side Renata Scarlet
──地霊殿(さとりの部屋)
「ゆっくりですよ。そう、ゆっくり......」
気絶したお空を近かったさとりの部屋に、そう言われながら注意してベッドの上に寝かせる。
お空は、私の卑怯でもある見えない攻撃を多数受けて気絶してしまった。
少しやり過ぎた感もあり、自ら進んでお空を部屋まで運んできた。
──宙に浮かせて運んでいたから苦じゃなかったけど。だから、まだ罪悪感がちょっとだけ残っていたりする。
「そう思わないでください。私一人ではお空を止めれませんでしたし、ここまで運ぶことも困難でした。それに、貴女の力が無ければお空はあのままだったでしょうし......」
「そ、そうです? ......嘘でも励みになります」
「......嘘ではないですけど」
どうしてか気まずい空気が流れ始めていた。
いや、正確には理由なら分かっている。
止めるためとは言え、私が思ったよりもお空が打たれ強く、弾幕による気絶をさせてしまったからだ。
さとりからして見れば、助けられたのか傷付けられたのか、怒ればいいのかさえも微妙なところなのかもしれない。
──もちろん、傷は責任をもって治したけど......。それでも傷を負わせたのは......。
「......レナ。私、怒ったりとかしてないので本当に大丈夫ですから......。ですが、しっかりお空に謝ることは......」
「は、はい! もちろんです! ......私が魔法をもっと上手に使えていればこんなことには......」
「......お、お空はもう大丈夫ですし、この話はここまでにしましょうか。
今はそれよりも、貴女のことです。異変は一つ解決したと言ってもいいでしょうけど、まだもう一つの異変は誰が犯人かとか目的とか分かってないのでしょう?」
さとりの言う通り、犯人はおろか、目的なども一切知らない。
知っていることと言えば、黒い雲が幻想郷中に広がっていることとその雲が嫌な感じがすることくらいだ。
「なるほど......。要するに、
「えっ? こ、ここって......一体どういうことですか?」
「地底の大穴を見た時に登っていた煙を見ているならだいたいの察しはつくはずです。その雲は、ここ、地底では既に霧として広がっているのです。いつか話してくれたレミリアの起こした異変のように。
そして......、噂では、その霧を吸った者は精神を侵されて正気を失ってしまうとか。精神力が強い者なら大丈夫らしいですが、私にはとても......」
お姉様の異変と言えば、『紅霧異変』のことだろう。しかし、あの時の霧は私達が弱点である太陽に邪魔されず、自由に外を出歩くために作られたものだった。人体に多少影響するとは言ってもそれ自体が目的ではなかった。
対して、この異変の霧は日も届かぬ地底の中で、それ自体が目的とも言える悪意のある霧を広めている。
まるで誰にも知られないように霧を広めているみたいだ。
「おそらくは、地上に気付かれないようにでしょうね。かく言う私は昨日まで気付きませんでしたが......」
「昨日まで? 何かあったのです?」
「いえ、ただ単に外にあまり出なくて気づかなかっただけです......。それに、どうしてか地霊殿の周りには霧が集まっていないようで......それも発見が遅れた理由です」
「霧が集まっていない? 無いってことです?」
「はい。......見てもらった方が早いでしょう。そちらの窓から外が見えるはずですよ」
そう言って、さとりが一つの窓を指差した。
その窓へ小走りして向かい、外を覗き込む。
「えーっと......暗くて見えにくいですが、本当に近くには霧が無いですね。しかし、ここを囲むようにして張ってあるということは......」
「......閉じ込めているつもりでしょう。どうして霧で満たさず閉じ込める必要があったのかは分かりませんが」
「ですね。ちなみにここから抜け出そうと思えば今すぐ抜け出すことも可能ですが、どうします?」
「......こいしがまだ帰ってきていません。ですから私は待っていますよ。妹よりも早く逃げるなんて真似、私にはできませんから」
「ふふっ。そうですね。おそらくこいしなら精神力の有無を問わず、無事でしょう。
私の能力も効くといいのですが......」
自分の能力さえ通じるなら下手な労力を使う必要がない。
しかしそれを試すのも危険であり、今はここで静かに──
「──って、あれは何でしょう?」
「え? あの奥に見える沢山の人影......? っ!? あ、あれは......!」
「さとり様! あっ、ここにいた! 大変です!」
唐突に扉が開かれ、そこから傷だらけのお燐が飛び出した。
傷は打撲傷が多く見られるが、そこまで重大なものはない。だが、問題なのは数が多いことだ。
敵の猛攻から逃げてきたのか、不意打ちを看破するも怪我を負ったのか、どうしてかは分からないが、とにかく危険に近い状態ではある。
「お燐!? そ、その傷は......お、鬼に!? や、やっぱりあの外に集まるのは霧にやられ、正気を失った鬼ということ......!?」
「鬼!? って、その前にお燐! 傷を......!」
「そ、それよりも、鬼が......もっと言えば正気を失った地底の妖怪達が、ここを占拠しようと......ゴホッ!」
「喋らないで! まずは自分の身体を優先してください! れ、レナ......!」
「大丈夫。大きい怪我がないのが幸いです」
お燐をお空の寝ているベッドの横に横たわらせ、安静にさせる。
そして手に治癒力を持つ光を集め、お燐の怪我をしている部分に手を当てた。
すると、打撲の傷がみるみるうちに治っていき、瞬く間にお燐の身体は傷がないいつもの状態へと戻る。
「お燐。まだ身体は痛むと思うので、無茶はしないでください。私の魔法は、傷は治せても痛みは消せませんから......」
「そ、それでもさっきよりはマシになって......あっ! さとり様! 敵襲です!」
「喋らないで。安静にしなさい。私にはそれで伝わりますから」
「......あっ。じゃ、じゃあ、そうしておきます......」
お燐が口を閉じると、さとりも対応して能力に集中するように目を閉じる。
「......ふむ。その傷はそういう......。なるほど......」
しばらくの間、二人の間では静かな会話が成立する。
何を話しているか分からないが、二人の顔から深刻な話であるということは理解した。
「......かいつまんで話をしますね。まず、敵は鬼を含む地底の妖怪達がここを囲んでいるそうです。お燐はお空の手伝いのために、地上から来るであろう巫女達を待っていた際に不意を付かれて囲まれてしまい、命からがら逃げてきたらしいです。
そして、その時に正気を失った妖怪を操っているらしい妖怪を見たらしいですが......残念ながら、姿はよく覚えていないとか」
「正気を失った妖怪を操る妖怪......それさえ倒せば後は何とかなるかもしれませんね」
例え進行が止まらなくなったとしても、倒してしまえば指揮官を失った部隊のようにはなるはずだ。要は指揮をなくして混乱に陥り、統率力がなくなって倒しやすくなるだろう。
「......レナ。貴女まさか......」
「一人で止めるなんて言いませんよ。ここへ来る途中、霊夢......博麗の巫女や魔法使いを見つけてきました。こちらへ向かっている可能性は高いです。ここで一つ目の異変が起きていて、実際に来る未来がありましたから」
「でも、それでもまだ来ていないのですよ!?
いつになるか分からない援軍を待ちながら貴女一人で止めることに......!」
「安心してください。一対多数の戦闘は練習していますし、お姉様やフランを悲しませないためにも死にはしませんから」
正直勝てる勝てないの前に、止めれるかも分からない。だがしかし、さとり達を守るには時間を稼ぐしかない。
その間に霊夢や魔理沙、早苗が来てくれれば、時間を少し稼いでもらっているうちに、使えるなら自分の能力を使う。
──そして、近付いてきた敵の、霧の効果を有耶無耶にさせて、一気に......。
「......成功する確率は高いのですか?」
「能力も有耶無耶にできますから、高いと思いますよ。問題は止めれるかどうか......。さとり。ペット達を連れてどこか安全な場所に隠れていてください。お空も起きたら一緒に」
「......分かりました。お空に謝るためにも、絶対に帰ってきてくださいね」
さとりがにっこりと笑顔を見せる。
その姿に、どうしてか姉の姿が重なって見えてしまう。
「......あの、死亡フラグみたいなのですが......」
「し、死亡ふらぐ?」
「あ、いえ。......行ってきますね」
最後にそう言い残し、私は地霊殿の入り口へと向かう────
2017/11/29から一週間近く、定期テストにより小説を書く時間が少ないのでしばらくは投稿できません。
申し訳ないですm(_ _)m