東方紅転録   作:百合好きなmerrick

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今回はタイトル通り、vsレミリアのお話。


5、「永遠に紅い幼き月 『紅霧異変』の終わり」

 side Hakurei Reimu

 

 ──紅魔館(廊下)

 

「......こっちには何もないわよ?」

 

 廊下を道なりにしばらく進んでいると、勝手に付いてきていたメイドが突然そう言い出した。

 

「そんなこと言われると怪しく見えるんだけど?」

「そう? なら......ここは通さない! 『奇術「エターナルミーク」』!」

「ちょ、ちょっと! ルールくらい守りなさいよ!」

 スペルカードが宣言されたと思うと、メイドは全方位に小さな弾幕を放つという、意外と優しい弾幕を放っていた。しかし、数と速さが尋常ではなかった。

 不意を付かれたこともあり、今はかなりギリギリで避けている。

 

「ルールを守りなさいよ! 『霊符「夢想封印」』!」

「ちょ、スペルカードは使わないんじゃなかったの!?」

「それはさっきの話よ。今は違うわ。それに......めんどくさい。さ、メイドらしく、お使いにでも行きなさい。私のスペカを耐えれたらの話だけどね!」

「え? あ、弾幕そんなに張られ──」

 

 『夢想封印』の色とりどりの大きな光弾は、メイドの弾幕をかき消してメイドへと向かっていく。。そして、メイドに命中したと同時に炸裂し、メイドは床に落ちた衝撃か、気絶していた。

 

「......もしかして、死んじゃった? でも、妖怪じゃないから大丈夫よね、うん。......まぁ、人間にもダメージは通るけど......」

「う、うぅっ......お嬢様......」

「あ、よかった。じゃ、私は行くから。もう時間もない気がするし......」

 

 ──まぁ、今までダラダラしてた私のせいなんだけど......。そう言えば、魔理沙は何処に行ったのかしら? もう黒幕のところまで着いちゃったりして。

 

「まぁ、何にせよ、急がないとね。あいつ一人だけじゃ心配だわ」

 

 一人そう呟くと、自分の勘を頼りに進んで行った。

 

 

 

「あれ? いつの間にか、外に出ちゃってたわ。問題は無いだろうけど......」

 

 ──それにしても、何かいるわね。あぁ、この雰囲気は......。

 

「そろそろ姿、見せてもいいんじゃない? ラスボス、って感じがするんだけど」

「あら、バレてた?」

 

 目の前に、青い髪と黒い翼を持った少女の妖怪がどこからともなく現れた。

 

 おそらく、この紅い霧に紛れて自分も霧になっていたんだろう。

 

「それにしても、人間ってやっぱり弱いのね。一応、あれでも特別な力を持ってるんだけどねぇ〜」

「やっぱり、さっきのメイドは人間なのね」

「貴女、殺人犯ね」

「一人までなら大量殺人犯じゃないから大丈夫よ」

 

 ──まぁ、そもそも死んでないんだけど。まぁ、どうでもいいわね。私は早く異変を終わらせて帰れればいいだけだし。

 

「......で?」

「そうそう、迷惑なの。あんたが」

「短絡ね。しかも理由が分からないわ」

「とにかく、ここから出ていってくれる?」

「ここは、私の城よ? 出ていくのはあなただわ」

 

 淡々と話していく少女に嫌気がさし、ため息をつきたくなる。

 

「この世から出てってほしいのよ」

「しょうがないわね。今、お腹いっぱいだけど......」

「護衛にあのメイドを雇っていたんでしょ? そんな、箱入りお嬢様なんて一撃よ!」

「咲夜は優秀な掃除係。おかげで、首一つ落ちてないわ」

 

 ──まぁ、メイド服だったしそれもそうか。あの手品は面白かったけどね。

 

「貴女は強いの?」

「さあね。あんまり外に出して貰えないの。私が日光に弱いから」

「……なかなか出来るわね」

「こんなに月も紅いから本気で殺すわよ」

 

 目の前にいる妖怪は、妖力を垂れ流しにしている。おそらく、威嚇のつもりだろう。

 

 ──その程度の威嚇が私に通じると思われるとは......心外ね。

 

「はぁー......こんなに月も紅いのに」

「楽しい夜になりそうね」

「永い夜になりそうね」

 

 その言葉が合図に、私と妖怪は互いに距離をとった。そして、妖怪は一枚の紙を懐から取り出す。

 

「あぁ、スペルカードは五枚ね。まぁ、せいぜい足掻くといいわ。人間如きが吸血鬼相手に勝てるとは思わないことね」

「はいはい。その言葉は聞き飽きたわ。妖怪が私に挑んでくる時に絶対言うから」

「あら、そうなの。貴女も大変ね。そんな貴女にささやかなプレゼントよ。『天罰「スターオブダビデ」』!」

「いらないわよ! そんなプレゼント!」

 

 宣言されたそれは、その妖怪を中心に一定の距離に急に大きめの弾幕が現れ、その弾幕からレーザーを展開しつつ、丸い弾幕とその丸い弾幕がリング状になったリング弾を発射する形式となっていた。

 ──レーザーで逃げ場が少なくなるが、リングと丸い弾幕にさえ気を付けていれば......。

 

「ちっ、あのメイドもそうだったけど、その主も同じね。めんどくさい弾幕だわ」

「あら、ありがとう」

「褒めてないわよ!」

 

 雑談しながらも、しっかりと弾幕を避けていく。

 

 しかし、それでもやはり黒幕らしき少女。今までの奴らとはひと味違う。

 

「あら、そうなの。でも、そんなことはどうでもいいわ。さぁ、もっと足掻いて見せてね! 次のスペルカードよ!」

「スペルカードの間隔が短過ぎない!?」

「そんなことはないと思うんだけど......あ、『冥符「紅色の冥界」』!」

「思い付いたようにスペルカードを宣言するのも新しいわ......」

 

 妖怪は自分を中心に小さな弾幕を円状に展開し、それが降り注ぐようにして私に向かわせた。

 さらに、それが第一陣、第二陣と続くものだから、相手には簡単に近付けそうにはない。

 

「さっきよりは単純でいいわね。でも、近付きにくいのは嫌ね」

「うーん......もっと手の凝ったものにすればよかったかしら?」

「私が困るからそれでいいのよ」

「人間が困っているところも見てみたいのだけど......まぁ、いいわ。もう当たりそうにないし、次ね」

「貴女、飽きやすいのね」

「えぇ、よく言われるわ。......『呪詛「ブラド・ツェペシュの呪い」』!」

 

 ほぼ遊びのようになってきながらも、少女はスペルカードを展開していく。

 

 少女は幾つものナイフ型の弾幕を放ち、さらにその弾幕が通った道に小さな弾幕を出すことで逃げ場を防いできた。

 

「はぁー......これだと避けにくくなるじゃない」

「あ、その弾幕、しばらくすると動くわよ? あ、第二陣ね、それっ!」

「ちっ、性格悪いわね......」

「あら、それは言われたことがないわね」

「ここの住人は主を甘やかしすぎなんじゃない?」

「そうかもね。それっ、第三陣よ!」

「避け続けるのもめんどうね。 消えなさい! 『霊符「夢想封印」』!」

 

 先ほどのメイドの時と同じように色とりどりな大きめの光弾を幾つも放った。光弾は周りの弾幕を消しながら、相手へと向かっていく。

 

「なんか嫌な光ね。逃げた方がいいわよね?」

「この光弾の光は妖怪が嫌うありがたーい光よ。大人しく当たって封印されなさい!」

「そう、なら逃げるわ」

 

 妖怪は霧へとなり、姿が見えなくなってしまった。そして、光弾は誰にも当たらず虚空で炸裂する。

 

「このスペルカードは攻略出来ても......全部のスペルカードを攻略するのは......」

「大変そうね。私は蝙蝠や霧になれる。避けるのなんて簡単に出来るから。でも、早く終わらせたいのよね? 次のスペルカードよ! 『紅符「スカーレットシュート」』!」

 

 少女は中弾と小弾を五つの大弾に付随させ連続で放つ。

 

 それは、見境なく、目に見える範囲を襲っていった。

 

「それそれそれっ!」

「厄介な技ね......」

「ふふふ、そうでしょ? 強いでしょ?」

「そうね。しかしまぁ、弾幕を当てれないなら守るだけよ。『夢符「封魔陣」』!」

 

 私は自分を中心に空高くまで伸びる結界を生成し、弾幕を防ぐ。

 

「あらあら、終わるまでそうしてるつもり?」

「残念だけど、そこまで長く持たないのよね。あ、あら? もう切れちゃったわ!」

「あらま、本当に切れるのが早いわね。それっ!」

 

 結界が切れたと同時に放たれた弾幕は、私の左腕を掠り虚空へと消えていった。

 

「あ、危なっ! も、もう少し右だったら直撃してたわ......」

「うーん、あとちょっとだったんだけどねぇ。あぁ、喜びなさい。最後の弾幕よ。これに当たって散ることを栄光に思いなさい。『レッドマジック』!」

 

 最後のスペルカードは大玉を波紋状に発射し、起動上に配置された弾をゆっくりと拡散させていく。

 

 さらに、密度が尋常ではない程濃い。

 

「ふん。さっきよりも密度が濃くなっただけね」

 

 次々と繰り出される大玉と拡散された弾幕を避けていく。

 

「これなら、さっきと同じように避けれ──」

「そうかしら? 後ろを見てみなさい」

「え、っ!? ゆ、『夢符「封魔陣」』ッ!」

 

 後ろを見ると、弾幕が目前まで近付いていた。

 

 咄嗟に防ぐことはできたが、言われなければ当たっていただろう......。

 

「ど、どうして後ろから......」

「......昔、妹と一緒に練習してたのを思い出すわね。この大玉は、一定の距離を進むと一回だけ反射するのよ」

「あぁ、そういうこと......前も後ろも気を付けないとダメってのは少し、いえ。本当にめんどうくさいわ」

「安心なさい。もうすぐ終わるわよ。まぁ、それまでに貴女の方が終わりそうだけど」

「へぇ、言うじゃない。でも、残念ね。もうスペルカードは使わないようにしようと思ってたけど、もうすぐ終わるなら使っちゃうわ」

 

 避けながら話し、懐からスペルカードの紙を取り出した。

 

「あら、使わないでもいいのよ?」

「いいえ、当たりそうだから使うわよ。『霊符「夢想封印」』!」

 

 最後も同じように色とりどり光弾を放つ。全ての光弾を全ての敵の弾幕を消すようにして配置する。

 すると、上手い具合に周りの弾幕は消え去り、残っていた敵へと向かっていった。

 

「はぁ、また避けないと......」

「あ、ずるっ!」

 

 妖怪は再度蝙蝠となって私の光弾を避け、再び同じ場所に姿を現した。

 

「ずるくないわよ。これも私の能力みたいもんだし」

「......まぁ、それもそうね。で、勝ったけど?」

「えぇ、そうね。全部攻略されちゃったから私の負けね」

「さぁ、早くこの霧を消してちょうだい」

「えぇ、分かってるわよ。でも、すぐには消せないわよ?」

「すぐに消しなさい。もう少ししたら、霧が結界の外にまで出そうだし」

 

 ──まぁ、こうなるまで放っておいた私の責任もあるんだけど......。

 

「えぇー......けどね......」

「あ、いたいた。おーい! 霊夢ー!」

「ん? あ、魔理沙じゃない。今まで何処に居たのよ」

「あ、レ、ミアかしら? それに......人間?」

 

 声がした方を振り返ると、魔理沙と髪の赤い奴がこちらへと飛んできていた。

 

「あぁ、ちょっとな。あ、そこの青いの。私は魔理沙。霧雨 魔理沙だぜ。まぁ、そんなことは置いといて、勝ったのか?」

「えぇ、勝ったわよ。そいつは?」

「あぁ、こいつは──」

「私はミア。そこにいるお姉ちゃんの妹よ」

「......はぁー、まだこいつみたいにめんどくさいやつが居たのね......でも、こいつみたいに翼は無いのね。突然変異かなんかなの?」

「詳しく話すとなると、話が長くなるかもしれないけど、それでもいい?」

 

 その少女はいたずらじみた笑顔で口を動かす。

 

 ──それは嫌ね。時間も少ないだろうし。

 

「ごめん、また今度聞くわ。それよりも、この霧を今すぐ消せない?」

「消せるよ。でも、お姉ちゃんはいいの?」

「消せるの!? あ、いいわよ。私は避難した方がいいかしら?」

「うん、そうした方がいいと思うよ。霧が晴れれば......でも夜だね。あ、一応中に行ってて」

「分かった、任せるわね。私は館に戻るわ」

 

 帰り際にそう言い残すと、姉の方の妖怪は館へと戻って行った。

 

「あいつが異変の主犯なのよね? ......まぁ、消してくれるなら何でもいいわ。頼むわね」

「うん。......『魔符「ソロモンの指輪」』! よし。できたできた」

 

 紅い髪の妖怪は指輪のような何かを作り出すと、それを自分の手にはめ、手を前に出した。

 

「では......『霧の妖精よ。我が命ずる。今すぐこの地から退きたまえ』!」

「なんかカッコイイな。......おぉ、霧が薄くなってきたぜ」

「......ふぅ、これでいいと思うよ。ちなみに、霧の妖精とか行ったけど、本当に妖精に命令してるわけではないからね。ただ、人工でも、自然現象に近いものなら操れ、自由自在に消せるってだけだよ」

「解説ありがと。......さて、帰りましょうか。もう異変は終わったし」

「あ、私も帰るぜ。じゃあな、また来るぜ」

「淡白ね。でも好きよ、そういうの。またね」

 

 私と魔理沙は館と紅い髪の少女を背に、家への方角へと向かっていく。

 

「あ、霊夢。またここに来ようぜ」

「嫌よ。家でゆっくり休みたいし」

「あぁ、うん。別にしばらくはいいけど......私も色々とやることが出来たなぁー」

 

 そんな話をしながら、私は霧が晴れた夜空を飛んで行った。

 

 こうして、『紅霧異変』は幕を閉じることとなった────




次回からは後日談と紅魔郷EX(+α)となります。主に中心は妹組な模様。
次回は金曜日に投稿予定。

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