side Renata Scarlet
──紅魔館(厨房)
「咲夜、今日はここまでにしましょう」
「え、レナ様、まだ十一時にもなってませんよ? 早すぎませんか?」
「いえ、今日はこれから用事があるので......」
「あぁ、なるほど。そういう事でしたら仕方ありません。......もしよければ、その用事を手伝いましょうか?」
「あ、いえいえ。大丈夫ですよ。なので、咲夜はもう休んでも大丈夫です」
「ふむ......分かりました」
流石に、咲夜にはバレてるかな? いや、でも咲夜が来てからは忘れてて出来なかったから大丈夫かな。
「では、失礼します」
そう言って、咲夜は厨房から出て行った。
「......明日まで後一時間程ですか。まぁ、これだけあれば、間に合いますよね」
明日は二月十四日。そう、明日はバレンタインデーだ。咲夜が来てからは初めてだけど、来る前は、憶えていたらお姉様やフラン達に渡していた。そして、今回は憶えていたからすることにした。去年まで忘れていたから、また忘れると思ってたけど、案外憶えていることもあるものなんだなぁ。
「感知魔法で見る限り......周りに人はいないみたいですね。これでようやく始めれます」
出来るだけ他の人にバレて欲しくはないから、周りに人がいないことを最初に確認した。
あ、ついでに誰か来た時に分かる魔法をかけとこう。昔、フランにバレたことがあり、みんなにバラされたことがある。サプライズとして渡した方が面白いし、フランだけにはバレないようにしないと......。
「渡す人は......お姉様、フラン、美鈴、パチュリー、小悪魔、咲夜の六人ですかね。妖精メイド達は多いですし、また今度作るとして......お姉様とフランはブラッドチョコレート。美鈴、小悪魔、咲夜は甘めのチョコレート、パチュリーは甘い物があまり好きではないらしいですから、カカオ多めでしたよね」
あ、そう言えば、ブラッドチョコレートの材料あったかな? ......今から『狩り』とかめんどくさいですし、ある分だけでいっか。......足りなくなったら、私の血でもいいよね?
「カカオは......ふぅ、良かった。ありますね」
無かったら、今回は中止にするところだった。あ、型はどうしよう? ......まぁ、丸とかハートとかでいっか。
「さて、まずは普通のチョコレートから作ってみましょうか。まぁ、作るのは久しぶりでも、大体憶えてるから大丈夫ですよね」
そう思い、私はチョコレートを作り始めた──
── 一時間後 紅魔館(厨房)
まさか、普通のチョコレートを作るのにここまでかかるとは思ってなかった。
作り始めてから一時間、もうバレンタインデーになってしまった。そして、出来たチョコレートは美鈴、小悪魔、パチュリー、咲夜の四つだけだ。まだお姉様とフランのを作れていない。
それに、ブラッドチョコレートの材料も殆どなかった。
「......仕方ありません。私の血も混ぜますか......お姉様達、気付きませんよね?」
お姉様とフランに吸血されたのは結構昔ですし、流石に憶えていないですよね。うん、憶えていないに決まってる。
そう思い、爪で手首を切り裂いた。
「うっ......やっぱり、痛いですね。......一応、能力は消した方がいいですよね。近くにいる時に食べるとは限りませんし」
最近、血の能力を消すことが出来るようになった。と言っても、結構時間がかかるから、吸血されたらどうしようもない。まぁ、吸血される時は、近くにいるだろうから大丈夫だよね。
「うわぁ......やっぱり、この量は未だに見るのは慣れませんね......」
お姉様は少食だしお姉様が飲む量なら見慣れているから大丈夫だけど、お姉様とフランが飲む量は未だに見慣れない。特に、フランの飲む量凄いからなぁ......。ちなみに、私が飲む量はお姉様とあまり変わらない。前世が人間だったせいか、ただ少食なだけのどっちかだろう。
「......あ、やばっ、もうすぐしたら出来るのに......」
誰かが厨房に向かって来てるのが魔法で分かった。
「うーん、まぁ、私とこれを隠せばいっか」
そう思い、出来た分を全て冷蔵庫に隠し、今作っているお姉様とフランの分だけを残した。
そして、魔法を唱え、自分と残した分を透明にした。
「お姉様! あれ? ここでもないんだ。うーん......どこに行ったんだろう?」
丁度魔法を唱え終わった時に「バタンッ!」と大きな音を立てて、フランが部屋に入ってきた。
あぁ、そう言えば、遊ぶ約束したんだった。......あ、これ後でお仕置きされるわ。やばい、かなりやばい。どうしよう......お姉様と違って、フランは容赦ないし、ひどいし、チョコレートを渡しても機嫌が直らない気がする。......いや、流石に、フランでも機嫌が直るか。
「もうっ、お姉様ってどうして約束を放ったらかしにしてどこかに行くんだろう。......これは、後でお仕置きしないと」
そう言いながら、フランは厨房から出て行った。
あ、絶対無理だ。明後日が無駄になった。......ま、まぁ、フランに会うのは最後にすれば、みんなには渡せるよね。
「......フラン、ごめんなさいね。後で必ず会いに行きますから」
そう呟き、私は作るのを再開した──
──紅魔館(図書館)
「パチュリー、小悪魔ー。いますかー?」
全て作り終わり、最初に図書館に来た。最初にここに来た理由は、フランに見つかる前に、一人でも多く渡すためだ。図書館なら、パチュリーと小悪魔は絶対に居るし、お姉様や咲夜もたまに来る。
「あ、レナ様、どうしました?」
「いるわよ。どうしたの?」
が、どうやら今日はパチュリーと小悪魔しかいないみたいだ。美鈴は部屋か門にいるとして、お姉様と咲夜は何処だろう? ......まぁ、部屋に行けばいっか。
「あ、今日はバレンタインデーなので、チョコを渡しに来ました」
「あぁ、そう言えばそんなのやってたわね。数年ぶりかしら?」
「......私は貰った覚えがないので、十数年ぶりな気もします」
え、そんなに長い間忘れてたの? ......まぁ、来年も忘れないようにすればいっか。
「ま、まぁ、それは置いといて、どうぞ」
「ありがとうございます! いやー、私、こういうのは初めて貰いました! じゃ、早速。パクッ......あまーい! レナ様、美味しいです!」
「あ、ありがとうございます」
凄く嬉しいけど、少しオーバーリアクションな気も......。
「ふむ、確かに美味しいわね。甘さも控えめだから、丁度いいわ」
「ありがとうございます。......では、今日中に他の人にも渡したいので、行ってきますね」
「行ってらっしゃーい」
「またね」
こうして、無事に二人の分は渡し終えた。
次は......大体の場所が分かる美鈴にしましょうか......フランに会う前に、他の人達に渡し終えたいですね......。
そう思い、美鈴の部屋へと歩き始めた──
──紅魔館(美鈴の部屋)
「ふぅ......無事に着いてよかったです......。美鈴ー! 居ますかー?」
「え、あ、レナ様? あ......は、入っていいですよー」
そう言って、扉を叩いた。すると、美鈴から返事が返ってきた。......何かおかしい気がするけど、まぁいっか。
「お邪魔しm──」
「捕まえたー! やっと見つけたー」
部屋に入ると、美鈴と......フランが居た。フランは私が扉を開けたと同時に私に飛び込んできた。
「あ、ふ、フラン。......き、奇遇ですね。こんなところで会うなんて」
「そうだねー......お姉様、どこ行ってたの? ずっと探してたんだよ?」
怒ってる。完全にこの顔は怒ってる。頬を膨らませて、可愛いけど、絶対怒ってる......。
「すいませんでした。......今日はバレンタインデーだったので、チョコレートを作っていたんです」
「それならそうと言って欲しかったなぁ。......お姉様、約束を破った罪は重いよ?」
「はい、すいませんでした......。ですが、先に全員にチョコを渡していいですか? お仕置きはその後でいくらでもやっていいですから......」
「んー......まぁ、いいよ。その代わり、後でどうなっても文句はなしね」
「はい、勿論です......」
はぁ......まさか、美鈴の部屋に居たとは。予想外だった。
「えーと、もういいですかね?」
「あ、すいません。はい、これをどうぞ」
「あ、これって私の分ですか? いやー、久しぶりに食べますねー」
「お姉様、美鈴に渡したんだし、もう次行こっ」
「え、私の感想とかは......」
「美鈴、後でにして」
フランが口を三日月のように歪め、美鈴にそう言った。
「えぇー、そんなぁ......」
「あ、美鈴ー、明日、いや、明後日また来ますねー!」
「え、明日は......あ、あはは、そうでしたね......」
こうして、私とフランはお姉様を探しに行った──
──紅魔館(レミリアの部屋)
「レミリアお姉様! 入るわよ!」
フランがそう言って、部屋を思い切り開けた。部屋には、お姉様と咲夜が居た。
「うわっ!? ちょ、ちょっとフラン! 紅茶を零しちゃったじゃない!」
「あ、お姉様、咲夜。バレンタインデーなので、チョコを私に来ました」
「あ、ありがとう。じゃなくて! フラン!」
「あ、ごめんねー。じゃ、私の部屋に行こっか。お 姉 様」
フランが悪魔じみた笑みを浮かべ、そう言った。
「はぁ、レナ、また何かやったの? 貴女、いつかフランに殺されるわよ?」
「うぅ......明日にでも殺されそうです......」
「じゃ、頑張りなさいよ。私は助けないから。あ、チョコはありがとうね。明日にでも感想を言いに行くわ」
「レナ様、ありがとうございます。そして、生きて帰ってください」
「え、どうして最後の別れみたいな感じになってるんですか!?」
「さ、お姉様、部屋に行こー」
「あ、ちょ、た、助けてください!」
そう叫ぶ私を引きずって、フランは部屋へと連れて行った──
──紅魔館(フランの部屋)
「さぁ、お姉様。お仕置きしてあげるー......の前に、チョコレート食べていい?」
「はい、勿論いいですよ。もう逃げれないと分かっているので......」
フランの部屋に連れて来られ、今は拘束されてないし、逃げることも簡単だろうけど、後が怖いから出来ない。
「お姉様って物分りいいよねー。ま、約束は破っちゃうけど。じゃ、いただきまーす。パクッモグモグ......」
うー、最近フランに舐められてる気がする......。いや、一緒にいれたらなんでもいっか。
「お姉様、凄く美味しいわ。......それにしても、どこかで食べたことある味ね......お姉様、何か知ってる?」
あれ? まさかバレた? いや、そんなはずはない。絶対にバレてないはず......。
「い、いえ、何も知りませんよ? 人間の血なんてどれも同じだと思いますけど......」
「やっぱり、これって血だよね。......お姉様、ちょっと痛いかもしれないけど、ごめんね?」
「え? それってどう痛っ! ふ、フラン? ど、どうして?」
どうして分かったの?
フランが私の首筋を吸血した。まさか、憶えてるなんて......。フランって記憶力結構いいんだ。
「ジュウウウウ! ぷはぁ! あぁ、美味しかった。やっぱり、同じ味だし、お姉様の血だよね?」
「はぁ......よく分かりましたね。最後に吸血されたのは、数百年くらい前ですのに」
「お姉様の血って結構美味しいんだよ? だから、どれだけ昔でも憶えてるよ。それに、お姉様が眠ってる時に吸血することもあるし」
「え......せめて、言ってからにして下さい」
「うふふ、次からは言うね。......じゃ、今日のお仕置きは血を全部吸っちゃおうか!」
そう言って、フランが私に飛びつき、首に噛み付いてきた。
「あ、あぁ......ふ、フラン。全部吸われたら、死んじゃいます」
「ジュウウウウ! ぷはぁ、美味しい! あ、大丈夫。加減は出来ると思うから、じゃ、お姉様が気絶するまで飲んじゃうねー」
「え、ちょ、や、やめ痛っ! っ!? ふ、フラン!」
「はぁ、美味しいわ。毎日飲みたいくらい。あ、お姉様、次何か言ったら、もっとひどいことになるからね?」
フランが悪魔のような笑みを浮かべてそう言った。いや、悪魔だけど。
そして、私は何も抵抗せずに、一日を終えた────
本編は金曜日に投稿予定。
番外編はホワイトデーかな
因みに、レナータはMではありません(真顔)