東方紅転録   作:百合好きなmerrick

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今年最後の小説。
まぁ、今年もありがとうございました。では、また来年お会いしましょう。

あ、お暇な時にでもごゆっくりどぞー


15、「終焉へ近づく」

 side Remilia Scarlet

 

 ──とある平屋

 

「お姉ちゃん!」

 

 ルネに案内された部屋には三ヶ月ぶりに見る(ミア)の姿があった。

 

 私を見た途端、ミアは私の胸に勢いよく飛び込んできた。

 

「ミア! あぁ、良かったわ......。無事だったのね......」

「うんっ......もう離れないから......。絶対に......。

 フラン、ルナ。心配かけてごめんね」

「のーぷろぐれむ」

「大丈夫、だってさ。ま、私もルナも大丈夫って信じてたしねー」

「......兄様。レミリア(あの女)がいるけど、何もされてないですか? 大丈夫でしたか?」

 

 視界の端でルネの妹、エリザベートが私を恨めしそうに見ているのが見えた。

 少し前に切った腕はすでに元通りになっている。

 

「大丈夫ですよ。心配無用です」

「......ミアも無事だったし、後はレナね」

「レナ? ......やっぱり、本当に......。お姉ちゃん。早くレナのところに行こ!」

「事情は私達よりも詳しいみたいね。

 でも、戦えるの? 無理だったら私の後ろで援護してくれるだけでいいわよ?」

「大丈夫。私はお姉ちゃんを守れるくらい強いんだよ?」

 

 と、ミアは挑戦的な笑みを浮かべる。

 私を守れるということは、私よりも強いと同義と分かっているようだ。

 

「ふふん。しばらく会わないと思ったら、意外と元気で何よりよ。

 いいわ。貴女も一緒に戦いましょう」

「うん。背中は任せてね」

 

 こうやって話していると、本当に成長したな、と実感できる。

 三ヶ月ぶりに会ったせいもあり、より一層そう感じてしまうのかもしれない。

 

「じゃ、私はルナの背中を。ルナ、本気出していいよ。でも能力はダメね」

「分かった。剣と匣使う」

「どっちもヤバいやつじゃんそれ......。匣は残すの希望だけにしてね」

「それは、私にも分からない」

「えーっと......久しぶりの再開で盛り上がって......フランとルナは少し別ですが。

 まぁ、ちょっといいですか?」

 

 と、話に割って入るようにルネが話しかけてきた。

 

 ──確かにここでずっと話すわけにもいかない。

 

「えぇ、いいわよ。何かしら?」

 

 そう思った私はルネの話を待つ。

 

「急いだ方がいいと思います。僕の兄、フリッツとレナがそろそろ戦い始めると思うので」

「......誰かは覚えてないけど、わざわざ言うということは強いのね。分かったわ」

「レナ......。うん。急ごう。そういえば、魔神とかは?」

「あれは異変解決後にでいいと思いますよ。では、向かいましょう」

「兄様、ミアお姉様。......行かれるのですか? アタシはまたお留守番ですか?」

 

 ルネの話が終わるとすぐにエリザベートが話に入ってきた。

 よほどミアを気に入ったのか『お姉様』と呼んでいるらしい。

 

「できればシシィにはお留守番してほしいです。外は危険ですから」

「嫌......嫌です。兄様をレミリアなんかに取られたくありません......」

「いや、取る気さらさら無いわよ......」

 

 エリザベートは呟いた声に反応し、明らかな敵意を......いや。殺意のこもった目をこちらへ向けてくる。

 

 ── 一体私が何をしたというのか......。全く分からないわ。

 

「......シシィ、外は危険ですよ。またフリッツ兄さん達に捕まったら......」

「それでも! それでも兄様と一緒にいたい......。何処にも行ってほしくないから......」

「......本当に似ていますよね、貴女は長女だというのに」

 

 と、ルネはちらりとフラン達を見やる。

 

 何かを思い出しているような表情を見せて。

 

「分かりました。僕から離れないでくださいね」

「ああ、ありがとう、兄様......」

「......もういいかしら。案内は頼むわよ。私達は大穴から入ったことないから」

「私はあるけどね。前にレナと一緒に来たから。でも霧の中は初めてだから任した」

「任されました。では、向かいましょう。

 ちなみに抜け穴を作って向かいますので、霧を吸わないようにだけ気を付けてください」

 

 ルネの忠告を受け、ルネが用意した布を口に巻いた。

 私達は抜け穴に入って、地霊殿へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿

 

「さとり! 違うここじゃない!?」

 

 朱童()の忠告を受けた私は、さとり達を探して地霊殿を駆け回っていた。

 

 さとりと別れたはずの部屋には誰も居ず、霧のせいか魔力で探知することも難しい。

 ──安全な場所に隠れてて、なんて言わずにここで......いや、それだと早く見つかってたかもしれないか。

 

「さとりー! 一体何処に......ん?」

 

 絨毯が敷かれた廊下の先に黒い何かが見えた。

 

 その正体は──

 

「え......? 黒猫? お燐!?」

 

 ──小さな黒い猫だった。

 

 しかし、慌てて近付いて分かったが、この黒猫の尾は一本。どうやら普通の猫らしい。

 かすり傷らしき傷はあるも、瀕死の重傷というわけではなかった。

 

「ほっ......大丈夫? 子ねひゃっ!? 」

「にゃぁ......」

 

 突然猫が動いたものだから、驚いてしまった。

 それを見てか、猫は呆れたような鳴き声を出した。

 

「ご、ごめんね、今は友達を探してるから、ここで安静に......どうしました?」

 

 猫は私の腕から逃れると、真っ直ぐと廊下を走っていった。

 

 そして距離を置くと、私の方へと振り返る。

 

「......もしかして、そっちにさとりが? 分かりました。今行きます!」

 

 黒猫を追って、私は廊下を駆けていく。

 

 

 

 しばらく走っていると、広間のような広い部屋へ出た。

 そして、そこには──

 

「さ、さとり!?」

 

 ──血を流し倒れたさとりと、お燐やお空を含むペット達。

 そして、それを起こした犯人らしき、背中に翼の生えた蒼髪の吸血鬼がそこには居た。

 

 吸血鬼は私の方を見ると、嘲たように笑みを浮かべる。

 

「おやおや......。誰かと思えばスカーレットの次女ではないか。

 ヒーローは遅れてくると言うが、少し遅すぎたな」

「貴方......っ! 失礼ですが誰かは知りませんが、今すぐ私の友達から離れなさい!

 離れなければ......『魔剣(まけん)ダーインスレイヴ』! 貴方を斬ります!」

 

 先ほど、吸血鬼を倒した際に使った武器を再度召喚した。

 この剣は不死の生物をも殺し得る力を持つ。

 

「投影......『グラデーション・エア』か? そんなもの、俺様に適うようなものではない」

「ぐ、ぐら......? い、いえ。適います。先ほど、入り口で戦った吸血鬼にも効きましたから」

 

 その言葉を聞いた吸血鬼の表情が変わる。

 

 変わったと言っても、それは楽しめそうだ、という慢心にも似た表情だ。

 

「ほう......。ジョンを倒したか。あの出来損ないの弟の一人を......」

「弟? なるほど。貴方もお姉様を仇に思ってる方です?」

「そんなものに興味はない。俺様が興味のあるのはただ一つ、支配だ......」

「......あ、は、はい。馬鹿馬鹿しいので、呆気に取られました。

 潔く負けて散りなさい!」

「ほざけ。俺様にその刃は届かん」

 

 その場から動こうとしない吸血鬼に対し、私は目眩しにと弾幕を放つ。

 

 そして、その弾幕に隠れるように、敵へと飛び出した。

 

「無意味だ。ハァっ!」

 

 吸血鬼も対抗して弾幕を放ち、互いの弾幕がぶつかったと同時に、私は前に跳躍する。

 

 そして、吸血鬼の頭上から剣を振り下ろし、切り裂い──

 

「取っ......え?」

 

 ──と思いきや、いつの間にか剣は手から消え去っていた。

 

 そして、目の前には無傷の吸血鬼だけが残っている。

 

「効かない。そう言っただろう。弱いわ!」

「うぐっ──!?」

 

 呆気に取られているうちに腹部へ蹴りを入れられ、後方へと飛ばれる。

 

 ──どうして剣が......!?

 

「お前の武器は弱いから消える。贋作なら尚更な。吸血鬼に武器など不要。

 爪さえあれば──」

 

 瞬く間に吸血鬼の姿が消えた。

 

「っ!?」

「──弱者など容易に殺せる」

 

 次の瞬間、首に鋭い痛みを感じる。

 

「あ! あっ......ぅぐ......」

「ちっ、浅いか。やはり霧散からの実体化では殺せん......なぁっ!」

「ぅあっ!」

 

 両手を付いたところに背中へ蹴りを食らい、地に伏せてしまう。

 

 ここまでいいようにされるのは、お姉様と初めて戦った時以来だ。

 

「どうした? これで終わりか?」

「り......」

「り?」

「『輪廻転生「ウロボロス」』! 集ま......え?」

 

 力を振り絞って魔法を使うも、いつものように弾幕が出てこない。

 それどころか、魔法が一切使えなくなっていた。

 

「魔力切れか。ジョンの奴め。意外と削っていたと見た。

 そこまで強くもない弱者だったな」

「うっ......」

「ん? 何処へ行った?」

 

 魔法がダメなら、と能力を使い、自身を有耶無耶にした。

 これで気付かれることはないが、傷のせいで身体を動かしにくい。

 

 しかし、さとりと大勢のペット達を逃がすにはこの吸血鬼を倒すしかない。

 

「こうなったら......有耶無耶なうちに......!」

 

 必死に力を振り絞り、吸血鬼の首目掛けて鋭い爪で切り裂いた──

 

「......え? どうして......?」

 

 ──が、傷付いていたのは私の方だった。

 

 あと一歩のところで爪は届かず、代わりに私の腹部には相手の爪がくい込んでいた。

 

「容易い。お前もルネと同じ能力のようだな。能力に頼りすぎた末路だ、な!」

 

 吸血鬼が掛け声とともに勢いよく爪を抜くと、私は力なく倒れる。

 

「ど、どうして......」

「見えているからだ。お前が遅いからだ。

 俺様の能力は『ありとあらゆるものを霧散させる程度の能力』。

 能力という概念さえも、俺様の前では無力なのだ」

「そんな......さとり......。お姉様......」

「助けは来ず、また一人、俺様の手によって弱者は消える。

 お前はここで終わりだ。先に逝って、姉でも待ってろ」

 

 吸血鬼は大きく手を振り上げると、倒れた私へと振り下ろした────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──地霊殿(周辺)

 

「『マスター......スパーク』!」

 

 ミニ八卦炉(はっけろ)を構え、敵の集団へと光のビームを放つ。

 

「キリがないぜ! 鬼さん、何か手はないのか!?」

「ないこともない。だけど、今は頑張って攻撃して、気絶させていくしかない。

 あと、名前を呼ぶ時は朱童と呼んで」

「あぁはいはい。要は無いんだな! ええい! 散れ! 『スターダストミサイル』!」

 

 魔力切れを危惧してショットで攻撃するも、敵は減るどころか増えているようにさえ感じる。

 

「なんか増えてません!? これじゃあ本当にキリがないですよー」

「敵の援軍が来たみたい。これは、やばいかも」

「気楽に言うな......。だが、私は諦めない。

 霊夢もここに来るんだ。それまで諦めるわけには......」

「魔理沙さん! 後ろ──」

 

 早苗の声に反応するよりも早く、背後に気配を感じた。

 

 そして、振り返る間もなく──

 

「ほんと甘いわね。魔理沙」

 

 背後からは聞きなれた声が聞こえた。

 

「まあ、私が来たからには大丈夫よ」

「霊夢! 待ちくたびれたぞ!」

「霊夢さん! いよいよ巻き返しですね!」

「『スピア・ザ・グングニル』!」

 

 話を遮るように、誰かの声が響いた。

 

 そして、その声とともに赤い槍が敵の集団へと衝突した。

 

「え? あ、あいつは......」

「レミリアじゃない。どうしてここにいるのかしら」

「オラァ! おっと。霊夢の仲間かい?」

 

 器用に頭を小突いて敵を気絶させながら、霊夢の後ろから一本角の鬼がやって来た。

 どうやら正気を失ってないらしい。

 

「勇儀様。お待ちしてました」

「おぉ、朱童! やっぱ無事だったか!」

「霊夢の知り合いか? いつの間に鬼と友達になってたんだよ」

「友達ではない。その場の流れみたいなものよ。でも、味方よ」

「そんな固いこと言うなよ。私は友達と思ってるよ。萃香の友達だしね」

「それも間違いだから......」

「あら霊夢。貴女も来ていたのね」

 

 話している最中、レミリアを含む吸血鬼一向がこちらへとやって来た。

 

「それはこっちのセリフよ。もしかして貴女が黒幕?」

「違うわよ。それはルネ(この子)の兄」

「あぁ、あの時の......」

「前も話したような......」

 

 そう言ってレミリアは吸血鬼らしい翼の生えた蒼い髪の男を紹介した。

 

「まぁ、ちょうどよかったです。霊夢もここに居てくれて。では、行きましょう、黒幕の場所へ。

 霊夢と魔理沙、あとレミリアとシシィも一緒に来てください。案内します!」

「え? 私? というか貴方誰?」

「急がないと手遅れになります!」

 

 切羽詰まった顔を見て、急ぐ必要があるのだと察する。

 

「何か分からないが、レミリア。信用できる奴だよな?」

「えぇ、信用できるわよ」

「私も信用してるやつだよ」

 

 横から勇儀と呼ばれていた鬼が入ってきた。

 

 鬼は嘘をつかないと言うから、信用はできるのだろう。

 

「なら大丈夫だな。行くか」

「必然的に私も行くことに......はぁー。分かったわよ」

「よし! ここは私らに任せな!」

「私も負けられませんね! ここは守りますよー」

「お姉様......。ま、レミリアお姉様に任せればいっか。頑張ってね、みんな」

 

 早苗達を残し、私達は蒼い吸血鬼とともに黒幕の場所へと向かった────


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