ちなみに、番外編は平行世界とかそんな感じなので、本編には影響はありません。
次からはレナ以外の番外編でもしようかと悩み中()
side Renata Scarlet
──紅魔館(パーティーホール)
「夏ねぇ......」
「だな。でもなぁ、室内で泳ぐのもどうかと思うぜ? いや、周りを見てもそう思えないんだが」
とある夏の日。最近は、昼は外に歩く気さえ起きないほどの暑さだが、夜になるにつれてどんどん冷え込んでくる。
そんな夏の、太陽が出るいつも通りの日。お姉様はいつも通りの気まぐれにより、知り合いの人間、妖怪達をパチュリーがパーティーホール内に作った擬似的な海、もといプールで泳ごうと誘ってきた。
「そうかしら?
「まぁな。室内でも関係ない。しばらく休んだらまた泳ぐぜ」
「それならよかった。せっかく呼んだもの。泳いでもらわないと勿体ないわ」
「あ。いたいた。お姉様ー。お待たせしましたー」
私が水着選びに手間取っている最中、お姉様は魔理沙と会話していたようだった。
お姉様は私が来たと同時に私の方を振り返り、待ち望んでいたと言わんばかりの笑顔を見せる。それを見れた私はほんの少し、いや、とても嬉しい気持ちになった。
「遅かったじゃない。何かあったの?」
「水着を選ぶのに手間取っていまして......最終的にフランに選んでもらった中で、納得したのを着てきました。タンキニも可愛いと思うのですけどね......」
フランにはスク水を選ぶと子供っぽいと怒られ、タンキニを選ぶともっと大胆にしよ、と却下される。
最終的にお姉様と同じようなフリル付きのビキニにはなったものの、何度か小さなマイクロビキニなどを着させられそうになっていた。
──ほんと、フランっていっつも変な服ばっかり着させてくるんだから......。それでも私のためだろうし、悪くは言えないけど。
「私もそう思うわ。で、その問題のフランは? 一緒じゃないの?」
「次はミアの服を選んでましたよ。その次はルナの服も決めるとか」
「ふーん。あの娘ってそういうの好きなのねぇ。次があれば私のも選んでもらおうかしら」
お姉様は目線を僅かに逸らし、何か考え事をしている風にそう話す。
一体何を考えているかは定かではないが、おそらくフランに選んでもらった時のことでも考えているのだろう。
「フラン達を待ってから泳ぐ? それとも......」
「先に泳いでましょうよ。フラン達には悪いですが、待つよりもお姉様と遊ぶ方が楽しいですから」
「そうかしら? いえ、待つよりは遊ぶ方が楽しいのも分かるわね......」
「でしょう? ささっ、早く泳ぎましょうっ!」
悩んで優柔不断になっている姉の手を導くように引っ張り、プールへと向かう。
「あ、そんなに慌てなくたって......! はぁー......ふふっ。まぁ、いいわ」
背後で呆れた声と同時に嬉しそうな声がしたが、気にせずみんなが泳ぐプールまで引っ張ってきた。
「あ、お姉様。飛び込みます?」
「泳いでいる人の迷惑になるからダメ。それに、下手に飛び込んで、お返しに流水でも貰うと泳げなくなっちゃうわよ。せっかくのプー、いえ。海だもの。楽しみましょう?」
「......それもそうですね。では、普通に泳ぎましょうか。あ、でも私泳ぐのが苦手なので、できれば泳ぎ方を教えて欲しいです」
「......えっ? あ、貴女、泳げないの!?」
「うふふっ。冗談ですよ。二十五メートルくらいは泳げますからご安心を」
久しぶりにお姉様の驚愕した顔を見れた私は満足する。
それがバレたのか、「もぅ......」とお姉様は呆れていた。
「早く泳ぎたいのなら、そんな嘘は付かないの。それにしても、二十五って微妙ね」
「そうです? 結構普通だと思いますよ。そんなことよりもお姉様。まずは準備運動をして──」
「え? 体操が先なの? もう入っちゃったけど......」
目を離したほんの僅かな隙にプールの中へと入っていた。
お姉様は申し訳なさそうな顔で、こちらを見つめてくる。
「あ、いえ。大丈夫ですよ。足がつっても、私の魔法で治しますので!」
「あら。頼もしい妹だこと。でも、せっかくだからするわね」
そう言うと、プールから上がり、一から準備運動を始めた。
「ではこれくらいでいいですね。......よっ、と。あぁ、やっぱり冷たいですね」
準備運動が終わるとともに、無言でプールの底へと足を付ける。
「温かいとお風呂になっちゃうから、パチェに頼んで冷たくしてもらったのよ」
「流石パチュリー。何でもできますね」
「それ、貴女が言うの?」
褒め言葉というよりは、若干皮肉が混じった言い方にも聞こえる。お姉様の顔には優しそうな笑みを浮かべているのだから、別に皮肉などは混ざってはいないのだろうけど。
少しお姉様のことに対して、気を張りすぎているかもしれない。
──いや。それよりかは、嫌われたくない、好かれたいという気持ちが大きくなり過ぎているのかな。......うん。嫌われるのは想像したくないなぁ。
「レナ? ぼーっとしてないで、一緒に泳がない? みんなの邪魔にならない程度に、一緒に泳ぎ回りましょう」
「え。あ、そうですね。......お姉様。やはり泳げるかどうか心配なので、手を繋いでもらえます?」
「心配しなくても、背の低い私達の足がギリギリでも付くのよ? でも......ふふっ。可愛い娘。いいわよ。手を繋いであげる。有り難く思いなさいよ?」
珍しく高慢な態度を取る。こういう時のお姉様は、何かいいことがある時だけで、機嫌もすこぶる良い。何故そうなったか理由は分からないが、何かしら嬉しいことがあったのは確かだ。
──やっぱり、擬似だけど太陽の下で擬似の海を泳げるから機嫌が良くなっているのかな。
「はいっ! ......お姉様の手はいつも温かいですね」
「レナもね。さぁ、エスコートしてあげるわ。ゆっくりでいいから、頑張って泳ぎなさい」
「分かりましたー」
こうして、他のみんなと同じように広いプールの中で泳ぎ、楽しむ。
「......いいわね。こういうのも。特に、日光に当たっても平気なのが一番嬉しいわ」
「偽物の太陽ですからね」
「そうね。でも、いつかは本物の太陽の下で走り回りたいわ......」
どこか遠くを見つめてお姉様は小さな声でそう呟く。どこか寂しげな、悲しげな顔をして。
──私も人間だった頃は太陽なんて平気だった......というよりは、そんなこと気にしていなかったのになぁ。今となっては凄く恋しく思う。
「ですね。......お姉様。私、いつかお姉様に太陽の光を見せれるように頑張ります」
「えぇ? ねぇ、レナ。太陽は吸血鬼の弱点なのよ? そんなの、魔法でもなんとかできるわけがないわ。だから、無理して実行に移そうとしないでよ?」
お姉様の返事から、心配と驚愕の気持ちが伝わってくる。だが、その言い方は私にとっては逆効果だった。
──できないわけがない。私の魔法で。この幻想郷で。
「大丈夫です。絶対に大丈夫です。だから心配しなくても大丈夫ですよ」
「大丈夫ばっかり言われても安心できないから。貴女、絶対に実験と称して自傷行為に走るじゃないの」
「え? いえ、流石に自傷なんてしませんよ? 痛いのは嫌いですし」
「それならどうやって日光を浴びても大丈夫だと確認するわけ?」
その言葉に私は「あっ」と言葉に詰まる。確かに不完全な魔法をお姉様にかけるわけにはいかない。しかし、本当に安全かどうかは、試してみないと分からない。それならば、私は絶対に自分にかけてから試すだろう。
「分かった? なら今はそんなこと気にせずに泳ぎましょう。ほら、こっちに来なさい。今日はちゃんと泳げるようになるまで泳ぐわよ?」
「え、で、でも、泳げるか心配なだけで、別に泳げないとは......」
「何言ってるの。油断すると大変な目にあうわよ?」
「お姉様ー、レミリアお姉様ー。あれ? 魔理沙もまだ泳いでないんだね」
「ん。フランか。そろそろ泳ぐところだぜ」
魔理沙が居る場所からフランの声が響く。そして、そちらを見ると魔理沙と会話するフランとルナ達が居た。フランもルナも、私のと色違いの水着を着ていた。
──やっぱり、結局はそれにするのね......。
「ちょうどいいところに来たわね。どうせならみんなで一緒に練習しましょうか」
「......そうですね。そうしましょうか」
私達はフラン達を誘うために、魔理沙が居る場所へと近づいて行った────