悪党にしか見えないが今では善人にしか見えない。

 属性・悪だと知ったときは驚いた。

 あれほど驚いたのはアストルフォが男だと知ったときぐらいだ。

 

 属性・悪ということが信じられず以前に質問したことがある。

 

「ハサン先生。嫌いなものってなんですか?」

「仁義に悖る行為など義憤に駆られますな」

 

 悪?

 

「あの……でもハサン先生、キャメロットで砂漠の人たちを助けてましたよね?」

「私は無辜の民を救うためとはいえ多くの者を手に掛けました。

それが悪でなくて何が悪でしょうか?」

 

 いや……それ普通に善人のやることじゃ。

 

「あ。そうそう。ジャックちゃんとか静謐ちゃんが悪いことしたら叱ってくれてますよね?それは?」

「静謐のやジャックを諫めている時。私は心を鬼にしております。

それが悪でなくて何が悪でしょうか?」

 

 いや……それただのいい大人じゃないですか。

 

「あの……やっぱりハサン先生、いい人にしか思えないんですけど」

「魔術師殿。私は悪です」

 

 今目の前で甲斐甲斐しく片づけをしてくれている姿もやっぱりいい人にしか見えない。

 

「どうなされました?魔術師殿?」

 

 よほど不思議な目でハサン先生のことを見ていたらしい。

 

「あ……いえ。ハサン先生。悪って何なんでしょうね?」

「魔術師殿。悪について考えたいのであれば私を想像してください。私は悪です」

 

×××××××××××××

 

「背中を押せ……もう少し下……下……そこだ」

「初代様?ここ?」

 

 翌日。遅めに起きた俺は遅い昼食をとるためマシュと一緒にカルデアの廊下を歩いていた。

 子供サーヴァントたちのために作った仮のプレイルームの前を通りかかると初代様こと山の翁がぐだ子に背中のツボを押してもらっていた。

 

 その隣でジャックちゃんとナーサリーちゃんがもじもじしている。

 ジャックちゃんとナーサリーちゃんはぐだ子に懐きまくっている。

 構ってもらおうとしているがぐだ子が初代様の背中のツボを押しているので手が空くのを待っているらしい。

 

「契約者よ……感謝するぞ」

 

 満足した初代様は去ろうとして、ジャックちゃんとナーサリーちゃんに気づいた。

 

「待たせて済まぬな。小さき者たち。これは我からの詫びだ」

 

 初代様は二人にポチ袋を渡した。

 二人は渡されたポチ袋を不思議そうな表情で見ていた。

 

「お小遣いだ。無駄遣いするなよ……」

 

 ジャックちゃんとナーサリーちゃんはポカンとしていたが

 

「ありがとう。髑髏のおじいちゃん」

「ありがとうなの!髑髏のおじいちゃん!」

 

 と笑顔になった。

 が、これはちょっとまずい。

 初代様に「髑髏のおじいちゃん」なんていったら「首を出せ!」されかねない。

 俺とマシュはとっさに初代様を宥めようと走った。

 ぐだ子も心得ているようだ。

 青ざめた顔で弁明を必死に考えているようだった。

 

「……『髑髏の』を取って呼んでみてはもらえぬか?」

「……え?初代様?」

 

 ぐだ子は意外な反応に硬直していた。

 ジャックちゃんとナーサリーちゃんはポカンとしながら

 

「おじいちゃん?」

「おじいちゃん?……なの?」

 

 カーン……

 カーン……

 どこかで晩鐘の鳴り響く音がした。

 

「……これは良いな」

 

 翌日。

 いつもの三人。俺とマシュとぐだ子は久しぶりの完全オフをだらだら過ごしていた。

 「温泉でも行きたいね」などと取り留めのない話をしているとプレイルームに彼らの姿を見つけた。

 

 そこには「じいじ!」と呼ばれてジャックちゃんとナーサリーちゃんと戯れる初代様の姿があった。

 

「……ジャック、ナーサリー。きのこの山とたけのこの里。どちらが好みだ?」

「たけのこの里!」

「きのこの山!」

「選んだな。受け取るが良い……」

 

 今日はハサン先生も一緒だった。

 ジャックちゃんとナーサリーちゃんはハサン先生にも懐いている。

 ハサン先生が

 

「ジャック、ナーサリー。ちゃんと初代様にお礼を言うのだぞ」

 

 と言うと

 

「ありがとう!じいじ!」

「ありがとうなの!じいじ!」

 

 と元気いっぱいに二人はお礼を言った。

 この人も属性は悪らしいが

 その姿からはどうやっても「悪」という言葉は連想できなかった。

 

「……先輩。『悪』って何なんでしょうね?」

 

 納得いかなそうにマシュがつぶやいた。

 




ハサン先生ほんと好き。

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