今回は前半に少しパチュリー、後半に三姉妹(主にフラン)のお話。
そう言えば、バレンタインデーがもうすぐなんだなと知った()
side Patchouli Knowledge
「ふぅ......やっぱり、これだけの数は疲れるわね」
ここに来てから一年もの年月が過ぎた。私は今、図書館内に放置されていた一室を借りている。勿論、自分の部屋はもらえたのだけど、図書館に居ることが多く、そのままここで寝ることが多いからここにあった使われていない部屋を交換でもらうことになった。
「お邪魔するわね。あら、終わったのかしら?」
そう言いながら部屋に入ってきたのはレミリアだった。
「えぇ、貴女に頼まれたのはとっくの昔に終わってるわよ。今は別の種類の魔導書を読み漁ってたところ」
ここに住み始めてからレミリアからある話を聞いていた。そして、一週間くらい前からそれを治す、というか無くす方法を探して欲しいと頼まれた。
「ふーん、思ったよりも早いのね。で、どんな方法なのかしら? 出来るだけ早く、簡単であの娘が苦痛に思わないのなら何でもいいわよ」
「そんなの、私よりも長く生きているレナにも出来なかったんでしょ? 私に出来ると思うの? それに生まれついて持っているモノは何をしても無くすことは出来ないわよ」
「まぁ、確かにそうかもね。でも、必ず何か方法はあるはずよ。それに、レナは治せなかったというよりは......治す方法があっても、それがフランに苦痛を与える方法だったからやらなかった、って、私は思うんだけどね。......で、貴女も見つけたのは見つけたんでしょ? どんな方法でもいいわ。教えてちょうだい」
頼まれていたのはフランの狂気を無くす方法だ。でも、普通に無くしただけでは──それこそ、生まれついて持っているものを消すのは──人格を崩壊させかねない。そうならないような方法を私は探した。そして、見つけることは出来た。運が良いのか、材料は既に持っている。
しかし、私が見つけれたくらいだ。生まれてからずっと一緒にいて、魔法使いでもあるレナが同じ方法を見つけていないわけはない。......この方法では苦痛が伴う。それも、おそらくかなりの苦痛だろう。
「......いいわ。教えてあげる。でも、とても苦痛が伴うわよ。馴染むのに少なくても数十年はかかるわ。その間も苦痛に悩ませることがある。それでもいいの?」
でも、私はここに住まわせてもらっている身だ。ここの当主の妹がどうなるか決めるのは私ではない。ここの当主だ。
「いいわよ。吸血鬼にとって数十年くらい......きっと、あっという間に過ぎるわ」
「......はぁ、貴女、きっと妹に恨まれるわよ? 本当にそれでもいいの?」
「え......あ、いえ、それでもいいわよ。私が恨まれようが殺されそうになろうが別にいいわよ。フランがこの先、狂気で悩ませることがないならね 」
「ふーん......立派な家族愛ね。まぁ、そこまで言うなら教えてあげる。はい、これ」
そう言って私は棚にしまってあった箱を取り出した。
「......これは?」
「その中には八色の『賢者の石』が二つずつ入っているわ。それをフランの翼にでも付けなさい。それを付けると数十年後にはその狂気もマシになってるわよ。でも、これから数十年、マシになるまでその石の魔力の影響で苦しみ続けるかもしれないけど......本当に付けるのかは貴女が決めなさい」
「え、ちょっと! 話が違うじゃない! 数十年? マシになる? 私は狂気を一刻でも早く狂気を無くして欲しいのよ!?」
「だから、その数十年が一番早いのよ。それと、最初にも言ったけど、生まれついて持っているモノは無くすことは出来ないわよ。それなりの対価が必要になるわ。それこそ、実の姉である貴女の命......それくらい必要になるわよ」
無くす方法は幾つかある。しかし、何事にもそれに対する『思い』は必要だ。それこそ、対価にもだ。だから、他のモノでは駄目だ。他人の命などでは『フランの狂気を無くすという思い』が全然足りない。
「......フランがこれから幸せになるならなんでも捧げるわよ。私の命でも、私に出来ることならなんでもね」
はぁ......異常過ぎるかもしれないわね。この家族愛は。
「そう。それなら今はやめときなさい。貴女は今、死ぬべきではないわ。今死んでもフランやレナ、私にも迷惑がかかるからね。だから、今は出来ることだけにしなさい」
「......それもそうね。今は諦めるわ。......でも、いつかは必ずやるわよ?」
レミリアが口では諦めていると言いながらも表情は諦めていない様子でそう言った。
「死ぬ間際くらいにしなさいよ。フランやレナを悲しませたくないならね」
「はぁ、分かったわよ。さ、具体的にフランの翼に付けるってどうするのかしら?」
「フランの翼の膜を取って代わりにこの『賢者の石』を全部付けるだけよ。吸血鬼だし、付けるのはなんとかなるでしょ?」
「貴女も簡単に言うわね。まぁ、それだけなら私とレナがいればいいわね。貴女はもう待ってていいわ」
用済みになったら捨てる......流石は悪魔ね。まぁ、巻き込まれたくないから最初からここに居るつもりだけど。
「そう、気を付けなさいよ。痛みや『賢者の石』の魔力の影響で苦しむフランもだけど......それを見て貴女も苦しむかもしれないから」
「あら? 私はフランとレナの為なら嫌われ者でもなんでもなるのよ? それくらいなら大丈夫よ」
「ふーん......後で一人でひっそりと泣くんでしょうね〜」
「ちょ、何で知ってるのよ!? ......あっ」
あ、本当に泣くんだ。と言うか自分でも既に泣く前提で行くのね。割と精神面は弱いのねぇ。
「ま、妹様達には教えはしませんよ。お 嬢 様」
「うー......もう行くわ!」
そう言って音を大きく立てて扉を閉めて出て行った。
「はぁ、レミリアって見た目通りなのね。まぁ、あの姉を見た限りじゃ、妹様達も変わらないと思うけど。さ、続きでも読みましょうか。『下級悪魔の召喚』......気になるわね〜」
そう言って私は魔導書を読む作業に戻った────
side Remilia Scarlet
──紅魔館(フランの部屋)
先にレナの部屋に行ってフランの部屋まで来た。あいにくとレナは留守だったが、おそらく、フランと一緒に居るのだろう。
「フラン! レナ! 入るわよ!」
「ん、レミリアお姉様? 大声を出してどうしたの?」
「お姉様、今からフランに絵本でも読んであげようかと思っていたんですけど......」
「あ、ごめんなさいね。でも、今すぐやりたいことがあるの!」
「お願い、またレミリアお姉様の気まぐれが始まったわよ」
「フラン、声に出して言っては駄目ですよ。いつも言ってるみたいに聞こえますから。......まぁ、いつもですけど」
ちょ、真剣な話のつもりなのにいつも気まぐれで何かやってるから......って、誰がいつも気まぐれでやってるのよ!? あれでも結構真面目なのに! ......いや、今はそんなことはどうでもいいか。
「レナ、フラン。よく聞いてちょうだい。今からフランの狂気を無くす......と言うかマシにさせるから協力して」
「......私の......狂気を? そんなことが出来るの?」
「......お姉様、フランに危険は無いんですか? あるなら私は反対ですよ」
「危険はないわ。その代わり痛みが伴うらしいわよ」
「お姉様、それを知りながらするんですか? それなら死んでも止めますよ?」
やっぱり、レナはそう来るわよね。まぁ、分かってたけど。
「あら? 貴女に私が止めれるの? なんて冗談はしても意味がないわね。貴女が痛みを有耶無耶にすればいい話でしょ?」
「......フランはいいですか?」
「んー......いいよ。このままだとお姉様達、喧嘩しそうだし、レミリアお姉様は諦めるつもりなんてないでしょ?」
「あら、フランは私のことをよく分かっているのね」
「うー......フランがいいならいいですよ。でも、お姉様。危険だと思ったらすぐにでも止めますからね」
まぁ、姉としてのその気持ちは私にも分かるわね。でも、ごめんね。能力でこの先どうなるかは大体分かってるからこうしたいのよ。まぁ、それで私が死にかけたとしても心配してくれるんでしょうけどね。ま、死にかけたりしないけど。
「あらあら、心配症ねぇ。まぁ、それがレナの良いところなんだけどね。......じゃ、始めるわよ。レナ、フランの痛覚を有耶無耶にしてちょうだい。フラン、準備はいい? それと、貴女の翼の形が変わるけどいいかしら?」
「え? 形変わっちゃうの? お姉様達と同じ形の方がいいんだけど......」
「大丈夫よ。今よりもずっと綺麗になるから」
「......本当に? 嘘じゃない? 嘘ならレミリアお姉様でも許さないよ?」
あ、これ綺麗じゃなかったら死んでたかもね。まぁ、殺しはしないから多分、大丈夫でしょ。痛覚はあるからショックで気絶くらいはしそうだけど。
「本当よ。これを見てみなさい。綺麗な宝石でしょ?」
「......ふーん、確かに綺麗ね。レミリアお姉様、お姉様。もう準備はいいわよ。さっさと終わらせて寝ましょう。もう日が登る時間でしょ?」
「あ、えぇ、そうね。......レナ、もう能力は使った?」
「はい、使ってますよ。お姉様、フランの言う通りさっさと済ませて下さい」
「なんかあたりが強い気が......まぁ、いいわ。じゃ、まずは翼をも......取るわよ」
そう言って私は翼の膜の部分を爪で切り裂いていく。すると、案の定血が出てきた。しかし、フランは痛がっている様子はない。
「やっぱり、レナの能力は便利ね。まぁ、分からないだけで実際は痛いわけだし、早くするに越したことはないけど」
「ん、血は流れてるのは分かるんだね。ま、痛みはないけど」
「フランが大丈夫そうなら良かったです。さ、お姉様。早く終わらせて下さい」
「大丈夫、もう終わるわ」
そう言って私はフランが再生する前に『賢者の石』を付けていく。付けると言っても、近付けると勝手にフランの翼に引き寄せられて付いていくから楽な作業だ。
「それにしても、凄いですね。その石は。魔力を凄く感じます」
「ふーん、私にはよく分からないけど、貴女が言うのならそうなのね。あ、終わったわよ。レナ、もう魔法で治してもいいわよ。治しても膜が出ることはないわ。......それにしても、綺麗な翼ね」
「はい、確かに綺麗ですね......あ、フラン、もう治したので離しますが、痛くないですか?」
「ん、痛くないよ。全然平気。......わぁ〜、本当に綺麗な宝石ね〜」
そう言ってフランが宝石に、いや、自分の翼に触れた。
「お姉様、お話があります」
「え? ど、どうしたの? なんか真剣な感じだけど......」
「お姉様、これから何かあっても急には言わないで下さい。先に相談して下さい。じゃないと、私も色々と困ります」
「う、ご、ごめんなさいね。でも、今日のは許してちょうだい。ほら、フランも元気そうだし......ね?」
「あ、私もレミリアお姉様の我が儘に付き合わされるのはごめんよ。いつも疲れるし、面倒だし」
フランが自分の翼に触れながらそう言った。
「え.....あ、貴女もそうなの? レナ」
「まぁ、そうですね。面倒なのも疲れるのも同意します」
「うー......貴方達も楽しそうだからやってたのに......」
「それはお姉様が一人だと泣き叫ぶから......」
「な、泣かないわよ! っていうか、なんで知ってるのよ! あ、い、今のは嘘だからね」
「レミリアお姉様が泣くのはいつも通り。姉妹なんだし私達は気にしないよ? 誰かに泣かされたとかなら泣かした奴は殺すけど、そんなことは一度もないでしょ? いつもお姉様が私達に相手にされなくて泣いてるでしょ?」
うっ、普通にバレてた......と言うか、私の妹怖過ぎない!? 殺すの!? あ、でも私でもレナかフランを泣かした奴は殺すって決めてるし変わらないか。
「うー......バラさないでよー」
「だから、私達は知ってるって。ね? お姉様」
「まぁ、知ってますね。お姉様も分かりやすいですし」
レナにだけは言われたくない......。けど、本当っぽいから何とも言えない。
「も、もうこの話は終わりにして寝ましょう! ほら、フランも痛むかもしれないから早く寝なさい!」
「ん、レミリアお姉様は今日ここで寝るの?」
「えぇ、そうよ。嬉しいでしょ?」
「ん、全然? 別にお姉様と一緒に寝れるからどっちでもいい」
「え、えぇ!? れ、レナは嬉しい......よね?」
「......フランも正直ではないですよね。まぁ、いいですけど。私もフランも嬉しいですよ。フランなんて毎日のようにお姉様のことを聞いてきますし」
「ちょ、お姉様! あれだけばらさないでって言ったのに! 怒るわよ!?」
「あ、これはやばいですね。......じゃ、私は自分の部屋で────」
「逃 が さ な い わ よ ?」
そう言ってフランがレナへと近付き、レナを力ずくでベッドまで連れて行った。
「あ、お、お姉様! 助けて下さい! このままじゃ死んじゃいます! フランに殺され......あ、死ぬ時はお姉様かフランに殺されるなら後悔はしませんけど」
「なら、別にいいわよね? お 姉 様 ?」
「あ、フラン。今日はやめて、明日にしてくれませんか? じゃないと、フランの翼の傷が開いちゃうかもしれないですし」
「ん、別に大丈夫よ。じゃ、次の夜まで遊びましょ?」
そう言ってフランがレナに馬乗りになって、口を三日月のような形に歪めた。
「あ、や、やめ、キャハハハハ!」
それからしばらくレナの笑い声が館中に響いたのは言うまでもない。しかし、フランは翼を新たに付けたのが疲れたのかこちょこちょの途中でレナに抱きつきながら寝てしまった。そして、レナもフランの容赦のないこちょこちょのせいか、気絶してしまった。
そして、私もそんな妹達を見たあと、静かに目を閉じ寝ることにした────
次の投稿予定日は日曜日(また遅れる模様() おそらく、火曜になりそうです。申し訳ない())。次回は銀髪の人が出るかもしれないし出ないかもしれない