side Remilia Scarlet
人間が襲撃してから、一週間ほどたったある日。私は一つだけ、気になっていることがある。
それは、この間、私が怪我を負ってレナが襲撃した人間を殺してから......レナの元気がない気がすることだ。私達、姉妹の前では元気そうに振舞っているけど、レナは表情が表に出やすいからすぐに分かる。
はぁー......本当にどうしたらいいんだろうか? レナから相談してくれた方が簡単でいいんだけど、相談してくれそうにないし......。
「はぁー......もう、どうしたら......」
「レミリアお姉様? どうしたの?」
「お姉様......元気なさそうですが、大丈夫ですか?」
あ......レナとフランを部屋に呼んでたのをすっかり忘れてたわ。考え事をしていたせいか、目の前にいるのに気付かなかった......。
と言うかレナ、それは私のセリフなんだけど......。
「大丈夫、何もないわよ。......で、貴方達をここに呼んだ理由なんだけどね。もうすぐしたら、妖怪がやってくるから、貴方達に相手をして欲しいの。まぁ、襲撃とかそんなに野蛮じゃないけど、戦うことになるわ。あ、戦うのは私がやるわよ。その後、貴方達に話してて欲しいの。......多分、仲間になってくれる妖怪よ。
......多分だけど」
本当は、フランには地下で待っててもらおうと思ってたけど......レナの能力があるし、大丈夫のはずよね? まぁ、死んじゃったら死んじゃったで仕方ないか。......いや、それはダメだけど。
「......お姉様、どんな妖怪なんですか? それと、何故、戦う前提なんです?」
「さぁ、私にも分からないわ。昨日、
後、戦う前提なのはそういう
「......お姉様、どうする? 私は、レミリアお姉様が勝手に妄想しているだけ、って思ってるけど」
フランが胡散臭そうに私を見てそう言った。
「ちょっ、ちょっと! フラン!? それはどういうことよ!?」
「お姉様、フランはお姉様の能力を信じていないだけですよ。
フラン、私は例え嘘でも......お姉様の娯楽に付き合います」
「れ、レナ! それはそれで酷いわよ! それも信じていないってことでしょ!?」
「はぁー、お姉様がそう言うなら私も手伝うわ。......私はどうせ暇だし」
フランが諦めたような顔でそう言った。
え? 私の能力って、妹に信じられてないの? 普通に悲しいんだけど......。
「あれ、お姉様? どうしました?」
「な、何でもないわ......。さ、私は行ってくるから、貴方達はここで待っていて。すぐに連れて来るわ」
「逆に言うと、すぐに倒す、って言うことですよね? 一人で本当に大丈夫なんです?」
「レナは心配しすぎよ。私達は吸血鬼よ? 吸血鬼がそう簡単に殺られるわけないじゃない」
「お姉様、それは相手が吸血鬼じゃなかったらの話ですよね? もしも、吸血鬼だったらどうするんですか?」
あ、その可能性もあったわね。でも──
「私が死ぬ
「はぁー......お姉様、レミリアお姉様はこう言ったら止めれないわよ。『運命を操る』なんてただ言ってるだけなのに......どこからこんな自信が出てくるんだろう?」
「だ、だから! 本当のことだってば! ......まだ戦ってもないのに疲れるわ......」
「あら、これくらいで疲れるんじゃ、勝てないんじゃないの?」
「フラ......いえ、もういいわ。話してたらこっちが疲れるし。じゃ、私は行くわね」
そう言って、私は部屋を出ようとする。
それにしても、レナは大丈夫かしら。元気そうにはしてるけど......いや、私かフランと一緒にいる時はいつもこんな感じか。
「お姉様、行ってらっしゃいです。......気を付けて下さいね。」
「.....ほんと、優しいのはレナだけね。......フランとは大違いだわ」
「あら、レミリアお姉様? 今なにか言ったかしら?」
「別に〜、何も言っていないわよ〜」
「ふーん、ならいいわ。......レミリアお姉様、死んじゃ嫌だからね。生きて帰ってきてね」
「......あら、素直になったじゃない。
私が生きて帰ってこないことなんてあったかしら? 大丈夫よ。私は死なないから」
私が死ぬ
「それならいいけど......本当に気をつけてね。レミリアお姉様」
「ありがと、フラン、レナ。じゃ、また後でね」
そう言って私は部屋を出た──
──紅魔館(門前)
「そろそろ来るはず......よね。それにしても、今日は満月か。こんな日に吸血鬼の館に来る妖怪ってどんな奴なのかしら?」
満月、綺麗ね......。そう言えば、前にレナに教えてもらったことだけど、月は太陽の光を反射してるらしい。
それなのに、どうして私達は大丈夫なのかしら? とレナに聞いたら
『反射してるからだと思います。反射は威力を無効化し、効果を反転させるとか何とか......』
とかわけのわからないことを言っていた。
「あの〜、吸血鬼が住むと言う館がここにあると聞いて来たんですけど......もしかしてここですかね?」
そう私に訪ねてきたのは、東洋の服らしい淡い緑色を主体とした衣装を着た妖怪だった。 髪はレナよりは薄めの赤で、腰まで伸ばしている。そして、目は青く、側頭部を編み上げてリボンを付けて垂らしていた。
服を見ても分かる通り、おそらくは東洋の妖怪なんだろう。
それにしても──
「貴女、私が何の妖怪か分からないわけ?」
「え? もしかして、貴女が吸血鬼!? こ、ここには『紅い悪魔』と『血に染まった悪魔』がいるって聞いたんだけど......え!? もしかして、貴女がそのどっちかなの!?」
そう言って東洋の妖怪が驚き、ガッカリした。
「どうして貴女がそんなにガッカリしてるのかは知らないけど......そうよ。
私が『紅い悪魔』、レミリア・スカーレットよ。『血に染まった悪魔』は私の妹......って、どうしてさらに落ち込んでるのよ?」
「い、いえ......。実は私、武術を極める為に、旅に出ていて......強くなるために色々な場所を回っているんです。そして、人間の村にいる時に、貴方達、悪魔の噂を聞いたので......。
近くだったので、少し寄ってみて、手合わせしたいなぁ、って思ったのです」
「あぁ......もしかして、私の姿を見てガッカリしたわけ?」
今の私達、姉妹の見た目は人間で言うと、十歳にも満たないくらいの幼い姿だ。
色々な場所を回り、手合わせをしてきたこの妖怪にとって、見た目が十歳に満たない子供の私達とはやりにくいのだろう。ま、それも『見た目だけ』と言うことを思い知らせた方がいいわね。
「まぁ、失礼ですけど......そうですね」
「へぇー、これを見ても、そう言えるのかしら?」
そう言って私は妖力を垂れ流しにする。やっぱり、格下の妖怪に対してはこうした方が手っ取り早い。
「......ふむ、なるほど。本当に噂通りの方みたいですね。......一度、手合わせお願い出来ますか?」
思ったよりも効果が薄い。......面白い奴ね。
「そうねぇ......もし、私が勝ったらここのメイドか門番になる、っていうならいいわよ?
ここには仕事もちゃんと出来ない妖精メイドしかいないし、朝は門番が務まりそうな奴はいないからね」
「え!? そ、そうですね......。メイドは中華料理くらいなら出来ますけど、掃除とかは出来ませんから......やるとしたら門番の方がいいですね。そっちの方が手合わせも出来そうですし。......もし、私が勝ったら何かしてくれるんですか?」
「何でも願いを叶えてあげるわ」
「......本当に出来るかどうかは置いといて、まぁ、いいでしょう。その代わり、本気で来てくださいよ」
これで朝は楽になるわね。侵入者とか来て、朝に起こされるとイラつくし、面倒だからね。
門番と言う紅魔館の住人が増えるのは嬉しいわ。
「勿論よ。......そう言えば、どうして夜に来たのかしら? 私達吸血鬼は朝が、太陽が弱点なのよ? 朝の方が勝つ可能性があるのに......知らなかったのかしら?」
「あ、いえ、知っていましたよ。しかし、相手が弱っている状態で勝負するなんて......それは卑怯者のすることですから。私は正々堂々と勝負して、勝ちたいのです」
「ふーん......面白い奴ね。ますます気に入ったわ。貴女、名前は?」
「あ、申し遅れましたね。私は美鈴......紅美鈴です」
紅美鈴......名前の響きからして、東洋の妖怪ね。
「そう、美鈴ね。じゃ、早く始めましょうか。妹達を待たせてあるのよ。すぐに終わらせて紹介してあげるわ」
「おや、私が来ることでも知っていたんですか? ......まぁ、それは終わってから聞くとして、ルールはどうします?」
「先に一発当たった方が負け......そう言うルールでいいかしら?」
「あら、それなら私の方に分がありますよ? 本当にいいんですか?」
「私を舐めすぎよ。それに、私が負ける
「? ......まぁ、貴女がいいならいいですけど......。では、行きますよ!」
そう言って美鈴が一気に距離を詰め、正拳突きを私に腹部に狙って放った。
思ったよりも早いけど......これくらいなら──
「なっ!?」
「っ! お、思ったよりも強かったわね」
私は正拳突きを片手で受け止めた。両手でやった方が良かったわね。思ったよりも痛かったわ。
「そ、そんな......渾身の一撃が......。でも、これなら! せいやっ!」
そう言って、美鈴がもう片方の手で顔を狙って殴ってきた。しかし、私達、吸血鬼の動体視力ではそれを見切るのは難しいことではない。
それを避け、美鈴のもう片方の手を掴み、拘束する。
「これで動け──」
「はっ!」
美鈴がそう叫んで、ブンッ、と音を出し、顔を狙って回し蹴りをしてきた。それを私は首を傾け、何とか避ける。......だが、回った時の反動で手の拘束が解けてしまった。
「せいっ! やっ! はっ!」
美鈴が顔や腹部、手や足を狙い、蹴りや拳を放つ。私達、吸血鬼の動体視力、身体能力さえあれば、これを避けるくらい、そう難しいことでもない。私は顔が狙われたのは頭を傾けたりして避け、腹部のは少し後ろに下がったり、手や足を受け止めて直撃しないようにする。手や足を狙ったものは、当たる前に他の手足で関節の部分を抑え、当てれないようにする。
「よっ、と。これで終わりかしら?」
「くっ......はぁっ!」
美鈴がまた最初の正拳突きのような重たい一撃を放った。......これを待っていたわ。
私はその一撃を受け流しながらその手を掴み、足を使って美鈴の足を払い、投げ飛ばす。そして、間髪入れずに美鈴の首に向かって手を、爪で切り裂くようにして振り下ろし、すんでのところで止めた。
「ぐっ! ......くっ、私の......負け、ですね」
「えぇ、そうね。さ、悪魔との約束は破れないわよ。貴女は今日から門番ね」
「はい、勿論です。それと......元から破るつもりはありませんでしたよ。勝てないと分かっていても......強い相手には挑みたいものです」
「ふーん......本当に面白い奴ねぇ。最初から門番になるつもりだったわけ?」
「あ、いえ。それは違いますけど......強い人の元についてみたい、とは思ったことがあるので」
「なるほどね。さ、早く入りましょう。妹達が首を長くして待っているわ」
そう言って、私は門を潜り、紅魔館へと入って行った。
「......はい、分かりました。......お嬢様」
そして、美鈴がそう言って、私の後ろについて来た────
side Renata Scarlet
──紅魔館(レミリアの部屋)
フランとお姉様の部屋にあったチェスで遊んでいる時──チェスでフランに負け続けていた時──お姉様が華人服とチャイナドレスを足して二で割ったような淡い緑色をした衣装の女性と一緒に部屋に戻ってきた。私には前世の記憶のおかげで見覚えがあった。
彼女は紅美鈴......『気を使う程度の能力』の持ち主で、紅魔館の門番をすることになる妖怪だ。
「......レミリアお姉様、その人は?」
「今日からこの紅魔館で住みこみで門番をすることになった紅美鈴よ」
「ふーん......私はフランドール・スカーレット。レミリアお姉様の妹でスカーレット姉妹の三女よ」
フランがそっけなく答えた。やっぱり、地下に長いこといたせいか少し人見知りが激しくなっているみたいだ。まぁ、そのうち仲良くなれるだろうし、大丈夫......だよね?
「私はレナータ・スカーレット。お姉様の妹で、スカーレット姉妹の次女です。よろしくお願いしますね」
「えーと......レナータお嬢様とフランドールお嬢様ですね。
私は先ほど、お嬢様の紹介にもありましたけど......紅美鈴です。これから門番として、貴方達を守ることになるので、よろしくお願いします」
「あ、レナでいいですよ。お嬢様も付ける必要はないです」
「私もフランでいい。名前は......フランドールよりかはフランの方が好きだし......」
フラン、何か嫌なことでも思い出したのかな? 少し暗い表情だけど......。
でもまぁ、フランは話したくなさそうだし、別にいっか。
「あ、いえいえ。私はここに勤めさせていただくわけで......そんな、同じ目線で話すなんて......」
「美鈴、いいのよ。この娘達の言う通りにしなさい。主の命令よ」
「え、で、ですがお嬢様」
「美鈴、レナとフランの言う通りにしなさい」
「......は、はい、分かりました。ですが、敬意を払わないわけにはいきません。なので、『様』は付けさせて下さい。そう言うわけで、せめて、レナ様とフラン様にさせて下さい」
んー...よく分からないけど...まぁ、そう言うなら...。
「仕方ないですね......。いいですよ」
「私もフランドール以外なら別に何でもいいよ」
「ありがとうございます。レナ様、フラン様」
「紅美鈴さん......いえ、美鈴はどういう経緯でここまで来たんですか?
おそらくですけど、東洋に住む妖怪ですよね?」
「あ、私は武術......その中でも『中国武術』の修行のために、国を出て、色々な場所で手合わせや修行をしているのです」
「『チュウゴク』? 美鈴、『チュウゴク』って何?」
フランがそう言って美鈴に聞いた。そう言えば、魔導書ばっかりで他の本はあんまり見せてなかったっけ......。明日、別の本......漫画みたいのがあれば持っていこう。
「『中国』と言うのは、私が住んでいた国のことです。......よければ、私の国のことをお教えしましょうか?」
「うん! お願い!」
あ、フランに興味が湧いたみたい。目がキラキラしてる。この調子なら......仲良くなるのも早いかな。
そう思いながら、私とお姉様はフランと美鈴の会話を聞くことにした────
次回は美鈴が中心の話の予定。次回投稿日は水曜です。