今回から3章が始まります。3章は紅霧異変までの出来事になりますので、原作の主人公が出るのはまだ先な模様()
1、「姉の捜索と決意」
side Remilia Scarlet
──幻想郷(紅魔館)
目が覚めた時、目の間には深刻そうな顔をして覗き込む咲夜が見えた。
「んー......あ、咲夜。転移魔法は成功したの?」
咲夜、どうしてそんな顔をしているの?
「はい、成功はしました。ですが......お嬢様、落ち着いて聞いてください」
「ん? どうしたの? ......咲夜、レナとフランは何処にいるの?」
辺りを見回した時、パチェが深刻な顔していた。小悪魔が忙しそうに動いていた。美鈴が慌てていた。
......そして、レナとフランがいなかった。
「そ、それは......」
「どうしたの? ......どうしてそんな顔をしているの? どうしてレナとフランがいないの?」
そう聞いても、咲夜は何も答えなかった。と言うよりかは、答えることが出来ないみたいだった。
「......咲夜、どうしてか答えなさい! レナとフランはどうしたの!? どうしていないのよ!?」
「お、お嬢様! 落ち着いて下さい!」
「レミィ! ......落ち着いて聞いて。レナとフランは転移魔法を使った時に、この世界の何処かに飛ばされたのよ。この世界には来ているはずだから、安心しなさい」
「安心なんて出来るわけないじゃない! レナもフランも吸血鬼なのよ! 他の吸血鬼が来て侵略を始めたら、あの娘達も巻き込まれるじゃない!」
「だから、落ち着きなさい。もう日が昇るわ。今、貴女が探しに行ったら、貴女が死んでしまうわよ? それに、まだ私達以外の吸血鬼は来ていないわ」
「だからなに? 日が沈むまでここで大人しく待ってろって言うの!? 日が昇っているからなによ!? そんなの日傘で防げるじゃない! 私は今すぐにでも探しに行くわ!」
早く探しに行かないと、レナとフランが危険かもしれない。怪我をするかもしれない。最悪の場合......死んでしまうかもしれない。
そう思うと、今すぐ探しに行く以外の選択肢は考えられなくなる。
「はぁ......何を言っても聞いてくれないのね。本当、貴方達姉妹には悩まされるわ。咲夜、紅魔館は私と美鈴に任せて、レミィと一緒に行ってあげて」
「え? いいのですか?」
「どうせ何を言っても無駄よ。出来る限り早く見つけて帰って来てちょうだい」
「......はい、分かりました」
「レミィ、多分だけど、他の吸血鬼達もすぐに来ると思うわ。だから、危険だと思った時はすぐに帰って来なさいよ。と言っても、見つけるまで帰って来ないんでしょうけど」
確かに、私はレナとフランを見つけれるまで帰るつもりはない。
よく分かってるわ。流石、私の親友。何百年も一緒にいるだけあるわね。
「大丈夫よ。すぐにあの娘達を見つけて帰ってくるから」
「では、行ってまいります」
「気を付けるのよ。二人とも。......絶対に死なないでよ」
私は日傘を持ち、咲夜と一緒に、日が昇ろうとしている外へと出た────
side Renata Scarlet
──少し時間は進み 幻想郷(アリスの家)
「ふぁ〜、よく寝たー。あ、お姉様、おはよう」
「フラン、おはようございます。あ、アリスさんもおはようございます」
「えぇ、おはよう。......まぁ、私からしたらおやすみって言う時間なんだけどね。昨日は朝まで起きてたけど」
幻想郷に来てから、アリスの家に泊めてもらったお陰もあり、無事に二日目を迎えることが出来た。
最初は、妖怪とかに襲われたらどうしようかと思ってたけど、これなら案外大丈夫かな。まぁ、襲われても、逃げるか殺せばいいだけなんだけどね。
「で、今日から館を探すのよね?」
「はい、そのつもりですよ」
「......よければなんだけど、手伝わせてくれない?」
「......え? いいんですか?」
「いいのよ。貴方達が寝た時にね。貴方の能力かしら? まぁ、それが解除されたみたいでね。貴方がもの凄い魔力を持っていることが分かったのよ」
アリスが私を指差してそう言った。
え? 私って、そんなに凄い魔力を持ってたの? いや、それよりも、寝て能力が解除されたの? 昔、フランに寝ながら使ってた気がするけど......。もしかして、意識しないで寝たから? それとも、能力が弱まったのかな? ......まぁ、帰ってから実験すればいっか。
「うふふ、ま、私のお姉様だしねー」
フランが誇らしげに、そして嬉しそうにそう言った。
フランが言われているわけではないんだけど......フランが嬉しそうだし、いっか。
「えーと......それがどうして手伝う話に繋がるのですか?」
「それほどの魔力よ。使ってないわけないよね? 使っているなら、館に魔導書がある可能性が高いかもって思ったのよ。で、本題なんだけどね。手伝う代わりに、あるならでいいんだけど、魔導書を幾つか貸して欲しいのよ」
「確かに、魔導書はありますし、手伝ってくれると言うなら、何冊でも貸しますよ」
「ありがとうね。じゃ、早速行きましょう。日なんてあっという間に昇っちゃうからね」
「『ありがとう』を言うのは、こちらの方ですよ。本当にありがとうございます」
「別にいいのよ? 館を探すのを手伝うだけで、魔導書を読めるならね」
アリスって優しい人なんだね。まぁ、どこに紅魔館があるかは知ってるけど、どうやって行くかが分からないから、幻想郷に住んでいるアリスがいればすぐに見つかりそうだね。
「そう言えば、アリス。その人形はなんなの?」
「あぁ、この子達は私が作った人形よ。私の指示に従って動いてくれるのよ」
「へぇ、それも魔法なの?」
「えぇ、そうよ。少し操作が難しいけど、もしかしたら、貴方達でも出来るかもしれないわね」
「おぉ! アリス、後でやり方教えて!」
「えぇ、いいわよ」
そんな和やかな会話をしながら、森を抜けた。
「え? 何これ? ......あ、もう来たの?」
「......思ったよりも早かったですね」
「あぁ、これが昨日言ってたやつね。それにしても、酷いわね......」
森を抜けると、空には軽く百を超える吸血鬼達が飛んでいた。その吸血鬼達は木を焼き払い、人間達を襲い、吸血鬼以外の妖怪達と殺し合いをしていた。森が燃えていき、吸血鬼が人間を襲う、その光景はまさに地獄絵図だ。
同じ吸血鬼だから襲われないだろうけど、この戦場に巻き込まれたくはない。
「私もです......アリスさん、手を繋いで下さい。見つかったら、攻撃されると思うので」
「あぁ、貴方の能力ね。それにしても、面白い能力ね」
「......結構気楽なんですね」
「まぁ、どうせ明日には終わっていると思うからね」
「え? どうして? ここが侵略されて終わってしまうってこと? それとも、吸血鬼が全滅するってこと?」
「吸血鬼が全滅する方ね。ここには、昼と夜の境界を操れるやつがいるのよ。だから、貴方達も急いだ方がいいわよ? 」
「境界? どういうことか分からないけど、凄いやつがいるのね」
境界を操る......『八雲紫』か。出来れば、見つからずに紅魔館まで行きたいなぁ。
「えぇ、見つかったら終わりと思った方がいいわね。さ、そんなことは置いといて、早く行くわよ。この戦況を見る限り、吸血鬼達はまだ来てばっかりのはず。今ならまだ間に合うはずよ」
「はい、分かりました。さぁ、フランも手を繋いで下さい」
「あ、うん。......そう言えば、お姉様達、大丈夫なのかな?」
あ......お姉様のことだから、私達を探しているかもしれないのか......。大丈夫なのかな? 私達を探して、無理してないかな? ......今考えても仕方ないし、今は紅魔館に戻ることだけ考えるか......。
「それと、お姉様、移動魔法は使えないの?」
「あ、言い忘れてましたが、使えませんでした。おそらく、ここに来たことにより、紅魔館へ繋げれるはずの道が途切れてしまったのでしょう」
「ふーん、よく分からないけど、分かった」
「どっちかはっきりしないわねぇ。あ、そう言えば、何処に行くか決めてないわ」
「アリスさん、移動しながら決めましょう」
「あ、ごめんなさいね。......あ、空を飛んでもいいかしら?そっちの方が、探しやすいと思うし」
「えぇ、勿論いいですよ」
紅魔館は結構目立つ色をしてるし、空を飛んだらすぐに見つかるかな?
「じゃ、飛びましょうか。あ、流れ弾には気を付けてね」
「危ない時は、壁を作るので、大丈夫ですよ」
「防御魔法? へぇ、結構器用なことも出来るのね」
そう会話しながら、私達は空へと飛びたった────
side Remilia Scarlet
──少し時間は遡り 幻想郷
「レナー! フラーン! 何処にいるのー!」
「お嬢様、どうやら、この辺りには妹様達はいないようです」
「そう......分かったわ。次の場所に行きましょう」
日がもう少しで沈む頃のことだった。
私はレナとフランを探すために、日傘を片手にこの幻想郷を手当り次第探し回っていた。
「あらあら、そんなに急いでどうしたの? 吸血鬼のお嬢様」
「え!? いつの間に!?」
「お、お嬢様! 後ろに下がってください!」
声に驚き、後ろを振り返るとそこには、紫にフリルのついたドレスを着て、リボンの巻かれた帽子をかぶり、大きな日傘と扇子を持った女性がいた。
「今来たのよ。それと、そんなに警戒しなくてもいいわよ」
「いきなり現れてそう言われても、信用されないと思うけど?」
「まぁ、それもそうね」
「で? 貴女は私達に一体何の用なの?」
「あぁ、そうだったわ。吸血鬼達がここを侵略するとか言う噂を聞いたけど、何か知ってる?」
......どうしてこの妖怪は知っているのかしら? 裏切り者でも出たとか? いや、それなら幻想郷にいた奴しか出来ないか。外に協力者でもいるか、この妖怪自身が外に自由に出入り出来るからとかの方が確率は高いか。
「......えぇ、知ってるわよ。でも、同じ種族を売るわけにはいかないし、何も教えないわよ?」
「あら、残念ですわ。......そう言えば、赤い髪と翼を持つ子と金髪で奇妙な翼を持っている子を見たけど、貴女の知り合いなのかしらね?」
「なっ!? どうして知ってるの!?」
「あ、本当に知り合いなのね。おそらく......二人とも貴女の妹ってところかしら? あぁ、安心しなさい。今は安全だから」
「『今は』ってどういうことよ!? あの子達に手を出したら、ただじゃおかないわよ!」
「手を出すか出さないかは貴女次第ですわ。それと、私を殺しても、あの二人が死ぬのは変わらないわよ? ま、貴女に私は殺せないでしょうけど」
こいつ......レナとフランを人質に取っているからって見下してやがって......。あの子達が無事に帰ってきたら、絶対に後で殺してやる。
「......私次第ってどういうこと?」
「あら、意外と物分りがいいのね。簡単なことよ。貴女......『紅い悪魔』に仲間を裏切って欲しい。それだけですわ。流石に、あの数は疲れるからね」
「私に......仲間を売れって言うの?」
「えぇ、その通りよ。貴女達にはこっち側について欲しいのよ。まぁ、元々貴方達が参加する気はないって知ってるけど、味方に付けた方が楽だからねぇ」
......裏切っても、こいつが約束を守るとは限らない。でも、今約束をしないと、レナとフランが殺されるかもしれない。......レナとフランの為なら、他の吸血鬼を敵に回してもいいわ。あの子達さえ帰ってきてくれれば......。
「......裏切ったら、妹達の安全を保証すること。ついでに、ここに住むことも許可しなさい」
「貴女はそんなことを言える立場じゃないんだけど......まぁ、いいわ。安全も保証するし、ここに住んでも文句は言わないわ。......まぁ、元々、貴女がここに住むことを誰も文句は言わないわよ」
「え? 何を言ってるのかしら? ここに攻めてくる妖怪と私は同じ種族なんだし、絶対誰かが文句を言うに決まってるじゃない」
「幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷なことですわ」
「へぇ、それは初めて聞いたわね。......で、裏切るって言っても、何をすればいいの? 他の吸血鬼を全員殺すなんて、流石に出来ないわよ?」
おそらく、弱い吸血鬼なら、50体くらいなら余裕で殺せるだろう。しかし、私と同じくらい力を持つやつもいるにいる。そういう奴を相手にすると、流石に連戦はキツくなる。
「いえいえ、簡単なことですわ。貴女の館に来た吸血鬼は全て殺すだけ。勿論、貴女と貴女の妹は例外でいいわ。それと、このことは他の吸血鬼には誰も教えないで、この戦争に手を出さないこと。......それだけですわ」
「......え? 私はそれでいいけど......本当にそれだけでいいの? それだけなら、同族を殺す以外、貴方達に得があるとは思えないけど?」
「本当にそうかしらねぇ。まぁ、言うつもりはありませんが」
「でしょうね。......一応、聞くけど、レナとフランは無事で返してくれるわよね?」
「えぇ、勿論ですわ。と言うよりも、勝手に無事に帰ってくるでしょう」
......もしかして、今は捕まってるとかじゃないってこと? それなら、約束しなくてもよかったんじゃ......でも、もう約束したから、破れないのか。......もしかしてこいつ、それを知ってて?
「あらあら、そんな顔をしてどうかしたのかしら? まぁ、それはいいわ。さぁ、貴方達は館に戻ってていいわよ。貴女の妹達は私が見守っていてあげるから」
「......約束は絶対に守りなさいよ」
「破れないことは貴女が一番知っているでしょ? ......では、そろそろ来る頃なので、私は行きますわ」
「えぇ。......レナとフランの安全を守りなさいよ。守らなかったら、許さないから」
私の言葉を無視して、妖怪は空間に裂け目を作り、何処かへと消えてしまった。
「......咲夜、戻りましょう」
「いいんですか? 正直言いますと、あの妖怪は信用出来ないと思いますが......」
「いいのよ。私との契約は決して破れないわ。......勿論、私もね。だから、紅魔館に戻ってもいいのよ。と言うよりは、戻らないと駄目なのよ」
「......分かりました」
そして、私達は日が沈む前に、紅魔館へと戻っていった────
次回は金曜日の予定。と、久しぶりな気がしないでもない番外編をバレンタインデーの日にあげるつもりです。