今回は閑話というか、前日譚のようなお話。
それでもいい方は暇な時間にでもごゆっくりどうぞ。
side Renata Scarlet
──紅魔館(玄関入り口)
もう少しで年が変わるという冷たい風が吹く年末のある日の朝。ミアが消えてから三ヶ月も経つというのに、未だに何一つ手がかりを見つけれず、途方に暮れていた。
しかし、それでも私は諦めずに一人、日光などお構い無しに、大切な私......いや、
私はフード付きのコートを羽織り、念のために日傘を手に持つと外へと出た。
「あ......レナ様。今日も朝からですか?」
外へと出て少し歩くと、いつも通り門には美鈴が立っていた。
いつも朝早くから仕事を全うしている美鈴には感心するが、昼寝をしては元も子もないとは思っている。それで咲夜に怒られるのだからなおさらだ。
「はい。早く会いたいですから......。美鈴も、門番の仕事、いつもお疲れ様です」
「いえいえ。これくらい、どうってことないですよー」
「え? でも、いつも咲夜に──」
「そ、それよりもですね! 本当は私も探しに行きたいんですけど、何分、お嬢様に......」
お姉様は全員で探しに行くようなことはさせない。妖精をいれずに少なくても二人以上、館に残らせている。それは、もしも、何かがあった時のための措置なのだろう。美鈴を倒せる妖怪は多くないが、お姉様はもしもの時のことをとても心配しているようだった。
おそらくは、フランやルナのことを思ってそうしているのだろう。
精神的に幼く、脆い二人を守るために。
「大丈夫、分かっていますよ。私もここにいた方がいいと思っていますし。美鈴は紅魔館を守っていてください。何かあっても、帰れる家があるように」
「......そ、そうですね! 任せてください! 絶対に何があっても守り抜きますから!」
「そう、その意気ですよ。では、行ってきますね」
「はい! 家は守り抜きますよー! ......あれ?」
すっかり自信が付いた美鈴を見て安心して、当ても無く空へと飛ぼうとした時、異変が起きた。
「はい? 美鈴? どうかしました?」
「れ、レナ様! 上! 上です!」
「上? でも、私は日光に......。うわっ、真っ黒だ......」
日差しを遮るためにフードをしていて気が付かなかったが、いつの間にか真っ黒な雲が空を覆い尽くしていた。
つい数分前に空を見た時は、青い空が見えていたため、あまりの驚きで素の口調で喋ってしまった。
──別に素で喋らないことに深い意味は無いんだけど。
「い、異変、でしょうか? あの雲、明らかに禍々しい気というか、何かが漂っているんですけど......」
「確かに、魔力や妖力といった力は感じます。でも、禍々しいのは......。
いえ、美鈴だからこそ分かることなのでしょうか」
能力の詳細はよく知らないが、美鈴には気を使う程度の能力がある。おそらくだが、その能力を持っているから私には分からない禍々しい気が分かるのだろう。
──にしても、どうしてこんな黒い雲が......。次の異変は怨霊が地上に現れる異変のはず。黒い雲が出てくる異変なんて、聞いたことがない。とすると、これはもしかして......。
「美鈴。この雲、どこが発生源か分かりませんか? それか、禍々しい気がする方向か」
「え? ま、禍々しい気は、おそらくあの雲のせいでしょうけど、色々な場所から伝わって分からないです。ですが、先ほど雲が出てきた時、妖怪の山の方から出てくるのが見えました」
「ありがとうございます! 私は行ってくるので、紅魔館を頼みました!」
「は、はい! お任せ下さい!」
私が知らない異変が起きているとすれば、本来存在しないはずの私やミアがいるから起きてしまった異変の可能性が高い。しかし、必ずしも私が関係あるとは思わないが、ミアが居なくなった手がかりがあるかもしれない。
そうとなれば、行ってみるしかない。
そう考えた私は、美鈴に紅魔館を任せて、一人で妖怪の山へと向かった────
side Hakurei Reimu
──博麗神社
最後に見たのは青い空だったが、今は黒い雲が空を覆っていて、今が何時なのか分からない。
だが、少なくとも夜にはなっていないと思っている。
鬼を倒して無力化した後も、魔理沙は嫌な予感がするからと神社に残っていた。
確かに、至る所に溢れ出る怨霊に、鬼の襲撃。そして、突然現れた黒い雲。どれもこれから何か起きるのでは、と不安を覚えるものばかりだ。
これらは一見、関係しているようには思えないし、確証もないが、どれも地底に関係があると私は思っている。
溢れ出ている怨霊は地底の怨霊で、鬼は地底に住んでいるらしい。黒い雲についてはよく分からないが、鬼が襲撃しに来たのは、この黒い雲が発生するのを止めるために、私が動くことを封じる目的なのだろうと思っていた。
「これからどうする? 地底に行ってみるしかないんじゃないか?」
神社に残った魔理沙は、腹が減っては戦はできぬ、と言って勝手にご飯を食べていた。
「そうねぇ......。でも、この一連の騒動の犯人が地底にいるとすれば、危険過ぎるわ。なんたって、鬼を使い魔の如く差し向けたやつよ。とても強力な力を持っているか、能力を持っている可能性があるわ」
それに、あの鬼は私しか狙っていなかった。ということは、少なくとも黒幕のところに行かなければ、魔理沙が危険な目にあう可能性は少ないはずだ。そして、まだ全ての異変が必ずしも地底に関係があるという確証はない。私がそう思っているだけで、実は地底に関係がなかった、なんてことも有り得るのだ。
だからこそ、何かあった時のために地上にも頼れる人を置いておきたい。それを魔理沙に任せたいとは思っているが、口に出すと魔理沙は余計に地底へ行きたいと言うだろう。
だから、私は魔理沙に何も言わず、一人で地底に行こうとしていた。
「そうだな。......なぁ、霊夢。お前が止めたとしても、私は地底に行くぜ。なんたって、萃香が言うには地底には沢山の鬼がいるらしいしな。もしかしたら、この襲撃のことが何か分かるかもしれないぜ?」
「はぁー......あんたねぇ。私は心配しているのよ。地底に行った時、もしも地上で何かあったら、ってね」
「あ、そうなのか? なら大丈夫だぜ。地上には鬼よりも強い妖怪がいるし、お前の同業者もいるだろ?」
「それ、あまり安心でき──」
「霊夢さーん!」
魔理沙と話していると、どこからか聞き慣れた声が聞こえた。
噂をすればなんとやらと言うが、今回は違ってて欲しいと声のした方向を見る。
「あぁ、早苗ね......」
すると、やはり声の主は、私と同じ巫女である東風谷早苗であった。
おそらくは、同じ巫女だから異変解決のために協力するために来たのだろう。
「早苗ですよー。霊夢さん! お気づきかと思いますが、異変です!」
早苗には、神社の営業停止騒動のことや、
いや、早苗にというよりは、背後にいる二柱の神様に、だろうか。
「えぇ、気付いてるわよ。怨霊とかあの雲とか、あからさまだし」
「怨霊? 間欠泉は見ましたが、怨霊は見てないですね。というか霊夢さん! あんなのがあるなら言ってくださいよー」
「間欠泉......?」
「あぁ、私もここに来る途中で見た。凄かったな、あれ。結構ここに近かったしな」
この二人は何を言ってるのだろうか。間欠泉なんて私は見ていない。
少なくとも、ここの近くではそんなものはないはずだ。そんなものが近くにあれば、すぐに見つけて有り難く利用させてもらうに決まっているからだ。
「ね、ねぇ、その間欠泉ってどこにあるの?」
「えぇ!? れ、霊夢さん、気付いてなかったんですか!? その間欠泉、すぐ近くにありましたよ?」
「飛んだらすぐに分かると思うけどなぁ」
二人は私が気が付かなかったことに驚きを隠せないようだった。
──もしかして、私が忘れている? いや、そんなはずがない。間欠泉なんて、忘れようにも忘れることは難しい。なら、記憶が......いえ、そっちの方が余計に有り得ないわね。そもそも、理由が......。
「ま、そんなことよりも早く異変解決に向かいましょう! 実はあの雲、妖怪の山にあった大きな穴から出てくるのを見たんです。多分、その大穴の先に異変を起こした犯人がいるはずですよ!」
「地底? なるほど.....。これで地底が確定、か......」
どちらの異変も地底に関係があると分かれば、地上の心配をすることは無い。
後は、このまま地底に向かって異変を解決するだけだ。
「あら、三人も揃ってたのね。ちょうどいいわ」
「誰!? ......なんだ、紫か」
突然あまり聞き慣れない声が聞こえたからびっくりしたが、その正体は紫だった。
いつも突然現れては面倒事を押し付けてくるので、タチが悪くて胡散臭い妖怪だ。
「なんだとは失礼ですね」
「いいじゃない。胡散臭いんだから」
「余計に失礼。で、地底に行くのでしょう?」
怪しい笑みを浮かべながら、紫はそう話す。
だいたいのことは察しがつくが、聞かないわけにはいかない。
「あら、どうして知っているのかしら」
「盗み聞きをしていたので」
「悪びれもなく言うわね......」
「冗談よ。忘れているみたいだけど、前に私がその話をしましたから」
忘れているみたいだけど......?
確かに、記憶にはないが、どうしてそのことを紫が知っているのだろうか。
もしかすると、私に紫が何かをした......?
「うふふ。それは自ずと分かること。これらの異変は、必ず終わります。貴方達の手によって」
「は、はぁ......。よく分からないけど、地底に行けばいいの?」
「えぇ、その通りですわ」
「じゃあ、今から行ってくるわよ?」
「はい、今すぐ行ってください。あぁ、一応、これを」
そう言われて手渡されたのは、手に収まるくらいの大きさの陰陽玉だった。
「これは?」
「後で分かります。では、また」
「あ、ちょっと!」
私の静止する声も聞かずに、空中で手を振ると、気味の悪い裂け目を作り出す。
そして、その中に入り、姿を消した
「......またどこかに行っちゃったわ......」
「ま、行っていいなら早く行こうぜ」
「神奈子様! 諏訪子様! 見ていてください。ご期待に添えるように頑張ります!」
不安や期待を胸に、私達は地底へと向かった────
追記:いつの間にか、総合評価が600を超えていました。
登録者など閲覧者の皆様、ありがとうございますm(_ _)m
番外編はハロウィンの日に投稿することにします。