東方紅転録   作:百合好きなmerrick

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遅れてごめんなさい()

さてまぁ、今回は題名通りのお話です。お暇な時にでもゆっくりどうぞ。


2、「鬼の襲来と何もない世界」

 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社

 

 私達の目の前に、頭に二本の角を持つ妖怪が現れた。

 その妖怪は今まで見てきた妖怪の中でも高い方の妖力を持ち、今までの中で最も強い殺気を放っている。

 

 通常、巫女を狙ってくる妖怪は小物の者が多い。ここ、幻想郷にとって博麗の巫女は、博麗大結界の維持に、必須とはいかなくても必要な存在らしい。そして、何よりも博麗の巫女を殺そうとする行為は、大妖怪である八雲紫を敵に回すことと同意である。

 それを知っている並以上の妖怪達は下手に手を出すことはなく、手を出すのはそれすら知らない弱い妖怪しかいない。

 

「お、おい......。お前、なんか恨みでも買ってたのか? あいつ、とても強い殺気だぜ......」

 

 しかし、今、目の前にいる妖怪は少なくとも並以上の妖怪に違いない。

 大妖怪である八雲紫には到底及ばないが、そこら辺の妖怪よりは強い妖力を垂れ流しにしている。

 

 ──それにしても、あの目......とても正気とは思えないわね。まるで、空腹の獣が獲物でも見つけたかのような......。そんな目にも見えるわ。

 

「えーっと。お前、鬼だよな? その角、萃香に付いてたのと似てる気がするし。ここには何の用で来たんだ? お生憎さま、ここには一文無しの巫女しかいないぜ?」

「誰が一文無しよ!?」

「グルルル......」

 

 話が通じない。というよりは、本当に正気を失っているようにしか見えない。

 まるで獣のような唸り声。あれは、少なくとも私が知る鬼ではなかった。

 

「こりゃあ......弾幕ごっこ(お遊び)してお帰りいただく、ってのも難しそうだぜ? どうする?」

「そんなの決まってるでしょ」

 

 そう、博麗の巫女には、博麗大結界の維持以外にも役目がある。

 それは、いつも通り、異変中にしていることをするだけだ。

 

「妖怪退治も巫女の仕事! ここを襲うって言うなら、誰でも容赦はしないわよ!」

「へっ、よく言ったぜ。もちろん、私も手伝うからな。止めたって止まらないぜ?」

「はいはい。敵さんもしびれを切らしそうだし、一緒に行くわよ!」

「分かった! 行くぜ!」

 

 魔理沙の合図とともに、その場にいた全員が弾かれたように一斉に宙へと動き出す。

 

 魔理沙は私達よりもさらに上へと浮き、私は後退して互いに鬼から距離を取る。

 それは、力では鬼に敵わないどころか、最悪、当たれば即死する危険もあるからだ。

 

 正気を失いつつもそれを知ってか、鬼は逆に全力で前進して距離を詰めた。

 

「萃香と同じ鬼。それに、弾幕ごっこ(遊び)じゃないんだ!

 全力でやるぜ! 『マスタースパーク』ッ!」

 

 魔理沙はミニ八卦炉を使い、弾幕ごっこ(遊び)では使わない高火力の『マスタースパーク』を放つ。

 

 全力で前進していたせいか、鬼は避けることもできずに直撃する。

 

「よっしゃ! 高火力の『マスタースパーク』を受けて立てたやつは一人も──」

「ウォォォォ!」

「......あれ?」

 

 しかし、その体には多少の焦げ跡が残る程度だった。

 

 鬼は倒れることはなく、一心不乱に私へと突撃してくる。

 

「......っ」

 

 それを素早い弾幕を避けるように間一髪で避けると、私は飛びずさって再び距離を取る。

 

「霊夢! 大丈夫か!?」

「大丈夫よ。それより! 高火力の『マスタースパーク』を受けて立たないやつは一人もいなかったんじゃないの!? あいつ、そのまま突進してきたわよ!」

「ふっ......私の高火力の『マスタースパーク』を受けたやつは一人もいないからな」

「そこ威張れるところじゃっ!?」

 

 話の最中に、鬼が迫ってくる。

 

 さっきと同じように、しかし慎重に、連続攻撃を回避するために飛びずさって距離を置く。

 

「危ないわねっ!」

「よく避けたなぁ」

「感心する前に手を動かす! 魔理沙! もっと高火力なやつにしなさい! っ!」

 

 よそ見をしていると、いつの間にか鬼が目と鼻の先まで来ていた。

 

 とっさに少しだけ宙に浮き、鬼の頭の上で前転して避ける。

 

 鬼は冷静さを欠き、飢えた獣のように単調で同じような攻撃を何度も繰り返している。

 ──やはり、正気を失っていると見てよさそうね。

 

「もっと高火力となると、時間がかかるぞ!」

「時間は稼ぐから早くしなさい! どうやら、狙いは私だけのようだし......ねっ!」

 

 何度も繰り返すうちに、段々と敵の動きに目が慣れてきた。

 

 ──これなら、後は時間を稼ぐだけで......っ!

 

「──なっ、いっ!?」

 

 上へ避けれたと思った一瞬の油断。

 

 その油断で鬼の角に足がかする。

 

 思ったよりも鋭い角により、少し深い傷を負ってしまった。

 

「霊夢!?」

「これくらい大丈夫よ! それよりも早く!」

「準備は......できた! いつでもいいぞ!」

 

 その言葉とともに、懐から数枚のお札を取り出し、少しだけ敵と距離を置く。

 

「手持ちのお札で鬼の強さなら、一瞬しか持たないだろうけど......はぁっ!」

 

 そして、鬼へと向かって勢いよくそれを投げる。

 

「がァ!?」

 

 すると、鬼は電流が走ったかのように動きを止め、隙を見せた。

 

「今よっ!」

「分かってるぜ! 『ファイナルスパーク』! はァァァァ!」

 

 魔理沙は掛け声と共に、先ほどの『マスタースパーク』の非ではない威力の光線を放った。

 

 お札により動きを止めた鬼は光線に包まれ、姿が見えなくなる。

 

「くっ、はぁ、はぁ......。最大火力でも、耐えるか......。だが、やってやったぜ!」

 

 魔理沙の最大火力の『ファイナルスパーク』を受けた鬼は、形は崩さずも黒焦げになりながら地面へと落ちていった。

 

「これなら、今あるだけのお札を使って長時間、動きを止めることができそうね......」

「......ふぅー。一時はどうなるかと思ったぜ。意外となんとかなるものだな」

「......いえ、まだ始まりに過ぎないみたいよ。見て、空が......」

「ん? なっ......!?」

 

 何処からともなく、真っ黒な雲が空を覆い尽くし、見事に陽の光が遮られてしまった。

 

「一応聞くが、まだ夜じゃないよな?」

「えぇ。......これは、明らかに異変よ。はぁー、怨霊のことと言い、鬼のことと言い......とても大変なことが起きていることだけは確かね。魔理沙。ちょっとあの鬼を封印しとくから、周囲警戒よろしく」

「もちろん。しかし簡単に言うな。もう魔力が尽きかけてるぜ......」

 

 魔理沙を宙に残し、私は地面へと落ちた鬼に封印を施しに行った────

 

 

 

 

 

 side Mia Scarlet

 

 ──???

 

 気が付くと、台所と冷蔵庫、そして布団が敷かれ、幾つかの扉がある平屋らしき場所で目覚めていた。

 どうして気を失っていたのか思い出そうとするも、記憶に靄がかかっているかのように、記憶が曖昧になっていた。

 

「うぅ......お姉ちゃん、みんな......。レナぁ! ここ何処よぉ......」

 

 声を上げても何も返事がない。

 

 諦めた私は必死に思考を廻らせる。

 

「確か、あいつを見つけるために、地底に来て、それから......あぁ! 罠だったんだ!

 あいつ、私かレナが来ると分かっていて......!」

 

 記憶をある程度思い出すと、ふつふつと怒りが湧いてくる。

 

 が、それと同時に家族のみんなに心配されてないかと心配になる。

 

「それにしても、どれだけ寝てたんだろ......」

 

 気を失ってから何時間、何日が経過していたかは定かではない。

 しかし、腹の減り具合から、少なくとも何日も寝ていた訳ではないと分かった。

 

「それにしても、冷蔵庫とかご丁寧に置いてるけど、中は......あぁ、結構ある」

 

 意外と食料は豊富で、一週間分ほどの食料が置いていた。

 しかし、どうしてここに食料があるのか、どうして私はここに居るのかが気になった。

 

 人質が目的なら牢屋に閉じ込めておくはずだ。どうしてこんなに自由にできそうな部屋に、それも手枷すら付けない状態で置かれているのかが不思議だった。

 

「......あっ。そもそもこんな場所、魔法で逃げれるじゃん。うわっ、どうして気付かなかったんだろ。さ、かーえろっと。

 ゲートオープン!......あれ?」

 

 魔法を行使しても、なぜか魔法が発動しない。

 

 ──もしかして、魔法はこの世界じゃ使えない......?

 

「でも、私はいわば魔法で形作られた......。ファイア!」

 

 試しに移動系以外の呪文を唱えてみる。

 

 すると......。

 

「うわぁ! 本当に出た! てか熱っ! ......ふぅ。やっぱり、ここから移動できないように、もしくは外に干渉する魔法だけを封じられて......。はぁー。探索しよっと......」

 

 嘆きながらも、近くの扉を開けていく。

 

 扉の先は何もない部屋だったり、広いだけで真っ白な何もない世界だったりと、ここから出れるような場所は一つもなかった。

 

 

 

 希望を捨てずに、部屋を探索し続けて()()()

 

 結局は何も見つけることもなく、進展もせずにただ時間だけを消費していた。

 

「うぅっ......こんなことなら、お姉ちゃんに、そしてレナに......。ぐすっ、私、諦めない......」

 

 私は後悔しながらも、また会いたいという願いを胸に、この何もない世界を探索する────




一体、ミアはどこにいるのか。それは本人にも分からなかった。

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