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side Hakurei Reimu
──地底(とある牢屋)
蒼い吸血鬼の言っていた通り、鬼が集まっている広場のようなものがあった。
「ようやく一段落したわね............」
そして、とりあえず制圧し、少しの間、休憩を取っていた。
鬼の四天王が捕まっている場所を探索などしてもよかったが、流石に連戦になると辛いので休憩していた。
「さぁてと......。多分こっちね。そんな気がするわ」
いつもの勘を頼りに、周りを警戒しながら歩いて行く。
広場近くの大きな平屋の前に着いた時、その扉を開けた。
中には、檻のような鉄格子の部屋があり、その中には一本の角を持った女性の鬼が両手両足を繋がれ捕まっていた。
傷を負ってはいるが、致命傷には見えない。だが、気を失っているのか私が入ってきても反応はしない。
「やっぱり居た。貴女が鬼の四天王......名前なんて言ったかしら」
無駄だと分かっていても、話しかけてしまう。
鬼の四天王だとは言え、傷を負っての戦いは辛いだろう。
──解放するだけ解放して、後は......。
「星熊......星熊勇儀さ」
と、思っていると突然声が聞こえた。
その方向を見ると、女性の鬼が顔を上げてこちらを見ていた。
「やっぱり起きてたんじゃない。傷とか大丈夫?」
「まぁね。やわな鍛え方はしてないからねぇ。で、そういうあんたは何者だい?」
「私は博麗霊夢。博麗の巫女よ。蒼い吸血鬼に貴女を助けてくれ、って頼まれたから来たのよ」
「蒼......そうかい。約束は守った、ってかぁ?
......ということは、
「ちょっと。私に分かるように話なさ──ふぁ!?」
勇儀は一人で納得したかと思うと、手足を拘束していた拘束具を力任せに破壊した。
──それができるなら私必要無かったんじゃ......。
「ん? どうしたんだい?」
「いやいや。何平気な顔で壊してるのよ!」
「仲間が人質に取られててねぇ......。
ここまで来たからには正気を失った妖怪を見ただろ? あれには私の仲間も含まれてんだ」
「へぇー......。全員気絶か封印にしといてよかったわね」
「流石博麗の巫女。妖怪に優しいなぁ」
「優しくないわよ!」
どうして私には物好きな妖怪が集まるのか。
それが今でも全く分からない。
「さて、話の続きだな。私は合図を待っていたのさ。お前達、地上の人間がやってくるっていう合図を」
「はぁ? どういうこと?」
「簡単に話すと、この霧はそろそろ無効化される。そして、その間にあんた達人間が黒幕を倒す。そういうわけさ。
なぁに。私も手を貸すよ。鬼に金棒さ」
「貴女の方が鬼だけどね」
勇儀は「それもそうだな」と言いながら、檻を殴って破壊する。
仲間を人質に取られていたとは言え、こんなに強い鬼が捕まっていたというのは信じられない。
「さぁて。ようやく借りを返せるとはねぇ。嬉しい限りだよ」
「こんな鬼に喧嘩を売るなんて命知らずな奴だわ......。で、結局何処へ向かえばいいの?」
「地霊殿。地底の中心地にある建物よ」
「そう、分かったわ」
こうして鬼を仲間に入れ、枠は次なる目的地へと向かった────
side Remilia Scarlet
──地底への大穴
黒い雲を辿っていると、山の中に大きな縦穴があった。
そこから、悪意に満ちた妖力を含む、真っ黒な煙が上っている。
「真っ黒......。フラン、ルナ。吸わないようにしなさい」
「うん。......流石に『目』は見えないなぁ。というか小さくて多いから掴みづらい」
「......きゅっとしてドカーン」
「えっ、何を──」
ルナが唐突に拳を握ると、目の前の煙が少し弾けた。
しかし、次々と下から上がってくるので、気休めにもならなかった。
「ルナ。やる時は言いなさい。びっくりするわ......」
「ごめんなさい。でも、いける気がしたから」
「悪気はないみたいだから許してあげて、レミリアお姉様」
と、フランがルナの前に立ち、庇うようにしてこちらを見る。
怒ろうとも思っていないのだが、そんな風に聞こえてしまったのだろうか。
しかし、フランはルナに対していつも甘すぎるような気もする。
「別に怒ってないわよ。さぁ、行きましょうか。貴方達。絶対に吸っちゃダメよ?」
「分かってるって。そんな心配しなくてもいいよ。ね、ルナ」
「うん」
この霧が
もしそうだとすれば、フランやルナが吸えば、またあの時のようになる。
それだけは避けねばならなかった。
──絶対に、この娘達にあんな思いをさせない。二度と狂気に陥らせてはいけない......。
そう思いながら、暗く、奥深くへと続く大穴を降りていった。
「レミリアオネー様? 顔暗い。大丈夫?」
降りている最中、器用に宙を飛びながら、ルナが顔を覗かせる。
「え、えぇ。大丈夫よ。黒い霧の中だからそう見えるだけ」
「そう......。分かった」
「......。あ、着いたみたい。やっぱり暗いね」
ただでさえ陽の光が入らない地底だと言うのに、黒い霧でより暗く見える。
「ねぇ、お姉様は何処にいるの?」
「さぁ? 美鈴も知らなかったと思うわ。でも......会える気はするわね」
「どういうこと? フラン。分かる?」
「分かんない。レミリアお姉様っていっつもこんな意味深なことを言って、何も考えてないから」
「失礼ね。考えているわよ。......さ、行きましょうか」
と、地底の中心部にある地霊殿へ向かって暗い地底を進んでいこうとする。
「レミリアお姉様? 本当に考えてる?」
「考えてるわよ。今から地霊殿へ行くわ。確か地底の中心にあるんでしょう?」
「う、うん。こいしちゃんがそう言ってたけど......。でも、どうして地霊殿?」
「レナが行きそうな場所だから、よ。地底でこんなことが起きてたら、一番に友達が心配になるのよ。あの娘はそういう娘だから」
とは言ったが、これも憶測でしかない。それに、もし合っていても、すでに居ないかもしれない。
だが、今の目的はルネだ。レナも子供じゃないから、心配はないだろう。
──でも、私に一言くらい......。
「誰も言えないと思います。特にレナ......
と、背後から聞き覚えのある声が聞こえる。
「わっ!? あ、お前......!」
「お久しぶりです、フラン。......あれ、もう一人は......分身です?」
フランが睨みつける方向には蒼い髪の吸血鬼、ルネが宙に浮かんでいた。
「ルナ、だよ。お兄さん」
「ルナは下がって。......何の用?」
「そう殺気立たないで、フラン。......ルネ、話してくれるのよね? 何故あの女が襲撃したか。そして、貴方とレナの関係も」
「......エリザベートです。僕の妹は。というか、話さなくてもすでに察しているのでしょう?」
「ねぇ、貴方......いえ、貴女は本当にルネなの? ルネという名前なの?」
妹二人の目線を感じる。
昔の自分でも、こうは思わなかっただろう。
だが、今は──
「貴女......本当はレナなんじゃないの?」
「えっ!? れ、レミリアお姉様? 何言ってるの?」
「明らか『お姉様』って言いかけてた時があったし、さっきも私って言ってたから。それに、雰囲気も、言動も似てるし......」
「わ、私は似てないと思うよ! お姉様の方が──」
「カッコいいし、可愛いから......です?」
ルネはフランの言葉に重ねるように話した。
まるで、何を言うか分かっていたように。
「むぅ......分かったようなことを言わないでよ!」
「......なら、何を言おうとしたのです?」
「そ、それは......うぅ......!」
図星だったようで、フランは何も言えず、悔しそうにルネを見つめている。
今にも飛びかかりそうな殺気を放ちながら。
「ルネ。できれば急いで話して。それと、フランを刺激しないでよ」
「可愛いですから、つい。では、ここで話して敵が来てもあれですし、付いてきてください」
と、ルネが平屋の多い通りへと向かう。
「分かったわ。......フラン。殺気抑えて。ルナは......嫌いではないのね」
「うん。知らないから」
「皆さん。抜け穴を作ったので入ってください」
と、ルネが通りの真ん中に人一人が入れそうな穴を作った。
──これ、やっぱりレナと同じ......。
「......罠かもしれない」
「僕が先に入りますよ」
「......そうして」
警戒心が異常に強いフランの要望により、ルネが一足先に穴の中へと入っていった。
そして、次に私が続いた。
中はどこかの平屋らしく、机にタンスらしきものがある。
出口は先ほどの抜け穴と扉一つしかない。
「......ここは?」
「秘密裏に拝借しておいた家です。ちなみに隣の部屋にはもう一人の私がいますよ」
「もう一人の......まさか!? 貴女がミアを!?」
と、ルネの首筋を掴んだ。
誰であろうと、私の妹に手を出すのは許せないのだ。
「っ......。話を聞いて、ください......」
「レミリアお姉様ー。だいじょー......え!? ち、ちょっと!? 何キレてるの!?」
「キレて悪い? まぁいいわ。言い訳を聞こうじゃない」
手を離すと、後から入ってきたフラン達を私の横に座らせ、ルネの真向かいへと座る。
ついでに、ルネが何かしないように両手を握った。
「......あの?」
「貴女が何かしないようによ」
「......分かりました。では、話しますよ。まず、今の僕はレナではないです。今の僕はルネです。が、昔は同じ存在だった、とは言えます。
......今はそれだけ知っていてください。いずれ......レナの口から聞いてください」
──今はレナではないが、昔はレナだった......?
これだけでは意味が分からないが、レナがたまにおかしな言葉を話すのと関係している気がした。
「......そう、分かったわ」
「レミリアオネー様。全く意味が分からない」
「ルナ。今はただ、聞いていて。またいつか、詳しく話してあげるわ」
「次に、エリザべート......僕の妹が襲撃したのは申し訳ないです。あの娘、お酒が入るといつもああなって......」
「止めなさいよ。で、大丈夫なの? その娘」
正直、あの女は嫌いなのだ。
だが、怪我をさせてしまったのだから、心配しない訳にはいかない。
「はい。今はもう一人の私に相手をしてもらってます」
「ミアがいるの!?」
「フラン、落ち着いて。そうね、言い訳がまだだったわね。どうしてミアが居るのかしら?」
「ただ、魔神を襲おうとしてたので、眠らせて保護していただけですよ?」
「だからって三ヶ月も保護しないでよ! どれだけこっちが心配したと思ってるの!?」
腕に力が入ったせいか、ルネが痛いのを我慢するように少し顔を歪めた。
──無意味な我慢強さはレナみたい......。
「魔神に手を出そうとした時点で危険なのです。できればすぐに紅魔館に送り届けて安全を確保したかったのですが、幻想入りしてからは紅魔館へ行ったことがないので魔法でも飛べなかったのです。それに、兄の監視もあり、無闇に動くこともできなくて......」
「......ミアのことを思って、というのは分かったわ。で、ミアにはそのこと話したの?」
「もちろん話しましたよ。異変に気付き、レナがやってくるまでの辛抱だとも」
「......反応は?」
「レミリアの名前を叫びながら泣いてました」
容易に想像できることが怖い。
あの娘達が自立できるのかが心配になってきた。
「ですので──今は違いますが──この空間と外の空間の時間を弄り、ここでの一日を外での二週間近くに設定してあります」
「え? ......ミアは数日だけ私達と離れていた、と感じているってこと? というかよく出来るわね、そんな技」
「正解です。多分、五日くらいだったと思いますよ。捕まえてすぐには話せませんでしたし」
その話を聞いて、より一層、私の妹は自立できるのかと不安になる。
──数ヶ月ならまだしも、数日でも離れると泣くとは......。でも、私も数日でミアのことを心配したから、お互い様かしら。
「ねぇ、ミアに会っていいよね?」
「少しお待ちを。会う前に、一つだけ約束してほしいのです」
「何かしら? まだミアを連れて帰るな、みたいな約束は無理よ?」
「いえ、もちろん連れて帰っていいですよ。というかすぐに連れて帰ってほしいのです。
そして、できれば異変が終わるまでここへ来ないでください。レナは私が何とかしますので」
「......はい?」
次は故意にルネの腕を握る力を強める。
簡単に、明確に思いを伝えるために。
「お、お姉様......お願いです......」
「レミリアと呼びなさい。
そして、何を言おうとお断りするわ。妹を放っておけるわけないじゃない。ただでさえ危なかっしい妹なのに」
「れ、レミリアオネー様。落ち着いて......」
「そうだよ、レミリアお姉様。殺したって意味無いよ?」
フラン達が落ち着かせようと、私の腕を抑えた。
が、それでも握ることはやめず、ルネの目をまっすぐと見つめた。
「殺すつもりはさらさらないわよ。......ただ、私をお姉様って呼びたいなら、私を信じなさい。どうせ私が心配だから先に家に帰ってほしいんでしょ? 何を知ってるか分からないけど、私は簡単に死なないし、フランもルナも死なせはしない。
私は紅魔館の当主。レミリア・スカーレット。スカーレット家の名に恥じないよう異変を終わらせ、家族を連れ帰るわ!」
「......この世界でも、貴女は貴女なのですね。分かりました。僕......私は貴女の名に恥をかかせないよう、貴女を手伝いましょう」
「えぇ、手伝いなさい。そして、すぐに終わらせるわよ。こんな異変は」
握っていた腕を離し、改めてルネの目を見る。
その目は、いつも見ているレナの目と変わりなかった。優しく、臆病な妹の目と。
「......レミリアお姉様はいっつも分かったような顔をしてるけど、結局お姉様と
「それはレナから聞きなさい。あの娘が唯一私達に隠していることよ。今回のことで少しは分かったかもしれないわ」
「それ分かってないじゃん」
「......ほんと、レナと違って失礼な娘」
「むぅ......ふん。喧嘩なら後でいくらでも買ってあげる。だけど、今はミアとお姉様が優先ね」
フランは私の嫌味を無視すると、扉の方へと向かっていった。
今更だが、少し、大人げなかったかもしれない。
「ミアとシシィはこちらです。行きましょう」
「シシィ? シシィって?」
「私の妹、エリザベートのことです。......あ、できればレミリアは少しお待ちを。あの娘、どういう訳か貴女のことを嫌っているようで......」
「えぇ、そうみたいね。ここで待ってるわ」
そう言って、ルネとフラン達が扉の中に入っていくのを見送った。
ただ一人、頑張っているレナのことを思いながら────