1、「初狩り 残虐な吸血鬼の最後の日」
side Renata Scarlet
「レナ、着いてきてくれないかしら?」
「お姉様? ......何処にですか?」
朝、図書館に行った時にお姉様がそう言ってきた。
お父様達が死んでから、お姉様は忙しそうで一緒に練習や遊びずらくなり、一人かフランと魔法の練習をすることが多くなった。そして、今日は一人で図書館に──最初にお姉様が提案していた本を探す方法はしなくなったが今でも魔導書を漁りに──来ていた。
そして、そこに行くとお姉様が待っていて話かけてきた。
「『狩り』によ。私一人で行って、連れ帰るのも少し大変なのよ。......まぁ、大変なのはあの吸血の方法を知らないせいでもあるんだけど」
そう言えば『狩り』で使う吸血の方法を教えてもらわずにお父様達は死んでしまったから無理矢理連れてくるしかないのかな...。
「いいですけど......フランを一人で残しても大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫よ。フランは私達の妹よ? 一日くらいなら一人でも大丈夫よ。それに、地下なら襲撃があっても誰も来れな......はぁー、それでも不安なのね?」
何を言っても無駄だと思ったのか、お姉様は話を途中で切り、聞いてきた。
「はい、やっぱり不安です。......フランを長時間一人にするのは嫌です」
「んー、それなら、レナ。『狩り』をする街まで着いてきてくれない? それなら数時間程度しかかからないだろうし、そこから紅魔館までの『抜け道』を作ってくれたらいいだけだから......ね? お願い!」
そんな、頭下げられて言われると......うん、やっぱり、私はお姉様に弱いや。
「......それなら、いいですけど......」
「レナ、ありがとうね。......準備が出来たら、門前に集合ね。それじゃぁ、また後で会いましょう」
そう言ってお姉様が返事を待たずに何処かに歩いていった。
まぁ、話を聞かないのはいつものことだし......お姉様は優しいから気にしないでおこう。
「準備......一応、フランに危険が及ばないように、何か罠でも仕掛けておきますか......」
私はそう呟き、フランの部屋へと向かった後に、お姉様の──
── 十数分後 紅魔館(門前)
「準備は出来たみたいね。それじゃぁ、行きましょ!」
フランの部屋の扉にフラン以外が近付くと私の目の前にワープするようにした罠を張っておいた。
フランに気付かれないように能力を使ったり、魔力で気付かれないように私の血で魔法陣を描いたりと結構大変だった。
「いつになく元気ですね。お姉様」
「あら、そうかしら?」
「そうですよ。......そう言えば初めてですね。お姉様と一緒に外に出かけるのは。......まぁ、出かけること自体初めてですけど」
「そうね。......私は初めて貴女と一緒に出かけるから嬉しいのかもね」
その外に出かける理由が『狩り』だから少し変な感じだけど......。やっぱり、人間と吸血鬼の思考回路は違うんだなぁ......。
「お姉様が嬉しそうで良かったです。最近、お姉様は私やフランと一緒に居れませんし......」
まぁ、それでも、お姉様が嬉しそうだからいいんだけどね。
「大丈夫よ。いつか......また三人一緒で居れる日が来るから。さ、その話は置いといて早く行きましょ」
「出来るだけフランを待たしたくないですしね」
「えぇ、そうね。町までは飛んで行くから、置いていかれないようについてきなさいよ」
「私には魔法がありますし、逆に置いていきますよ? ......場所知りませんけど」
まぁ、本当は自分の身体能力を上げる魔法とか知らないけど。いつか覚えたいなぁ。
「ふふ、それなら私を追い抜かすことは出来ないわね。それじゃぁ、レナ、行くわよ」
そう言ってお姉様が空に飛び上り、紅魔館とは逆の満月が出ている方向に飛んで行った。
そう言えば今日は満月だったね。......だから、この日にしたなのかな? って、あれ? お姉様がどんどん遠く......。
「あ! お姉様! 置いていかないで下さい!」
「だから言ったでしょー! 置いていかれないようについてきなさい......って」
「お姉様! それはフライングです! 反則です!」
「言い訳はいいから急ぎなさい。本当に置いていくわよー!」
「はぁー、もういいです......。すぐに行きますよ!」
そう言って、私はお姉様について行った────
── 約一時間後 とある町の近く
「レナ、あそこに見える町が『狩り』をする町よ」
「へぇー、結構広い町なのですね」
紅魔館から一時間程度でお姉様が『狩り』をする町に着いた。その町は思ったよりも広く、夜遅いせいか家の殆どに灯りはなかった。
『狩り』って...静かにするものだよね? ......うん、何故だか、お姉様が少し心配だ。
「レナ、折角ここまで来たし、思ったよりも早く着いたんだし......やっぱり、手伝ってくれない?」
「早くフランに会いたいところなんですけど......お姉様が心配になってきたので、早く終わらせるならいいですよ」
「あら? 心配なんてしなくても大丈夫よ?」
「なら、帰りますね。帰りの──」
「や、やっぱり心配して! ......一人で『狩り』って、寂しいし......疲れるからレナに手伝って欲しいの......」
お姉様......たまに子供みたい──いや、吸血鬼だから私達はまだ子供かもしれないけど──になるけど......まぁ、可愛いからいっか。
それに、私達姉妹以外には見せないみたいだし、お姉様のプライドに傷はつかない......よね?
「それならいいですよ。......最初からそう言えば良かった気もしますけど......」
「うっ......そ、それは置いといて早く行きま......っ!? れ、レナ! 今すぐ貴女の能力で貴女と私の存在を有耶無耶にして!」
「え? は、はい!」
私はそう言って、青ざめた顔をしたお姉様の手を握り、能力を使った。
それにしても、いきなりどうしたんだろう? ......何かあったのかな?
「お姉様、使いましたよ。......何があったのですか?」
「......今日、ここに来ることは間違いだったわ。昨日に行けばよかったわ......」
「お、お姉様? 大丈夫ですか?」
「......えぇ、大丈夫よ。レナ、運悪くエルジェーベト家の奴らが来たわ。......さっき、町に行くあいつらが見えた。それも、かなりの軍勢よ。......前に館に来たバートリ・エルジェーベトのやその息子達もいるわ。
多分、レナが居なかったら死んでたかもしれないわ......」
エルジェーベト家......お父様達を殺した奴らか。
まぁ、後でお姉様に聞いた話だと殺したのは父のバートリ・エルジェーベトだけで、後の息子達は全員先に帰ってたみたいだけど......。
「お姉様、どうしますか?」
「......朝になるまで居ましょう。変に動いて、貴女の能力が解除されたら大変だわ。それに、紅魔館の食料の在庫も切れかけてるしね」
「はい、分かりました。......もしも見つかりそうになったら、攻撃してもいいですか?」
「駄目よ。逃げましょう。何故能力を使えばバレることが無い貴女を紅魔館の地下に引き留めていたか分からない?」
お姉様がエルジェーベト達を警戒しながら言った。
あ、そう言えば......何でだろう?
「それは、貴女が何も出来ずに死ぬからよ。勿論、一発や二発なら攻撃を当てれると思うわ。
でも、それだけじゃ死ぬわけない。貴女の能力は攻撃を無力化するような能力じゃないのよ。だから、透明にでもなってると思われて、適当に攻撃をされたら、どうなるか分かるでしょ?」
「最悪、一発で致命傷になるかもしれませんね。それで、集中力が切れ、能力が解除されて殺される......そういうわけですね?」
「そうよ。......だから、何があっても逃げましょう」
今更だけど、普通に帰ってもいいような......一回聞いてみようか。
「お姉様、一回帰って戻って、また来るってのはどうでしょうか?」
「......あ、そう言えば、貴女は能力を使っている状態でも使えたわね。......どうして思いつかなかったのかしら? まぁ、いいわ。さ、レナ、作って。」
「はい。少しかかりま......え? ...お、お姉様、あの、誰か一人だけ、こちらに近付いて来てませんか?」
魔法を使おうとした時、エルジェーベト家側に居た誰かが、一人でこちらに向かって飛んで近付いて来ているのが見えた。
「え? ......誰も近付いて来てないわよ?」
「お、お姉様! ほら、あそこで空を飛んでいる......吸血鬼? バートリ・エルジェーベトの息子の......誰でしたっけ? じゃなくて、その息子の一人が近付いて来てます!」
「え、え!? ......って、レナ。誰も居ないじゃない。それに、その息子ってどっちよ? いえ、それよりも一人で来るわけないじゃない」
「ど、どっちって......お姉様、えーと......あ、次男の人です! ほら、一人だけ礼儀正しい人が居ましたよね? その人です」
「次男? そいつは全然礼儀正しくなかったでしょ? それに、そもそも居たかしら? 礼儀正しいやつなんて......」
お姉様......完全に忘れてるのかな?
「それに、もし居たとしても、貴女が能力を使っているんだから気付かれるわけないじゃない」
「で、でも、すぐそこに──」
「そんなに大声を出したら父に気付かれるかもしれませんよ? レナータさん......ですよね?」
「えっ、や、やっぱり、見えてる......」
「え!? 嘘、いつの間に、こんなに近くに......」
お姉様に説明するのに夢中で全然気付けなかった。
それに、やっぱりお姉様も気付いてなかったみたいだ。......何かの能力なのかな?
「えーと......憶えていますか? 僕のことを」
「......お姉様、憶えています?」
「......確か、ルネ・エルジェーベト......だったかしら? 私達に何の用?」
お姉様が警戒しながら話しかけた。
「あ、そうでした。......こんなに目立つ場所に居たら危険です。バレてないうちに逃げて下さい」
「......貴方、エルジェーベト家の次男よね?」
「え......まぁ、はい」
「......もしかして、私達のお父様が死んだ理由を知らないの?」
「......いえ、知っています。だから、警戒している、信用していないのも......」
ルネが暗い顔でそう言った。
「なら、どうして私達に会いに来たの? それも...バートリに見つからないようにして......」
「貴方達に死んでほしくないから。......ただ、それだけです」
「......いいわ。今回は信じてあげる。ただし、今回だけよ」
能力でも使って先を見たのかな? ......それで、この人は信用出来ると思ったのかな?
「それと、今日、父は兄のフリッツに殺されるでしょう」
「......え? ど、どういうことかしら?」
「父は残虐な人です。そして、子供のことを何とも思っていない人で......虐待も日常茶判事。
だから......兄はそんな父が嫌いなのです」
「あぁ......大体分かったわ。でも、そんな簡単に殺せるかしら? あのバートリは私のお父様をも殺したのよ?」
「殆どの確率で殺されることでしょう。父は、前よりも力が弱っています。老化のせいもあると思いますが......兄が何かしらやっているみたいなので、おそらくそのせいもあるでしょう」
試したことないから分からないけど......吸血鬼に毒とかって効くのかな? まぁ、毒以外の可能性もあるけど。
「そう......。そう言えば、私に気付かれずに近付いて来たけど、あれは貴方の能力かしら?」
「はい。具体的にどんな能力なのかは分かりませんが......自分や物を他人から認識されなくすることが出来ます」
「......私と似ていますね」
「そうね。それと、貴方にもう一つ聞きたいことがあるわ。どうしてこんな大勢でここに来たのかしら?」
「前に住んでいた場所が人間の襲撃を受け、その際にそこが住めないくらいに壊れたので......。
父が、直すよりも奪う方が楽だから......と言う理由で、この町に来ました」
やっぱり、酷い人なんだね。まぁ、吸血鬼とか妖怪はそんなもんなのかな...…。
「なるほどね。......で、貴方はどうするの?」
「え? 僕ですか? ......僕はここに居るつもりですけど......どうしてですか?」
「......いえ、何でもないわ。さ、レナ。帰りましょう」
「......でも、お姉様、食料は?」
「また明日にでも近くにある村に行くわよ。まぁ、何ヶ所か行かないと駄目だけど......」
お姉様......大変そうだし明日も手伝ってあげようかな......。
そう思いながら、魔法で紅魔館までの『抜け道』を作った。
「あ、丁度あっちも始まりましたね。では、僕は戻ります。......そろそろ戻らないとバレそうですしね。
......の前に、レナータさん。」
「あ、レナータでもいいですよ。何ですか?」
「......ちょっとこっちに来てください」
「え? ......いいですよ」
そう言って私はルネに近付いた。
「私は貴女だけ知りません。なので......『紅霧異変』、この言葉を知っていますか?」
「えっ? ......ど、どういうことですか?」
「ふむ、なるほど......おそらく、僕と貴女は同じでしょう。......では、私は戻ります。また会いましょう」
「え、あ、ちょっと待っ......行っちゃいましたか」
ルネはそう言って飛び去った。
紅霧異変って、もしかして......いや、考えすぎなのかな? それとも......。
「レナ? どうしたの?」
「あ、いえ、何もありません。大丈夫です」
「そう。......さ、レナ。帰りましょうか」
「はい、お姉様」
そう言って私達は『抜け道』を通り、紅魔館へと帰った────