東方紅転録   作:百合好きなmerrick

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EX除けば残り1話。
もうすぐ紅転録の終わりですが、謎や付箋回収はEXの方が出てくる模様。

まぁ、お暇な時にでも読んでくださいませ。


16、「終焉を迎える」

 side Frandre Scarlet

 

 ──地底(地霊殿前)

 

「オネー様達、行っちゃった」

「そうね。私達はここの相手だってさ」

 霧に包まれる地霊殿。

 その前には、狂気を失った妖怪が溢れかえったいる。

 

 数は優に三百を超える。対して私達は吸血鬼三人、鬼二人、人間一人の計六人しかいない。

 

「どうやら......私らの知り合いも多いねぇ。鬼は少ないけどね」

「勇儀様、鬼は気絶?」

「敵はみんな気絶だよ。なに、萃香が霧を無効化してくれるらしいからね! 萃香が来るまでの辛抱さ!」

「私だけ人間で場違いな気もしますが、霊夢さん達のためにも頑張りますよー!」

 

 私達は皆が違う理由で集まっている、いわば烏合の衆。

 だが、相手も狂気にのまれただけの烏合の衆。

 

 能力を使わずとも、戦力差は明らかでも、時間稼ぎくらいはできる......はずだ。

 

「フランもルナも、やばくなったらお姉ちゃんを頼りなよー」

「大丈夫。いつもフランに、弾幕ごっこの練習、してもらってるから」

「ま、そういうことだから。ミアこそやばかったら手伝ってあげるよ」

「成長したねー。でもね......姉として、万が一にでも助けてもらうなんてないからね!

 じゃ、先に行くよー! ちょっと痛いけど我慢してね。『吸苻「ヴァンプティアー」』!」

 

 大きな声とともにミアが空を何度も切り裂く。

 

 すると、切り裂いた痕が弾幕となって敵へ降り注いだ。

 

「すごく元気だね、ミア......」

「数日分の鬱憤晴らし、かな?」

「おぉ! 活きのいい奴がいるじゃねぇか!

 私らも負けられないね。行くよ! 朱童!」

「はい。気絶は難しいけど、頑張る」

「では、私も行きますよー! 『秘術「グレイソーマタージ」』!」

 

 ミアに続き、鬼らしい二人と人間も続いて行く。

 

 しかし、弾幕を撃てないのか撃たない敵達は、私達に向かって弾幕なんてお構い無しに突っ込んでくる。

 

「ルナ。私達もやろっか」

「うん、行くよ。『禁忌「パンドラボックス」』。囲め、囲め」

 

 ルナのスペルカードによって敵の大軍を中心に、幾つもの円状に弾幕が展開される。

 

 と、次の瞬間、円の内側から中心に弾幕が広がった。

 

「ガァァァ!」

 

 中心にいた敵のほとんどは弾幕の攻撃を受け、鋭い叫び声が響き渡る。

 

 弾幕に命中した者が壁となり、中心に居なかった者は被弾は避けられた。

 

「ワァァァ!」

「みんなルナのに引っかかるよね。箱の中身は希望か絶望か、ルナの気分次第で変わるのに。

 ま、理性ないと思うから、引っかかってはないかもしれないけど」

 

 なんてこともなく、波のように何度も広がる弾幕により、パンドラの匣に捕まった敵の大半は被弾する結果となった。

 

「みんな痛そう。正気ない時、私は痛くないのに」

「痛みが強すぎるのかも。もうちょっと落としていこっか。後で回復するの、多分お姉様だしね」

「フラン、ルナ。気絶だからねー! 悪い人じゃない妖怪も混ざってるんだから!」

「悪くなくても人じゃない」

「ルナ、揚げ足取りはいいから。じゃ、私もやるかぁ。出力低めの『レーヴァテイン』!」

 

 弾幕ごっこ用よりもさらに低出力の炎の剣(レーヴァテイン)を召喚し、手に取る。

 

 これにより斬ってもたいていの妖怪は火傷で済む......と思う。

 

「私も。『禁忌「カラドボルグ」』」

 

 ルナも私を真似て、稲妻の剣(カラドボルグ)を手に取った。

 

「......ね、フラン。どっちが敵を気絶させて救えるか、勝負しよ?」

「え? ......いいよ。もしも私が勝ったらどうするの?」

「お姉様に告白、していいよ?」

「はぁぅ!? な、何言ってるの!?」

「始めよっか。あ、私が勝ったら、その逆ね」

 

 それだけ言って、私の質問にも答えずにルナは敵の大軍へと突進して行った。

 

 ──ほんと、あの娘ったら......。

 

「フラーン! ヘルプミー!」

「ミア!? 助けてもらわないんじゃ......あぁ、もう! もうどうにでもなれ!」

「......勇儀様。待つ必要、ないかも、です」

「そうみたいだねぇ。ま、そん時はそん時だ! 私らも負けないよう、派手にやろうじゃないか!」

 

 こうして、私達の戦いは勢いを増していった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿(とある広間)

 

「お前はここで終わりだ。先に逝って、姉でも待ってろ」

 

 吸血鬼は大きく手を振り上げると、倒れた私へと振り下ろした──

 

「姉ならここよ。ルネの兄、フリッツ・エルジェーベト......だったかしら?」

 

 が、それは私に届くことはなかった。

 

「ぁ......っ、姉様......!」

「レミリア......スカーレット......ッ!」

 

 すんでのところで吸血鬼の爪は、姉の片腕を貫いたのだ。

 

「にしても......結構痛いわね、流石だわ。

 でもね、妹を傷付けたからには......なんて、感情的になっちゃダメ、ねっ!」

 

 言葉とは裏腹に、姉は貫かれた腕などお構い無しに、吸血鬼を蹴り飛ばした。

 

「お姉、様......っぐ!」

「大丈夫よ、これくらい。......でも、複雑な傷は治りにくい、し......」

 

 お姉様は自身の鋭い爪で、怪我をしている腕ごと切り裂いた。

 

 確かに複雑な傷は治りにくいが、そこまでする必要はなかったと思う。

 

「っと、これで大丈夫ね」

「だ、大丈夫な訳......ぁぅ......」

「ああ、可哀想なレナお姉様。でも大丈夫......私が癒してあげます......」

「シシィ。僕が見ますから、貴女は他の......さとり達を治してあげてください」

「あそこに倒れている方々ですね、分かりました!」

 

 お姉様に次いで、ルネとルネに似た青い髪の女の子がやって来る。

 

「霊夢! 出遅れたみたいだ!」

「そうみたいね。って、凄くひどい有り様ね......」

 

 さらには遅れて霊夢、魔理沙も到着する。

 

 ──どうしてここが......。

 

「レナ、大丈夫? 立てそう?」

「だ、大丈夫です......。傷は深いですが、これくらいなら吸血鬼の再生力のお陰で......何とかなります」

「ま、間に合った......。これで、僕の運命が......。(レナ)の運命が......」

「何を安心しているか知らないけど、まだよ。まだ黒幕は倒れていないわ。

 それにしても結構な数が倒れているわね。これもあいつのせいかしら」

 

 霊夢がフリッツという吸血鬼を指差し、問いかける。

 

「はい、あいつがこの異変の黒幕です!」

 

 それに対し、ルネが凄まじい勢いで答えた。

 

「そう......。で、なんだったかしら。人間の手で云々って紫が言ってたけど、いいの?」

「あのスキマ妖怪が......?」

「おそらくは地上と地底の取り決めの件があるからだと思います。

 ......ですからレミリア。お願いですから手は出さないでください」

 

 何を考えているのか、ルネは懇願するようにお姉様へ頼んだ。

 

「......まぁいいわ。あんな吸血鬼の一人や二人、霊夢と魔理沙だけで充分ね」

「いいのか? お前らシスコンだろ?」

「いいのよ。私自ら手を下す必要なんてないわ」

 

 珍しく、お姉様はすんなりと引き下がった。

 そしてお姉様は私を敵から離れている、さとり達の近くへと運んでくれた。

 

「......ってことらしいぜ、黒幕さんよ」

「......はっ! たかが人間如きが俺様の相手になるか! いいだろう。

 その浅はかな考えを後悔する間もなく殺してやるわ!」

 

 お姉様に蹴られた傷もすでに治っているようで、フリッツは声を張り上げてそう言った。

 意味がないのに、まるで威嚇しているようだった。

 

「だってさ、霊夢。さて、どっちが最後決める?」

「決めていいのね? なら私がやるわ。そうした方がいい気がする」

「オッケー! 援護するぜ! 『マスター......スパーク』!」

「え? 魔理沙、それ決め技──」

 

 明らか援護という威力ではない『マスタースパーク』がフリッツへと飛んでいく。

 

「無駄無駄! 弾幕は俺様には通用しない!」

「なにっ!?」

「──でもなかったわね。ビックリした」

 

 が、案の定、弾幕はフリッツに当たる直前に霧散し、消えてしまった。

 

「霊夢! 魔理沙! そいつはありとあらゆるものを霧散させる力を持っています! っぅ......」

「レナ! 喋っちゃだめよ。貴女は回復に専念を......あら?」

 

「なるほどな! やっぱり霊夢の勘は頼りになるな!」

「自分で決めようとしていた人が何を......」

 

 霊夢が呆れた声で返すも、魔理沙は冗談っぽく笑ってみせる。

 

 本当に仲のいいパートナーらしい。

 

「まぁいいわ。魔理沙、決めるからさっきの威力で援護よろしく」

「あれだと魔力が尽きちまうぞ?」

「いいのよ。どうせあいつが黒幕なんだから使い切っていいでしょ。多分」

「分かったぜ。特大のを見せてやる!」

「話し合いはそこまでだ! 見せてやる! 俺の力を!」

 

 そう宣言すると、四方八方に向かって闇雲に弾幕を展開した。

 

「あっ、レナ達が!」

「魔理沙! あいつらは大丈夫だと思うから避けるのに専念しなさい!

 あの弾幕、滅茶苦茶だけど殺気が強いわ! 当たったら人間の私達は大変よ!」

 

 霊夢の話す通り、その弾幕が当たった床や壁は、まるで砂で出来ていたかのように簡単に砕かれてしまう。

 

「お、お姉様......!」

 

 そうやって他人事にはできず、未だ傷が治らず、動けない私に弾幕が飛んできた──

 

「レナ──ッ!?」

 

 ──が、その弾幕は見えない壁に当たったかのように、途中で砕け散ってしまった。

 

「レナ、シシィ。レミリアも。動かないでください。

 あいつの防衛対策は万全です。攻撃はできませんが」

「る、ルネ......。ありがとう、助かったわ」

「いえ。それよりも、今の状態では傷が治せません。ですので少しだけ我慢できますか?」

 

 ルネは結界に集中して振り返ることもしなかったが、私に言ったのだとすぐに理解できた。

 どういう訳か、ルネの目的は私を生かすことらしい。

 

「す、少しだけなら......。この傷、どういう訳か治りが遅いのでできるだけ早くお願いします」

「......な、治りが......?」

 

「危ねーっ! れ、霊夢! もう少し待ってくれ!」

 

 そうこうしているうちに、霊夢と魔理沙は向かってくる弾幕を前に、迎え撃つ体勢を取ろうとしていた。

 

 しかし、どうにも隙をつくことができずに、迎え撃つことができずにいたらしい。

 

「っ、仕方ないわね。一瞬だけ時間を稼ぐわ! 『封魔陣』!」

 

 霊夢が魔理沙の前に入ったかと思うと、天高く広がる結界を張った。

 

「ナイス! 行くぜ......!」

「本当に一瞬だけだから早く!」

 

 魔理沙はミニ八卦炉に魔力を溜め──

 

「分かってるぜ! 渾身の......『魔砲「ファイナルマスタースパーク」』!」

 

 ── 一気に放出した。

 

 それは彗星の如く、他の弾幕を消し去りながら真っ直ぐ進んでいく。

 

「ついでよ。ホーミングアミュレット!」

 

 さらには霊夢の御札が拡散しながらフリッツへと向かっていった。

 

 しかし──

 

「無駄だということが分からんか!」

 

 ──全てが当たる直前で霧のように消えてしまった。

 

「霧散する量に限りなし! 高密度だろうが広範囲だろうが意味がないのだ!」

「だから?」

「え──ガハッ!?」

 

 と、いつの間にかフリッツの背後に回っていた霊夢が、フリッツを素手で殴り飛ばしたのだ。

 

 流石に子供と言えど吸血鬼だからか、尻もちをつく程度しか飛ばなかったが。

 

「に、人間がこんな力を!? いや、それよりもいつの間に!?」

「真っ直ぐ背後に回っただけよ。そしてやっぱり、人は霧散できないのね。安心安心」

「......霊夢お得意の瞬間移動だな。あいつ無意識でやってるけど」

 

 霊夢はゆっくり御札を構えると、自身とフリッツの周りに配置していく。

 

 そして、円柱の結界が完成した。

 

「これで逃げれないわね。あ。でも霧散されれば逃げられるか」

「気楽に言ってるが、俺様と素手で戦うつもりか!?

 人間が、俺様に適うなど──!?」

 

 結界の中から聞こえていた声が止む。

 どうやら、何かの異変に気付いたらしい。

 

「あ、気付いた? お察しの通り、妖怪はこの結界の中じゃ全力なんて出せっこないわよ。

 出せて一割......くらい? もしかしたら能力なんて使えないかもね」

「ぐ......ぐぬぬ......」

「あいつ容赦ねぇな。というかやばいな。あんな強力な結界を一瞬とか......」

 

 魔理沙の哀れみの目が向けられる中、ほとんど無力化されているはずのフリッツに対して、霊夢が御札を構える。

 

「じゃ、そういうことよ。おあいにくさまだけど、鬼に引き渡すまで眠ってもらうわよ。

 落ちなさい。『夢想封印』!」

 

 異変の終結を告げるかのような色とりどりの弾幕が、結界の中を覆い尽くした────




ちなみにフリッツですが、見た目も年齢もレミリアと同い年くらいという。

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