side Renata Scarlet
──太陽の畑
春だというのに沢山の向日葵が咲き誇る草原。
そこで私は誰も連れずに一人、季節外れに咲く綺麗な花を見ていた。
「あら。この辺りでは見ない方ね。貴女みたいな娘が一人でこんな場所に何用かしら?」
しばらく見ていると、背後から女性の声がした。
聞いたことのない声だから、明確に誰とは分からない。けど、今私は陽から身を守るためにフードを付けている。そんな怪しい人に声をかけ、尚且つ花が咲くこの場所に居るとすれば、私が知っている限り一人しかいない。
「ま......いえ、妖怪を探しにここに来ました。その妖怪は見つけることができなかったのですが、あまりにも綺麗な花に見とれていて......」
「そうね。妖怪ならそう見えてもおかしくないわね」
「妖怪なら、ということは人間なら綺麗には見えないのです?」
「綺麗には見えるわ。でもこの花達には鮮やかさが無い。儚さだけが残っている」
......え? 全く意味が分からないんだけど......。こういう時ってどうすればいいんだろう?
なんか流れで振り向かずに話しているけど、この人絶対に幽香さんだよね? 怖い人のイメージがあるから気を損ねるような返事はしたくないし、本当にどうしよう......?
「えーっと......ど、どういうことです?」
「そんなに身構えなくてもいいわよ。私より弱い妖怪は興味無いから」
「うー......地味に傷付きます......」
「でも苛めることはあるわよ?」
「それは普通に傷付きます。っていうか、私そんなに弱いですか?」
私としては、そこら辺の妖怪よりも強い自信がある。吸血鬼特有の力があり、多くの弱点がある。弱点とはいえ、強過ぎる力のためにあるものだ。だから、そこら辺の妖怪よりも弱い訳では無い。
何より、お姉様と同じ種族なのに弱い訳が無い。絶対に。
「普通、妖怪は魔力よりも妖力の方が勝っているものなのよ。普通はね。でも、貴女は魔力の方が勝っている。その辺の妖怪よりも強い妖力があるのに、ね」
「え? でもそれなら弱くは無いですよね......? もしかして、私はそんなに妖力と魔力が低い方なのです?」
後ろを振り返りながら、そう聞いてみた。
後ろを振り返ってみた結果、やっぱり幽香さんだった。
日傘を差して微笑んでいるが、何故だか怖く見える。
「どちらかと言うと高い方。でも、妖力よりも魔力が強いのは魔女くらいよ。そして、魔女に共通して言えることは体力が無い。魔力が高いということは、魔法をよく使うことだから。例外もあるけど。肉弾戦となれば、肉体強化の魔法を使い、戦い慣れている妖怪くらいじゃないかしら。強いのは。
それで思ったんだけど、貴女、魔法に頼りきってるでしょう? 強い種族なのに、その力、妖力を使わずに魔力を使っている。そうじゃない?」
「うっ......合っていますけど、元から身体能力は高いですし......」
「それは人間に対しての話。魔力が高い者は大体、普通の妖怪に対してなら良くて中の上。悪くて下の上よ。実際、貴女も魔女みたいに肉弾戦苦手でしょう?」
要するに、妖怪全体で見れば、真ん中辺りの身体能力と......。
確かに、肉弾戦なんてほとんどしたことが無い。今まで人間相手だから楽勝とか、お姉様やフラン相手だから本気を出さず、負けちゃうとかくらいだ。まぁ、本気出してもお姉様達には力じゃ敵わないけど。
「強くなりたいのなら、身体を鍛えなさい。魔法ばっかり練習しても身体能力が低ければすぐに殺られるわよ。特に、吸血鬼なら尚更ね。弱点が多過ぎるから」
「はい......って、あれ? 私の種族、知っているのです?」
「何回か殺ったことがあるから。その中に、陽の下で戦うことになった貴女みたいに魔法が得意な子が居たのよ。魔法に頼りきっているところを......」
「一気に距離を詰めて肉弾戦で......?」
「いえ。相手の魔法を上回る魔法で消し飛ばしたわ」
やっぱり強い......。あれ? さっきの妖力と魔力の話した意味あった?
「そうはならないように魔力も妖力もどちらも鍛えなさい。魔法を使いながら肉弾戦できるようになれないと、この先死ぬわよ?」
「どうして何かと戦うこと前提なのです......。でもまぁ、肝に銘じておきます」
というか、これを断ったら殺されそうな気がする......。
結構な偏見かもしれないけど、幽香さん怖いし......。
「そうしなさい。それと、まだ名乗っていなかったわね。私は風見幽香。貴女は?」
「レナ......レナータ・スカーレットです。霧の湖近くの紅い館に住んでいます」
「そう。またお邪魔させてもらうわね」
「えっ、あ、はい......」
あ、これ言わない方が良かったやつだ......。どうしようか......って、どうしようも無いかぁ。
忘却魔法とかまだ覚えれてないし、使えても効果無さそうだし......。
「あ、そう言えば、結局花の儚いとか鮮やかというのは、どういう意味なのです?」
「この花達には死の香りが漂っている。それは、花に霊が宿っているから。だからこの花達は鮮やかでは無く、儚いのよ。人間の死した命が宿っているから」
「えーっと......それは放っておいても大丈夫なのです?」
「宿った後は花が咲くわ。そしてしばらくすると霊が去り、花が散る。放っておいても大丈夫よ」
「それなら良かったです。でも、どうしてそんなことが?」
正直に言うと、この異変は知っている。けど、どうして起こったのか、どうやって解決したのかは全く知らない。
元から知らなかったのか、そこだけ忘れてしまったのかは知らないが。
「外の世界で大量に死んだのよ。人間がね。六十年に一度、こういう時があるから覚えているといいわ。貴女もここで住むのなら、ね」
「......参考になりますね。ありがとうございます」
「そう。良かったわ。それで貴女の探し人は探さなくていいの? 話している間に、日が暮れてきちゃったけど」
「あっ! そ、そうでした! 早く帰らないとフラン達と遊ぶ約束が......」
「だったら急いだ方がいいと思うわ。湖まで距離があるから、探していたら時間はあっという間に過ぎちゃうわよ」
「と、とにかく、急いで探してきます! またお会いしましょう!」
「......慌ただしい娘ねぇ」
後ろを振り向くことも無く、私は館の方角へと飛び立つのであった──
──人里(裏道)
「はぁー......ここにも居ませんね。......盗み関連で人目に付かないと言えば、ここくらいだと思ったのになぁ」
探している奴のことで、あることを思い出した私は、人の姿に化けて人里に来ていた。
だが、姿どころか、居る気配すら感じられない。
やっぱり、ここでは無いのかな? 前見たのは竹林だったし......でも、竹林には居なかったからなぁ。
「......今日は休みか何かの日でしたっけ?」
それにしても、春だというのに、あまりにも人が少ない気がする。
何かあったのかな? 帰ったら咲夜にでも聞こ──
「ゴホッゴホッ......」
「ん? あ、ちょっといいですか?」
そう思っていると、横に若い男性が通り過ぎようとしていたので、声をかけてみた。
「ん、なんだ?」
「人がいつもより少ないみたいですけど、何かあったのです?」
「お前知らないのか? 今、人里では疫病が流行ってんだよ。大抵の奴は屋敷の薬貰って寝込んでるだぞ?」
疫病......人間って病気にかかりやすくて大変だなぁ。
......なんか、前も同じようなことをしたような気がする。あれはいつだったっけ?
「もういいか? 俺も薬貰って帰ってるところなんだよ」
「あ、いいですよ。引き止めてすいませんでした」
それだけ聞くと、若い男性は早い足取りで歩いていった。
永遠亭も忙しそうにしてたし、これのせいなのかなぁ。
でも、輝夜は怪我人って言ってたから違うか。......永琳さんに聞いてないから本当かどうか知らないんだけど。
「はぁー、結局無駄足ですね......。アレがもし想像通りなら、放置していれば危険そうですから来たというのに......。まぁ、危険と言っても、盗人が増えるくらいですし、増えても慧音とか霊夢が居るから大丈夫、かな......」
心配は残るものの、見つけれないのならどうすることもできない。
それに、本来は人間の味方であろう巫女の仕事。妖怪である私が手を出す方が間違っている。
そんなことを思いながら、誰も見ていないことを確認し、再び空へと飛び立った。
「今はそれよりもフラン達との約束を守らないと......」
飛び立った私を見つめる影があったとは知らずに、私は紅魔館へと帰っていった────
次回は異変のお話。予定ではレナさんが出ない模様()