東方紅転録   作:百合好きなmerrick

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久しぶりに九千文字という長さです()
それでも大丈夫な方は、お暇な時にでもどうぞー


日常編その7、 「もう一人の私の振り回す一日」

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レナータの部屋)

 

 ある冬と勘違いするほど寒い季節の日。

 寒いのが苦手な私は、自分の部屋の毛布から出ずに一日を過ごそうとしていた。

 

 しかし、その浅はかな考えも、朝起きてすぐのノックによって崩されることになる。

 

「フラン? それともルナですか? 今日は寒いから外出たくないのです......」

 

 最初は居留守でもしようかと思ったが、もしもフランだと後々後悔するのが目に見えていた。

 だからこそ返事はしたものの、故意なのか聞こえなかったのか返事が返ってくることはなく扉が開かれた。

 

「勝手に開けて......ということはフラン? ノックした後も返事がなければ──きゃっ!?」

 

 何も喋らず、毛布にくるまっている私の上に乗ってきた。

 

 急に乗られて痛みはあるも、これくらいの悪ふざけならいつも通りなので、逆に可愛らしいとさえ思っている。

 

「もう......フラン? 一体何を......」

「残念でしたー! ミアだよーっ!」

 

 毛布から顔を出すと、自分と鏡写しの顔が目に入った。

 

 フランのように悪戯じみた顔もなく、ただ純粋に面白がっているだけの自分そっくりの顔だ。

 

「......なんだ、ミアですか。何か用ですか?」

「うわー、ひどくなーい? フランじゃないと分かった時の対応がー。

 別にいいけどさぁ。ほんっと、レナってフランのこと好きだよねー。私も好きだけど」

「可愛い妹ですからね」

「ふふっ、そうだね。でさ、私と一緒に出かけない?」

「先ほども言いましたが嫌です」

 

 そう答えると改めて毛布を顔まで被った。

 それほどに今日は外に出たくない気分なのだ。

 

「うーん、それって寒いからだよね? 私が暖めてあげるから行こうよー」

「......どうせ、無理と言っても諦めないのでしょう?」

「もちろん。......言わなくても分かるって凄いよね。

 やっぱり私のことを一番知ってるだけあるなぁ」

 

 ミアはどことなく嬉しそうな顔でそう言った。

 

 ──最初は嫌だったはずなのに......。やっぱり、一緒にいるうちにミアも心変わりしているのかな?

 

「はぁー......今回だけですよ?」

「ふふっ。話が早くて助かるよー。じゃあ、早く用意してね。待ってるからー」

「ここで待つのですね......。別にいいですけど」

 

 寝巻きから厚着に着替え、準備が終わるとミアと一緒に外へと出た。

 

 

 

 外は寒いとはいえ雲は薄いらしく、少しだけ日が差していた。

 私達はいつも通りにフードを被って日から身を守る。

 

「あ、妹様方。......今日も仲がいいですね〜」

「寒いからしているだけですよ」

「でも仲がいいのは合ってるよねー」

 

 確かに暖めてあげるから、とは言われた。だが、何故かミアは魔法で暖めることはせず、腕を組んで寄り添うという古典的な方法で暖めにきていた。私が魔法を使ってもよかったのだが、確かに暖かいし何か意図があるのだろうと使うことは無かった。

 

「......まるで恋人同士みたいですね」

「そう言われるなら、できればお姉様がいいです......」

「左に同じー。でも、レナなら悪い気はしないなぁ」

「あははー。妹様方は、今日も山の方に行くんですか?」

 

 幻想郷で山といえば妖怪の山のことだろう。しかし、ミアがそんな場所まで行ってるとは知らなかった。

 あそこは天狗が縄張りとしている。そして、吸血鬼異変の時に色々とあったらしく、私達にとっては危険らしい。

 

「そこも行くけど他の場所も行くよー」

「へぇー、楽しみですねー」

「......そう言えば、何処へ行くか聞いていなかったのですが......」

「まずは近場の湖に行って、次に山。その後は夜になったら竹林とか回るのー」

「......? そ、そうですか」

 

 湖に山に竹林......。全く以て繋がりが見えない。どうしてそれらを回るのか、そして目的は一体なんなのか。

 聞いてみてもいいが、おそらく答えてはくれないだろう。そもそも、何も目的はなく、ただ単に最近遊んでいないから遊びたいだけなのかもしれない。

 

「じゃあ、行ってくるね、美鈴」

「行ってきます」

「はい、お気を付けてー」

 

 疑問には思うもそれを頭の片隅へ置くと、ミアに連れ添られて紅魔館を後にする。

 

 

 

 ものの数分ですぐ近くの湖、霧の湖に着く。そこは普段通り濃い霧が現れており、薄らと見える水面が凍り始めていた。

 

「チルノー。大ちゃーん」

 

 湖の中心い着いたと同時に、ミアは私から離れて聞いたことのある名前を呼び始めた。

 

 おそらく待ち合わせでもしていたのだろうが、姿が見えずに心配しているミアの顔がちらりと見えた。

 

「チルノー! ......レナも探してよー」

「え? あ、はい。......ミアはチルノ達妖精と知り合いなのです?」

「うん。友達なんだよー。昔、ここら辺で飛び回っている時にチルノが見かけない顔だからって勝負を仕掛けてきてね。まぁ、それはもちろん勝ったんだけど、その後に色々あって仲良くなったの」

「その色々が大切そうなのですが......」

 

 省略された部分は気になるも、長い話になるからと思って言わなかったのだろう。

 ──また今度、二人の時にでも話を聞くとしようかなぁ。

 

「あ、レナ。ルーミアだよ、あれ」

「え? あぁ、本当ですね。それにしても分かりやすいですね......」

 

 ミアの指差す方向には、黒く丸い物体がふらふらと宙を浮いていた。

 

 雲で日が隠れていたり、霧が濃いとはいっても、朝にその黒い球体は霧の中ではよく目立っていた。

 

「ルーミア、おひさー」

「この声は......ミアかー?」

「そうよー」

「そーなのかー」

「知り合いなのですね、ルーミアも」

「友達よー。こっちに来て初めての友達ー」

 

 偶然会ったはずのルーミアも友達だったと知り、驚きと同時に悲しくも思った。

 理由は、フラン達とばかり遊んでいたこともあり、古明地姉妹以外にちゃんとした友達がいない自分のことを思ってのことだった。

 

 ──やはり、友達を作るならミアのように積極的に行かないとなぁ......。

 

「んー......わっ!? ミアが二人!?」

 

 ルーミアは自身の能力を解いて姿を現すと、ミアと私を見比べて驚いていた。

 

「前に言ってたレナだよー。私の双子の妹のー」

「なるほどー。レナもよろしくねー」

「よろしくお願いします。あ、一つ訂正すると、私が姉ですね」

「レナ嘘つかないでよー」

「本当のことですよ?」

「え、えぇっ?」

 

 ルーミアがどちらを信じればいいのかと悩んだ顔になる。

 

 私もミアも、本当はどちらが姉かなんて今はどうでもよくなっていた。それでもからかいがいがある子の前では面白半分でいつもやっているのだ。

 

「全く、レナってばー。あ。でさ、可愛いでしょ、ルーミア(この娘)

「ふふっ。そうですね。容姿がフランに似ているのもあり、小さい時のフランを見ているようです」

「今も充分小さいけどね、私達」

「あ、なるほどー。からかってたのねー」

 

 意外と早く気付くと手をポンと叩き、納得した表情へと変わる。

 

 能天気なのか温厚なのか、からかわれていたと分かっても何とも思っていないようだった。

 ──そもそも、笑って許してくれそうな人にしかこういうことはやらないけど。

 

「ミアは今日何をしに来たのー?」

「チルノ達と遊ぶ約束があったから来たのー」

 

 ようやく目的を知れたが、やはり遊びたいだけのようだ。もしかしすると、本当はお姉様でも誘っていたが無理だったため、代わりに私を誘うことにしたのかもしれない。

 

「でね、ルーミアはチルノがどこにいるか知らない?」

「それならさっきぶつかったよー。案内するー?」

「うん、お願ーい」

「ぶつかったことに対しては何も言わないのですね......」

 

 ルーミアに案内してもらい、しばらく霧の中を進むうちに段々と冷えてきた。

 そしてさらに、まだ少し早い湖が凍っている部分も見えてくる。

 

「あ、声が聞こえてきたね。もうすぐかな?」

「やっぱり吸血鬼は耳がいいんだね。私はまだ何も聞こえないよー」

「私もまだ......あ、聞こえてきましたね」

 

 霧の奥から騒ぐ声とそれを制する声が聞こえてくる。

 おそらくはチルノと大妖精なのだろう。

 

 しかし、チルノ達と遊ぶとは言ったものの、これから竹林や山も行くというのに何をするつもりなのだろうか。

 

「居たよー」

「あー、見えた見えた。チルノー! 大ちゃーん!」

「あっ、ミアさん!」

「遅い! ミア遅すぎたぞ!」

 

 ルーミアに案内された場所には、暇だったのか湖を凍らせて遊んでいたらしいチルノと大妖精が氷の上に立っていた。大妖精のホッとした様子から、チルノに苦労させられていたのだろうと察せられる。

 

「なっ、だ、大ちゃん! ミアが二人いる!」

「チルノちゃん。多分、双子のレナさんだと思うよ。ほら、前に言ってた......」

「なんだレナかー。よろしくな!」

「ち、チルノちゃん......!」

「よ、よろしくです。......元気ですね、この娘」

 

 元気というよりも、吸血鬼である私相手にタメ口......なんてお姉様のようにはならないが、怖いもの知らずなのだろうか。実際、横にいる大妖精はチルノの言動を聞いて慌てているようなのに当の本人は気付いていないようだ。

 

「元気は大切だよ。大丈夫よ、大ちゃん。レナはお姉ちゃんと違って吸血鬼だからー、とかは無いからね」

「お姉様は冗談半分であって、本当に種族で差別なんてしてないですけどね」

「あ、ごめん。お姉ちゃんだからー、はあったわぁ」

「ミアだってそうでしょう?」

「そうだけど......。普通そこは否定......しないかぁ。レナだもんね」

 

 何故かとても失礼なことを言われている気がする。

 しかし、不思議と嫌な気分はしない。

 

「それで? 何して遊ぶつもりなのです? ミア」

「え? そんなの決まってるじゃん」

「レナ! あたいと弾幕ごっこで勝負だ!」

 

 一瞬、ほんの一瞬だが、全ての時間が停止したように見えた。

 ──どうして、初対面ということは置いといても、私となのか......。

 

「......ミア、手短に説明を」

「チルノにね、レナに勝ったらレナを舎弟にしてもいいって言ったんだー」

「舎弟って......。いえ、もうそれはいいです......」

「それよりも、どうして許可なんてしたか、でしょ? それはもちろん私の妹だから、かな?」

「フランやルナがいるでしょう? いえ、力加減しないでしょうから危険ですか......」

 

 要するに、チルノと遊びやすいから私が呼ばれたのだろう。

 ──......なんだかなぁ。

 

「うちの妹、特にルナはねぇ。フランはまだ上手な方だけどさぁ」

「あの娘も上手になってきてますよ。今では能力を自在に操るくらいはできてますから」

「おーい、 カードは何枚にするー?」

「あぁ、すいません。できれば三枚でお願いします」

 

 三枚というのも、力加減しやすいのがその三枚なのだ。とは言え、相手が本気で来るのに手加減するのも失礼なので、最後の一枚だけはチルノの強さを見て本気でやるかどうか決めるのだが。

 

「大ちゃん見ててー! あたい、勝つぞー!」

「が、頑張ってね!」

「とりあえず......ミア。帰ったら勝手に言ったことについて話しましょうね」

「だが断るー」

 

 こうして私達は少し距離を置き、弾幕ごっこを始めた。

 

 

 

 弾幕ごっこが終わってしばらく遊んだ後、チルノ達と別れて現在は妖怪の山へと向かっていた。

 

「はぁー、ちょっとくらいピンチになりなよー」

 

 結局、弾幕ごっこは私の勝ちで終わった。チルノは妖精にしてはかなり強い部類には入るが、それでも(吸血鬼)に勝つには千年早かった。ピンチらしいピンチは無く、圧倒的な力によって勝った。

 しかし──

 

「チルノの諦めの悪さは私よりも上でしたね。気迫に負けそうでしたよ。......あのまま諦めずに頑張って修行でもすれば......いつか吸血鬼と並ぶほど強くなりそうですね」

「ふふん。でしょ? 私も見どころあるなー、って思ってるのよー」

「......私が言ったことは一概に良いこととは言えませんけどね」

 

 あのまま強くなるということは妖精という枠から抜け出すことに等しい。映姫様が同じようなことを言っていたが、私にはあのまま強くなって良いことになるのか悪いことになるのか、それは分からない。おそらくは『一回休み』をすることもできなくなるだろうが......それくらい強くなれば死ぬことが無いかもしれない。

 

 しかし、万が一、億が一ということも......。

 

「レナ、顔怖いよ?」

「色々と考えていただけですよ。さて、山が見えてきましたが?」

 

 話をしているうちに気付いたが、もう山の近くまで来ていた。

 やはり幻想入りした本当の八ヶ岳なのだろうか、富士山よりも高い気がする。気がするだけかもしれないが。

 

「射命丸と会う約束してるから、降りて探そっか。文々。新聞屋さん」

「思ったのですが、普通にワープゲート作って行ったほうが良くないですか?」

「歩いて行ったほうが色々な出会いがあるのよ?」

「飛んでましたけどね、今までずっと」

 

 話をしながら妖怪の山の麓へと降り立つ。

 

 それからは、木々をかいくぐりながら、山の頂上へと向かっていた。

 

「あの、ミア? 本当に何処か知らないのですか? む、虫がいそうで......」

「虫とか聞くだけでも嫌なんだけどー......」

 

 話している通り、私達は虫が苦手だ。お姉様達も苦手だが、私達ほどではなく一緒にいると心強い。

 

「......なんかさー。話していると出てきそうだよね? 出てきたら私、自分を抑えることが......」

「やめてください。後で天狗達に怒られるようなことは本当に」

「だ、だって虫だよ!? ......あ、あぁ! あっ!」

 

 突然、ミアが指を指して声にならない声をあげた。

 

 話をすれば何とやら、と言うこともある。

 ──ということは......。

 

 そう思い、恐る恐るミアの見ている方向を見た。

 

「......。ミア。あれはリグルです。リグル・ナイトバグ。妖怪です」

「で、でも、むむむ、蟲......」

「妖怪です。蟲の妖怪とかではなく、ただの妖怪です」

 

 目が危ういミアに対して、そして自分にも対して必死に言い聞かせる。

 しかし、ミアは全く話を聞いていないようだった。

 

 私はと言えば、今では全く問題ない。初めて会ったときはダメだったが、今は頭の触角を見なければ大丈夫なのだ。

 しかし、おそらくミアは虫という言葉を連想させるだけでダメなのだろう。

 

「リグルー! 超逃げてくださーい!」

「わっ!? な、何!? あ、貴方は......えーっと......?」

「レナです。えー......昔会いましたよね。ほら、レミリアとか咲夜という言葉に聞き覚え──」

「あー! あの時の失礼な! ......が二人? あ、双子?」

 

 多少驚いたものの、自分の中で納得できる答えを導き出したようだ。

 

 ──はぁー、初対面の人には毎回同じ反応をされるのかなぁ。

 

「っていうか、そっちの人、大丈夫?」

「れ、レナ! 虫が喋ってる!」

「あ、また失礼なタイプー。レナ......だっけ? 虫は怖くない、とか教えてなさいよ!」

「いえ、悪くないとは言いますが怖くないとは言えません。絶対に」

「あう、相変わらずだった......」

「それは貴女も......って、ミア?」

 

 ゆっくりと横で高まる妖力と魔力に、疑問と同時に危険を感じた。

 ──あぁ、嫌な予感しかしない。

 

「り、リグル!逃げてー!」

「えぇ? あ、なるほど。わ、分かった。......でも、釈然としないから、今度話を聞きに家にお邪魔するねー!」

「おもてなしはしますが、できればミアがいない時にお願いしますね!」

「ぁ、ぁぁ......はっ! ......もう、行った?」

 

 分かっているから聞いているはずなのに、ミアが恐る恐る聞いてきた。

 

 ただ苦手なだけならいいのに、この娘は苦手にも程がある。が、私も昔は似たようなものなので多くは言えない。

 

「もう行きましたよ。安心してください」

「う、うん......。怖かったぁ......」

「見た目はただの少女なのですけど、あの人......」

「で、でもぉ......」

「侵入者ですか?」

 

 騒ぎのうちに近付いていたのか、上空から声が聞こえた。

 

「ふぁっ!? な、なんだ、椛かぁ......」

 

 見上げると、そこには白い犬耳と尻尾を持ち、剣と盾を構えた天狗、椛がいた。

 ミアの高まった妖力か魔力に気付いて来たのか、千里眼で見つけて来たのかは分からないが、武器を構えているということは敵だと思って来たのだろう。

 

「......ミアさん? ふぅー。ビックリしましたよ。大妖怪並の妖力を感じて、千里眼で探って来てみたから、吸血鬼がまた襲撃しに来たのかと......」

「ご丁寧に説明ありがとうございます。理由はミアの勘違いによるものなので、気にしないでくださいね」

「はい。......吸血鬼!? あ、じゃなくて、貴女がレナさん? 文さんが噂していましたよ!」

 

 武器を出したり納めたりと、緊張してるのか忙しない。

 しかし、前世とは言え知っている人が来てくれたのは良かった。もしも知らない人なら、運が悪ければ戦闘になっていたかもしれないからだ。

 

「へぇー、文さんに......嫌な予感しかしないのですが?」

「気のせいですよ。文さんはちょっと変わり者......あ、皆さん! 文さんの友人なので大丈夫です!」

「へっ? ──わぁ!?」

 

 椛の一声とともに、周りの木々の動く音が一斉に聞こえた。

 

 どうやら気付かなかっただけで、本当は椛以外も来ていたようだ。

 

 ──私が気付かないなんて......やっぱり、天狗は相手にしたくない種族だなぁ。

 

「......いつの間にです?」

「私が話しかける数秒前に集まって、それから私が率先して行きました。危険そうな時は、私が一番に行くと決めているのです」

「凄いですね......」

「そ、そうですか? えへへ......。あっ。文さんのところに案内しますよ! 多分、仕事場にいるので!」

「ありがとねー」

 

 椛に案内され、山を登っていく。しかし、懲りていないのか頑固なミアは空を飛ばないので、必然的に歩いて向かうことになっていた。

 

「着きましたよ。ここが文さんの仕事場です」

 

 そこは人里でも稀に見る高価そうな平屋だが、名刺の代わりに看板に大きく『文々。新聞』と書いてあった。それがあって初めてここが文の職場だと実感できる。

 

「文さーん。ミアさんとレナさんがいらっしゃいましたよー」

「あやや? 椛じゃない。あ、これはこれは。ようこそ文々。新聞へ。既にご存知かもしれませんが、私が責任者の射命丸文です」

「レナです。よろしくお願いします」

「ささっ、立ち話もなんですし、中にどうぞー」

 

 ご丁寧に礼や握手まですると、中へと誘われた。

 

 中は新聞を刷る機械らしき物や、沢山の記事が置かれた机。そして、壁にかけられた幻想郷の地図と主な場所など書かれた物があった。

 こうして見ると、なかなか努力しているのが伺える。

 

「ミアさんにみたいに驚かれていますねぇ。私が仕事を始めてから集めた情報です。かなり時間もかかりましたが、やりがいのある仕事ですよ」

「へぇー......って、ミアは来たことがあるのですか?」

「うん。紅魔館の内部事情とか、色々聞かれてね」

「いやぁー、あれは参考になりましたよー」

「......貴女、吸血鬼としての威厳ないですよね」

 

 とは言え私も無いのだが。それでもお姉様に内緒で紅魔館の内部事情を話すのはどうかと思っている。

 

「あ、お姉ちゃんには許可貰えたよ。お姉ちゃんったら、天狗に私のカリスマ性を......とか何とか言って可愛かったのー」

「お姉様ェ......。というか、そう話しているということは......いえ、お姉様の威厳のためにもここまでにしましょうか。話は。

 それで、私に聞きたいこととは? 話せる範囲なら答えますよ」

「おぉ、その気前の良さ! 流石吸血鬼ですねぇ。実は、『紅霧異変』に加えて『春雪異変』と『永夜異変』に関わっているというお話を耳に入れましてねぇ」

 

 その話を聞きながら、ちらりとミアを見る。すると、口笛を鳴らしながらミアが顔を逸らしたのが見えた。

 

 ──......あからさますぎてなんと言えばいいのかなぁ。

 

「要するに、霊夢や魔理沙には話してもらえないから、私に話を聞きたいと?」

「えぇ! もちろん、それなりの見返りは用意しますよ?」

「......ミアから聞いたお姉様のことを全て話してくれるなら」

「え? そ、それはミアさんから許可を......」

「いいよー。全部話しても。変なことは言ってないしねー」

 

 珍しく怪しい笑みを浮かべたその顔は、フランの悪戯じみた顔にも見えた。

 改めて思ったが、フランと私はよく似ている。

 

「言ってくれるなら、話しますね。まずは、お姉様の異変から......」

「えぇ、お願いしますね」

 

 少しミアに嵌められた気分になるも、丁寧に、一つずつ思い出しながら文に話をした。

 

 

 

 話を終えて山を降ると、そのまま竹林へと向かっていた。

 理由はもう夜も遅くなり、丁度いい時間になっていたからだ。

 

「はぁー......今日はミアに嵌められて散々でしたよ......」

「別に悪いことはしてないでしょー。それに......楽しかったでしょ? 少なくとも私は楽しかったよ。レナと一緒に出かけれてね」

「......楽しかったことを否定はしません。たまにはいいですね。外に出るのも」

「なんか言ってることが引きこもりみたいよー? ......今日は付き合ってくれたお礼に、最後はご馳走するよ。もう着いたみたいだしね」

 

 竹林の入り口には、『焼き鳥撲滅』と大袈裟に書かれた旗を掲げ、のれんに『八目鰻』と書かれた屋台があった。

 流石にここまで大袈裟だと気付く。十中八九ミスティアの屋台だ。

 

「てんちょー。私が来たよー」

「いらっしゃいませー。予約してたミアさんとレナさんですねー」

「ここ、予約もできるのですね......」

「予約と言ってもどこで店を開くか程度ですし、常連さんなんで予約も許可しただけですけどね」

 

 素で人脈が広いミアに対して驚いた。

 まさか、ここまで広いとは思っていなかったし、親しい友達が多いのも意外だった。

 

 ──見た目が人間のようだから親しくできるのかな? いや、それでも私が来たら驚いて......。

 

 色々と考えてみるも、やはり性格の問題という答えにたどり着く。

 館から出てもフランやルナとしか遊ばない私に比べて、ミアは凄いなぁ、と改めて尊敬できた。

 

「では、ご注文は何に致します?」

「もちろん、八目鰻定食を二人前ね。あと......レナ、日本酒飲む?」

「帰るとき、二人とも酔っ払ってしまえば大変なことになりますよね......」

「うん。だからレナだけ飲まないかなぁ、ってね」

「えぇ......」

 

 凄いとは言ったが、前言撤回しよう。やはり、性格は変わっていない。

 しかし、尊敬できることには尊敬できる......と思う。

 

「ふふっ。冗談よ、冗談。てんちょー。コーラを二つー」

「いやそこは水でしょう。というか、あるのですか?」

「こ、コーラ......?」

「やっぱり無いじゃないですか......。ミア、困らせちゃダメですよ」

「ふふん。ごめんね、てんちょー。じゃぁ、水貰いまーす」

 

 静かな竹林。その近くにある屋台で私達は夕飯を食べながら一日を過ごした────




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