東方紅転録   作:百合好きなmerrick

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最終回(EX除く)まで残りわずか。しかし、クリスマスイブやクリスマスなどの書く予定のイベントが多くて今年には終わりそうにないという()

まぁ、それでもいいよと言う方は、お暇な時にでもお読みくださいまし


13、「守るべきもの」

 side Kirisame Marisa

 

 ──地底(中心部にある館近く)

 

「ま、魔理沙さん! あれを!」

「あぁ、やばいな」

 

 私達が目指す方向には、大きな西洋風の館があった。

 

 だが、早苗が指差す方向はそれではなかった。

 霧で見えにくいものの、館の周りには数えるのも面倒くさそうなほどの数の妖怪達がいたのだ。

 

 その妖怪達の半数以上は館に入ろうとしているのか、館へと向かっている。しかし、見えない壁でもあるのか妖怪達は館の中へ侵入することはできない様子だった。

 

「あの数、どうにかできると思うか?」

「どうにかして見せますよ! 霊夢さんに期待されちゃってますし、絶対に勝ちます!」

「そんなに期待してたっけなぁ。......おそらく何かしらの魔法防壁でも張ってるんだろうが、時間の問題だと思う。急ぐぞ」

「もちろんです!」

 

 見えにくい霧の中、館へ近付くにつれて妖怪達の姿もハッキリしてくる。

「......っ!? あ、あいつは......!」

 

 妖怪達が円になって囲むその中心には、私もよく知る妖怪がいた。

 

「お知り合いですか?」

「あ、あぁ......。あいつは紅魔館に住む吸血鬼三姉妹の次女レナータだ。だが、どうしてこんな場所に......な!?」

 

 よく見ると、レナの傍には倒れている翼の生えた妖怪と、レナの腕を掴む鬼らしき角の生えた金髪の少女がいる。

 

 そして次の瞬間、鬼が振り上げた拳をレナへと振り下ろし、人形のように力なく倒れた。

 

レナ(あいつ)を助けるぞ!」

「えぇ!? で、でも妖怪に囲まれていますし、あの人も妖怪ですよ!」

「あいつは私の友達だ! だから行くぞ!」

「んー、妖怪が友達、ですか。......要はこの幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!

 分かりました! 行きましょう!」

「分かってないぞそれ......。まぁ急ぐぞ!」

 

 そう言ってレナと金髪の鬼がいる地へと向かう。

 

「おい! レナから離れろ!」

「うるさい。注意を(あつ)めている妖怪達が気付く」

「正気だと......!? お前がこの異変の黒幕か!?」

 

 危険を感じ、鬼の少女から少し距離を置き、ミニ八卦炉を構える。

 

「魔理沙さん! その距離だとレナさんにも当たりますよ!」

 

 が、すぐに早苗が手で制した。

 

「......くっ。レナを盾にするなんて卑怯だぞ!」

「卑怯違う! 盾になんかしない! ......そもそも、敵じゃない。萃香様の命令で、この吸血鬼を手助けしに来た」

「......えっ? す、萃香? だ、だが、お前はレナを──」

「霧の中で無防備だったから、狂気に落ちそうになってた。だから気を失わせた。

 気絶すると、正気も狂気も関係......ない」

 

 そう言いながら鬼はレナと翼の生えた妖怪を背負い、真っ直ぐと館の方へと向かっていく。

 

「ま、待て! もっと詳しく話せよ!」

「後でね。まずは、この娘を安全な場所へ移動させる。しばらくここで時間稼ぎお願い。多分、もうすぐ私の能力も切れると思う」

「ど、どういうことだ?」

「......そう言えば、周りの妖怪達が襲ってきませんよね。それが襲うようになるということでしょうか?」

 

 早苗が思い付いたかのように周りを見ながら話した。

 

 ──確かに襲ってこないが、もしこれが鬼の罠だったら......。

 と思ったが、よく考えてみると鬼が罠や不意打ちなど、卑怯なことをするはずがない。

 さっきも『卑怯』という言葉に反応して怒っていたくらいだ。少なくともこの鬼は卑怯なことをしないだろう。

 

「......分かった。その館の中に入れないようにすればいいんだな?」

「うん。あ、ちょっと待って。壁が邪魔」

 

 鬼の少女は館のすぐ側まで行くと、立ち止まって何かに集中する。

 

「うん。これで大丈夫。あ、一つだけ。

 鬼達(私の仲間)はこの吸血鬼が片付けた。だからお前達でも止めれると思う」

 

 そして、しばらくすると振り返り、私達に話しかけてきた。

 

「流石吸血()だな......。よし。早苗、やるぞ!」

「分かりました! 先ほどの話からすると、気絶させればいいんですよね!」

「うん、合ってる。......話したらすぐに戻るから、頑張って」

「言われなくとも......戻ってくるまでに全員倒してみせるぜ!」

 

 鬼が館へと入っていくと同時に、私達は空へと避難する。すると、今まで私達に目もくれてなかった妖怪達が一斉にこちらへと注意を向けた────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿(ホール)

 

「ぉ......まぁ......っ......はっ! お姉様!? じ、じゃない! ここは!?」

 

 目が覚めると、まず初めに紅魔館のホールのような高い天井が見えた。

 

「ここは地霊殿だよ」

 

 次に、女性の声が耳元で聞こえた。

 

「あ......。つ、角......鬼?」

「忘れてる......? 正気じゃなかったから仕方はない、けど......」

 

 鬼の娘はどうしてか、悲しそうな顔を見せる。

 

「え、えっ? 今思い出すので、少しお待ちを......」

 

 それを悪く思い、私は必死に何が起きたのかを思い出そうとした。

 

「無理に思い出さないでいい」

「で、です、が......あっ! 貴女は萃香さんの! で、私は先ほどまでずっと......」

 

 ──狂気に囚われていた。でも、正直に言うとその自覚はない。先ほどまでの出来事もまるで夢だったような......そんな感じが......。

 

「......思い出したなら、それはそれでいい。あの霧の中では、お前の精神は持って数分。霧を吸わないようにして」

「わ、分かりました......。優しいのですね」

「別に......。萃香様に言われたからやってるだけ。しばらくは外に出ないでここにいて」

「萃香さんに......。分かりま......いえ! 私は友達と、さとりと約束したのです! だからここを守らないと」

 

 そう言って立ち上がるも──

 

「ダメ」

「え......っ!」

 

 ──鬼に肩を押さえつけられ、無理矢理座らされた。

 

「地味に痛い......」

「ごめんね。でも、力加減難しい。

 まずは体内に残った霧を出すためにも新鮮な空気吸ってて。

 地底だから、あんまり新鮮じゃないけど......」

「......そう言えば、まだお礼も名前も言ってないですね。知ってるかもですが。ありがとうございます。私はレナータ・スカーレットです。

 よろしくお願......イタタッ......」

 

 握手を求めて手を握ると、本当に力加減が苦手らしくかなり痛い。

 手を握り潰そうとしているのかと勘違いするほどだ。

 

「大丈夫? まぁいいや。私は金熊(かねくま) 朱童(しゅどう)。萃香様の部下」

「良くはないです......。では、金熊さん」

「朱童がいい。朱童って呼んで」

「あ、はい。朱童。貴女だけで妖怪達を止めれ──」

 

 純粋に心配だっただけなのだが、それでも朱童は気に食わない、といった表情を見せる。

 それだけで、心配する必要はない、と言いたいのが分かった。

 

「──るのですね。確かに他の鬼は私が無力化しましたけど......」

「む。本来、鬼の力はあんなものじゃない。それと、私だけじゃない。巫女と魔法使いの二人が外で戦っている。私の能力を使っているからここに侵入される心配はないけど、隠れることはできない。でも多分大丈夫」

 

 ──魔巫女と魔法使い? ということは、霊夢と魔理沙? しかし、あの二人でもあの数は......いや、私が言えないけど。

 

「さ、流石に大丈夫じゃないと思いますよ! というか、ここには私が張った結界があったはずです! どうやってここへ入ったのです?」

 

 あの結界は私が死んでも大丈夫なようにと、強く、長時間保てるようにしていたはずだ。そして、私がいても入れるような細工はしていない。

 ──なのに入れているということは、既に結界が破壊されて......。

 

「私が地霊殿の入り口に萃めて他から入れるようにした」

「......えっ!? あ、貴女が壊したのです!?」

「壊してない。人聞きの悪い......。ただ、萃めただけ」

「......それ、あまり変わってないですよね......。でも、結構大きく作った結界なのですが、どうやって集め......いや、萃める? 萃香さんと同じ......?」

「同じじゃない。萃香様の極一部の力。『萃める程度の能力』だよ」

 

 確か、萃香は『密度を操る程度の能力』を持っていた。何かを萃めたり疎めたりする能力、と聞いている。その能力の『萃める』という部分をこの娘は持っているらしい。

 

「......でも、萃めるだけですか? 有耶無耶な私を見れてましたよね? 普通は見えないはずなのに......」

「私の意識をお前に萃めていた。見えている時からずっと。お前の能力、萃香様に聞いていたから。ちなみに外出ても平気なのは、空気だけを萃めているから」

「......便利すぎませんか? というか前に聞いた時は強いからと......」

「気のせい。お前も便利な能力を持っていると聞いた。だからおあいこ」

 

 ──鬼でも強がることはあるんだな。

 と、この時初めて思ってしまった。

 

 もしかしたら萃香を尊敬するあまり萃香に似てしまい、多少の嘘は付くようになったのかもしれない。

 

「じゃあ。行ってくる。ちゃんと待ってて。ついでにそいつも動かないように見といて」

「そいつ? ......あっ......」

 

 今まで気付いていなかったが、私のそばには気絶する前まで戦っていた吸血鬼が眠っていた。

 

 私の剣は効果的だったらしく、吸血鬼を中心に血の海が出来ていた。

 

「......もしかして、死んでます?」

「生きてる。治してあげて、ね?」

 

 私の複雑な気持ちも理解していないのか、平気な顔でものを言う。

 

 ──確かに思い返してみれば、あの時は殺してもいいと思っていた。昔、お姉様を傷付けた人間を殺した時のように......。

 

「......もしかして治せない?」

「え。い、いえ。治せは......しますけど......」

「ならお願い。鬼達(私の仲間)を傷付けたから、責任取ってもらうの。だから、それまで生きていて欲しい」

「......見た目によらず、怖いです......。いえ、見た目通りなのでしょうか......」

 

 ──角さえ無ければ、髪の長いルーミアみたいに可愛い子なのに。

 いや、ルーミアも人食い妖怪だから変わらないか......。

 

「治してくれる、よね?」

「いや、何度も言わ......はぁー。分かりました。治しますよ。

 ここで殺して本当の鬼に喧嘩売りたくないですし......」

「? いつでも喧嘩なら買う。戦うの好きだから」

「私は好きではないですけどね。遊ぶのは好きですが」

「そう......。なら、いつか遊びの戦いしよう。お前、弱いけど好きだから」

 

 ──いつも変な人に好かれてしまうなぁ......。変な人だから嫌い、ってわけじゃないけど。

 

「この異変が終わったら考えておきますね」

「分かった。受けるということでいいね」

「良くないです......」

「? ......あ。お前にも、一つだけ。この異変を起こした犯人、その倒れている奴の兄弟、長男。名前は忘れた。

 いずれ巫女達に倒される、と萃香様が言ってたけど、その前に地霊殿の主を襲う可能性高い。そいつを治したら縛り上げて、助けに行ってあげて」

「......さとり達を!? あ、はい! 今すぐ治して行きます!」

「萃香様の言う通り......やっぱり面白い、ね。じゃあ、外の援護行ってくる。お前も頑張って」

 

 そう言って地霊殿の外へと出ていく朱童を見送ると、私は急いで吸血鬼の傷を治す。

 そして、急いでさとり達を探しに向かった────


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