今回は珍しく戦闘ありです。短いですが()
side Hong Meilin
──紅魔館(門前)
紅魔館へおそらく襲撃に来たであろう簑を身に纏う三人の男女相手に、咲夜さんは武器を抜いて構える。
咲夜さんにお嬢様を呼びに行くことを頼まれるも、時間稼ぎのために残る咲夜さんを一人にすることができず、お嬢様を呼びに行くか一緒に戦うかを迷って行動できずにいた。
「美鈴! 早く行って!」
「ですが咲夜さん! 貴女を一人にできません!」
「貴女ねぇ......っ!」
「あのねぇ......。いい加減、話し終えていいよねぇ?
お前達も兄貴達みたくアタシを無視するんですかぁ?」
話し合いを聞き飽きたのか、蓑帽子を被った少女が強い殺気を放つ。
それは、肌で感じれるほどの強い殺気だった。
「兄さん達のことは知らないけど、敵を無視するわけにはいかないわよ。ここは通さない。通せないじゃなくて、通さない、よ。死んでも通すつもりは無いから、痛い目見る前に家に帰った方がいいわよ?」
「戯言かぁ? そういうのは嫌いだよぉ」
「......変な矢ね」
女性は金色の矢羽を持つ綺麗な矢を三本、懐から取り出した。
しかし、矢を取り出したものの、弓を持つ様子は一向になかった。
「どう見ても綺麗でしょぉ?
「あらそう。でも、その綺麗な矢で、それも弓を持たずにどうやって戦うつもりかしら?」
「弓なんてなくても教えてもらった酔拳ありますしぃ、お前なんてこの矢で充分ですよぉ」
「あら、私ってそんなに弱く見えるのかしら」
そう言いながらも警戒は怠らず、いつでも迎撃できるよう、咲夜さんは太ももに付けてあるナイフケースからナイフを取り出す。
しかし、自分から攻めに行かないのは相手の力が分からないためなのだろうか。
いつもより慎重な咲夜さんを見て、それだけの相手なのだろうと察する。
「ナイフぅ? なら、近付かせない方がいいですねぇ」
「できたらいいわね。できるとは思えないけど」
「そうですかぁ......。動けぇ」
女性の合図とともに、手に持っていた矢がひとりでに動き出し、女性の周りに舞う。
一瞬驚く仕草を見せるも、咲夜さんは矢の動きを注意深く見ているようだった。
「あれぇ? 来ないのぉ? なら......射殺せぇ!」
「来た。美鈴、貴女も狙われているわよ! 速──っ!?」
「これくらいなら......っ!」
足の怪我もあり、思ったよりも素早い矢が頭を掠め、血が流れてくる。
──右目に血が入って、視界が......。
対して咲夜さんは避けれないと察して時を止めたのか、傷一つ無い姿でさっきまで立っていた位置とは少し離れた場所に立っていた。
「遅いぃ。遅すぎよぉ。メイドさんは速かったけどぉ」
「矢が戻ってる......!? いつの間に......」
「時を止めて避けるのに精一杯で、私も見てなかったわ......」
「矢が自動で動き出すんだから、気付かないうちに戻ってもおかしくないよぉ」
平気で話すが、気付かないうちに戻っているということは、それくらい速いということだ。
攻撃を受けたすぐ後に手元に戻っているなど、速いにも程がある。
「それじゃぁ、先にそこの門番から片付けるかぁ」
「! そうはさせない! くらいなさい!」
瞬く間に、女性を中心に数多のナイフが空中に現れる。
女性は驚く仕草を見せるも、すぐに平常心を取り戻したようだった。
「うわぁ、手品ぁ? じゃぁ、私もぉ」
何を考えているのか、女性は手をまっすぐ前に出すと空中を撫でるようにして動かす。
「ナイフが動か......まさか!? 美鈴! しゃがんで!」
「え、どうして──」
次の瞬間、宙に浮かんでいたナイフが弾かれたように勢いよく女性から離れた。
その一部が、私達へと切っ先を向ける。
「嘘──っ!?」
想定していなかったことに、体が思うように動かない。
──間に合わない!
「ちっ、美鈴、遅い!」
そう思った瞬間、咲夜さんの声が聞こえる。
次に気が付いた時には倒された感覚と、さらには少しの重みと咲夜さんの顔が見えていた。
「な、何が......咲夜さん? どうし......え?」
手が触れていた背中から生温い感触がした。
その手を見ると、赤い液体がベットリと付いていた。
しばらく時が止まっていたように感じるも、すぐに我に戻る。
「咲夜さん! 怪我を......! 私を守った時に......?」
「あぁ、情けない......。とっさのことで、時を止めれなかったわ。私がお嬢様以外を守る日が来るなんてね......」
「そんな、そんな死ぬみたいなこと言わないでください!」
「大袈裟ね......。幾つか掠っただけよ。貴方達妖怪ほどではないけど......すぐに良くなるわ」
言葉とは裏腹に、背中には鋭いナイフが深く突き刺さっていた。他にもかすり傷が幾つもあり、医学にあまり心得のない私ですら、すぐに治療が必要と分かった。
──あぁ、どうすれば......。誰でもいい。誰でもいいから、咲夜さんを助けて......。パチュリー様、お嬢様──!
「もういいぃ? 今世との別れはすんだぁ?」
「くっ......よくも、よくも咲夜さんを......!」
「だから、死んでないって......!」
「お前が避けるのしくじったからでしょぉ......。それとぉ、あんたじゃアタシを殺れないからぁ。片足に視界。そして、何の妖怪か分からないけどぉ......吸血鬼よりも強い奴なんていないのぉ」
「き、吸血......あ、あァ──!」
視界から女性が消える。
と同時に、右肩から鈍い音が響き、声にならない叫びをあげた。
「ちょっと本気出して、右肩を蹴っただけよぉ? ......もう終わっていいねぇ?」
その言葉とともに、目の前で手を振り上げる女性の姿が見えた────
side Remilia Scarlet
──紅魔館(エントランス)
美鈴に呼ばれた気がして外に出ると、まず初めに黒い空が目に入った。
これを自分が昔、起こした異変に似ていると感じた私は、いよいよ嫌な予感が的中したかと門へと急いだ。
「もう終わっていいねぇ?」
すると、血を流して倒れる咲夜と、私と同年代くらいの女性に今にも倒されそうな美鈴が目に入った。
「はいぃ──?」
思考よりも先に身体が動いていた。
何かを思う前に、私はその女性の振り上げた手を鋭い爪で切り裂いていたのだ。
「......あら、ごめんなさいね。ちょっと頭に来ちゃって」
「お、お嬢様......!」
「お待たせ。もう休んでていいわよ」
「は、はい......」
それだけ言うと、美鈴は嬉しそうな笑みを浮かべて気を失ってしまった。
「......レミリアァ! やっぱりお前は! 邪魔ばかりして! 私の兄様すら取ってェ!」
「意味が分からないわ。家族を傷付けられたからには、手加減しないわよ!」
「あァ!」
卑怯だと思う気持ちもなく、話している最中にさらに横っ腹に蹴りを入れた。
そこまで勢いは付かなかったせいか、数メートル吹き飛ぶだけで終わる。
「ねぇ、どこかで会ったかしら? 会った覚えが無いんだけど?」
「お前達も行け! 殺せ殺せェ!」
「馬鹿なの?」
正気を失くした目でただまっすぐ突進するだけの大男二人を速さで翻弄した挙句足をかけて転ばすと、自分の全体重に妖力も使い、首筋に目掛けて爪を突き刺す。
肉が硬いせいか厚いせいか、そこまで深く入らなかったものの、息を止めるには充分なようだった。
「嘘ぉ!? こいつら鬼よ!? ただのかませじゃないのよぉ!?」
「だから? というか、ただまっすぐ向かってくるだけの奴を倒すなんて簡単よ。はい、最後貴方ね。咲夜の傷もすぐに治したいから、ゆっくり殺すなんてしないわよ」
「やっぱり、やっぱりお前なんかァ......!」
「私も同じ気持ちよ? 家族を傷付けられて、怒りを覚えるなんて......なかなか無いわ。
貴方は絶対に、許さないから!」
その言葉を合図に、弾き飛ばされたかのように私と女性は動き出した。
食料として襲う時以外は殺すのも躊躇う私だったが、今はその抵抗感もない。
──ただ、今目の前にいる家族を傷付けた奴が憎い。殺したい。
表では平静を装っているが、そういう感情が湧き上がるのを感じる。
「あァァァ!」
「死になさい!」
お互いに、人を解体するのも容易な爪を相手に向け、まっすぐに突き刺しに行き──
「──こんな光景、見たくなかったです」
突然現れた青い髪の少年に、後一歩のところで互いの手首を掴まれ、無理矢理攻撃を止められた。
「っ!? ......離しなさい」
「あ、兄様......」
「兄様? どういうこと? ......あと手を離しなさい。ルネ・エルジェーベト!」
私の目の前には、昔から知っている友人、ルネ・エルジェーベトが立っていた。
それも、悲しそうな顔をして。
何故か、この顔を見ていると戦う気力がなくなってくる。彼の能力はレナと同じ能力だから能力の効果ではないはずだ。
ただ単に、レナと似ているから情が移っているだけかもしれないが。
「ごめんなさい、無理です」
「離しなさいって言ってるでしょ!? 貴方はいつも私を......!? いえ、違う。私は何を......?」
「兄様......。アタシ、兄様のためにやったの......。
でも、兄様がそんな顔するなんて、思わなくて......」
おそらくルネの妹であろうその女性は、どうしてか性格が豹変していた。
おそらくはこちらが素なのだろう。
「......またお酒でも飲んでいたのですか? まぁ、いいですけど。
おね......レミリア、ごめんなさい。美鈴や咲夜を傷付けてしまって」
「謝って許してくれると──」
「思ってないですよ。ですから、治しました。つい先程」
「えぇっ!?」
振り返ると、確かに出来ていたはずの傷は消え去り、二人とも何事も無かったかのように気を失っているだけだった。
「本当......。でも、いつ? どうやって?」
「何もタネも仕掛けもありません。つい先程、話している最中に、ですよ。では、これで話は終わりです」
「はぁ!? ちょ、ちょっと待ちなさい! あの空は何!? それに、その娘は一体......」
「......知りたければ、レナを追って地底に来てください。では、さよならです」
最後にポツリと呟くように話すと、ルネと女性はルネが来た時と同じように突然、なんの前振りもなく消えてしまった。
まるで、男の死体以外、最初から何も無かったように────
ちなみに600突破記念の話はミアの幻想郷散策に決定しました。主に話に出てこない1~3ボス辺りのキャラが中心となる予定です