東方紅転録   作:百合好きなmerrick

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全てが終わる、その──

というわけで、題名通りのお話。

それでもいい方は、ごゆるりと⋯⋯。


17、「異変は終わる」

 side Remilia Scarlet

 

 ──地霊殿(とある広間)

 

「『夢想封印』!」

 

 霊夢が結界の中で、異変の元凶へとどめを刺した。

 

 もちろん殺さず、鬼へ渡すために気絶で済ませている。

 

「終わった......。これで、(レナ)も......なっ!?」

 

 ルネが結界を解き終え、後ろを振り返ると同時に驚愕の声をあげた。

 

「お兄様? どうされ......ハッ!」

 

 それと同時に、エリザベートも息を呑む。

 

「ど、どうしたの?」

「レ、レナ! レミリア! レナの傷が......」

「え、まさか......っ!?」

 

 自然治癒力が高いはずのレナの傷は治るどころか、逆に悪化していた。

 傷は見るも無残なほど痛々しく、最初見たときよりもひどくなっている。

 

「ど、どうして......? れ、レナ? 私が分かる? 私が見える?」

「......え? あ、すいません......。ちょっとだけ、眠くなっちゃって......。

 でも、大丈夫......ですよ。すぐに起きれますから......」

「ちょっとレナ! 寝ちゃダメよ! レナってば──!」

「れ、レミリア! 少し落ち着いてください! すぐに僕が治癒魔法で......!」

 

 そう言ってルネがレナに治癒魔法をかける。

 

「え? なっ......どうして......」

 

 が、効果がないようで呆気に取られた。

 

「どうしたんだ?」

「何かあったの?」

 

 それとほぼ同時に、戦い終わった魔理沙達が心配して近付いてきた。

 

「レナが......」

「なっ!? お、おい! 大丈夫か!? ち、治癒魔法は!?」

「......だ、ダメです。効果が......。何度やっても、どれだけ強力でも......」

 

 ルネは治癒魔法をかけ続けてくれているが、暗い顔が一向に晴れない。

 

 対してレナは、瞼を閉じて眠っているかのような顔だった。

 だんだん安らかな顔になっているような気さえした。

 

「......レナ(この娘)、呪いがかかってるわよ。傷が治らなくなる、不死殺しの呪いが」

 

 霊夢は落ち着いた声でそう告げた。

 まるで余命宣告のように。

 

「不死殺し......? まさか......フリッツ(あの男)の攻撃が......?」

 

 この傷はフリッツから受けたものらしいから、その可能性は高い。

 ──しかし、同じように私も受けたはずなのに、どうしてレナだけ......。

 

「レミリアは運良く怪我した部分ごと切り裂いたから大丈夫みたいだけど......この娘はそれもできないわね。全身に傷があるもの。それも、かなり深い。......それに、僅かな体力しかない今、これ以上体力を削ったら......」

「ど、どうすればいいの? どうすればレナは助かるのッ!?」

「......私にも分からないわ。呪いをかけた、おそらくあの吸血鬼だと思うけど。そいつを殺したところで、呪いが強くなる可能性もある。だからこそ、解呪が一番いいんだろうけど......時間がかかる。この娘の体力が保つとは思えないわ。だから、もう──」

「そんなのやってみないと分からないじゃない!」

 

 衝動のまま、私は霊夢の首の襟元を掴んでいた。

 

「お、おい、レミリア! 落ち着け!」

 

 すぐに魔理沙が間に入ってくる。

 

「霊夢に怒ったって仕方ないだろ!」

「魔理沙、別にいいのよ。それは一番レミリアが分かっているわ」

「......こんなのあんまりじゃない......。

 せっかくミアも見つけて、黒幕も倒して、心置き無く帰れるって時に......」

 

 自分の気持ちを抑えきれず、ポツポツと言葉を呟いていた。

 

 誰に言うでもなく、ただ、抑えきれなかった。

 

「レナが......レナだけが一緒に帰れない? レナが死ぬ? 嘘でしょ?

 ねぇ、嘘なんでしょ......。起きてよ、レナ......」

 

 レナの顔を見てみるが、もうすでに目は閉じている。

 

 横では何度もルネとエリザベートが治癒魔法をかけているが、びくともしない。

 

「起きて......。嫌、嫌よ......。貴女がいないなんて、嫌......」

 

 頬に熱いものが流れるのを感じる。

 

 だが、いつも反応してくれていた妹は、今回ばかりは反応しなかった。

 

「嘘よ......。誰か、嘘だと言って......。ねぇ、レナ......」

「レミリア......。レナ......起きてください。貴女の姉が泣いていますよ?

 お願いですから、起きてくださいよ......。姉を悲しませちゃダメですよ......」

「......レミリア、ルネ。もう止めなさい。言いたくないけど、これ以上は......」

「嫌よ! 諦めないわ! このまま回復し続けて!

 そうしたら、いつか、きっと......!」

「......いつか、きっとじゃ遅いだろ。見ろよ、レナの顔。ピクリとも動かないんだぞ」

 

 魔理沙の言う通り、レナの顔、そして身体も動きはしない。

 

 試しにレナの頬に触れた。

 

 まだ温もりを感じる。だが、生気を感じない。

 妖力は微かに感じるが、それは残り火にもならないような小ささ。

 

「......う、うぅ......」

 

 胸から何か熱いものが込み上げてくる。

 それは目から流れ落ち、止めることができずに溢れてくる。

 

 それと同時に私は理解した。受け入れ難い真実を理解した。

 

「あぁ......あああ......!」

 

 この世で初めて愛した人が、この世で最も好きだった妹が、目の前で消えかかっていると。

 

 否。消えてしまったのだと。

 

「ああああああ──!」

 

 それを理解したが故に、私の中で何かが崩れ落ちた。何かが割れる音がした。

 

「嫌よ! 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌ァ! 死なないでよ! 死んでほしくないのに!

 まだ貴女と一緒にいたい! 私を守れるくらい強くなりたかったんじゃないの!? 私より先に死んでどうするの!? それじゃあ守れないじゃない!」

 

 レナを抱きしめながら必死に呼びかけるが、返事は返ってこない。

 

 いつもの温かい身体は、心なしか冷たく感じるようになっていた。

 

「レナ! レナってばぁ! ......お願いだから、起きて......起きてよ......。また貴女の笑顔を見せて、レナ......。貴女のことが大好きなのに......もう見れないなんて、嫌......」

「レミリア......」

「............あら? ね、ねぇ、何か光ってるわよ?」

「え......?」

 

 霊夢の言う通り、レナが首にかけていた赤い宝石が付いたネックレスが発光していた。

 

 それも、まるで心臓の鼓動のように、チカチカと点滅していたのだ。

 

「これ......熱っ!?」

 

 とても熱く、触れるようなものではなかった。

 

 これは、以前フラン達が初めておつかいに行った際、プレゼントとしてレナがフラン達から受け取った物だった。

 

 赤く光るそれは、みるみるうちに点滅の間隔も速くなっていく。

 

「な、なに? 何が起きて......」

「レミリア! その娘の傷が!」

 

 引き寄せていたレナを見ると、ネックレスとともに全身が赤く光っていた。

 それに同調してか呪いを受けていたはずのレナの傷も治っていく。

 

「ど、どうして......!?」

「ほ、宝石治療? でも、あれは自然治癒力を高める程度で、幻想郷だとしてもこんなには......。それに解呪も済んでいないのに......」

 

 赤い光がレナを包み込んだと思うと、次の瞬間、レナの傷は全て治る。

 だが、その代わりのようにネックレスに付いていた宝石がガラスのような音を立てて割れた。

 

「ふぁ......? あ。おはようございます......お姉様......ふぁぁぁ......」

 

 そして、レナは普段通りの顔で目を擦りながら、ゆっくりと起き上がる。

 

「あぁ、レナ!」

 

 嬉しさのあまり、周りの目など気にせずにレナを抱きしめた。

 

 力いっぱい、その温かさを感じるために。

 

「わふっ!? ど、どうしました?」

「よかった......。本当に、よかった......」

「嘘......奇跡だわ......」

「......諦めなきゃ、こうなることもあるんだな」

「よかった。これで、レナは......」

「え、えっ? お姉様、どうして泣いているのです?

 それにみんなもどうして集まって......」

 

 困惑するレナをよそに、生きている喜びをその手で実感する。

 

 生気を感じ、動くその身体は改めてレナが生きていることを実感できるのだ。

 

「帰ったら何度でも説明してあげるから、今はこのままにさせて......レナ」

「う、うん......」

「......。あ、シシィ、今のうちにさとり達を運ぶのを手伝ってください」

「分かりました」

「......これで、丸く収まった、のか?」

「さぁ? ......でも、一先ずはこれでいいんじゃないかしら。それでいいと思うわよ、私はね」

 

 こうして、全て丸く収まり、この異変は幕を閉じる──

 

 

 

 

 

 次の日。異変が終わり、私達は紅魔館へと戻っていた。

 フラン達によると、あの後霧は消えて妖怪達も元通りになったらしい。

 もちろん黒幕側にいたルネの兄弟は、ルネを除き鬼へと引き渡された。

 

「ねぇ、ここに住まないの?」

「そうですよ。住人が二人増えたところで......」

「気持ちは嬉しいですが、明日には行かせてください」

 

 そしてルネ達はと言うと、現在は紅魔館で居候している。

 元々住む場所は無かったらしく、前に居た妙な平屋も前の住人に返したらしい。

 

「行くってどこに行くの? やっぱりここに居なさいよ」

「僕達には、召喚してしまった魔神の後始末があります。

 それらは幻想郷から外の世界に行ってしまったのもいますから......」

「異変中、そんな奴らは見てないわよ? それに外の世界だなんて......」

「数は少ないですが、結構前から召喚していたので色々な場所へ行ってしまったみたいです。

 外の世界へ行く目処はついていますよ。バレていると思いますが、紫さん達には秘密ですよ?」

 

 ルネは口に指をあて、ふふっと笑う。

 

 異変が終わって、気が楽になっているらしい。

 

「あ、それと......レナには後で話があるので、貴女の部屋で待っていますね。

 できれば一人で来てください」

「......はい、分かりました。ということですので、お姉様。覗かないでくださいね?」

「の、覗かないわよ。心配なんてないんだから」

「あ、シシィは見張り番ということでレミリアに付いててください」

「分かりました。ということだから、レミリア」

 

 年下であるエリザベートに呼び捨てされ、少し腹が立った。

 が、表に出ないようにここはこらえる。

 

「わ、分かったわよ......」

「......ふふっ。それにしても、平和ですね。

 もう死にかけることもないでしょうし、これからは......」

 

 と、レナは私をじっと見つめてくる。

 

「どうしたの?」

「......ううん。何でもないよ、お姉さま」

 

 そう言って、レナは私に笑顔を見せた────




レナの物語、残すはEX三話のみとなります。

それが終われば、紅転録は⋯⋯と、まぁ、話の続きはEX3にて

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