まだまだ平和。
side Renata Scarlet
──紅魔館(エントランス)
偶然、今日は早く起きた。せっかくだし、フラン達にバレないように部屋を出て、お姉様の部屋に向かっていた。が、運の悪いことに──
「おーい! レナ〜、遊びに来たぞ〜」
──鬼が居た。比喩でもなんでもない。
いやまぁ、私も吸血『鬼』だけどね。
「お帰りくださいませ。自分の家に」
「私の家なんてないぞ〜。あるとしたら、博麗神社くらいだなぁ」
「それは居候なのでは......。というか、どうしてここに来たのです?」
「最初に会ったとき、お前の妹にも会いたいから、また今度来るな〜。って言っただろ?
私は鬼だ。約束は絶対に守るつもりだからな」
いや......確かに嘘はつかないとは聞いているけど、約束を破らないのは少し違う気が......。
「どちらかと言うと、それは私が言うセリフですよね? いやまぁ、そんな約束した覚えないですけど」
「なんだー? 私が嘘ついてるって言うつもりかー?」
「そうは言ってません。とりあえずお帰りください。私にそのお酒を近付けないようにしてください。あの後、記憶が飛んでしまったのですよ? 全く何も覚えていないのですよ?」
結局、あの後何があったかお姉様に聞いても、何も答えてはくれないのだ。いつ、どんな時に聞いてもはぐらかされる
「......まぁ、知らない方がいいこともあるさ。長年生きてきた私が言うんだ。そういう事もあるって心に刻んでおくことだな......」
「どうしてそんな『知ったら死にかねない』みたいな感じで話すんでしょうねっ!?」
「おっ、正解だぞー。お前、やるなぁ」
「え......そ、それは言って欲しくなかった気も......いえ、私が言ったことなのですけど......」
「あははー。さて、早く案内してくれよ」
「嫌です。それよりも、門に人が居ませんでしたか? どうしたのです?」
確か、今日は昨日の夜から美鈴が門の前で立っていたはずだ。なんでも、寝ていたバツだとか......。
「あぁー、寝てたよ。だから無視して入ってきた」
「全く懲りてないことだけ分かりました。後で咲夜にでも言いつけておきますか......」
「おう、そうした方がいいと思うぞー。さて、お前の妹......名前は何だっけ?」
「フランとルナです。それがどうかしましたか? 会いたい以外の選択肢なら聞きますよ?」
「何処に居るんだ?」
「だから、それは聞きませんって」
「お前が聞かないのは会いたいだけだろ? 私は何処に居るのか聞いてるだけだぞ?」
うっ、この鬼......揚げ足を取りよって......。はぁー、もっと明確に指定すれば良かったなぁ。
「それも聞かないことにします」
「むぅ、レナ、お前ケチだなぁ」
「それでも結構です。帰り道まで送りますよ? 門前までですけど」
「ちぇっ、仕方ないな。今から弾幕ごっこでお前と勝負するから、私が勝ったら案内しなよ?」
「それ私に何の得もありませんよね!?」
この鬼、どうしてもフラン達に会いたいのか......。
別に会わすくらいならいいけど......嫌な予感しかしないんだよなぁ。
「鬼なら戦い好きだろ? それが得に決まってるじゃないか」
「別に好きじゃないです。フラン達と遊んでいると、そういうのもよくありますけど、好きでやってるわけでは......いや、遊ぶのは好きでやってますね」
「やっぱり好きじゃないか。鬼相手に嘘はいけないぞ?」
「だから! 遊びでの話ですよ!?」
もうやだこの人。
お姉様の部屋に行こうとした矢先にこの鬼に会うなんて、今日はついてないや......。
「むぅー......どうしてもダメなのか?」
「どうしてもダメです。具体的には、私にお酒を飲ませる気がするからダメです」
「私はそんなことしないぞ? 鬼は嘘つかないから信用してくれてもいいだろ?」
鬼は基本的に嘘をつかない。だけど、裏をかくことはあると言う。
萃香は特にそういうのが多い気がする。いやまぁ、それでも嘘をつかない分、全然マシだけど。
「......確かに、鬼が嘘をつくなんて有り得ませんけど......」
「だろう? さぁ、早く案内してくれ〜」
「......まぁ、会わせるくらい大丈夫ですよね。あれ? 前にもこういうことが......いや、気のせいですね。
ではまぁ、付いてきてください。フランとルナに会いたい、でいいのですよね?」
「それでいいぞー。お前の姉さん......レミリアだっけ? そいつはもう会ったことあるからなー」
お姉様に一度会っただけで充分と? ......まぁ、いっか。人それぞれだしね。
とりあえず、フランとルナに会わせたら、余計なことをしないうちに帰らせるとするか。
どうせ、ろくなことしかしないだろうし。
「......お前ー、なんか失礼なこと考えてるだろ?」
「え、そ、そんなことはないですよ?」
「嘘。顔に出てるぞ」
「え!? ......って、出るわけないです!」
「その反応でもう分かっちゃうんだよなぁ。お前、気を付けろよ? 嘘下手だから。
私も含めて、鬼は嘘が嫌いだからな。すぐにバレちゃうぞ?」
鬼にこんな注告をされることがあるとは......。鬼って何でも力で解決するイメージだし、できる限り萃香の注告は守るようにしようかなぁ。
まぁ、できる限りだけどね。嘘だとバレなければいいだけだし。
「一応、教えてくれてありがとうございます。その注告、心に刻んでおきます」
「......嘘っぽいな。まぁ、いいや。さっさと案内してくれ〜」
「はいはい。分かりました」
私は適当に返事をして、今来た道を引き返した──
──紅魔館(フランの部屋)
「......まぁ、まだ寝ていますよね。萃香、起こさないで下さいね?」
「ちぇっ......まぁ、起きるまで待てばいっか。それにしても......似てるな、お前ら。顔がそっくりだ」
「そ、そうですか? ......えへへ」
フランとルナ、私とミアはよく似ているって言われるけど、私とフラン達はあんまり言われないからなぁ。
いやまぁ、前者の方はどっちも顔がそっくりどころか全く同じだし、私はフランよりもお姉様に似ているから、あまり言われないだけだと思うけどね。
「......お前、気持ち悪いぞ?」
「失礼な! 可愛いフランとルナに似ていると言われて嬉しがらない人は居ませんよ!?」
「あ、そっちじゃない。っていうか、その言い分は......いいや。これ言ったら余計にうるさくなりそう」
「む、気になります......」
「気にするな。さっきも言ったけど、うるさくなりそうだからね。妹達を起こしちゃってもいいのかい?」
「いや、もう起きてるから......」
と言う、フランの声がした。
フランが寝ていたはずの場所を見ると、重たそうに体を起こしているフランの姿があった。
「え? あ、フラン......ごめんなさい、起こしました?」
「うん、起こしたね。ふわぁ〜......で、誰なの? その娘」
眠たそうに目をこすりながら、フランが萃香を指差してそう言った。
「その娘? あぁ、私か。こう見えても、お前よりも年上だぞ?」
「見た目は私よりも年下なのにね」
「私から見ればどちらも変わりませんけど......」
「レナ、お前もな。フランと同じ背丈だぞ?」
「全く同じじゃないからセーフです」
全く同じじゃなくて、フランよりも数ミリほど私の方が高いんだけどね。
ちなみに、お姉様は私よりも数ミリほど高い気がする。まぁ、気がするだけかもしれないけど......。
「で、結局誰なの? お姉様のお友達?」
「まぁね。私は伊吹萃香。レナの親友だ」
「鬼は嘘をつかないのではなかったのですか?」
「私がそう思ってれば嘘じゃないだろ?」
「ふーん......お姉様の親友ねぇ......」
フランが疑り深い目を私に向けながらそう言った。
って、完全に萃香の言うことを信じてない!?
「いやいや、だからちがいますからね!? 親友じゃないですからね!?」
「えぇー、親友でいいじゃんかー」
「萃香、お姉様の親友になるなら、私の許可がいるからね?」
「私の許可の方がいりますよね!?」
「むぅ......オネー様、フラン。うるさい......」
声がした方には、先ほどのフランと全く同じように、重たそうに体を起こしているルナの姿があった。
「あ、お姉様のせいでルナが起きちゃったじゃない!」
「え、私のせいなのですか!?」
「うわぁー、ひどい姉だなぁー」
「萃香! 貴女は黙って下さい!」
「ルナ、まだ寝てても良いんだよ? 二度寝してもいいんだよ?」
いや、もう後十分ほどでいつもの起きる時間なんだけど......。
「オネー様のせいで目が覚めた」
「むぅ......結局私のせい......」
「あははー、面白い奴らだなぁ」
「九割ほど貴女のせいだと思いますけどね......」
いやまぁ、どうせお姉様の部屋に行こうとしていたことがバレれば、怒られると思うけどね。
はぁー、数分だけでもお姉様の寝顔見たかったなぁ......。
「オネー様、責任とって、くれるよね?」
「なんだか嫌な予感しかしないのでお断りします。私のせいじゃないですし......」
「むぅー、オネー様のせいなのに......」
「ひどい奴だなぁ。責任くらい取ってあげればいいんじゃないか?」
「取ったら死ぬレベルでヤバいので絶対に嫌です」
フランやルナが言う責任は、原因と全然釣り合わないのよね。
お姉様はまだ優しいのに、フラン達は手加減というものを知らないからなぁ。
「オネー様、失礼」
「だよねぇ。ルナが可哀想だなー」
「......ほれ、フラン。
「萃香さん? 約束が違いますが?」
「私は飲ませない。近付けない。そう、『私』はな」
「あ、もしかしてお酒? やったー! お姉様、大丈夫、幸せになれるよ?」
悪魔みたいに悪い笑みを浮かべたフランが、紫色の瓢箪を持って近付いてきた。
「それダメなやつの言い方ですから! というか、朝からお酒なんて飲ませないで下さい!」
「え? 朝からでも酒は飲むだろ?」
「それは鬼だけです!」
「お前も吸血『鬼』だろ?」
「......フラン、その『なら別に問題ないよね』みたいな顔をしながら近付かないで下さい」
やばい......フランだけならともかく、ルナや萃香もいるから逃げようが......。
あ、凄く今更だけど、霧になれば逃げれるんじゃ......。お姉様に後ろから捕まった時もあってそうすれば良かった気が......。
「あ、萃めるから霧になっても無意味だぞ?」
「ありがとうね、萃香」
前言撤回。萃香が居たら逃げれないや。というか、どうして心の中を読めたのですかね!?
「ふ、フラン? 今すぐやめないと、怒りますよ?」
「優しいから怒っても全然怖くないよ? 逆に可愛いくらいだよ? だから怒ってもいいよ?」
「え......私、そんなに威厳とか無いんだ......」
「妹に対してだろうけどね。さ、早くもがいてみせなよ〜」
いつの間にか、萃香はルナの横でぐうたらしながら手を振っていた。
「フランだけならともかく、貴方達三人相手はもがく間もないのですが!?」
「オネー様、私は手出さないよ」
「私も逃げる以外なら見てるだけにしとくよ〜」
「あ、そうなのですね......」
それでも、萃香はともかく、フラン達は絶対に傷付けたくない。だから、使える手はかなり限られている。
魔法で眠らせるやつもあるけど、あれは霧を使うやつだし、萃香に邪魔されるに決まっている。
さて、他に手は......ないね。諦めて最後の抵抗だけやるかぁ。
「フラン、一応聞きますが、やめてはくれないのですよね?」
「うん、やめない。お姉様もさ、記憶は無くなるだろうから、恥ずかしいことなんて起きても大丈夫だよ?」
「記憶が無くなることと、恥ずかしいことが起きるのが前提なのはおかしくありませんか?」
「前者は運だけど、後者は酔うのが当たり前になってきてるし、絶対だと思うよ?」
「前者が運の自体で嫌なのですよね......」
酔うのが当たり前っておかしくない? 私、そんなに酔いやすいの?
いやまぁ、毎回お酒を飲んだ後は記憶が飛んでるけど......。
「じゃ、もう時間稼ぎとかいいよね? お姉様、飲ませてあげるよっ!」
「遠慮し、え、モガッ!?」
あと数メートルというところで、一瞬にしてフランが距離を詰め、瓢箪を私の口に押さえつけて、中にあるお酒を飲ませてきた。
「あ、もういいかな? ......うふふ、酔ったお姉様も可愛いよねー」
「え、ひょってませんよ!」
「あぁ、はいはい。そうだね。お姉様は酔ってないね」
そう言って、フランが私を抱きしめてくれた。
あれ? なんだか体が熱く......あ、酔ってるから......って、酔ってない......。
なんてことを考えているうちに、私の記憶はそこで途切れてしまった────
番外編決まったので、近いうちに投稿したいと思います。
本編はいつも通り日曜かな。