ただ、案内するだけのお話。
のようd(ネタバレ防止のため消されました())
side Renata Scarlet
──紅魔館(レナータの部屋)
それは、異変解決から数ヶ月。雪が降るとある冬の日のことだった。
部屋で本を読んでいる最中、部屋にフランが一人で入ってきた。
そして、私が聞くよりも先にそう言ったのだ。
「私、今魔法の研究中ですので暇じゃないです」
「私が暇なの。ねぇ、何の魔法?」
「召喚魔法です。とある魔神達の」
「魔神って危険じゃないの? 強いからなんちゃらとかで」
「もちろん危険なのもいます。ですから、安全な魔神を選んでいるのです」
安全と言っても、害が少ないという意味なのだが。
まぁ、単なる暇つぶしで調べてるだけだし、私は召喚しようとは思わないんだけどね。
「安全って言って、結局は危険な目に遭う未来が目に浮かぶなぁ。
お姉様。止めといた方がいいと思うよ? 嫌な予感しかしないから」
「え、でも......」
「そんなことよりさ、私と遊びに行こっ? お姉様達が異変を解決した場所に、ね?」
「えっ!? ちょ、ちょっとフラン? どうして知っているのですか?」
「ミアから聞いた」
「み、ミア......」
って、え、何処で知ったんだろ? いや、誰からか聞いたのか。
それにしても、フランにだけは教えちゃダメっていつも言ってるのに。
この娘、機嫌悪いとすぐに怒るし......。
「お姉様。顔色悪いよ? 大丈夫?」
「だ、大丈夫です。で、遊びに行くのですね。いいですよ」
はぁー、今日からしばらくの間は
まぁ、最近は無茶言わなくなったし、今日は機嫌が良いみたいだからいいけどさぁ......。
「じゃ、行こっか。今日は運良く曇りだし、日傘にする?」
「手が塞がるのでいつも通りフードで行きましょう。
そもそも、日傘で出かけた事ないですけどね」
「お姉様はね。私はたまにあるからね? 夏とか暑くて死にそうになるしー」
「魔法使えば温度も関係無くなりますよ? あ、準備するので待ってて下さいね」
「それ、お姉様いる時だけだからね。いいけど急いでよねー」
外へと出かける準備をしながらフランと雑談を交わしていく。
フランにも新しい魔法教えてあげた方がいいのかな?
でも、本当に欲しい魔法は自分で覚えるしなぁ。
「......フラン。また魔法でも教えましょうか? 実用性があるものに限りますが」
「うーん......まぁ、教えてもらおっかな。お姉様、口だけじゃ無くて手も動かしてね」
「では、帰ってから始めましょうか。善は急げと言いますし。最近棘多くないですか?」
「急がば回れ、とも言うけどね」
「......え、最後のは無視ですか?」
「はーやーくー」
「......はぁい......」
──竹林(入り口付近)
とりあえず異変が起こったところに行くということで、竹林までやって来た。
「妹紅。案内よろしくです」
「お前も姉と同じく唐突な部分あるねぇ。まぁ、いいけどさ」
そして、タイミング良く妹紅を見つけたので永遠亭までの道案内を頼むことにした。
「お姉様よりもマシと断言します」
「あらそう。で、そちらのお嬢さんは?」
「お姉さ、レナータお姉様の妹。フランドール・スカーレットよ」
「よろしく、フランちゃん。私は妹紅。藤原妹紅だよ。よろしくね」
「......貴女人間だよね? 知らないのかもしれないけど私は吸血鬼だよ?
最近の人間は見た目だけで『ちゃん』とか付けるの?」
珍しく、『ちゃん』付けされたのが恥ずかしかったからなのか、顔を赤くして怒っている。
もちろん、顔が赤いのは恥ずかしいからであり、怒っているからでは無いのだろうけど。
それでも、少し勘違いされそうだ。でも──
「ぷっ、あははは! そう呼ばれるのが嫌だったかな?
だけど、こう見えて私は最近の人間じゃないんだ。すまないね」
「......お姉様、意味が分からないんだけど......。それにどうして笑われているの?」
「簡単に言えば、妹紅はフランよりも年上ってことですよ。
それと、後者はフランが見た目相当の怒り方をしたから、ですね」
人間である妹紅だが、私が生まれるよりもずっと昔に、不老不死の薬を飲んだらしい。
それで、見た目も変わらず、死ぬことも無く、ずっと生きているのだとか。
「え、人間なのに年上なの!? って、誰が子供よ! もう大人だもん!」
「よしよし、そうでしたね。フランは大人でしたね」
「必死に手を伸ばして撫でる姿を見ると本当に、お姉ちゃん、って感じがするな。
あのレミリアとか言う姉と一緒に居た時は──」
「ストップ! 妹紅ストップです! それ以上はいけないです!」
「あ、言っちゃ駄目なやつか? すまんすまん」
あ、危なかった......。できればフランにだけはバレたくない。
バレたらフランに弱味を握られる気がする......。
「......お姉様って子供だもんね、レミリアお姉様の前だと」
「貴女にだけは言われたくないです!」
「姉妹喧嘩は後にしてくれよ? さて、着いたよ。永遠亭だ」
いつの間にか、目の前には前の異変で訪れた屋敷、永遠亭が建っていた。
というよりかは、気付かないうちに到着しただけなのだろうが。
「へぇー、ここが......」
「異変の時は輝夜達の術で廊下を長い間走らされたり、兎が邪魔したりしてなかなか前に進むことができませんでした。けど、今回はすぐに会えるはずです。
妹紅。帰りも案内、よろしくお願いします。あまり長くは待たせませんから」
「まぁ、いいよ。けどあまりにも遅いと置いて帰るからね?」
「分かりました。フラン。会いに行きましょうか。『永夜異変』の関係者に」
「『永夜異変』は紫が起こした異変ってレミリアお姉様が言ってたよ」
「か、関係者ですから合ってますよ」
「いいから早く行って帰ってきてくれ」
「あ、すいません。フラン。行きましょうか」
フランに声をかけ、私達は屋敷の中へと足を踏み入れた──
──永遠亭(輝夜の部屋)
「誰かが出向いてくるってのは珍しいわね。特に吸血鬼なんて、珍し過ぎるわ。
ねぇ、家で働かない? 私の暇つぶし相手にならない?」
「唐突なお誘い、有り難いですがお断りさせて頂きます。絶対に」
「まぁ、ダメ元だったし、面白そうだから言っただけだからいいけど。
で、用事は何かしら。それにその娘は? 前見た時は居なかったけど妹さん?」
「うん。お姉様の妹。名前はフランドール・スカーレット。フランって呼んでね」
「分かったわ。フランちゃん、蓬莱山輝夜よ。輝夜って呼んでね」
「......うん。よろしく......」
妹紅と同じような呼び方してる......。やっぱり、本当は仲良いんじゃ......?
いや、フランが子供っぽくて可愛らしいから、自然とそう呼びたがるだけなのかな?
「なんか悲しそうね、その娘」
「色々あっただけなので気にしないで下さい。それにしても今日も暇なのですか?」
「長生きしてる分、暇なのは仕方ないことよ?」
「まぁ、気持ちは分かります。半分も生きてないでしょうけど。
それで、永琳さんの仕事は上々なのです?」
「まぁね。毎日のように沢山の怪我人が来るわ」
毎日のようにって......やっぱり人間って怪我しやすいんだね。
吸血鬼の身体とっても便利。けど、慣れって怖いからなぁ......。
「で、結局用事は何かしら? 暇つぶし? それとももう一度肝試しでもする?」
「肝試し嫌です。今日はフランと遊びに来ただけですよ」
「もうなんか異変の関係者の紹介になっちゃってるけどね......」
「あらそうなの。なら永琳......は仕事中だから駄目ね。イナ......鈴仙を呼びましょうか」
鈴仙......異変の時は全然会わなかったからなぁ。
唯一会った時は、幽々子達と戦っていたし......。
「イナ鈴仙?」
「イナは付けなくていいわよ。間違えただけ。れいせーん! 来てー!」
「大声出しただけで──」
「はーい。何でしょうかー?」
「......凄いね。呼んですぐに来るなんて。まるで咲夜みたい」
凄いというか、大声出さなくても来るから、咲夜はある意味怖いんだけどね......。
「別に用は無いわ。でも、見てもらった方が紹介しやすいでしょ?
これが鈴仙。見ての通り兎。以上」
「紹介雑過ぎないですか!?」
「これ以上語ることも無いから仕方ないでしょ? で、あの兎、てゐは?」
「あぁー、今探しているんですよ。また何処かに行っちゃったみたいで......」
「あの娘も紹介しようかと思ったのに。いいわ。また別の日にでも紹介しに行くから」
「それは逆に困ります」
事前に知らせがあればいいんだけど、絶対に無いだろうし。
それに急に現れるんだろうし......。
「それじゃあ、また来てちょうだい。その時にでも紹介するわ」
「分かりました。では、またお邪魔させて頂きますね。
......そろそろ帰ります。人を待たせていますし」
「あらそう。帰り道は大丈夫? 何なら鈴仙でも付けるわよ?」
「大丈夫だよー。ももがっ!?」
危うく地雷を踏みかけたフランの口を、私は急いで手で塞いだ。
「ふ、フランの言う通り、道は分かるので大丈夫です!」
「......へぇー、そうなの。なら安心ね。それじゃあバイバイ」
「はい。バイバイ、です」
フランの口を塞いだまま、輝夜の部屋を後にした。
そして──
「ここまで来れば大丈夫です、よね? まぁ、もう出入り口ですから大丈夫でしょうけど」
「ぶはっ! お、お姉様? どうしたの?」
「おっ、本当に早かったな。もう帰るのか? って、フランちゃんどうしたんだ?」
「地雷を踏みかけたので。申し訳ないです、フラン」
「ううん。別にいいけど......。地雷って何?」
ほっ......。今日は機嫌が良い日みたいだ。
慌てて口を塞いだから怒っちゃったかとヒヤヒヤしてた......。
「帰ってから話しますね。さて、帰り......ん?」
ふと目を逸らすと、竹林の奥にロバの頭をした、身体がライオンのような何かが見えた。
が、すぐに見えなくなってしまった。
目の錯覚か何か......じゃないよね。妖怪かな?
「え? どうしたの?」
「いえ。妖怪っぽいのがいただけなので気にせず行きましょう」
「まぁ、ここら辺は兎とかの妖怪が多いからな。
襲われたくなかったら離れずに付いてこいよ」
「ふふん。吸血鬼が他の妖怪なんかに遅れは取らないけどね」
自信たっぷりなフランの会話を聞きながら、私達は竹林の出口へと向かっていった────