小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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FGOオフィシャルのメタネタです。


ぐだ子の豹変

 カルデアにおいて俺と対をなすもう一人のマスター、それがぐだ子だ。

 彼女は腐女子ではあるが基本常識人でサーヴァントとの関係も相手を尊重し対話をかかさないように心掛けている好人物だと思う。

 俺がセクハラ発言しても大抵二、三発殴ったら許してくれるし。

 

 食後の一幕、彼女は今日食事を作ってくれたタマモキャットの毛づくろいをしていた。

 

「キャットは毛並みがアップ!」

 

 キャットはとても気持ちよさそうにしていた。

 微笑ましい光景だ。

 

 そんな心優しいぐだ子だが時折豹変することがある。

 

 例えば種火狩りのとき。

 

 ある日、いつものメンバーであるアーラシュ、キャット、エイリーク、孔明、マーリンで腕狩りをしていた。

 

「陽のいと聖なる主よ。

あらゆる叡智、尊厳、力をあたえたもう輝きの主よ。

我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ。

さあ、月と星を創りしものよ。

我が行い、我が最期、我が成しうる“聖なる献身(スプンタ・アールマティ)”を見よ──」

「口上が長い。早く行け」

 

 ちゅどーん。

 

 ぐだ子の背後からの一撃により有無を言わせず大英雄は爆散させられた。

 

 

「お前は間違っちゃいない……」

 

 金腕を吹き飛ばして消滅していくアーラシュを見るぐだ子の顔に浮かぶ表情

――虚ろな笑顔と逝っちゃってる目――それはとても正義の主人公がしていいものと思えない代物だった。

 

 これはまずい。

 

 前衛と交代したキャットはその姿を見て青ざめた顔で言った。

 

「ご…ご主人、キャットはなんだかちょっとお腹が痛くなってきたのだな」

 

 低ランクながらキャットには狂化が施されている。

 しかし野生の本能で今の主人の姿に危険を感じ取ったらしい。

 

 これは生物の逃走本能だ。

 

 ぐだ子はなんの感情もこもらない声で返した。

 

「そうか、それは大変だ。ならば休むか?……永遠に」

 

 俺の背筋に強烈な悪寒が走った。

 彼女の顔は明らかに真剣そのものだった。

 

「ご……ご主人、急に調子が良くなってきたのだな!いつでもいけるのだな!」

「ならさっさと行け。手間かけさせんなボケ。周回は効率が命だ。私をイラつかせるな」

 

 ぐだ子の頭身が縮まり、リヨ形態に変化し始めた。

 拙い。今の彼女は人類悪以上の災厄だ。

 

 この形態の彼女はソロモン王をワンパンで沈め、魔人柱を素手で薙ぎ払う制御不能の暴力の権化だ。

 

 危機を感じたキャットは即座に宝具を解放する。

 

「うん……というわけで皆殺しだワン!『燦々日光午睡宮酒池肉林』!」

 

 生命の危機を力に変換したキャットの宝具が腕を一掃した。

 

「よし、キャット、良くやった。次のウェーブに行くぞ」

 

 ぐだ子は敵を一掃したキャットにねぎらいの言葉をかけるために近づいていく。

 

「うーん、グッモーニン」

 

 だがキャットは宝具後の回復でお休み中だ。

 

「チ、スタンしやがった」

 

 その姿を見てぐだ子は行動不能のキャットをどこかの木陰に引きずって行った。

 2人の姿が俺たちの視界から消えた直後、遠くから彼女たちの声が聞こえてきた。

 

「な、何をするのだご主人!」

「動けない者は私の部下に必要ない……」

「ごはははははっ!」

 

 グシャア!!という肉が潰れたような音がした後ぐだ子が一人で戻ってきた。

 

 彼女は全身血にまみれた異様な姿で、そして宝箱を1つ抱えていた。

 

「あの…ぐだ子さん?その血はどうしたの?」

「ああ、これ?ちょっとトマトジュースこぼしちゃってさ…」

「そ、そうなんだ。それとさ、キャットどうしたのかな?」

「ああ、調子が悪いって言って……帰ったよ」

「ふ、ふーん」

 

 ウソだ!絶対殺してる!

 なぜなら俺はぐだ子が抱えてきた宝箱の中を見て呟いた一言を聞き逃さなかったからだ。

 

「チ、レアプリ1個か。運営め出し渋りやがって…」

 

 狂気にのまれた者でもこの恐怖は本能的に分かるらしい。

 エイリークが青ざめた顔で絶叫した。

 

「血ダァ……血ダァ……血ダァァアアアア!!

(ぐだ男!令呪でもなんでも使って早く私の宝具を解放しろ!グンヒルドがぐだ子の姿にドン引きして助けてくれんのだ!)」

「孔明!頼んだ!」

「ふむ、ではこうしよう」

 

 孔明の支援を受けた血斧王の斧が唸りを上げる。

 

「ヌゥワワワワワワ!! ブルゥララララララ……」

 

 残った腕を一掃したエイリークにぐだ子もご満悦だ。

 

「よし、良くやった。宝具演出も短いし最適な人材だな。もう一周いくぞ」

「いやあ、では私は遠慮しようかな。役立たずだしさ…」

 

 過労死コンビの1人、マーリンが逃げを打とうと画策する。

 

「そうか、ならば私の部下には必要ないな……。役立たずの芽は早目に摘んでおかないと……」

 

 ぐだ子の目が再び狂気を帯びた物に変化していく。

 

「あはははは。じょ、ジョークだよジョーク。円卓ジョーク」

「なんだ!ジョークだったんだ!…少しも面白くないから本気かと思っちゃったよ?」

 

 マーリン、脱出に失敗。

 

「さあ、お前ら。すぐに行くぞ。キャットの犠牲を無駄にするな」

 

 彼女はそう言ってその逞しい背中と狂気に満ちた目で俺たちを鼓舞する。

 ん?今犠牲って言わなかったか?

 

 

 またある時、証を求めてマルセイユを脳死周回中の事だ。

 

「うん……というわけで皆殺しだワン!『燦々日光午睡宮酒池肉林』!うーん、グッモーニン」

 

 キャットが吹き飛ばした剣ゾンビたちの跡に戦果を探す。

 

「ち、またスキル石1個か!運営めドロップ絞りやがって!奴らは私にストレスしか与えられないのか?」

 

 すでにこのクエストを今日だけで20周以上している。

 AP消費が少ないのとドロップが渋いのが合わさって周回数は増す一方だ。

 三十周し、四十周し…ぐだ子はついに石を割ると言い始めた。

 

 同行していたギルガメッシュも狂気に満ちた彼女の姿に若干引き気味だ。

 

「ざ、雑種。…少し落ち着け」

「b;t@6azeweo;.t!cmcm6j5t@qel)4i3tdh4toq@\4t@!

(これが落ち着いていられるか!そもそもお前が大量に証食うからだろうが!)」

「お、落ちつけ雑種。ラフム語になっているぞ…」

「ギル。あんたの宝物庫に証ないの?」

「フ!勘違いするなよ、雑種。以前にも言ったが我が貴様に仕えているのではない。貴様が我を盛りたてているのだ。

我のマスターであるのなら我への貢物は貴様自らで手に入れてこい」

「チ、しけてやがるな。そんなんだから慢心王@微課金勢とか言われるんだよ…」

 

 ぐだ子の姿に若干引き気味だった英雄王だが流石にこの言葉には怒ったらしい。

 

「貴様、この我を侮辱するか!刎頚に値するぞ!」

 

 背後の空間が歪み最古の宝物の数々が頭を覗かせる。

 

 しかし彼女の目には今、証をドロップするエネミーの姿しか見えていない。

 

「見てろ慢心王、財宝っていうのはこうやって使うんだよ……」

 

 どうやって持ってきたのか、彼女はジャンヌ・オルタ召喚爆死の際に副産物として得た大量の宝石剣とヒュドラ・ダガー

を素手で掴むと雨あられと敵に投擲し、あっという間に沈黙させてしまった。

 

 人間とは思えない膂力で残党を鎮圧させたその姿にさしもの英雄王も怖気づいたようだ。

 しかし震え声になりながらも英雄王のプライドが引き下がるのを許さない。

 

「きききき貴様!きき聞いているのか!ざ、雑種!」

 

 敵エネミーが何もドロップしなかったのを虚ろな目で見ていた彼女だが

傍らにある物に気が付き、それに向かってノーリアクションで拳を振り上げた。

 

「ごはははははっ!」

 

 ぐだ子の拳による一撃が未だ宝具後のおやすみ中だった、キャットの霊基を破壊する。

 彼女は血だまりの中から宝箱を拾い上げると振り返り、爆発寸前の英雄王に言った。

 

「ごめん……。なんの話だっけ?

えっと……そうだ、誰が何に値するんだっけ?」

「お、おう……。さて何の話だったかな……」

 

 レイシフトから戻った後ギルガメッシュは語った。

 

「我も割と残忍な事はしてきたが、流石にあれは引く」

 

 素材のドロップに不満なぐだ子は周回のために石に手を付けようとし始めていた。

 拙い、次のイベント礼装のために節約しないと……

 

「先輩!お願いですから落ちついてください!」

 

 マシュが前に出た。

 彼女はカルデア一の災厄を止める最後の砦だ。

 

 もうマシュの後輩力しか彼女を止められない。

 しかし、後輩力満点の懇願も今の心を失った状態のぐだ子には効かない。

 マシュはぐだ子の心を取り戻すため、そして平和を守るため必死に懇願を続けた。

 

「お願いです!()()()()()()()()()()

 

 ぐだ子の動きが止まった。

 

「ん、今なんでもするっていったよね?」

 

 恐怖に震えながらマシュが答える。

 

「は、はい」

 

 ぐだ子は満面の笑顔を浮かべるとマシュの手を取って木陰へと引っ張り始めた。

 

「あの…先輩?どこへ?」

 

 2人の姿が視界から消えてからしばらくして声だけが風に乗って聞こえてきた。

 

「体は正直ね、うふふ…」

「駄目です先輩オフィシャルじゃ!」

「さあ、早くHなCGを開帳しなさい……」

「アッーーーーーー!」

 

 ありがとうマシュ、君の尊い犠牲で世界は救われたよ…。




「もっとマンガで分かる!Fate/Grand Order」を読んでいない方にはさっぱりだったでしょうね。
ごめんなさい。
まだまだ続きます。

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