東方紅転録   作:百合好きなmerrick

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予定よりかなりかかって申し訳ないです。戦闘描写って大変ですね()


9、「蒼い吸血鬼と博麗の巫女」

 side Hakurei Reimu

 

 ──地底(旧都)

 

 平屋を出て、霧の中を勘を頼りにして進んでいく。

 

 すると、妖力の強い妖怪が私に気付いてか近付いてくるのが分かる。

 どうやら、霧に触れている者を感知することができるらしい。

 

「......このまま進むのもいいけど、この先には何かあるのかしら。

 ねぇ、紫。何か知らない? ......紫?」

 

 傍で浮いている陰陽玉に声をかけるも、返事が返ってこない。

 

 それどころか、何も話していない時も多少なりともあちらの音は聞こえていたはずなのに、今では全く何も聞こえないのだ。

 

「何かあったの......? あら。あっちも大変ね」

 

 近付く妖力とは別に、中心部に複数の強い妖力とその中でも一際強い妖力を感じた。パルスィの話によると魔理沙達が向かった地霊殿は中心部にあるという。おそらくはそこに何かが集まっているのだろう。

 

 魔理沙のことは少し心配だが、今回は早苗がいる。早苗の能力は時間をかければ強い。そして魔理沙も何度も修羅場を乗り越えてきている。

 今のあの二人が一緒なら、大抵の敵には勝てるだろう。

 

「さて、と。出てきなさい。近付いてから妖力隠すとかすぐバレるに決まってるじゃない。もちろん近付く前から気付いてたけど」

 

 声に反応して、背後の平屋の影から三人分の足音が聞こえてくる。

 

 背後を振り返ると案の定、頭に角を持つ鬼らしき妖怪が三人、私をじっと見据えていた。

 

「あの時の労力が三倍ね......。しかも今度は魔理沙がいない、と」

 

 今回も私だけを狙っているのなら簡単に終わらせることはできるかもしれない。しかし、相手が多数である以上、油断をすれば負ける可能性は非常に高い。鬼の力は極めて強力で、一撃でも当たれば並の人間なら死んでしまうのだ。

 

 ──さしずめ、どれか一発でも当たれば負けという弾幕ごっこのようなものね。得意分野だわ。

 

「わァァァ!」

 

 一人の鬼が奇声とともに、私の方へと突進する。

 対して残りの二人の鬼は多少の知性が残っているのか、ゆっくりと左右に別れて向かってくる。

 

「あら。やっぱり操られているのか、知性は低いみたいね」

 

 とは言っても、一撃だけでも危うい。そして受け流すのも不可能。

 私には避けることしかできない。

 

「......操られているなら気絶か封印ね。でも無理だったら諦めてちょうだい」

「グァァァ!」

 

 鬼は話も聞かず、近付いてくると大きく腕を振りかぶった。

 

「せめて『はい』とか『いいえ』でも言いなさいよ、っと!」

 

 それをしゃがんで避けながら、素早く懐から御札を取り出す。

 

「──まずは一人目」

 

 そして、その御札を鬼の背中に貼り付け、少しだけ距離を置くと、祈るようにして手を握る。

 

「終わりよ。『神技(しんぎ)八方(はっぽう)鬼縛陣(きばくじん)」』! 」

 

 そうスペルカードを宣言し、鬼を『封魔陣』よりも強力な結界の中へと閉じ込めた。

 

 本来は自分を中心に鬼からも身を守る術を、御札を中心として鬼を封印する術へと転換させた。

 

「グガァァァ!」

「無駄よ。萃香でもそれを破るのに時間がかかったわ。

 正気を失い知性もないただの怪物にこれが破れるとは──」

 

 少しだけ油断した隙に、封印した鬼の両側から来た鬼達に大振りの拳を食らう。

 

「──危なっ」

 

 しかし、宙へと逃げることで攻撃を避け、再度、懐から数枚の御札を取り出した。

 

「遅いわよ! 食らいなさい! 『霊符(れいふ)夢想(むそう)妙珠(みょうじゅ)」』!」

 

 鬼の真上から八つの追尾性のある霊力弾を放つ。

 

 それは二人の鬼へと四つずつ当たり、一時的に動きを止め──

 

「これで終わりよ! 『夢境(むきょう)二重(にじゅう)大結界(だいけっかい)」』」

 

 ──その鬼達に対し、結界を展開してその中へと閉じ込めた。

 

「が、がァァァ!」

 

 すぐに鬼達は結界を壊そうと大きな拳で殴り始める。が、殴る音が響くだけで結界はびくともしなかった。

 

「これで終了。そう簡単に私を倒せるとでも思ったのかしらね?」

 

 鬼は封じたが、いつ結界を壊すか分からない。

 

 そう思い、私はすぐさまその場を離れようと歩い──

 

「──っ!?」

 

 突如、すぐ近くの背後から強い妖力を感じた。

 

 後ろを振り返る間も無く、せめて頭だけでも、と頭と首を守るように急いで手を回す。

 

「っ......? え?」

「大丈夫ですよ」

 

 どうしてか、背後に感じた妖力はすぐに小さくなり、代わりに優しい声が聞こえてきた。

 

「貴方を襲った鬼は既に夢の中です。お怪我は......えっ?」

 

 恐る恐る背後を振り返ると、そこには地面に倒れた鬼と青い目と髪、そして背丈に合わない大きな翼を持つ少年が立っていた。

 

 その男性からは妖力を感じず、どこかで感じたことのある雰囲気を持っていた。

 

「も、もしかしてれい......に、人間ですか?」

「......えぇ。そうよ。貴方がパルスィを助けた吸血鬼、ルネかしら?

 どうやら本当に善意で人助けをしているみたいね。最初は見ず知らずの私を助けようとしたみたいだから」

「......確かに僕はルネです。ですが、助けているのは善意とは違います。僕のこの行動は罪滅ぼし。この異変は、僕がいるせいで起きたことですから」

 

 どうやら、勘は当たっていたらしい。

 目を見る限り、嘘を言っているようには見えない。この少年は、本当に異変に関わっているのだろう。

 

「詳しく説明して。私はこの異変を終わらせたいの。迷惑だから」

「そうでしょうね。地上には今頃雲が出来ている頃でしょうか。次第にそれは下へも広がり、霧となって幻想郷を覆い尽くすでしょう。まるで『紅霧異変』のように」

「詳細を知っているということは、異変を起こした奴のことも知っているのかしら? いえ、それよりも地底に暮らしているのに『紅霧異変』のことを知っているの?」

 

 確かにあの霧が地底まで来れば知ることはできる。

 だが、名前まで知ることができるものなのだろうか。

 

「......以前は、地上に暮らしていましたから。遠い昔のことですが」

「......? まあいいわ。で? この異変を起こした奴は一体誰なの?」

「それは......僕の兄弟、フリッツとジョンです。そして、妹も僕の兄弟に利用されています」

「兄弟? ってことは、貴方も協力していたりとかは......?」

 

 助けてくれた相手だが、異変に協力しているなら倒さないわけにはいかない。

 

 恩を仇で返すことになっても、異変を解決するのが巫女としての役目なのだ。

 

「......最初の頃は協力していました。妹も人質に取られていたようなものでしたし、そもそも僕では兄達に勝つことはできませんでしたから。従うことしかできなかったのです」

「そう......。でも、今はどうなの? 協力しているの?」

「いえ。今は協力していません。そもそも僕はもう必要とされていませんから。

 今は兄達の目を盗んで、こうして襲われている人を助けたり、これは最近からですが、戦力を削ぐために召喚された魔神を元の世界に送り返したりしています」

「ち、ちょっと待って。魔神って何?」

 

 もしかして、この異変に神様も関わっているのだろうか。

 流石に紫が人の手によって終わらせなければならない異変、と言っていたのだからそんな可能性は無いはずだ。

 だが、万が一のことがある。もし神様も関わっているのなら魔理沙と早苗のことが心配だ。

 

「僕が協力していた時に偶然見つけた魔導書から召喚したものです。今は召喚した魔神のほとんどを元の世界へと送り返せましたが、既に召喚されたことによる何らかの影響が起きている可能性もあります。ですから兄のことよりも本来はそちらを優先すべきなのでしょうが、それも兄達に邪魔されているので、こうして一人で人助けしながら魔神を探しているのです」

「な、なるほど......? 終わったら紫にでも相談した方がいいわね。って、紫との通信が切れてたんだけど、何か知ら......知ってるわけないわね。そもそも意味も分からないでしょうし」

「通信系なら、おそらくは兄達に妨害されているのでしょう。......ここで話しているのも危険ですね。歩きながら話しましょう」

 

 そう言ってルネは真っ直ぐと大通りの真ん中を歩き始めた。

 

 見失わないように急いで追いかけ、ルネの横へと付く。

 

「話を戻しますが、兄達はとても凶悪なことをしようとしています。兄自身の『霧散させる程度の能力』で妹の『気を付け外しする程度の能力』を利用した正気を外して狂気を植え付ける、という能力を霧にして地底を、幻想郷を支配しようとしているのです」

「能力を霧散させる? 凄いわね、それ。というか、それだけで支配できないと思うわよ。紫がいれば一発で終わりそうだから」

「はい、そうでしょうね。ですが、兄はそうは思っていません。ですから困っているのです。嫌いとはいえ兄は兄。できれば死なせたくありません。しかしながら、ここまでやった償いはして欲しいのです」

「......そう」

 

 兄思いの良い妖怪みたいだが、このような形で幻想郷を支配しようなどすれば紫から鉄槌を下されるのは周知の事実。知らないで済まされないことだ。

 

 ルネには悪いが、その兄は死に近い形で償わさせられるだろう......。

 

「......できれば、兄を止めてください。僕にはそれができません。能力も魔法も霧散させて効果を失わさせる、ということが兄には可能なのです。ですから私の手は全て効かない。その上、兄には強制(ギアス)という魔法で近付くだけで絶対命令に服従しなければならないのです。だから僕には止めることも近付くこともできない。

 僕では、どうすることもできないのです。......今の僕では何も......」

 

 虚空を見つめるその顔は、どこか悲しげな感情を含んでいた。

 

 何を思っているのかは分からないが、とにかく深い悲しみが支配しているのが分かる。

 

「......言われなくても止めるわよ。それが私の使命だから。で? 兄の場所はどこ? 今向かっているの?」

「あ、いえ。今はそこへは向かっていませんよ。僕は兄に近付けませんし。兄は地霊殿という場所にいます。今日、そこにいる人達を殺し、そこを根城とする予定のはずです」

「地霊殿!? 魔理沙達が行った場所じゃないの。ということは、私もそこへ行かないと──」

「ま、待ってください。その前に、やって欲しいことがあります。仲間を守るために捕まってしまった鬼の四天王が一人、星熊勇儀を助けて欲しいのです。僕は魔法によってそこへも近付けませんから......」

 

 ──色々と制約があり過ぎるわね、この子。

 

 でも、鬼の四天王と言えば萃香と同等の力を持つ鬼なのだろう。

 そいつが協力してくれるとなれば、鬼に金棒だ。

 

 ──本来、巫女である私が妖怪と協力するなど以ての外なんだけど。

 

「......いいわ。案内してちょうだい」

「このまま真っ直ぐ行くと、鬼が集まっている場所が見えるはずです。そこの近くの牢屋に勇儀がいます」

「そう、分かったわ。じゃあここで待っていて。すぐに終わらせるわ」

「はい。......っと、あ。いえ。少しやることが増えたので、ここでお別れです。大丈夫、また会えますから」

「えっ? ま、まあいいわ。それじゃあ......また会いましょう」

 

 そう言って、一人、鬼の集まる牢屋へと向かっていった────




次回はおそらく水曜日に投稿です。火曜日には吸血鬼(ryの方も上がると思う

2017/11/28追記:諸事情によりこちらの方しか上がらないと思います。申し訳ない。

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