今回は、題名通りです。
side Renata Scarlet
──地底(入り口前)
「ミア、本当に大丈夫なのですか?」
二月半ば、普段よりも少し暖かい冬のある日。
私はミアと一緒に、地底の入り口まで来た。理由は、ルネとか何してるのか気になる、ってことらしい。
まぁ、本当は地底に興味があるだけなんだろうけど。ミアって、好奇心旺盛な方だし、一度だけでも行ってみたいのだろう。
「大丈夫だよ。ほら、 私達には能力があるでしょ?」
「ま、まぁ、そうですけど......地底と言ったら、鬼とか私達よりも強い妖怪が沢山いるのですよ? 地上の妖怪だとバレたら......」
「まぁ、確かに妖怪同士で何か取り決めとかしてるらしいけど? そんなの、私達には関係ないじゃん」
「いえ、私達も妖怪なので関係はありますよ」
「え、そうなんだ」
確か、地上の妖怪は地底に入っちゃダメで、地底の妖怪は地上に行っちゃダメなんだよね。まぁ、こいしみたいに、バレなければ大丈夫なんだろうけど。
「......ミア、何かあったらすぐに帰りましょうね。安全第一なので」
「うん、それは分かってるよ。あ、その『何か』の判断はレナに頼むね。私だと、まだもう少し居たい、とかなるだろうしね。最悪、無理矢理連れて帰ってもいいからね?」
「そこまでわかっているのなら、無理矢理連れて行かれるような状況にしないようにして下さい......」
「あははー、まぁ、私はそう言う性格だから仕方ないね。......さて、行こっか。早く帰らないと、お姉ちゃんが大変だろうしね」
「お姉様なら大丈夫だと思いますよ? フラン達も、お姉様に迷惑をかけるようなことはしないと思いますし」
今、フランとルナはお姉様に見てもらっている。フラン達は、私達と一緒に行きたいと言ってたけど......危険だから、フラン達に気付かれないように、お姉様に見てもらっているうちにここまで来た。
帰ったら怒られるだろうけど......フラン達が危険な目に合うのに比べたら、それでもいいか。
「......そう言えば、行くと言っても、何処に行くのですか?」
「え? ......そう言えば、何処に行く? ルネとか何処にいるか知らないや......」
「......もう、帰りません?」
「えー、それは嫌。んー、あ、さとりのところに行かない? さとりなら、ここのこと詳しいだろうし」
「さとりと面識無いのですが? 妹のこいしならありますけど......」
「それなら大丈夫でしょ。まぁ、多分だけど」
......ぐだぐだだなぁ。まぁ、それでもいいや。ミアと二人きりで出かけるなんて、これが初めてだと思うから、楽しまないとね。
地底で楽しむなんて、どうすればいいのか分からないけど。
「それにしても、かなり深い大穴だねー。真っ暗で何も見えないや。
さ、能力を使って行こうか。暗くても妖怪には見えるだろうから、慎重に行こうね」
「はい、そうですね」
こうして、私達は地底の入り口である、奥深い大穴へと入っていった──
──地底(旧都)
私達は、旧都まで来ることが出来た。
ここに来るまでに、橋姫棺桶に入った娘や土蜘蛛らしき娘の横を通ったけど......まぁ、バレてないみたいだから大丈夫かな。
正直、ちょっと話してみたかったけど......。
「レナ、鬼が沢山いるね」
「見つかったらやばそうですよね......。ミア、絶対に私のそばを離れないで下さいね?」
「うん。逆に私のそばを離れないようにしてね? レナって方向音痴だし」
「え、そんなに酷くないですよ?」
「フランとルナが言ってたけど? 真っ直ぐ歩くだけでいいのに迷子になった、って」
「うっ......口止めするのを忘れていました......。取り敢えず、はぐれないようにはしましょうか。ミア、手を繋ぎましょう」
「ん、分かった。......あ、あれって星熊勇儀じゃない?」
「え? あ、本当ですね」
ミアが指差す先には、金髪ロングで頭には赤い角が一本生えている鬼がいた。私と同じ赤い目に、服装は体操服のような服にロングスカートをはいている。
それにしても、どうして体操服? まぁ、似ているだけで、本当は違うんだろうけど。
「まぁ、今はやり過ごした方がいいよね。......なんだか近付いたら気付かれそうだし、少し距離を置こっか」
「はい、そうで......あれ? あの人、こっちを見ていません? あ、完全に気付かれる逃げましょう。絶対に絡まれると面倒ですよ、あの人は」
「うん、それは分かる。じゃ、逃げよっか」
幸い、まだ距離はあるし、完全には気付かれていない。多分、そこに何かがいる気がする、程度にしか思っていないだろう。
能力を使っているはずなのに......鬼ってやっぱり恐ろしい。
そんなことを考えながら、旧都を後にして、地霊殿へと向かった──
──地底(地霊殿)
なんとか鬼に気付かれることなく、ここまで来ることが出来た。......のだが──
「レナだよね? 遊びに来てくれたの!? 嬉しいわ! ......それにしても、どうして二人に増えてるの?」
──こいしがいた。そして見つかった。
いやまぁ、ここはこいしの家なんだし、いてもおかしくはないんだろうけどさ......。年中ふらふらと外を歩き回ってる娘だよ? どうして運良く......まぁ、いた方がさとりと会話しやすいからいいんだけどね。
「えーと......レナ、能力使ってたよね? どうしてバレたの? と言うか、もう家の中だからいいけどさ、外だと絶対に死んでたよね?」
「死にはしないとは思いますよ? それと、バレたのはこいしの能力とかのせいでしょう。私は悪くありません」
「んー、何の話? ま、別にいいや。それよりもさ、何して遊ぶ? 私、かくれんぼとか得意だよー!」
「すいません。今日はさとりに用があって来たのです」
「あ、そうなのね。残念。で、お姉ちゃんに用があるのね。私も今帰ってきたところだから、お姉ちゃんに会いに行こうと思ってたんだよね。さ、私についてきてー!」
そう言って、こいしが走っていった。......なんだろう。こいしがフランみたいに危なかっしくて心配だ。
こいしとフランってそこまで似てない気がするのに......やっぱり、妹だから? ま、それよりも、今はこいしを追わないと。
「レナ、早く。こいしを見失うよ」
「あ、待ってください」
こいしについていくと、こいしがとある部屋へと入っていった。
そして──
「お姉ちゃん!」
「ひゃっ!? こ、こいし!? いつからそこに居たの!?」
「お姉ちゃんのびっくりした顔おもしろーい! ねぇねぇ、もっとやってー!」
「い、嫌です!」
──等という、会話が聞こえてきた。
うーん......何故だか昔を思い出すなぁ。
「......レナ、入っていいと思う?」
「いいんじゃないでしょうか?」
「そう? じゃあ、レナが先に入って」
「え、まぁ、いいですけど。......失礼します」
「え!? あ、ゴホン......はい、貴方達は......どちら様でしょうか?」
部屋に入ると、こいしの横には、薄紫のボブに深紅の瞳を持つ少女がいた。
服装は、フリルの多くついたゆったりとした水色の服装をしており、下は膝くらいまでのピンクのセミロングスカート。
頭の赤いヘアバンドと複数のコードで繋がれた、こいしと同じような第三の目が胸元に浮いている。唯一違うことと言えば、その瞳が開いていることだ。
「私はレナ。レナータ・スカーレットです。まぁ、見ての通り、吸血鬼です」
「私はミア。よろしくね」
「ふむ、私は古明地さとりです。レナと言うと......少し前に、こいしから聞きましたが、そのレナですか?」
「あ、そのレナですね。あの時は、助かりました」
「いいよいいよー。迷子になってる娘を私は放っておけない質なのよねー」
「こいし、嘘はいけませんよ。......今日はどのようなご用件で? いつもなら、聞かなくても分かるのですが、貴方達は少し特殊なようなので......」
片目をしばらく閉じた後に、さとりがそう言った。
あ、自動で能力がかかっている私達の心は読めないのか。......そう言えば、どうやって自動の方は消すんだろう? やっぱり、出来ないのかな?
「いえ、読めないわけではないですよ。どちらかと言うと、読みにくいのです。それに、私には少し理解出来ないのもありますし......」
「あ、理解出来ないのは深く考えない方がいいよ、絶対に」
「それは逆に気になりますけど......まぁ、こいしもお世話になったことですし、いいでしょう」
いやまぁ、お世話になったのはこっちの方なんだけどね。
「......それにしても、面白い方達ですね。心と外で、口調が違うとは......。それで、話を戻しますが、どのようなご用件でこちらに来たのですか?」
「あ、私達はルネと言う吸血鬼を探しているのですが、何処にいるか分からないので、何処にいるか知ってそうな貴女に会いに来たのです。ということで、ルネと言う吸血鬼が何処にいるか知りませんか?」
「ふむ......すいません。私は色々あって、少し引きこもっている状態なのです。なので......おや、『そう言えばそうだった』と......本当に不思議な方達です。私の能力はともかく、どうしてそこまで知っているのでしょうか?」
まぁ、それは前世でね......って、これ言ったらダメなやつか。今のは聞かなかったことにしといて。
「え、あ、はい。分かりました。......よく分かりませんが、とにかく、お役に立てず、すいません。あら、いいのですか? そう言ってくださると嬉しいです」
「お姉ちゃん、一人で話してるみたいだから、変な人にしか見えないよ?」
「こいし、お願いですから、それだけは言わないでください。この方達も、そうは思っていても、口に出さないように、我慢していたのに......」
うん、それバレてるのなら、言ってるのと変わらないや。
「......さとり、最後に一つだけいいですか?」
「え、えぇ、いいですよ。......ふむ、って、え? 遊びにですか? いいです......って、貴方達、地上の妖怪だったのですか!?」
「あれ、こいしから聞いてないの?」
「いえ、全く......。てっきり、旧都で迷っていた時に出会ったものだと......。地底には、地上の妖怪は来てはいけない取り決めになっていますし......」
あぁ、こいしは何処で会ったとかは言わなかったのね。......
「あ、私達が来ているのは秘密にしといてね? 妖怪の賢者とか、お姉ちゃんに怒られるのは嫌だしね」
「確かに、お姉様に怒られるのは嫌ですね。怖いですし......」
「まぁ、面倒事を起こすつもりは無いみたいですし、いいですよ。ただし、出来る限りここに来るのは......おや、転移魔法? それなら一直線でここに来れると......まぁ、バレなければそれでもいいですよ」
ふぅ、良かった。これで怒られずにすむね。......あ、何処に行ったとか聞かれたら、やばい気がした。あれ、最悪、フランとルナとお姉様の三人に怒られない? ......ま、まぁ、何とかなるよね、うん。
「それと......こいしをこれからもお願いします。この娘、いつもふらふらとしていて、危なかっしいですから......。本当は」
「はい、勿論いいですよ。私も、フラン達をこいしと遊ばせたいですし......」
「ふむ、精神年齢的に同じくらいの娘と遊ばせたいのですね。確かに、こいしもふらふらしてますし......って、あら? こいしは?」
え? ......あれ、本当にいない。さっきまで居たはずなのに......。
「いつの間にか居なくなっていますね。気付きませんでした......」
「ま、まぁ、このように、いつもふらふらしていますから、よろしくお願いしますね」
「はい、分かりました」
「うん、任せてよ。......それじゃあ、また遊びに来るね。今度はお姉ちゃんやフラン達を連れてくるからね」
「はい、またお会いしましょう」
こうして、私達はさとりと別れ、来た道を引き返して行った。
そして、地霊殿の入り口まで来た頃に──
「......そう言えば、これからどうします? ルネが何処にいるかは分からないですけど......当ても無く探してみます?」
「んー......流石に、当ても無く探して、見つかるとは思えないからな〜」
「じゃ、帰ろうよー。私も貴方達の家に行ってみたい!」
──声がした方向を見ると、そこにはこいしがいた。
「え? ......あ、こいしじゃないですか。何処に行ってたのですか?」
「え? んー......どっか!」
「そ、そうですか......。ミア、こいしもこう言ってることですし、もう帰ります?」
「まぁ、行くあてもないしねー。じゃ、帰ろっか。レナ、私が『抜け道』を作っていいよね?」
「はい、いいですよ。こいし、一応聞きますが、私達の家に来ますか?」
「うん! 早く行こー」
んー......なんでだろう? 限りなく心配だ。まぁ、帰る時は勝手に帰るだろうし、そこまで心配しなくてもいいんだろうけど。
「レナ、こいし。出来たよ。じゃ、先に入っとくから、早く着いてきてねー」
「あ、じゃ、私が次入るー!」
「......騒がしくなりそうですね」
こうして、私達は紅魔館へと戻っていった──
──紅魔館(フランの部屋)
館に帰ってくると、初めにお姉様の部屋へ行った。お姉様とルナがいたが、詳しく説明すると、怒られずにすんだ。
しかし、ルナには、後でフランが怒るだろうから今は何も言わない、と言われた。それも、目が笑っていない笑顔で。正直、怖かった。
そして、問題のフランの部屋へと向かった。
「あ、お姉様! 帰ってきたのね! 良かった......思ったよりも時間が経ったから、心配したの......」
「あれ? ......あ、いえ、心配をかけてすいません」
思ってたのと違う。てっきり、心配をかけたから怒られると思ってたのに......。
「ねぇねぇ、お姉様。今度から約束してくれない?」
「え? な、何をです?」
「私を置いて何処かに行く時は、必ず私に言うって......約束守れる?」
「フラン......はい、守りますよ。必ず」
「よかった。......後、もう一つ約束してくれない?」
「勿論いいですよ。どんなことでも守ってみせます」
その時、フランの口が三日月のように歪んだ。
「そう......どんなことでも守るのね? じゃ、明日、一日だけでいいから私の言いなりになってね? あ、断ることなんて出来ないからね?
今、お姉様が言ったんだから。どんなことでも守る、ってね。お姉様も知ってる通りは悪魔との契約は絶対に破れないからねー。これで、明日、お姉様は私のものねー」
「......え?」
「あ、そこまで難しい命令はしないから安心して。ただ、私の言いなりになるだけでいいから。これは、今日、私を置いていった罰よ」
「あのぉ、フラン? 冗談ですよね? と言うか、冗談と言ってください、お願いします」
「あ、そう言えば、さっきこいしがいたよね? 今日、ルナはレミリアお姉様と一緒に寝るらしいから、一緒に寝るかどうか聞いてくるね」
......話についていけない。と言うか、どうしてこいしが居るの知ってるの? もしかして、帰ってきてからずっと見られてたとか? それとも、ミアが言ったのかな? いつの間にか居なくなってたし......。
......もういいや。どうせ、約束は破れないし......うん、諦めよう、色々と。
この後、こいしが部屋に来て、一緒に寝ることになった。
それにしても、こんなに寝顔が可愛いのに、悪魔みたいなことを......。まぁ、それも可愛いからいいや。
そんなことを考えながら、私は瞼を閉じた────
次回は木曜日の予定。次は遅れないはず......。
ちなみに、次の話の中心はこいしと末妹達です。
次の日、レナさんがどうなったかはご想像にお任せします()