side Hoan Meirin
──紅魔館(門前)
十月のとある日の朝。まだ秋だというのに、木枯らしが吹き付ける寒い日。
「ふぅ〜......今日も寒いですね〜」
今日も門の前で仕事......と言うよりも、ただ、突っ立ていた。
まぁ、これはいつものことで、そこまで苦痛じゃないからいいんですけどね。
お嬢様からは、門から離れないこと、怪しいものは中に入れないこと、しか言われてないからね。
鍛錬出来るし、バレなかったら寝ることも......あ、それは咲夜さんに怒られるからダメかな。
いつの間にか寝てたらいつの間にか怒られてるからね。......どうしてバレるんだろう?
「......はぁ〜、それにしても暇だなぁ」
「あら、美鈴。珍しく起きてるわね」
「あ、咲夜さん。って、まだ来てから間もないのに、そんなすぐ寝ないですよ!」
「寝てたから言ってるのよ」
「え、マジですか?」
「貴女、覚えてないの? 一昨日寝てたじゃない。それも、行ってから十秒も経たないうちに、ね」
え、んー......全く思い出せないけどなぁ。咲夜さん、勘違いしてるんじゃないかな? ......まぁ、私が覚えてないだけかもしれないけど。
「......あぁ、覚えてないのね」
「え!? 咲夜さん、どうして心を読めるんです!?」
「え、いや、貴女、うーん、って唸ってたから」
「あぁ、なるほどー」
「貴女、本当に分かってなかったのね......まぁ、それよりも、ちゃんと仕事しなさいよ。定期的に見に来るけど、その時寝てたら......分かるわよね?」
「あははー、寝る訳ないじゃないですかー」
「......そう、それならいいけど......寝てたら、明日のご飯抜きだから」
「えぇ!? さ、咲夜さん! そ、それだけは! ......あぁ、行ってしまいました......」
まさか、ご飯抜きと言われるなんて......これから私は、何を目標に生きてきたらいいんだ......。
まぁ、寝ないようにすればいいよね。......毎日寝てる気がするけど大丈夫なのかな?
「はぁー、鍛錬でもしていますか......」
そんなことを呟き、まずは腕立て伏せから始めた──
──数時間後 昼頃 紅魔館(門前)
「美鈴ー......美鈴ー!」
「はっ! え、な、何ですか!?」
目が覚めると、目の前には日傘をさしたフラン様が居た。......あぁ、私、寝ちゃってたのかな? 咲夜さんにバレてなければいいけど......。
「美鈴、また寝てたよ? ま、それよりも、咲夜から、昼ご飯の時間だから美鈴を呼んで来て、って頼まれたのよ」
「あ、そうですか......。フラン様、咲夜さんに寝てるのがバレてると思いますか?」
「んー、まぁ、バレてると思うよ? でもまぁ、怒られるとは思わないかな〜」
「え、バレてるんだ......い、いや、それよりも、どうして怒られないと思うんです? バレてるなら、絶対に......」
「ふふ、咲夜が私に呼んできて、って頼んだわけだしね。いつも咲夜が美鈴を呼んできてるし、そこまで忙しそうにしてなかったのに、呼んできて、なんて言う理由は一つしか無いでしょ?」
んー......もしかして......。
「......咲夜さんは、私を安心させてから怒るという、ドSな性格だったからですか!?」
「うん、もう怒られていいよ」
「えぇー!? フラン様だけは、私の味方だと思っていたのにですか!?」
「私が味方するのはお姉様達だけよ。......ま、別に貴女や咲夜とか、紅魔館に住んでる人の味方はしてもいいけどさ......。
それよりも、本当に分からないの?」
ま、まぁ、 確かにさっきのは半分冗談だったけどね。......半分は本気で思ってたなんて、口が裂けても言えない......。
「私を怒らないようにする為、とかですかね?」
「ま、それだと思うよ。聞いたところによると、寝てるのバレたらご飯抜きなんでしょ?」
「うっ......はい、そうですよ。フラン様も酷いと思いませんか!? 寝ているだけなのに、ご飯抜きなんて!」
「ううん、全然思わないよ。だって、美鈴っていつも寝てるでしょ? 自業自得よ」
うぅ、言い返せない......。
お嬢様に言われるならともかく、フラン様にまでこう言われる日が来るとは......やっぱり、成長してるんですね......。そう思うと、少し嬉しい気持ちもあるなぁー。
「えぇー! た、確かにいつも寝てますけど......」
「ほら、認めた」
「え? あ、あははー......」
「ま、別にこの話はこれ以上広げなくてもいいよね。......日傘持つのもしんどくなってきたし、そろそろ行こっか。お姉様達も待ってるだろうしね」
「あ、はい。そうですね」
こうして、私は昼ご飯を食べる為に、紅魔館へと戻ることにした──
──紅魔館(食堂)
食堂に入ると、既にお嬢様達が席についていた。ここに居ないのは、パチュリー様と小悪魔、ミア様、妖精メイド達だ。まぁ、パチュリー様と小悪魔はいつも図書館で食べてるし、ミア様や妖精メイド達は各々別の場所、時間に食べてるから、いつも通りなんだけどね。
「あら、貴方達、遅かったわね。何かあったのかしら?」
「あ、お嬢様。......ま、まぁ、特に何もありませんでしたよ」
「うん、そうだね。ただ、ちょっとだけ美鈴とお話してただけよ」
「......そう、ならいいわ。さ、早く食べなさい」
ふぅー、お嬢様にこれ以上、追求されなくて良かった。追求されると、咲夜さんにご飯抜きにされるからね。本当に良かったわ。
「はーい。あ、ルナ、お姉様の横の席、渡してくれない?」
「ん、無理。私の横ならいいよ?」
「ルナのケチ。ま、今日はそれでもいいよ。今の私は機嫌いいからねー」
「......何かあったの?」
「ヒミツー」
いつもレナ様かお嬢様の横を争って言い争いしてるのに......珍しいこともあるのね。
「美鈴、何ボサッと突っ立てるのよ。早く食べなさい。貴女はこれから門番の仕事があるのよ? 食べないと、とっさの時に動けなくなるわよ?」
「あ、はい。......って、咲夜さんが寝てたらご飯抜きとか言ってたのに......」
「美鈴、何か言った?」
「い、いえ、何でもありません......」
咲夜さん......顔が笑ってるのに怖い......。
「咲夜、何かあったの? 顔が怖いけど......」
「いえ、何もありませんよ。お嬢様はお気になさらずに」
「そ、そう。貴女がそう言うならそうするわね」
「お姉様、食べ終わったので、私は戻りますね」
レナ様が席を立って、そう言った。
いつものことだけど、レナ様は食べるの早すぎません? お嬢様は少食だから早くてもおかしくはないけど、レナ様はお嬢様よりも量が多いのに......まぁ、別にそこまで気にすることはないですね。
「えぇ、分かったわ。それじゃぁ、また後でね」
「あ、オネー様! 待って!」
「あ、まだ食べ終わってないのに......。ま、後で行けばいっか。お姉様、ルナ。先に遊んでてねー」
「うん、フランも早く来てね」
そう言って、レナ様とルナ様が出ていった。......私も早く食べて、仕事に戻らないとね。
それにしても......平和だなぁ。やっぱり、こっちに来たのはお嬢様達にとっても、私にとっても、良かったことなんだ、と改めて思う。
こんな平和な日がずっと続くように、私がしっかりと門を守っていないとね。
そんなことを考えながら、私は食事をとった──
──数時間後 紅魔館(門前)
「おう、美鈴! 今日もそこを通らせてもらうぜ!」
昼ご飯を食べてから数時間経った夕暮れ時。しばらく鍛錬に励んでいる時に、嫌な人の声が聞こえた。
「げっ、魔理沙......」
「おいおい、そんな顔をしなくてもいいだろ?」
「貴女を通すと、咲夜さんに怒られるのでね。......帰っていただくことは......」
「勿論、無理だぜ。さ、大人しく退いて貰おうか! 大人しくしているなら、怪我だけですむかもしれないぜ?」
「結局怪我はするんですか!?」
「ん? まぁな。マスパ撃つつもりだからな。怪我しない方がおかしいぜ」
「それ大人しくして得ないですよね!? まぁ、通すつもりは元からありませんけどね」
通すと、咲夜さんに怒られるし、ご飯抜きにされることもあるからね。絶対に通すわけにはいかない。......止めれたことないけど。
「それなら仕方ないな。行くぜ! マスター......スパ、いてっ!? な、なんだ!?」
「ま、魔理沙のミニ八卦炉が......ナイフで!? ま、まさかあのナイフは──」
「昼寝してないか見に来たら、毎日のように見るこそ泥が一匹......いつも逃がしますが、今回はそうはいきませんよ?」
そう言って、咲夜さんが急に私と魔理沙の間に現れた。
やっぱり、こうやって見ると、頼りになるなぁ。......ちょっと怖い時あるけど。
「げっ、咲夜かよ。......二対一は分が悪いな。仕方ない。今日は止めとくぜ! それと、こそ泥じゃ──」
「あ、魔理沙。泥棒はダメだよ」
「え、あ、フラ、ン......?」
いつの間にか、妹様達が魔理沙の背後に現れ、フラン様が魔理沙に何らかの魔法を使い、気絶させた。
魔理沙は地上に落ちそうになったが、ギリギリのところでレナ様に捕まり、助かることが出来た。
「妹様方、ご協力、ありがとうございます」
「ううん、泥棒は悪いことだしね。後で魔理沙には、ちゃんと言わないとね」
「じゃ、もう遊びに行ってもいい?」
「はい、勿論いいですよ。レナ様、フラン様とルナ様をお願いしますね」
「はい、分かりました。お姉様に心配をかけないように頑張りますね。まぁ、フランもルナもいい娘だから大丈夫でしょうけどね。
あ、魔理沙は預けますね。私の体格だと、ちょっと持ちにくいですし......」
「はい、仰せのままに」
そう言って、魔理沙は咲夜さんに引き渡され、妹様達は外へと遊びに出られた。......あれ、緑の髪の人が横に......いや、気のせいかな。
「咲夜さん、ありがとうございます。私だけでは、おそらく突破されてましたし......」
「いいわよ、それくらい。今日はこそ泥は捕まえたから、もう休んでいいわよ。......それと、今日は起きてたみたいだし、明日はちゃんとご飯あるわよ。まぁ、明日も頑張りなさい。門番としては、貴女ほど頼れる人はいないと思ってるしね」
「咲夜さん......はい、ありがとうございます!」
「あ、ついでに、運ぶの手伝ってくれない? 起きるまで、客室に寝かしておこうと思うから」
「はい! 勿論手伝いますよ!」
こうして、門番としての仕事が終わり、今日も平和な一日が過ぎていった────