今回の後半は銀髪の少女の話。
side Remilia Scarlet
──紅魔館(レミリアの部屋)
それは......私が500歳まで後数十年になると言う日のことだった。この日、『私』は死にかけた。その事件は、日が昇る前に起きた。
この日の日の出頃、私は自分の部屋でこの館の主としてこの館──紅魔館──の勉強をしていた。
「レミリアおねーさまー、あーそーぼー」
「あ、フラン。手を離さないで下さい」
「あ、ごめんなさい。でも、レミリアお姉様と早く遊びたかったから......」
そう言って、フランとレナが入ってきた。フランの翼が変わってから、能力をある程度制御出来るレナの付き添いがあれば紅魔館の中を自由に歩き回っていいことになった。しかし、フランは外に殆ど興味を示さないから私の部屋か図書館にしか行かないみたいだ。
「......ま、まぁ、それならいいですけど」
「レナ、貴女なんかちょろくなってない?」
「え? そうですか?」
「そうよ。フラン、貴女も姉を騙さないの」
「あ、レミリアお姉様、今の言葉は本当だよ。本当に遊びたいって、お姉様は分かってるからちょろくなってるだけだよ。多分。
それと、忙しいなら別に今度でいいからね。......今日は我慢してお姉様と遊ぶから」
いや、そんな悲しそうな目で言われて遊ばないとか私には出来ないんだけど......。フランって私よりも悪魔よねぇ…...。まぁ、それでも可愛い妹の一人だからいいんだけどね。
「はぁ、別に忙しくないからいいわよ。さ、ここでは遊ばないでしょ? 何処で遊ぶのかしら?」
「ん、ここで遊ぶつもりだったよ」
「え? ここで遊ぶの? それなら暴れないでよね? いつも貴方達は暴れて部屋をメチャクチャにしてるから」
「えー! メチャクチャなんかにしてないよ! それに、いつもお姉様が先に手を出してるし」
「え!? フランの方が先ですよ!? いつも先にこちょこちょするから、私はやり返してるだけです。正当なる防衛です!」
「ふーん、お姉様は私が悪いって言うんだ。姉なのに、妹に罪をかぶせるんだ」
「罪をかぶせてません! 本当にフランが悪いから悪いって言ってるだけです!」
レナがそう言っている最中にフランはレナに近付いて行く。そして、少し私を見た。
はぁ、どうしていつも喧嘩しようとしてるのかしら?
「へー、そんなこと言っちゃうんだ。お姉様は。......ここで喧嘩してもレミリアお姉様に後で怒られるし、場所変えよっか」
「まぁ、お姉様に怒られるのは嫌ですし、賛成です。出来るだけ広い場所で誰にも迷惑にならない場所にしましょう」
「なんで貴方達は喧嘩する方向で話してるのよ......それと、喧嘩する時点で本気で怒るわよ?」
「むー、お姉様、レミリアお姉様が本気で怒りそうだけど、どうする?」
「あらら、では、お姉様を困らせるのはやめましょう。多分、お姉様も演技って気付いてますでしょうし」
あ、演技なのか。よく、レナとフランは理由なく喧嘩と称して遊んだり、本気で喧嘩して部屋をメチャクチャにするから違いが分かりずらい。まぁ、どっちでも結局は私が怒って終わるんだけど......。
「ま、まぁ、気付いていたわよ。さ、そんなことは置いといて何して遊ぶのかしら? この部屋で遊ぶなら、暴れないような遊びにしてよね」
この部屋はフランの部屋よりもかなり狭い。と言うか、『弾幕ごっこ』が出来るフランの部屋は広すぎるくらいだけど。さらに、この部屋には大切な書物が沢山ある。そう言えば、昔、レナとフランがここで暴れそうになって本気で止めたことがあったんだったかな......まぁ、余計ひどくなったんだけど。
「お姉様、前言ってた『チェス』をしない? 楽しそうだし」
「え? チェスですか? と言うかフラン、チェスとか好きなんですか? フランはもっと体を動かす方が好きだと思ってましたけど」
「ん、私は体を動かす方が好きだよ? でも、頭を使うのも好き。と言うか、遊びなら大体好きだよ」
「レナ、フラン。チェスって二人でするゲームじゃなかったかしら? それをするなら、私の部屋に来た意味が無くなるわよ?」
「あ〜、そう言えばそっか。じゃ、お姉様、案出して。それを聞いて私とレミリアお姉様が決めるから」
「私が案を出すのですか......まぁ、いいですけど。んー、お姉様、思い付かないので決めて下さい」
「え!? 諦めるの早すぎない!? ま、まぁ、いいけど」
とは言ったものの、最近──と言っても、数十年程度だが──あんまり遊べてないし、レナとフランの方が遊びとか知ってそうだけど......あ、この娘達、遊び尽くしたのね。だから、私のところに来たってわけか。
「そうねぇ......レナ、昔、トランプってので遊んだでしょ? それはまだあるの?」
「え? お姉様とトランプで遊んだことってありましたっけ? まぁ、ありますし、お姉様が憶えているなら遊んだことがあるんでしょうけど」
「レミリアお姉様、お姉様。私知らないんだけど、『トランプ』って何?」
「あ、そう言えばフランはやったことが無かったかしら? トランプって言うのはね、簡単に言うと、一から十三までのカードが四枚と『ジョーカー』って言うカード二枚の合計五十四枚のカードで遊ぶゲームのことよ。まぁ、そのトランプで遊べるゲームは色々あるから、楽しめるとは思うわよ」
「ふーん、まぁ、別にいっか。さ、早く遊びましょう。どのトランプのゲームをするの? 私は楽しいならなんでもいいよ」
フランが少し怒ってた気がしたけど......今は普通の表情だし、気のせいか。
「んー、レナ、トランプで遊ぶなら何がいいと思う? 人数が少ないならパチェか美鈴を呼ぶわ。だから、三人から五人で出来るゲームはないかしら?」
「三人でも問題ないですよ。『七並べ』にしましょう。ちなみに、理由は特にないです。強いて言うなら、楽しめそうだからです」
「理由なくてもいいよ。私は楽しかったら全然いいから」
「まぁ、私も楽しいならなんでもいいわよ。さ、ルールを教えてちょうだい。私もやったことないと思うし」
「はい、まずは────」
そう言って、レナがゲームの説明をし始めた。そして、ゲームが始まり、私達姉妹は日が昇る寸前まで楽しく遊んだ────
──数時間後 紅魔館(レミリアの部屋)
「あ、また私の勝ちね。ふふ、お姉様達弱すぎない? 今度は20回やって15勝だよ?」
七並べを数回した後、色々なトランプのゲームをした。その勝負の結果、最初はルールを把握していたレナが勝ち続けていたが、途中からフランが勝ち続けた。はぁ、フランはこういう勝負事が強いのを忘れていた。
「うー......フランは強すぎます。あ、でもお姉様は弱すぎますね。一体どうして姉妹でこんなに変わるのでしょうか......」
「うっ、レナだって途中から負けてたじゃない! それと、次は勝つわよ!」
「レミリアお姉様、いい加減負けを認めたら?貴女は弱すぎるわよ。まぁ、能力を使ってないからなんだろうけど、それでも弱すぎるよ?」
「だ、だから、次は勝つわよって......」
そう言っている私自身の声が小さくなっていくのを感じた。
「れ、レミリアお姉様、もう一回だけしてあげるから、ね? だから、泣かないで」
「どっちが姉か分からない状況になってますよ。それと、お姉様はいつも負けず嫌いですよね」
「う、うるさいわね! それと、別に泣いてないから! 」
「あ、もうそんな時間ですか。フラン、戻りますよ」
「えー! もっとレミリアお姉様と遊びたい!」
「フラン、また明日遊んであげるわよ。だから、今日は早く寝なさい」
「むー......まぁ、明日遊んでくれるならいいよ。でも、約束は破らないでね」
「勿論、破らないわよ。明日は何も予定いから安心して」
まぁ、急に何かあるかもしれないんだけどね。その時はその時で仕方ないから、レナもフランも分かってくれるでしょ。......いや、フランは怒るか。
「では、お姉様。また明日会いましょう」
「また明日ー」
「えぇ、また明日ね」
そう言ってレナとフランが部屋から出て行った。
その時、ふと、紅魔館の廊下を歩く人間の少女が見えた。
「......あら? 侵入者かしら? まぁ、美鈴はこの時間いないから珍しくはないか」
たまに能力が自分の意志とは関係なく、自動で発動することがある。自動で発動するのは、たいていの場合、何か重要な時だ。前に発動した時は、美鈴の時だったかしら。まぁ、どっちにせよ、こうして見えたわけだし、行かないわけにはいかない。
そう思い、私は部屋を出て行く────
side Renata Scarlet
──同時刻 紅魔館(図書館)
「あ、レナ。少し話があるの。出来ればフランは本でも見て待っててくれないかしら?」
フランの部屋に行くために、図書館を通った時だった。突然、パチュリーが話しかけてきた。
パチュリーは最近、お姉様と仲が良いみたいだ。お互いのことを『パチェ』、『レミィ』と呼んでいた。私には何があったのかは知らない。まぁ、フランの翼が変わってからそうなったみたいだし、それが最初のきっかけなのかな。
「ん、お姉様、私は待ってるから話してきていいよ」
「......フランはいいのですか?」
「別にいいよ。お姉様はいつも私と遊んでくれてるし、今話してくれなくても、いつか話してくれると思うし」
「まぁ、フランがいいなら私もいいです。では、パチュリーと話してくるので、待ってて下さいね」
「うん、あ、出来れば早く終わらせてね」
そう言ってフランが少し離れた場所に行った。そして、私はパチュリーの近くに行った。
「話とは何ですか? 出来れば、フランが待ってるので早めに終わらせて下さい」
「さっきの話は聞こえてたから大丈夫よ。で、話なんだけど......レナ、貴女はフランを止める時っていつも能力を使っているのよね?」
フランを止める時? あぁ、狂気に染まった時のことか。
「まぁ、そうですけど、それがどうかしました?」
「単刀直入に言うわね。次からはその止め方はやめた方がいいわよ。貴女の為にも、フランの為にもね」
「え? ど、どうしてですか?」
今までフランが狂気に染まった時はその止め方をしてたけど、何か問題でもあったのかな? ......今まで、長い間──もう490年くらいの間──ずっとその止め方で、何も問題は無かったはずなんだけど......。
「貴女、自分の能力を勘違いでもしてるの? 貴女の能力は『有耶無耶にすること』でしょ? フランの中に潜む狂気を一時的に消すわけでは無いのよ? ただ、一時的に『分からなくする』だけよ。それがどういうことか分かる?」
「え、え? どういうことですか?」
「分からなくするだけで、消すわけではない......要するに、狂気を『抑え込んでる』のと同じなのよ。このまま続けていたらいつか、今まで抑え込んでいた狂気が爆発するわよ? もしも、それを有耶無耶にしたらどうなるか分かる?」
「......一時的にでも、フランを支配しているから......フランの意識を有耶無耶にするのと同じってことですか?」
「大体合ってるわね。そう思ってくれても大丈夫よ。おそらく、気絶するでしょうね。最悪、記憶とかを失うわよ。いくら貴女の能力が触れた時にしか効果がないと言ってもね」
......もしかしなくても、今までやってたことは間違っていたってことだよね。知らなかったとは言え、フランを苦しめてたのかな......?
「パチュリー、狂気を止める方法は、他にないですか?」
「あるわよ」
「......どんな方法ですか?」
「簡単なことよ。普通に発散させればいいだけよ。私には無理でしょうけど、貴女なら、同じ吸血鬼なら簡単なことでしょ?」
「? え、えーと......どうやって発散させればいいのです?」
「少し危険な遊びをすればいいのよ。私や美鈴なら死ぬかもしれないけど、フランよりも強い貴女かレミィならそれでも付き合えるでしょうよ」
危険な遊び? ......弾幕ごっこみたいな? それとも、人間を殺す時と同じくらいのかな? あ、フランに合わせればいいのか。危険でも、吸血鬼である今の私なら、すぐに再生するから大丈夫かな。
「ふむ......でもまぁ、前よりは狂気に染まることはないでしょうし、なってもフランと遊べばいいだけなら、問題ないですね。パチュリー、ありがとうございます」
「いいのよ。私まで巻き込まれたくないから。じゃ、吸血鬼の貴方達はもう寝るんでしょ? おやすみなさいね」
「はい、おやすみです」
そう言って、フランの近くまで急いで戻った。
「フラン、お待たせしてすいません」
「大丈夫だよ。言うほど時間は経ってないから。じゃ、戻ろっか」
「はい、戻りましょう。......あ、フラン」
「ん、何?」
ふとあることを思い、フランを呼んだ。
「何があっても、私は貴女を守りますからね」
「......ふふ、大丈夫だよ。それと、逆に私がお姉様を守ってあげるよ?」
フランが口を三日月のように曲げてそう言った。
「フランが? 私をですか? ふふ、面白いことを言いますね」
でも、嬉しいよ。ありがとうね、フラン。
「もうっ! 本気にしてないでしょ! いつか私も頼りになるって思わせてあげるんだから!」
「ふふ、期待していますよ」
「お姉様! 私を子供扱いしてるでしょ! ......あ、子供か」
「子供ですね。まぁ、私も子供ですけど」
人間だったら大人を通り越してるくらいだけど、私達は吸血鬼だから、まだまだ子供だ。まぁ、1000歳くらいになったら大人になるんだろうけど。まだまだ半分くらいか。いや、本当は何歳になったら吸血鬼での大人なのかは知らないんだけど。
「むー......まぁ、いいや。いつか分からせるから。じゃ、もう眠たいから早く戻ろっか」
「さっきも同じことを......あ、私のせいですね。はい、戻りましょう」
そう言って私達はフランの部屋にへと、足を進めた────
side ???
──同時刻 紅魔館(門前)
私は生まれた時から吸血鬼を殺す為だけに生きてきた。生まれた時からこの能力のせいで忌み嫌われてきた。
そして、今日は初めての実戦だ。
「......門番はいないみたいね。丁度いいわ」
そう呟き、吸血鬼が住むと言われる『紅魔館』へと入って行った。
ま、門番が居ても、私が生まれた時から持っていたこの能力があれば、他の人に忌み嫌われたこの能力があれば、問題ないけど。
「......随分と悪趣味な館」
中は『紅魔館』の名前の通り、床一面に赤い絨毯が敷かれていた。それだけじゃない。館の外観も赤一色だった。
「......こんな館に住んでいる奴の気がしれないわね」
「あら? そうかしら? 素敵な館だと思わない?」
そう呟いた時、後ろから声が聞こえてきた。
私が振り返ると、そこにはもしくは水色の混じった青髪に真紅の瞳を持ち、私よりも大きいが、人間で言うと10歳にも満たないくらいの女の子がいた。しかし、人間ではないことはひと目でわかる。背中に大きな翼があったからだ。
「......貴女は吸血鬼?」
「疑問文を疑問文で返さないでくれない? まぁ、別にいいわ。そうよ。私は吸血鬼にして、この館の主、レミリア・スカーレットよ。」
「......そう、なら死んで」
そう言い放ち、『時を止め』私は吸血鬼に向かって銀のナイフを投げた────
side Remilia Scarlet
──同時刻 紅魔館(廊下)
私は能力で見た少女を探し、門近くまで来ていた。そして、そこには能力で見た少女が居た。『私』はその少女に話しかけていた。
そして、気付いた時には、『私』に無数の銀のナイフが刺さっていた。
「え? な、何が起きたの?」
「......まだ生きていたの? まぁ、次で終わらせるからいいわ」
そう言って少女が銀のナイフを手に取った。
「これは......やばいわね。......どうしましょう」
そう言えば、前にもこんなことがあったわね。あの時はレナがいたから助かったけど、今はいないからかなりピンチだろう。それに、普通のナイフならまだしも、銀のナイフなら話は別だ。あの少女は吸血鬼の弱点をよく知っているみたいだ。
「死ねばいいんじゃない? それと、 もう終わったわよ?」
「え? ……あっ、痛っ......」
まただ。気付いた時には『私』に銀のナイフが刺さっていた。あれを受けていたら、どんどん視界が暗くなってきそうだ。
「死んだかな? 確か、この館には吸血鬼が二人いたのよね」
「えぇ、そうよ。まぁ、もう貴女には会えないでしょうけど」
そう言って、私は少女に組み付いた。多分、目にも止まらないくらいのスピードで動いていたのか、ナイフだけ瞬間移動でもさせていたのだろう。後者なら当たるかもしれないが、前者なら組み付いてしまえば動けないはずだ。
「えっ!? な、ど、どうして!? 貴女はさっきから銀のナイフで......え!?」
そう言って、少女は銀のナイフを無数に刺され、床に転がっていた『私』を見た。
「あぁ、あれね。あれは私の妹から貰った人形よ。凄いでしょ? とても私に似ていて、私の命令通りに動いて、喋るのよ。まぁ、本当に喋ってたのは私なんだけどね。中にある『スピーカー』ってやつとこの『マイク』ってやつのお陰なのよ」
「に、人形!? 嘘でしょ!? そ、そんなわけないわ! だって、さっきまで!」
「だから、さっきから言ってるでしょ? まぁ、別に後ででいいわ。じゃ、おやすみなさい」
そう言って、人間の少女の首を緩く締め、気絶さした。やるのは初めてだから、失敗する可能性もあったけど、まぁ、大丈夫みたいだからいっか。
そう思いながら少女を私の部屋へと連れて行った────
──数十分後 紅魔館(レミリアの部屋)
「ん、あ、あれ? ここは......はぁ!? ちょ、ど、どうして!?」
「あ、起きたみたいね。って、そんなに騒いでどうしたの? 何も悪いことはしないわよ?」
「そう言ってるけど、手足を縛ってるじゃん! 絶対食べる気でしょ!? 食べられるくらいなら死んだ方がマシよ! 早く殺しなさい!」
「だから、何も悪いことはしないわよ。手足を縛ってるのは能力を使われたくないだけよ。貴女、超高速で動くとかそんな感じなんでしょ? じゃないと、私の拘束から逃げれなかった説明がつかないわ」
「......はぁ、違うわ。私は時を止めることが出来るの。だから、他の人間から忌み嫌われ、吸血鬼なんかを殺す為に育てられてきたのよ」
え? 人間って時を止めるくらいで忌み嫌うの? と言うか、その能力欲しいわね。
そんなことを顔に出して思っていたのがバレたのか、人間の少女が答えた。
「あんた達とは価値観が違うのよ。どうせ、あんた達も利用出来そうとかしか思ってないんでしょ?」
「えぇ、よく分かったわね。その通りよ。その能力が欲しいわ。そうねぇ、貴女、ここでメイドとして働かない? 一日三食付けるわよ? それに、望むなら普通の人間よりも長く生かすことが出来るわよ? いい話だと思わない?」
「......え? メイド? 時を止める能力よ? そんなことに使わせるつもりなの? それと、あんた達化け物みたいに長く生きたくないわよ。......でもまぁ、面白いわね。あんた」
「あんたじゃなくてお嬢様と言いなさい。今日からメイドとして働く身なのよ? 私には敬語を使いなさい」
......まぁ、美鈴は敬語を使ってるけど、別に強要はしようと思わないから、いいんだけどね。
「だから! まだやるとは言ってないって!」
「え? そうなの? でも、やるつもりなんでしょ? 一日三食で普通よりも長く生きれるのよ?」
「はぁ......どうせやるって言わないとここから離さないんでしょ? なら別にいいわよ。いや、いいですよ、お嬢様。その代わり、長く生きるつもりはありません。」
「あら? どうしてかしら?」
「化け物にはなりたくないので。でも、毎日忘れずに三食は付けて下さいよ」
「勿論よ。私は悪魔、
まぁ、破れなくても、破るつもりは無いけどね。
「あぁ、それと、名前を聞いてなかったわね。なんて名前なの?」
「......名前なんてないですよ。私は生まれた時から、吸血鬼を殺す為だけに、そうですね、例えるなら『道具として生きてきましたから』」
「あぁ、なるほど、本当は戻っても居場所がないから、どうせなら毎日三食食べれるこっちに住もうと思ったのね」
「うっ、まぁ、当たりですよ。......お嬢様、貴方様が私の名前をお決めください。どんな名前でも文句は言いません」
どんな名前でも......ねぇ。まぁ、流石に人の名前を決める時はふざけようとは思わないけど。
「ふーん......どんな名前でもねぇ。まぁ、ちゃんと考えてあげるわよ。......そうねぇ、貴女、月は、特に満月は好きかしら?」
「満月......ですか? まぁ、どっちかと言うと好きですよ」
「なら、貴女は今日から『十六夜 咲夜』よ。『十六夜』と言うことは満月の次の夜、そして、『咲夜』は昨夜と言う意味で、十六夜の前の夜......要するに満月の日よ。どう? いい名前だと思わない?」
「......はい、いい名前でございますね。......お嬢様、ありがとうございます」
咲夜がそう言って涙を流した。名前を付けられるのって、そんなに嬉しいのね。まぁ、嬉しそうで何よりね。
「お礼はいいわよ。さ、明日から本番よ。今日はもう寝なさい。......あ、言い忘れてたけど、私達は夜に行動するから、合わしてもらうわよ?」
「......お嬢様、それは先に言ってください。ですが、何も問題はありません。......それよりも、問題は、私は料理など一切出来ないのですが......」
「レナや美鈴に教えて貰えばいいのよ。それなりに出来るみたいだから」
「それなら、いいですけど......」
「じゃ、外したら寝るから。あぁ、ナイフは全部隠してるから、殺すのは諦めなさいよ」
捨てても良かったけど、それだとなんか可哀想だったから隠すだけにしておいた。まぁ、この部屋からは結構遠い場所に置いてるけど。
「お嬢様、私は別に殺すつもりなんてありませんよ。ですが、部屋は用意して下さい。出来れば、一緒に寝たくはありません」
「駄目ね。部屋なんてまだ用意してないし、監視する役目もあるから、一緒に寝るわよ」
「......はぁ、仕方ないですね......ですが、明日は部屋を用意して下さいませ」
「んー......まぁ、別にいいわよ。じゃ、外しておいたから、おやすみなさいね」
「......はい、おやすみなさいませ、お嬢様」
そう言って、私は眠りについた。
だが、しばらく咲夜は部屋を歩き回り、ナイフを探していたみたいだった。まぁ、すぐに諦め、寝たみたいだったが。
こうして、『私』が死にかけた一日は終わった────
次回は金曜日の予定。次こそは遅れない(願望)
いつの間にか、お気に入りの数が40を越えてた。閲覧者の皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m
50以上になったら番外編やります()