次回で5章が終わり、6章に行く予定です。
side Hakurei Reimu
──博麗神社
冬があけ、ようやく春がきてから数日がたったある日。
桜も満開から狂い咲きへと変化しようとしていた。
そして、神社で毎日のように花見をしていた私達も、徐々に新鮮味が薄れてきた花見に飽き、いつもの日常へと戻ってきた頃だった。
「......花見はいいけどね」
「いいけど?」
「最近、亡霊が増えた」
「もう、花見も幽霊見も飽きたぜ」
最近、よく亡霊やそのお嬢さまが神社に来るようになった。
いや、それだけならまだいい。この亡霊のお嬢さま、うちにある物を何でも食べてしまうから余計に腹立たしい。
「みんな、久々の顕界で、浮かれてるのよ。たまにしか出来ない観光だわ」
「良かったな、この神社にも参拝客が来て。それも大勢」
「でも、誰もお賽銭を入れていかないわ」
せめて、神社に来るなら賽銭くらい入れて欲しいわ。それなら、少しくらいは考えてあげてもいいのに。考えるだけだけど。
「幽霊は、誰も神の力なんて信じていないって。神社なんかを巡るのは学生霊の修学旅行かなんかよね」
「やっぱり、祓おうかなぁ」
人が滅多に訪れない私の神社は、いつの間にか霊たちの観光スポットとなっていたのだ。
「こんな所にいた。亡霊の姫」
そのとき、場違いな格好をした一人の人間が神社を訪れたのだ。
その人間は、俗に言うメイド服という服を着た悪魔の従者、十六夜咲夜だった。
「私? メイド風情がこんな所まで何の用?」
「こんな幽霊だらけの神社に人間とは、場違いだぜ」
「こんなとは失礼ね!」
「あなたが、ひょんな所でのん気に花見してるうちに、巷は冥界から溢れた幽霊でいっぱいだわ。
何を間違えたか家の近くまで来ていたから、あなたに文句を言うために探したのよ。
うちには、病み上がりの妹様がいるから、あまり騒がしいのはご遠慮したいのよね」
「へぇー、最近行っても見ないと思ったら、そういうわけか。吸血鬼でも病気にかかることがあるんだな」
「病気と言ってもただの風邪よ。一週間も引いてたけど......」
「......あらあら、それは大変ね。でも、安心しなさい。私だって、ただひょんな所でお茶を濁しているだけじゃないわ。
もうすでに、冥府の結界の修復は頼んであるわ」
なんだか......今の間が気になるわね。まぁ、私には関係なさそうだからいいけど。
「ならなんで、ひょんな所でのんびりしてるんだ? 帰れなくなるぜ?」
「ひょんなって何よ」
「幽々子様! またみょんな所に居て......それより大変です」
そして、また一人、亡霊姫をたずねてくる者がいた。......いや、一人ではなく、二分の一人の方が正しいか。
その二分の一人とは、この亡霊のお嬢さまの従者、魂魄妖夢だった。
それにしても、ここは従者やお嬢さまがよく来るわね。お嬢さまならせめて、賽銭くらい入れて欲しいわ。
「あなた、さっきの私達の会話聞いてたみたいね」
「え? と、とにかく、あの方に結界の修復を頼んだのに、まだ寝ているみたいなんですよ」
「あぁー......あいつは、冬は寝るからなぁ。でも、もうとっくに春になってる気がするけど」
「春になったのは、地上ではまだ最近です」
「あんたらの所為でな」
「じきに起きて来るわ。毎年の事じゃない」
「遅れる分にはいいんですけどね」
「あんまり良くない!」
妖夢のその言葉に、思わず三人とも声が出てしまった。
ほんと、誰のせいでこんなことになったか分かってないのかしら。
「ただ、代わりに変な奴が冥界に来ているんです。あの方の、何でしたっけ? 手下? 使い魔?
そんな様な奴が、好き勝手暴れてるんですよ」
「そんなん、その刀ですぱっとしちゃえば?」
「まさか、滅相もございません。
幽々子様の友人の使いだと言う方を、斬るなんて出来ないですから」
ん、これは......こいつらに恩を売るチャンスなんじゃない?
「......なら、私が懲らしめてあげようか?」
「なら、私がすぱっと」
「すぱっと」
「そうねぇ......それなら、任しておきましょう」
「え、良いんですか? 友人の使いですよ?」
「友人の使いは友人ではないわ」
あら、みんなも行くのかしら? それなら、私は別に行かなくてもいいわね。
よく考えると、恩なんて売っても仕方ないよね。
「みんなが冥界に行ってくれるなら、私は行かなくてもいいわね」
「何言ってるのよ、私も忙しいの。妹様が風邪を引いてたのよ?」
「まぁ、私はかまわないけど、みんなの代わりに行く気は無いぜ。
ここは一つ、ジャンケンで決めるってのはどうだ?」
「ありきたりね」
「ありきたりだわ」
まぁ、それが一番妥当だけど。公平だしね。
「ジャンケンで、後出しをしなかった奴が行く」
「それでいいわ」
「いいわよ」
「ジャ~ンケ~ン......ほい!」
「げっ......」
「おっ、霊夢の負けだな。珍しいな。お前がジャンケンで負けるなんて。
まぁ、勝負は勝負だからな。後は任したぜ」
「そうね。幽霊のことは任せるわ。私は館に戻っているから」
こいつら......でも、はぁー、仕方ないわね。
「分かったわよ。私が行くわ。......で、あんたらはどうするわけ?」
「え? 私達? ......どうします? 幽々子様」
「もちろん、終わるまでここに居るわよ〜」
「いやいや、帰りなさいよ」
「そうね、気が向いたらそうするわ」
「今すぐ帰りなさい」
こうして、私は、薄くなった冥界との境を行き来し、何故か冥界の秩序を保つ羽目になっていたのだ。
私が出かけている間も、亡霊の姫はここの神社に居たり、いなかったりと、好きな様に生活しているらしい────
side Renata Scarlet
──博麗神社
風邪が治り、フランとルナにバレないように、いらないであろう風邪が治ったという報告と暇つぶしのために博麗神社に向かっていた時のことであった。
「フランもルナも酷いです。まだ寝てろなんて......もう治ったのに......。ん、なんでしょう、この寒気は......あ、まさか」
そんなことをボヤいていると、神社から寒気を感じた。
この寒気は前にも感じたことがある。冥界に行った時、あの亡霊の姫に会った時と同じ寒気だ。
そう思った私は、とっさに近くの草むらに隠れて、神社の様子を見てみた。
正直に言うと、あの人は苦手だ。何故かは説明できないけど、苦手な人だと直感で感じた。
「皆さん、行っちゃいましたね」
「えぇ、そうね。まぁ、二人ほど家に帰ったみたいだけど。
あぁ、それと妖夢。使い魔じゃなくて、式神よ。似たようなもんだけどね」
様子を伺っていると、そこには幽々子と半人半霊の庭師である妖夢が縁側に座り、お茶を飲んでいた。
話の内容からして、霊夢達は異変の後片付けに向かったみたいだね。
「......幽々子様はなんでほったらかしにしてるんですか?」
「あら、庭の掃除は誰かに任せっきりですけど」
「みょん」
んー、霊夢達がいないなら、ここに居ても意味がないか。よし、帰るか。見つかる前に──
「あら、何処に行くのかしら?」
「え、ひぇっ!? い、いつからそこに!?」
「って、幽々子様? 一体何処に......」
いつの間にか、幽々子が私の背後に居た。音もなく、気配も感じなかった。
もしかして、幽々子が苦手なのは、幽霊だからかな......。私、幽霊にいい思い出なんてないし......。
「今から。それで? 何処に行くつもりだったのかしら? 今来たばかりでしょうに」
「えっと......霊夢に用があったのですが、居なかったので、帰ろうと......」
「あらあら、それは残念ね。でも、伝言くらいは伝えてあげるわよ」
「え、あ、有難うございます......。でも、また来るので大丈夫ですよ、えぇ、だから別に──」
「遠慮しなくてもいいのよ〜。あれでしょ? 風邪が治ったけど、姉妹にまだ心配されて、寝てろなんて言われて暇だったから隠れてここまで来たんでしょ〜」
え、何この人怖い。どうして知ってるの? 頭の中でも見られた? い、いや、覚じゃないからそれは大丈夫だよね、うん。
って、だとしたら、余計に怖いんだけど......。何この幽霊めちゃくちゃ怖い......。
「あらあら、適当に言ったのに図星だったの? 安心しなさい。今言ったことには特に意味はないから」
「要するに、今言ったこと以外には意味が......」
「あ、幽々子様。そちらに......あ、貴女は......」
幽々子と話している間に、ようやく幽々子の場所が分かった妖夢がやってきた。
「あ、お久しぶりです。妖夢さん」
「お久しぶりです。って、どうしてこちらに?」
「妖夢、それはもう聞いたわよ。もっと面白味がある質問をしなさい」
「え、そ、それなら......妹さん達は?」
「それも普通過ぎて面白くないわねぇ」
「えぇ!? い、一体どういう質問をすれば......」
あぁ、うん、妖夢さん、頑張って。幽々子相手だと色々と大変だろうけど......心を強く持ってね。
まぁ、私はできる限り関わりたくないから、手伝ったりはしないけど。
「ふふ、冗談よ、冗談。でも、さっきの質問で答えが出てるのよね。だから、それももう聞いたわ」
「え、そ、そんなぁ......」
「......妖夢、色々と、頑張ってください」
「え、あ、有難うございます」
「うふふ、さて、妖夢いじりも終わったし、もう帰ってもいいわよ。充分楽しめたから」
「え、幽々子様!? いじって楽しんでたなんて......」
本当に可哀想に見えてきた......けど、幽々子に許可貰ったし、帰るか。うん、今すぐにでも。
「では、私は帰りますね。またお会いしましょう」
「あらあら、心にもないことを......。でも、また会うことになりそうね。貴女......いえ、貴方達には、ね」
「え、幽々子様? 物凄く悪い顔に......」
「そ、それはどういう意味なのです?」
「秘密ですわ。......大丈夫、すぐに分かることよ。貴方達、吸血鬼にとって数年の出来事なんてあっという間に過ぎるでしょうから」
「そ、そうですか......」
こうして、私は幽々子の意味深な発言が気になったものの、すぐに館へと帰っていった。
ちなみに、フランとルナにはすぐにバレて、かなり怒られたのであった────
次回はテストとかあって金曜日の予定です()