因みに「崩れ始める日常」は次で終わりとなります。
side Renata Scarlet
──紅魔館(フランの部屋)
「んー......え、これはどういう事ですか?」
朝、起きたらお姉様とフランが私を抱きしめながら寝ていた。......二人に抱きしめているせいか、全く動けない。
というかフランがとても強い力で抱きしめているんですけど......。しかも、ちょっと血が出てる気がする......。
「......フラン、少し力を緩めて下さい。流石に少し痛いです」
......フランもお姉様も返事をしない。二人とも、深く寝てるのかな。
そもそも、どうしてこうなったのか思い出せない。
確か、昨日はフランの部屋に行って......そこから確か、フランが狂気に染まって......そして、元に戻って......そこで気絶したのかな? それにしても、元に戻ったところから記憶がない。
「......お、お姉様、起きてください」
......やっぱり、深く寝ているのか全く起きない。どうにかして起こさないと......。
「すぅー......お姉様! フラン! 起きてください! って、フラン! なんで力が強くなっているんですか!? 絶対もう起きてるでしょ!」
「はぁ......お姉様うるさい」
「うっ......すいません。じゃなくて! 力が強くなっていますよ! ......少し力緩めて下さい。」
「仕方ないなぁ......はい、これでいいでしょ?」
やっぱり、フランは起きてた......。っていうかフランの手に血が見えるんだけど。やっぱり、血が出てない?
「......ふ、フラン。その手についている赤いのは何ですか?」
「え? あっ......ご、ごめんなさい、お姉様」
「い、いえ、大丈夫ですよ。すぐに治りますし......」
やっぱり、血だったんだ......まぁ、大丈夫だけどね。吸血鬼の身体は便利だし、すぐに傷が治るし。......でも、流水とか日光には弱いけどね。
「お姉様の血......ペロッ......美味しい」
「あっ、フラン! ......まぁ、今は私が触れているから大丈夫ですけど......不用意に飲むとお姉様みたいに能力が使えなくなったりしますからね。気を付けて下さい」
「へぇ〜、なら、お姉様が近くにいる今は飲み放題ね」
そう言ったフランの口が半月の形に歪んだ。
......あれ? 嫌な予感が......。
そう思った時には、既に遅かった。フランが私の首に牙を突き立てた。
「痛っ!? ふ、フラン! あっ、あぁ......だ、だめです......そ、そんなに吸っちゃ、ああぁぁぁ!」
『ぢゅうううう』と音を立ててフランが私を吸血した。
「ぷはぁ〜......美味しかった。......ごめんね、お姉様。でも、抑えられなかったの。......あまりにもお姉様の血が美味しかったから」
「うー......そんな理由で飲んだのですか......」
フランはいつも血を飲むのを制御出来ずに飲み過ぎるけど......何気に今回、初めて制御して飲めている。
偶然なのか、それともようやく制御出来るようになったのか......それは分からないけどね。普段通りならいくら吸血鬼といえど、血がなくなって死んでいただろう。
それにしても......まだ痛い。
「......レナ、私も飲んでいいかしら?」
そう言って、お姉様が起きた。......いつから起きてたんだろう?
「お、お姉様まで!? だ、駄目です! いくらお姉様が小食といえど、流石にこれ以上は死にます!」
「ちっ......仕方ないわね。明日にするわ」
「あっ、レミリアお姉様ずるい! 私も明日飲む!」
「あら? フランは今日飲んだでしょ? だから、明日は私よ」
「明日も駄目です! と言うか、私の血ってそんなに美味しいのですか?」
毎日、吸血されると、私が吸血鬼でも流石に危険だ。流石に、お姉様達に吸血されると言えど......やっぱり、毎日は嫌だ。まぁ、たまにならいいけど......。
「えぇ。吸血鬼なのに、人間みたいな味がするからね」
「お姉様は人間よりも美味しいよ!」
「美味しいからと言って、姉妹を吸血するのはやめてください!」
人間みたいな味......。やっぱり、前世が人間だったからそんな味がするのだろうか?......でも、今は前世の記憶は殆ど無くなっている。多分、幻想郷に行くであろう500年後には全く憶えていないだろう。......『東方project』の記憶以外は。
東方projectの記憶だけは何故かはっきり思い出すことが出来る。何故なのかは分からないけどね。ここがその世界だからなのか......神のいたずらとかなのか。全くもって謎だ。
「さ、それは置いといて早く行きましょう。そろそろ、行かないとお父様達にバレてしまうわ」
「えぇー! もう行っちゃうのー!?」
「大丈夫ですよ、フラン。今日も来ますから。安心して待ってて下さい」
「......分かった。お姉様、今日も絶対来るって約束してね」
そう言って、フランが小指を前に出してきた。前にフランに教えた『指切り』だ。よくフランと約束する時にこれをやる。
私も小指を前に出し、フランのフック状に曲げた小指に私の小指を引っ掛ける。
「ゆ〜びきりげ〜んまん嘘ついたら針千本飲ます〜。......お姉様、これで絶対に約束破っちゃ駄目だからね」
「勿論です。......では、行ってきますね」
「うん......行ってらっしゃい」
そう言って私は部屋を出ようとした。
「......私、空気になっているわね。ま、それはいいわ。......フラン、私も来るからね」
私が出ようとした時に後ろからお姉様がフランに言った。
......そう言えばお姉様のこと、いや、わ、忘れてなんかいませんけどね! ......本当だからね?
「あら、レミリアお姉様、居たのね」
「最初から居たでしょ!」
「冗談よ、冗談。......レミリアお姉様も絶対に来てね。......独りぼっちは寂しいから」
「フラン......絶対に来るわよ。安心しなさい。私達、悪魔は
あれ? お姉様って、約束破ったことがある気が......。
「......レナ、約束はいつも守っているわよねぇ?」
「え!? どうして考えてることが分かったの!?」
「はぁ......貴女が考えそうなことを言っただけよ。それに、自分からバラしちゃってるし......」
「あっ......お、お姉様は約束をいつも守ってますよ」
「はぁー、遅いわよ......」
うー......勢いで自分から言っちゃってた......。
「レミリアお姉様! お姉様をいじめちゃ駄目だからね!」
「はぁー......フランの頼みなら仕方ないわね。分かったわ。......じゃ、そろそろ、行くわね」
「うん。レミリアお姉様も行ってらっしゃい」
「また後でね。フラン」
お姉様がそう言った後に...私達はフランの部屋を出た────
side Remilia Scarlet
──紅魔館(図書館)
フランと一緒に寝た後、私達はバレずに部屋まで戻ることが出来た。そして、今はいつもみたいにレナの魔法の練習で図書館に来ている。
「......バレなかったですね」
「えぇ。私が能力を使っていたのもあるけど......やっぱり運が良かったわね。それに、貴女の能力のおかげでもあるわね」
部屋まで誰にもバレずに来れたのはレナの能力のおかげだ。レナの能力で私達の『存在』を有耶無耶にして、他の人から認識されないようにしていたのだ。
「......ありがとうございます。お姉様」
「お礼を言うのはこっちよ。レナ、ありがとうね」
「えへへー、いえいえー」
レナが顔を赤くして言った。......私にお礼を言われるといつも顔が赤くなっているけど、そんなに嬉しいの?
「......レナ、お礼を言われるのがそんなに嬉しいの?」
「はい。特にお姉様やフランに言われると......凄く嬉しいです」
「そう......レナが嬉しいと言ってくれて良かったわ。......さ、早く魔導書を読みなさい。またフランに会いに行くのが遅くなるわ」
「......そうですね」
そう言ってレナが魔導書を読み始めた────
side Renata Scarlet
──数時間後 紅魔館(図書館)
「......レナ、そろそろ終わりましょう。......お客様が来たみたいだわ」
「え? お客様?」
お姉様がそう言った瞬間、扉をノックする音がして、執事長が入ってきた。
「失礼します。レミリアお嬢様、レナータお嬢様。御主人様から伝言で御座います。
お客様がいらっしゃいましたのでフランお嬢様を連れて、御主人様の部屋まで来るように......と」
「フランを連れて? ......珍しいわね」
「はい。それと......フランお嬢様の能力はレナータお嬢様の能力で封じておくように......とも」
フランを地下から出す時はいつも私かお母様が一緒だったから別に不思議ではないけど......フランをわざわざお客様のところに連れて行くなんて、今まで無かったのに......。そのお客様って一体誰なんだろう?
「そう言えば、お客様とは誰かしら?」
「......バートリ・エルジェーベト様で御座います」
「エルジェーベト......なるほどね」
バートリ・エルジェーベト? 誰だろう? ......それにしても、お姉様の顔が暗い気がする。そんなに嫌な奴なのかな?
「そう言えば、レナは知らなかったわね。......フランを迎えに行った後にでも話すわ」
「はい。......お姉様、大丈夫ですか? 顔が暗いですけど......」
「大丈夫よ。あ、執事長はもう戻ってもいいわよ。後は私達だけでも行けるから」
「お言葉ですが、御主人様から貴方達から離れないようにと言われておりますので」
「そう......ならいいわ。さ、部屋まで行きましょう。申し訳ないけど、執事長はフランの部屋の前で待っててくれるかしら? あの娘が暴れた時に守れるかどうか分からないし」
「かしこまりました。それくらいならば、御主人様も許してくれるでしょう」
「じゃあ、早速行きましょうか。......レナ、早く行った方がいいみたいだから『ゲート』を使いましょう」
お姉様が私に言った。
『ゲート』とは私のお気に入りの魔法の一つのことだ。本来の名前は『ディメンジョン・ゲート』。簡単に言うとワープが出来る抜け道を作ることができ、一度でも見たことがある場所なら何処へでも繋げれる便利な魔法だ。
「はい、お姉様」
私はそう言って、頭の中で呪文を唱え、地面に触れる。
「......お姉様、出来ました」
私がそう言った時には地面に人ひとりが入れるくらいの大きさの『抜け道』が出来ていた。
「あら、前よりもかなり早くなったわね。さ、行きましょうか」
そう言って私達は中に入った。そこは、いつも見るフランの部屋の扉の前だ。
「じゃ、執事長はここで待っていて」
「はい、かしこまりました」
「フラン、入っていいかしら?」
「レミリアお姉様? ......入っていいわよ」
お姉様がそう言ってお姉様と私が部屋に入った。
「......あ、お姉様! お姉様も来てくれたのね!」
「はい、私も来ましたよ」
「......フラン、私が来たって分かった時とレナが来たって分かった時との反応が違いすぎない?」
「だってレミリアお姉様よりもお姉様の方が好きなんだもん。......勿論、レミリアお姉様のことも好きだからね。レミリアお姉様、泣かないで?」
そう言ってフランはお姉様を慰めようとしてる。お姉様......本当に泣いてるの?
「泣いてないわよ! ......はぁ、もういいわ。フラン、お父様にお客様が来たらしいから私達に着いてきて」
「お客様? ......それにしても、私が地下から出ても良いって......珍しいこともあるのね」
......確かに、フランは地下から出ることを禁じられている。......フランの顔が少し暗くなっている。やっぱり、地下にずっといるのは嫌だよね。いつか外に出れるように......私が何とかしないとね。
「......そうね。さ、早く行きましょう」
「うん、そうだね」
「はい、分かりました」
そう言って私達は執事長と合流してから、『ゲート』で図書館に戻り、そこからは徒歩でお父様の部屋に向かった。因みに、フランは能力を使用出来ないように、部屋から出たらずっと私と手を繋いでいる。
そして、向かっている最中に、お姉様がエルジェーベトについて教えてくれた。
「......確かフランも知らないはずよね。丁度いいわ。レナ、フラン。エルジェーベトって言うのはね......吸血鬼の中で最も力を持っている一家の名前なの。そして、私達、スカーレット家と昔から協力関係の吸血鬼。でも、今ではその協力関係もあんまりだわ」
「え? お父様が一番強くなかったのですか? ......それに、今ではあんまりって?」
「お父様はせいぜい二番辺りよ。ま、それは置いといて......今の家主のバートリ・エルジェーベトなんだけどね、とても残虐で外道な吸血鬼として有名なのよ。だから、お父様との関係もあんまり良くないの」
お父様って吸血鬼の中でも二番くらいに強いんだ......初めて知った。それにしても、残虐で有名って......それでお姉様の顔が暗かったんだ。
「......なんでそんな奴がお父様に?」
「さぁ? お父様は同じ吸血鬼の中で力が結構強い方だし、昔から協力関係だったし......それで何かの協力を頼まれた......とかかしら。ま、お父様に聞けば教えてくれると思うし、後で聞いてみましょうか」
「......そうですね」
やっぱり、残虐で外道な吸血鬼として有名って言われたから少し会うのが心配だ。流石に、同じ吸血鬼には何もしてこないと思うけど。......でも、お姉様の顔を見るかぎり......もしかしたら、その可能性もあるのかもしれない、と思ってしまう。
お姉様達に危険が及ばなければいいけど......。
「レナ、心配しないでいいわよ。お父様もいるし、私の能力である程度は未来を見ることが出来るわ。......だから、心配は無いわ」
「そうよ、お姉様。何かあったら私が守るから」
そう考えているとお姉様が話してきた。
「......お姉様、フラン。ありがとうございます。......でも、やっぱり心配はします。それに、何があっても無理はしないで下さい」
「それはこっちのセリフよ。貴女こそ何があっても無理はしないで。貴女はいつも無理をし過ぎるから」
「え? そうですか?」
んー......そんなに無理したことあるかなぁ? 全く以て見当がつかない。
「はぁー......やっぱり、自覚が無かったのね。まぁ、その話は後ででいいわ。......着いたわよ」
話をしているうちにいつの間にかお父様の部屋に着いていた。
「はい、そうですね......」
「......お嬢様方は私の後からお入り下さい」
「えぇ、分かったわ」
「? ......分かりました」
「うん、分かった」
何故執事長がこう言ったのかは分からなかったけど......何か考えがあるのかな?
と思い私達は執事長の指示に従った。
「失礼します。御主人様、お嬢様達を連れて来ました」
「......そうか。入ってくれ」
お父様の声が聞こえ、私達は部屋に入っていった。
部屋にはお父様、お母様......そして、知らない大人の吸血鬼が一人と私と同じくらいの年の子が三人いた。
それにしても......お母様、体調が悪いはずだけど......無理して来てるのかな?
「紹介しよう。この娘達が俺の娘のレミリア、レナータ、フランだ。そして、皆、この人がバートリ・エルジェーベトとその息子達だ」
「私が長女のレミリア・スカーレットよ。よろしくお願いするわ」
「私は次女のレナータ・スカーレットです。......よろしくお願いします」
「私は三女のフランドール・スカーレット。よろしくね」
私達がそう言って挨拶を済ませる。......お姉様が両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げ、頭を深々と下げるような挨拶をしたから私達もそれに続いた。
その後にバートリ達が挨拶を返してきた。
「俺がバートリ・エルジェーベトだ。そして、こいつらは長男からフリッツ、ルネ、ジョンだ」
「......よろしく」
「僕はルネ・エルジェーベトです。よろしくお願いします」
「よろしく」
そう言ってバートリの息子達が挨拶を終える。......ルネって言う人以外は結構そっけないね。
と言うか、フリッツに至ってはめっちゃ敵意が凄い気がするんだけど? めっちゃ睨まれてるんだけど?
「......君達を呼んだのは少し息子達と会わしたくてな。スカーレット家は昔から仲良くさせてもらっている一家だからな。これからも仲良くさせてもらおうと思っている一家の娘達と俺の息子達を一度は会わせた方がいいと思って今日はここに来たんだ」
そんな理由だけでここに来るんだ。
「......そう、これからもよろしくお願いするわね」
「あぁ、こちらこそよろしく頼むよ。......では、用事が終わったから今日は失礼するとしよう」
「あ、あぁ......帰りの手配はこちらでしよう」
「いや、大丈夫だ。......では、また会おう」
そう言ってバートリ達が帰って行った。......それにしても、バートリが最後笑ってた気がするけど......どうして──
「失礼します! 御主人様、敵襲です!」
そう言って妖精メイドがバートリと入れ違いで入ってきた。
「な、なんだと!?」
「......敵襲?」
「はい! 人間達が......かなりの数でこちらに向かって来てます! 十分後には門まで辿り着くと思われます!」
「......レミリア、レナ。フランドールと一緒に地下に隠れているんだ。そこなら人間が辿り着くことは殆ど無いだろう」
「......お父様達はどうするの?」
「大丈夫だ。人間ごとき、吸血鬼の相手ではない。」
......お姉様がずっと黙ってるけど、ど、どうしたんだろう?
「......レナ、フラン。行きましょう。レナは『ゲート』を作ってすぐに閉じるように」
「え......ど、どういうこと?」
「わ、分かりました。」
「早くしなさい。時間は殆ど無いわよ。......お父様、お母様。......死なないように頑張って。後、あのエルジェーベトには気を付けて」
「......あぁ、分かった」
お姉様達が話をしているうちに『ゲート』を作った。
「......お姉様、出来ました」
「さ、フラン。入りなさい。次はレナが入って」
「......う、うん」
「は、はい」
そう言ってフランが先に入り...そして、続いて私、お姉様が入った。
私達はゲートを通って地下に来た。
勿論、これから私達は何が起きるのか知らないで.....後悔することになるとも知らずに────
最後らへんまで出番がないオリキャラが出た瞬間であった()