小説でわかる幕間の物語   作:ニコ・トスカーニ

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タイトル通りギルガメッシュとエルキドゥがメインです。
話の出典はギルガメッシュ叙事詩ですが、このシリーズはギャグ時空なので
大幅に私の創作が混ざっています。
今回は下ネタはありません。
ではどうぞ。


英雄王の恐れるもの

「エルキドゥがいるのか?」

 

 第七特異点を修復した後。

 ほどなくして縁のできたエルキドゥが召喚に応じてくれた。

 呼び出したその英霊はエルキドゥであってエルキドゥではない第七特異点のあの存在とは違うどこまでも穏やかな物腰だった。

 

 俺とぐだ子とマシュは召喚を終えるとまずは報告すべき相手――その無二の親友である英雄王ギルガメッシュの元に報告に向かった。

  

 ギルガメッシュは最初の頃は話しかけると「不敬だ」とツンツンしていたが

「英雄王の!ちょっといいとこ見てみたーい!」

 とぐだ子と二人で頑張っておだてたら

「ふ!仕方のない雑種だ。どれ、宝物庫の鍵を開けてやろう」

 と本気になってくれた。

 意外とチョロかった。

 

 今も変わらず上から目線ではあるが話しかけても「不敬だ」とは言わなくなった。

 

 後になって召喚されたアルトリアはギルガメッシュと因縁があったらしい。

 

「あの英雄王を従えるなんて。貴方たちは一体どういう魔術を使ったのですか!?」

 と驚いていたが「おだてただけだよ」と言ったら更に驚いていた。

 

「――そうか。彼奴を呼び出してしまったか」

 

 意外なことにギルガメッシュの反応は鈍かった。

 エルキドゥはギルガメッシュが唯一友と認めた相手だったはずだ。

「嬉しくないの?ギル」とぐだ子が聞くと

 

「――いや。友とまた轡を並べられるのは喜ばしいことだ。

我にとってそれに値するのはエルキドゥ唯一人だからな」

 

 そう言って渋い顔をした。

 そしてさらに続けた。

 

「だが気をつけろ。

奴はその……マジキチだ。

我が言うのだから間違いない」

 

 「あの?マジキチとはどういうことでしょうか?」と純朴なマシュが尋ねる。

 ギルガメッシュは頬を引きつらせながら言った。

 

「いいか。心して聞け。雑種ども。

奴を怒らせるとマジ怖いぞ。

我が唯一マジ怖いのはこの地上にあってあいつだけだ。

――特別に話してやる。エルキドゥと共に琥珀の森の番人の討伐に赴いた時の事だ……」

 

 琥珀の森の番人、フワワ(あるいはフンババ)を討伐したエピソードはギルガメッシュ叙事詩でも最も重要な箇所の一つだ。

 フワワはニップルの守護神でありメソポタミアの最高権力者であるエンリルの使いで

 そのフワワを討伐したことで神の怒りをかい、元々神に作られた存在であるエルキドゥは泥に還された。

 

 それが英雄王ギルガメッシュのその後を左右することになる。

 

 世界最古の物語の一つであるギルガメッシュ叙事詩をその当事者本人から聞くことが出来る。

 俺は正直興奮したし、マシュもぐだ子も目が期待で光っていた。

 

 そしてギルガメッシュは話し始めた。

 だいぶ期待とは違う内容だったけど……

 

 

××××××××××××

 

 この地上はすべて余さず我の庭だ。

 それに琥珀の森の恵みは木材に恵まれぬウルクにとって貴重なものだった。

 

 琥珀の森のフワワを退治しに行く。

 

 その提案にエルキドゥは渋っていた。

 

 曰く「あの森は一万ベールも広がっている」※1ベール=凡そ十km

 曰く「フワワは口から死と炎を吐き出す」

 曰く「あの怪物は神の加護を受け六十ベール離れた先も見渡す」

 

 そう理由を並べ立てて渋ったが

 「勇を示すもまた王の努めよ」との我の言葉についにエルキドゥも折れた。

 

 琥珀の森にたどり着いた我はまず木を切り倒した。

 フワワの注意をこちらに引くためだ。

 その間に下々の物が木材を切り出してウルクに持ち帰る手はずだったのでな。

 

 フワワの奴めすぐにこちらの動向に気付いた。

 そして彼奴は現れた。

 

 ――それは我の想像すら上回る代物だった。

 その叫び声は洪水のごとき勢いで荒れ狂いその体躯は巨神の如きものだった。

 

 本来の目的はフワワの森から木材を切り出すことだ。

 我がフワワの眼を逸らし時間は稼いだ。

 

 実際その間に既に配下の者たちが森から木を伐りだしていたしな。

 

 我は神に造られた全能たる存在だが

 無益な争いは望むところではない。

 

 我は友に撤退を促した。

 

「目的は果たした。引くぞ。エルキドゥ」 

「え?どうしてだい?」

 

 彼奴はそう言って穏やかに笑っていた。

 だが目が笑っていなかった。

 

「いや……アイツ、一応エンリルの使いだし……あんまり怒らせない方がいいかなって……」

 

 ヤバい。我はそう直感してとりあえず下手に出てみた。

 

「ハハハ!なに言ってるんだい?ギル。僕らはもうアイツのこと思いっきり挑発しちゃってるんだよ?

怒ってるに決まってるじゃないか?もうここまで来たら僕らがフワワに殺されるか

僕らがフワワをブッ殺すか。そのどちらかだよ!さて!どこを切り落とそうか!?」

 

 ――我はエルキドゥの性格を忘れていた。

 カラオケで最初のうちは「聞く方に専念します」と言っているくせに最後にはマイクを握りしめている輩がいるだろう?

 奴はそれと同じタイプだ。

 

「あの……エルキドゥさん。……ひょっとして怒ってらっしゃる?」

「ん?どうしてだい?どうして僕が君に怒るんだい?

――でも、そう見えたのなら……ひょっとしたら怒ってるのかもしれないね(満面の笑顔)」

 

 ――全能の我でも怖いものぐらいはある。

 神獣クラスの相手はさすがに無傷では済まないからな。

 

 だがその時はフワワ以上にエルキドゥがマジで怖かった。

 

 「それでだな、友よ……」

 

 我は尚もエルキドゥを宥めようとしたのだが……

 

「ギル……まさかとは思うけどこういうことかい?

君から誘っておきながら怖いから引き返したいってひょっとしてそう言ってるのかい?」

 

 エルキドゥはあまり表情変えることがない。

 元々そういう存在だったからな。

 

 ――その時のエルキドゥは静かに笑っていた。

 その静けさは嵐の前の凪を思わせるものだった。

 

 我は内心ビビりまくっていたが「デスヨネー」などと言って引き下がるわけにはいかない。

 尚も宥めようと試みた。

 

「――い、いや!違うぞ!友よ!そ、その引き返すのも可能性としてアリカナーって我は言っているだけで……」

「ん!?自分から誘っておいてぇ!?え!?『やっぱビビッたからトンズラここうぜダチ公よ』ってそう言ってるのかい?

ん!?そういうことなのかな!?ギル!!?(ピキピキ!)」

 

 雑種。貴様らはまだ知らぬだろうがマジギレしたエルキドゥの恐ろしさは言語を絶する。

 顔面は蒼白になり、足腰が笑い始める。

 奴がここまでマジギレしたら取れる手は一つしかない。

 

「……じょ、ジョークだ。ジョーク。英雄王ジョークだ。友よ……」

「そうか。ジョークか。安心したよ。

……全然面白くないから本気かと思っちゃったじゃないか」

 

 こうなった以上もうエルキドゥを止める術はない。

 その先はもうヤケクソだ。

 我はエルキドゥに引きずられるがままにフワワを討伐し、さらには琥珀の森の手下どもも残らず制圧した。

 

 奴は「大変なことになってしまったよ。ハハハ」と嘯いていたが明らかにノリノリだった。

 フワワなど「助けてください!お願いします!どうか命だけは!」と必死で命乞いをしていたが「え?なになに?きこえなーい!?」とエルキドゥは文字通り聞く耳持たずだったからな。

 

 「ねえ?それよりどこを切り落としてほしいんだい?」と言われた時のフワワは、我にはライオンに狙われる子ウサギのように見えた。

 

 あの時ほど恐ろしいと思ったことは後にも先にも無い。

 

××××××××××××

 

「その先は貴様らの知る通りだ。

神々の怒りを買ったエルキドゥは泥に還り、死を恐れた我は不老不死の草を探す旅に出た」

 

 皆、何も言えなかった。

 ギルガメッシュ不老不死の旅のきっかけは友人のマジギレだったなんて誰が想像しただろうか?

 

 何か気付いたらしい。

 皆に先んじてマシュが口を開いた。

 

「あの……フワワの首はエルキドゥさんが一人で落としたというパターンとギルガメッシュ王の二人で落としたというパターンがありますが

やはり……」

「ああ。フワワの首を落としたのはエルキドゥだ。

『僕だってやりたくないんだよ。でもこれは必要なことなんだ。

僕だってやりたくないんだけどね。僕だってやりたくないんだけどね

大事なことだから二度言ったよ?』

そう嘯いていたが明らかに奴はノリノリだった。

こればかりは我は冤罪だ」

 

 さらにギルガメッシュは続けた。

 

「不老不死の草を見つけた我が泉で身を清めている隙に蛇めにそれを喰われてしまった話は貴様らも知るところだろう。

我は絶望したが――その時、脳裏に浮かんだのはマジギレした友の引き攣った笑顔だった。

マジギレしたエルキドゥに比べれば死の恐怖など取るに足らぬもの。

そう悟った我はウルクに戻る決意をした」

 

 傲岸不遜なギルガメッシュが本気でビビッている様は驚き以外何物でもなかった。

 ギルガメッシュは尚も恐怖に頬を引きつらせながら言った。

 

「……雑種。このことはエルキドゥには言うなよ。絶対だぞ?フリなどではないからな?いいか?フリではないからな!?」

「僕がどうしたって?」

 

 当の本人がいた。

 神造兵器エルキドゥは穏やかな笑顔でポンとギルガメッシュの肩を叩いた。

 

「……と、友よ。また会えて嬉しいぞ。だが残念だ。王となった我にはもはやお前と語り合う自由はない。

さらばだ」

「そうだね。語り合う自由はないよね。でも……殴り合う自由ならあるよね?

さあ。あの時みたいにお互いの性能を競い合おうか……」

「――雑種。貴様らに我を助ける栄誉を与えてやろう。(意訳・助けてください。お願いします)」

 

 俺にはギルガメッシュの語った意味がその瞬間嫌といういうほどよくわかった。

 エルキドゥの整った顔が作り出す穏やかな笑顔は――恐怖しか想起させなかった。

 

「さあ行こうか。ギル。言葉は不要だ。だって僕らには語り合う自由はないんだからね?」

「ま、待て!友よ!話せばわかる!話せばわかる!」

 

 尚もギルガメッシュは「話せばわかる」を連呼していたがそのままエルキドゥに引きずられて行った。

 

「嫌な事件だったね…・・」

 

 引き摺られていくギルガメッシュの後姿を見て。

 俺はただ、そう呟いた。




まだまだ続きます。

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