東方紅転録   作:百合好きなmerrick

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EX1/3です。
と言っても、今回は大体バレているであろう謎の解き明かし。

それでもいい方はどうぞー。


EX1、「蒼と紅の吸血鬼」

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レナータの部屋)

 

 異変も終わり、平穏な日々へと戻ったその初めての日。

 私はルネに呼ばれ、一人、自分の部屋へと向かっていた。

 

 どうして私だけ呼ばれたのかはよく分からない。

 が、どうしても聞いておく必要があると思っている。

 

「入りますよ」

 

 部屋の前に着くと、ゆっくりと扉を叩き、そう言った。

 

 自分の部屋なのにそう言うのもおかしいが、今はそう言った方がいい気がした。

 

「どうぞ。って、僕が言うのも何ですが」

 

 と、中からルネの声が聞こえる。

 

 中に入ると、ルネは懐かしむように部屋の中を見ているようだった。

 

「......変わりませんね、全く......」

「......ルネ? 話とは一体何です?」

「それは、ここに呼んだ時点でもう気付いているのでは?」

 

 ルネは微笑みながら、そう言った。

 

 しかし、とは言われても私には何も分からない。

 ──いや、正確には知らない方がいい気もしていた。聞くのが怖い。知るのがいいことなのか分からない。

 

「......あれ? レナ?」

「......あ、はい。何でしょう?」

「いや、話を......。いえ、なら僕から話しましょうか」

 

 そう言って、ルネは一度深呼吸をして息を整えた。

 

「率直に告げましょう。僕は未来の貴女......と言っても過言ではありません。

 しかし未来人ではないです。僕は、いえ私は......レナ。貴女の来世です。以前言った転生者ですが、実はこの世界から転生したのです」

 

 そして一度に、息をつく間もなく全ての真実を話した。

 

「......そうですか」

「あれ。驚きが少ない......」

 

 正直、自分でも驚くほど驚くことはなかった。

 

 ミアのこともあるし、ルネが私に似ていることも知っている。

 今更来世の自分だと聞かされても、驚くことはなかった。

 

「驚きは少ないですよ。薄々感づきますよ、それくらい」

「そ、そうですか......。あれ、私ってこんな辛辣だっけ......」

「......でも、一つだけ気になることがあります」

 

 驚くことはなくても、とても気がかりなことがあった。

 

「その、私はどうして死んだのです? それに以前お会いした時は転生したとは聞きました。ですが、私の来世だとどうして教えてくれなかったのです? ......そして、お姉様は......」

「今三つも質問されましたけど。いや、別に構わないんですけどね?

 私は......そうですね。殺されました。今の僕の兄、長男のフリッツに......。

 異変の時に、誰も間に合わず......」

「あぁ、やっぱり......」

 

 名前は知らないが、おそらくは私を殺しかけていた奴のことだろう。

 あの時お姉様達が来てくれたから助かったが、ルネの方は間に合わなかったらしい。

 

「二つ目の質問ですが、以前は知らなかったのです。前前世の記憶は最初からありましたが、どういう訳か、幻想郷に来てから前世。いえ、今世の記憶を取り戻したのです。

 ですから、言わなかったのではなく言えなかったのです。

 知っていても、無理に未来は変えたくないので言わなかったかも知れませんが」

「タイムパラドックス的なアレですね。って、会った時点でパラドックス発生してますけど......」

 

 それを聞くと、ルネは「それはそれ」と軽く流してきた。

 ルネ曰く、あまり歴史変わらなかったので、別にいいらしい。

 

「お姉様についてですが......僕には分かりません。フランについても同じです。

 おそらくは......。いえ、考えたくもないです」

「......やっぱり、そうですよね」

 

 私が死んで悲しんでいる姿も、楽しんでいる姿だったとしても、あまり想像したくはない。

 もちろん、悲しむよりは楽しんでいる方が嬉しいが......。

 

「と、僕からも質問していいですか?」

「え? いいですけど......。何か質問する必要あります?」

「もちろんありますよ! あの、ミアという方とルナという方は一体誰なのです?

 僕の世界ではいなかったですよ?」

「......もしかして」

 

 それを聞いて、私はあることに気付いた。

 それは、ルネも気付かなかったであろうことに。

 

「ど、どうしました? もしかしてレナも知らな......」

「いえ。知っていますよ。の前に、ルネ。貴方は未来の私ではないみたいです。ましてや、この世界から転生したもう一人の私でも......」

「え? ち、ちょっと待ってください。自分から言ってなんですけど、話に追いつけませんっ!」

「まぁ、簡単に言えば貴方は平行世界の私みたいですね。ミアもルナもいなかった、現れなかった平行世界の私......。あれ、結局それは私......」

「ですね。あまり難しい話なんて僕達には無理みたいです。後でお姉様にでも聞きましょうか」

 

 と、自分に馬鹿にされてしまった。

 

 というか、お姉様に話すなんて、私には......。

 

「えーっと、結局ミアとかは......」

「え? あー。それなら簡単ですよ。

 この世界、そして貴方の世界は元から『レナータ・スカーレット』という人物が存在する世界です。

 私達はどうやら、転生ではなく憑依に近い事をしたらしいですよ」

「......えっ? ということは、ここは『東方Project』の世界だけど、少し違う世界と?」

「なんじゃないですかね。ミア曰く、前世の記憶は共有出来ていて、表に出なくても意識もハッキリしていたらしいです」

 

 思わぬ真実を知ってか、ルネは考え込むように頭を抱える。

 

 ミアという本当の『レナータ』を表に出さなかったことを随分と後悔しているようにも見える。

 

「......ということは、ルナという方はフランの......?」

「はい。フランの人格です。表に出れなかったから、暴れて鬱憤晴らしをしていたらしいですよ」

「......それが、狂気......。なるほど、あの世界に戻れるなら......。

 って、ミアに恨まれてないのですか、それは」

「......恨まれていましたよ。ずっと前までは」

 

 と、初めてミアと会った時のことを思い出す。

 偶然、召喚した時のことを。

 

「最初初めて会った時はフランと一緒だから殺そうとは思ってなかったよ。

 けど、殺気は放ったなぁ」

 

 と、私やルネの声じゃない声が聞こえた。

 

「え? ミア!? って、入る時はノックしてくださいよ!」

 

 声の方を振り向くと、そこには翼のない私、ミアが立っていた。

 

「ふふん。誰かさん達みたいに、黙って部屋の外で盗み聞きするよりはマシよー」

「? い、いつから聞いていたのです?」

「最初から。音と気配を消してね」

「......ミアさ、いえ。ミアは、レナ()を恨んでいないのです?」

「ま、そういうことよ。最初は私の立場を盗られたと思って、どうやって内側から殺そうかと模索してたわー」

 

 改めて本人の口から聞くと、罪悪感を凄く感じる。

 

「でもね。たった数年で、幸せそうにしているレナを見て羨ましいというよりも、この中に私も入りたいって思ったのよ。

 お姉ちゃんとフランと、レナも一緒の和に、ね」

 

 ミアは明るく微笑んでそう話す。

 まるでそうしたことを後悔していないみたいに。

 

「私はね。みんなでワイワイしている方が好きなの。当たり前のようにみんなで遊んで、楽しんで、たまには喧嘩もして......。そんな仲のいい家族が、友達が好きなんだっ」

「ミア......」

「あ、もちろん最初に自由に動けるようになった時は殺意もあったから、同情とか無しでいいよ。

 まぁ、すぐに消えちゃったけど。『レナータ』という立場を盗られても、フランは優しくて、お姉ちゃんは守ってくれて、ルナっていう新しい妹はできて......。そして、レナっていう頼りのある姉もできたから」

 

 話を聞いているうちに、罪悪感と同じほどの幸福を感じた。

 本当に、私は恵まれた家族に会えたんだ、と。姉も妹も、親も友達も。

 前世の記憶はほとんど薄れているが、前世と同じ、もしくはそれ以上に幸せなんだ、と、

 

「でね、私......って、レナ? ふふふ。どうして泣いてるのよ、もうー。

 って、ルネも!? いい話の途中なんだから笑ってよー」

 

 と、ルネも同じ気持ちだったらしく、目は涙で溢れていた。

 

「い、いえ。だって......」

「嬉しいです......。いえ、嬉しいの。私は、いい妹を持ったから......」

「あ、珍しい素の口調......。ふふふ。そっかそっか」

 

 ミアも嬉しいらしく、自然と笑みをこぼしていた。

 

「っと、さっきの言いかけたことだけど......。私、後悔してないから。

 一人は辛いし、寂しいし。私、レナが居てくれてよかった! これからもよろしくね!

 ......あ、なんか直に話すと恥ずかしっ。じゃ、私はこれでー。

 

 お姉ちゃん達も外で盗み聞きせず入っていいと思うよー!」

 

 ミアは去り際に、大きな声で言った。

 

 ──え、お姉様?

 

「ち、ちょっとミア!?」

「ふ、フラン! 乗せられて喋っちゃ......あっ」

「お嬢様。貴女もです」

 

 外で姉と妹、さらには従者の声が響いた。

 ミアの言う通り、外で盗み聞きしていたようだ。

 

「......お姉様やフランはともかく、咲夜まで......」

「私はお掃除に、と部屋に偶然来ましたので」

「ちょっと、レナ? 姉に対して失礼じゃない?」

「日頃の行いかと......」

「咲夜もひどいわー」

 

 姉は棒読み口調で話しながら、咲夜達を引き連れて入ってきた。

 

 咲夜は用意周到に掃除道具も持っている。

 

「......一応、どこから聞いていました?」

「どうぞ、僕が云々ってルネが言った辺りから?」

「言うと思いましたが最初からじゃないですか」

 

 流石に呆れて声しか出ない。

 ──盗み聞きなんてせず、普通に聞いてほしかった......。

 

「まぁまぁ。......で、レナ。私に何か言うことないの?」

「......ごめんなさい。今まで騙してて......」

「そうじゃないわよ。別に転生云々はどうでもいいの。騙してたわけじゃないでしょ? 言えなかっただけで。それに、今の貴女はレナなんだから。

 それよりも、ミアみたいにお礼とか言いなさい。......というか言ってほしいの」

 

 物をせがむ子供のように、お姉様は上目遣いでそう言った。

 

「......。あ、お姉様。私も私もー」

「え? フランもです? ......ありがとうございます。お姉様、フラン。それに咲夜も。

 これからもよろしくお願いしますね」

「えぇ、よろしくね」

「私はメイドですが......いえ、よろしくお願いしますね。

 では、お掃除は必要なさそうなのでパチュリー様のところへ行ってきますね」

「え、別に掃除は......って、いつも早いですね......」

 

 咲夜は返事も待たずに消えてしまった。

 しかし、ご丁寧に掃除道具だけは置いていった。

 

「......。まぁいいです。それにしても、ルナは何処です?」

「ルナはエリちゃんと一緒にパチュリーのところだよ。あの娘も魔法習いたいんだってー」

「ルナが......へぇー」

「それで、ルネはこれからどうするの?」

「え? あっ。はい?」

 

 私達の会話を微笑ましそうに見ていたルネに、お姉様が声をかけた。

 

「あ、ああ。明日には出ますよ。しばらくは幻想郷に居ると思いますので、会ったときはよろしくです」

「ここに居ても......いえ。貴方が決めたことに口を挟まないわ。

 気を付けなさい。そして何があっても諦めちゃだめよ。ルネ」

「......はい、分かりました!」

「ふふっ。元気が良くてよろしい。じゃ、今日は盛大に祝わないとね。異変も終わったし、ルネ達が旅立つんだから。

 咲夜ー。パーティーの準備してー」

 

 そして、今日の夜。紅魔館は盛大に賑わった────




次回はルナとフランがやった約束。それと以前質問でもあったある娘の告白。
最後は後書き。そして────

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