他の章よりも早いですが、これから異変編です
side Renata Scarlet
──紅魔館(エントランス)
庭にあるホトトギスやクルクマが咲き始めた暑い夏の日。
「ふぁ〜......あ、お姉様......?」
「あら、レナじゃない。って、大丈夫? 眠そうね」
珍しく一人だけで人里で買い物をして、帰って来た時に、エントランスで偶然お姉様と出会った。
「大丈夫ですよ。......それよりも、どこかに行くのです?」
「えぇ、博麗神社で宴会があるから、行ってくるわね」
「そう、ですか。......私も行っていいですか?」
「いいけど......大丈夫? 眠そうだけど......」
「大丈夫です。ただ、ここ最近、宴会が多い......あっ」
「え? どうしたの? 何か思い出したみたいだけど」
「い、いえ、何でも......」
そう言えば、最近宴会が多いけど、これってあの異変なんじゃ......。うん、確か、三日おきに宴会があったし、確実にあれか。
いやまぁ、異変というか、鬼が構って欲しそうな理由で起こしたような異変だった気がするけど。
あ、他の鬼を呼び戻すのが理由だっけ? まぁ、忘れたからどっちでもいいや。
「ふーん、怪しいわねぇ。私に話しにくいことなの?」
「い、いえ! 本当に何もありませんよ?」
「......そ、話したくないなら別にいいわよー」
「あ、お、お姉様!」
お姉様が拗ねたのか、足早にその場を立ち去ろうとした。
「姉に秘密にしたいことなんていくらでもあるわよねー。そうよね、珍しくないわよね」
「な、ないです! 私は......あっ、うん......」
お姉様に秘密ごとなんて......あ、結構あるか。うん、思ったよりもあるわ。そら怒られても仕方ないか。
「何よ、その間と返事は!?」
「い、いえ、特に意味は......」
「ふーん......あっそ。じゃぁ、行ってくるわ。貴方は寝てなさい」
「あ、お姉様! 私も行きます!」
お姉様の機嫌を損ねたせいで、眠気が覚めた私は、人里で買った荷物を持って宴会へと向かうのであった──
──博麗神社への道のり(空中)
「お姉様......」
「何よ。付いてきたの? 眠たいんじゃなかったの?」
「眠気が覚めました。お姉様、機嫌を取り戻して下さい。お願いします」
「別に機嫌が悪いわけじゃないわよ。ただ、嘘をつく貴女が嫌いなだけよー」
「うぅ......私のこと、嫌いなのですか? お姉様......」
お姉様に嫌われるなんて......嫌われるくらいなら......。
「......もぅ、そんな顔で言わないでよ。冗談よ、冗談。別に嫌いじゃないわよ。むしろ好きよ。大好き。
ただ、嘘をつく貴女が......ちょっと嫌なだけ」
「......すいません、お姉様。お姉様に秘密にしていることがあります。お姉様だけではないです。フランやルナにも、咲夜や美鈴、パチュリーにも......みんなに秘密にしていることがあります」
「......そう。それは絶対に言えないこと?」
「......すいません。ですが、いつか、必ず......」
「そう、ならいいわよ。今は言えないってことでしょ? いつか教えてくれるなら......今はそれでいいわ」
良かった......お姉様に嫌われなくて。それに......大好きって言ってくれた。
とっても嬉しい。もう心残り無いくらいに。今日も幸せな一日と思えるくらいに......。
「って、あら? 嬉しそうな顔ね。何がそんなに嬉しかったの?」
「え、お、お姉様に......大好きって......」
「え? ぼそぼそと言われても聞こえないわよ? もっとちゃんと言って、ねぇ?」
お姉様がいたずらをしている子供みたいにニヤけてそう言った。
うぅ、絶対に聞こえてたよね? わざと言ってるよね? やっぱり、お姉様もフランに似て悪魔だ......。いやまぁ、悪魔なんだけどさ。
「ですから、お姉様が......大好き......って言ってくれたので」
「うふふ、可愛い娘ねぇ。どうしてそんなに恥ずかしがってるのよ? 顔が真っ赤よ?」
「〜〜〜ッッ! も、もぅ! からかわないで下さい!」
「うふふ、今日のレナは面白いわねぇ。......そろそろ着くから、元の顔色に戻っていなさいよ」
「そ、そんな簡単に言われても......。というか、お姉様のせいですからね!?」
「ふふ、ごめんなさいね」
お姉様と二人だけの時間。最近、多い気がするなぁ。まぁ、嬉しいけどね。
そんなことを考えながら、私達は博麗神社へと降り立った。
「霊夢ー、来たわよー」
「またか。呼んでないのに来るんじゃないわよ」
「あ、そいつは私が呼んだんだ。多い方が楽しいからな」
「......はぁー、またか......」
霊夢が呆れた顔を魔理沙に向けた。
毎回魔理沙が妖怪とか妖精を呼んでいるからね。流石に霊夢も何かを言う気力はないか。
「まぁ、そういうことだからね。客人として扱いなさいよ」
「はいはい。分かりましたよ、お嬢さま」
「ふふ、珍しく素直じゃない。何か良いことでもあったのかしら?」
「別に何もないわよ。私よりも、貴女の方が良いことあったかのような顔をしているわよ?」
「ふふ、そうかしら? いえ、そうね。確かにあったわ。ね、レナ」
お姉様がいじわるな顔で私に笑いかけた。
やっぱり、お姉様も悪魔だ......いやまぁ、何回も言ってる気がするけど、吸血鬼だから悪魔なんだけどね。
「......むぅ、お姉様はいじわるです」
「おいおい、どうしたんだぜ? また喧嘩でもして、仲直りしたのか?」
「あら、またってそんなに多いかしら?」
「お前らはな。特に、レミリア、お前とフランは」
「......そう言えば、あの二人の妹がいないわね。どうしたの?
ミアはいなくても珍しくないけど、あの二人はいつも来ているでしょ?」
そう言えば、ミアっていつも来てないよね。いやまぁ、呼び忘れていることが多いだけだけど......。
次ある時は、絶対に呼ばないと。どうせ三日後にあるだろうし......。
「今日はもう寝ていますよ。私が人里に買い物に行った時も眠そうにしていましたし。
まぁ、私も少し眠いですけど、お姉様がいるから......」
「そう、姉に付いてきたのね。レミリア、もう帰っていいわよ」
「えぇー、どうしてよー」
「あんたが帰れば、レナも帰るからに決まってるじゃない」
「まぁ、確かにそうですね。お姉様に付いてきただけですし、私はお姉様と一緒にいれば......」
お姉様が帰るならば、私はここに来る意味はないしね。いやまぁ、今回はお姉様に嫌われそうになったから、付いてきただけだけど......。
「ほんと、重い気がするわね、貴方達......」
「失礼ね。そんなに重くないわよ!」
「......勘違いしているのは分かったけど、わざわざ説明するのも面倒ね......。というか、説明しても自覚しないでしょうし」
「え? どういうこと?」
「気にしないでいいわ。それよりも、飲みなさい。先に来てた咲夜はまだ借りとくけど」
「えぇ、好きに使いなさい」
姿が見えないと思っていたら、咲夜は先に来ていたんだね。
やっぱり、料理上手だからか、色んなところに引っ張られるよね、咲夜は。
「レナ、今日は二人だけで飲む? それとも、みんなと一緒に飲む?」
「みんなと言っても、個性強い奴が多いけどな。しかも、いつものメンバーだしな」
「そのおかげで、私の神社には全く人間が来ないわ......」
辺りを見渡すと、紫と飲んでいた幽々子と目が合った。そして、幽々子はこっちに来いと言わんばかりに手を振っていた。
やっぱり、あの人は苦手だから、お姉様と一緒に飲んどこ......。
「......お姉様と一緒に飲みたいです」
「そう、分かったわ。霊夢、咲夜にワインとトマトジュースでも持ってこい、って言ってくれないかしら?」
「分かったわ。咲夜ー、貴女のお嬢様が呼んでるわよー」
「......え?」
どうしてトマトジュース? もしかして、お姉様、トマトジュースと血を勘違いしている?
い、いや、聞かないでおこう。間違ってたら怒られるし......。
「え? レナ? どうしたの?」
「え? いえ、どうしてトマトジュースなのです?」
「貴女のためよ」
「え、え?」
「......自覚ないのが一番怖いわね。貴女、ワインは止めておきなさいよ。絶対に」
「え? どうしてですか?」
「......理由は聞かないで。ただ、貴女はお酒に弱いだけ......」
え? お酒に弱いの? あ、そう言えば、確かにお酒飲んだ後は記憶が飛んでいるだった。
多分、気を失うのね。だから、お姉様は私に止めさせているのかな。
「まぁ、お姉様の言うことなら......」
「お嬢様、ワインとトマトジュースをお持ちしました」
「ありがと。さ、レナ。乾杯しましょう」
「有難うございますね、咲夜。はい。乾杯、です」
「乾杯。......美味しいわねぇ」
「はい、そうですね。......私、トマトジュースですけど......」
別に嫌いってわけじゃないけど、周りはみんなワインとかお酒を飲んでいるからなぁ。
お姉様と同じようにワイン飲みたいのに......。
「あらぁ、トマトジュース? 可愛いわねぇ」
「......え? げっ、幽々子さん......」
声がした方を振り返ると、背後には幽々子がいた。
ほんと、この人は怖いわ......。まぁ、亡霊だから怖いのは当たり前なのかもしれないけどさ。
「『さん』は要らないわぁ。幽々子でいいわよ〜」
「あぁ、亡霊のお嬢さまね。私の妹に何の用?」
「何も用なんてないわよ〜。ただ、一緒に飲まない? って思ってねぇ」
「全力でご遠慮させていただきます」
「幽々子、貴女も嫌われてるわね。でも、本当は良い人なのよ? ちょっとおかしなところもあるけど......」
そう言いながら、先ほどまで幽々子と飲んでいた紫がやって来た。
紫にはそこまで苦手意識なんてないけど、胡散臭いからあまり関わりたくない人だ。
「失礼ね〜、まぁ、いいわ〜。今度、一緒に飲みましょうね〜」
「......行っちゃったわね。結局、それだけ言いに来たってことかしら?」
「......そうみたいですね。それにしても......やっぱり、トマトジュースじゃ虚しいです......」
「うーん。もっと別のものが良かったかしら? いえ、でも血みたいで良いじゃない?」
「お姉様の感性が時折分からなくなりますね......」
結局、宴会が終わるまで私はお姉様と会話していた。
帰る途中、この異変に巻き込まれることも知らないで────
次回は日曜日。次こそは遅れない(フラグではないと祈りたい())