さてまぁ、今回から最終章です。最終章ですが少し長めです。それでも今年までにはこの物語は終わりますので、最後までお付き合い下さいませ。
1、「最後の異変の幕開け」
side Hakurei Reimu
──博麗神社
天気が変わる異変から半年近く経ったある日の朝。神社はあれから、天子の手によって無事、元通りに直されている。
直している最中、紫と天子の間に一悶着あったらしいが......詳しくは何も聞かされていないため、よく知らない。けど、紫が珍しく怒っていたから、それ相応のことをしたのだろう、とは思っている。
現在は、新しい神社の中で何をするわけでもなく、珍しく雲が一つもない空を見上げていた。
こんなにぐうたらできるのは、ここ最近は異変もなく、平和に過ごしていることが原因だろう。
そうやって朝から時間を潰していると、空に小さな白黒の何かが見え始めてきた。
それは次第に大きくなり、やがてはっきりとした姿に変わる。
「おーい! 霊夢ー。私が来たぜー!」
空から飛んできていたのは、箒に乗っていた普通の魔法使い、霧雨魔理沙だった。
魔理沙は普段通りに着地すると箒を置いてすぐに縁側へと座った。
「はぁー......私の安泰もここまでね」
「おいおい、ひどいこと言うなよな。傷付くぜ?」
「で? 今日は何の用?」
「あ、そうだぜ! いつの間にか、私の家とか、そこら中に怨霊が溢れ出してるんだ!」
「怨霊? また冥界? ......いえ、もしかして......」
昔、西行寺幽々子が起こした異変の影響なのかなんなのか。冥界の出入り口が開いたままになってしまっている。そのせいか、幽霊が地上にもよく現れるようになった。
だが、怨霊の管轄は冥界でも無ければ三途の川の先でもないはずだ。怨霊は地底などの地獄、旧地獄に封じられていたはず。
もしや、怨霊達は何かが原因でそこから出てきたのだろうか......?
「霊夢? 難しい顔をしてどうしたんだぜ?」
だが、怨霊は地底の妖怪が地上との、紫との約束によって封じ込めていると聞く。
──ということは、地底と地上の約束が破られたということなのだろうか。いや、それにしたって、こんなタイミングでこんなことをして、何か得があるのだろうか。いや、もしかすると......。
「霊夢? 聞いてるか?」
「ごめんなさい。聞いてなかったわ。ちょっと考え事をしてて......」
「何か聞いてた訳じゃないから、別にいいんだが。難しい顔をしてたな。大丈夫か?」
「大丈夫よ。ん......あら?」
不意に太陽が沈んだのかと思うほど暗くなった。
空を見上げると、雲一つなく晴れていたはずが、いつの間にかとても分厚い雲が空一面に広がっていた。
「......ねぇ、魔理沙。今日はこんなに曇っていたかしら?」
「え? ......いや、有り得ないほど晴れていたはずだぜ。こんなことが起きるのは何かの予兆か? 嫌な予感しかしないぜ」
「全くね。私も同意見だわ。このタイミングなんだし、異変と何かあるのかしら。でも、空を雲で隠して、何がしたいのかしら」
吸血鬼みたいに太陽が苦手な種族の起こしている異変なのだろうか。太陽が苦手と言えば、
が、もしそうだとしても、怨霊は関係ないはずだ。
ということは、もしも、雲の方が紅魔館の連中が起こす異変だとすれば、二つの異変が偶然、同時期に起こっている、ということなのだろうか。
──だけど、私の勘は紅魔館とは別だと言っている気もする......。はぁー、今回はとっても面倒臭いことになりそうね。
と考えていると、森の中から誰かが歩いてくる気配を感じた。
「......おい、霊夢」
「......えぇ、分かってるわ。参拝客、にしては殺気を感じるわね」
「まぁ、お前を狙う妖怪がいてもおかしくないが......それにしたって、殺気が強いな。
おい! そこに居るのは分かってるぜ! 出てきたらどうだ?」
魔理沙が大声でそう叫ぶと、森の中からガサガサと森から出てくる音が聞こえた。
そうやって音を立て、出てきたのは──
「それは角か? 初めて見た妖怪だな。霊夢、知ってる
「......いえ、私も初めて見るわ。でも、とてつもなく強い、ってことだけは確かね」
「あぁ、言われなくとも、私にも分かるぜ......」
私達の目の前に、頭に二本の角を持ち、屈強な肉体を持つ大男が現れた────
side Renata Scarlet
──時は遡り 日の出前 紅魔館(レミリアの部屋)
天気が変わる異変から四ヶ月もの歳月が立つ。
そして、ミアを見なくなってからも、同じくらいの歳月が経っていた。
異変に気付いたのは三ヵ月前のことだった。ミアが何も言わずに居なくなるのはよくあることだが、一ヶ月も姿を見ないのは明らかにおかしいということで、何日も幻想郷中を探し回った。だが、かれこれ四ヶ月の月日が経った今でも、未だに姿を見つけれてはいなかった。
ミアが家を空けることは最長でも一週間ほどで、必ず一週間に一度は食卓などで顔を見る。ミア自身もお姉様が好きなこともあり、一週間に一度は顔を見ないと気が済まないらしい。そんなミアが、四ヶ月も顔を出さないのは、明らか何かに巻き込まれたとしか考えられなかった。
「......お姉様」
そして現在も私は毎日、幻想郷中を探した後は、家に帰ってないかと一番最初に行くであろうお姉様の部屋を訪ねていた。
「ミアは......」
──ミアは帰っていませんか?
そう言いかけるも、お姉様の顔を見て言葉が止まった。
「......今日も見てないわ。でも、元気出しなさい。あの娘も子供じゃないんだから、何があってもすぐに帰ってくるわよ」
「でも、ミアは私の双子の妹みたいなものですから、変に無茶することが多くて......」
「無茶をしても貴女はいつも大丈夫だったでしょう?
だから、ミアも大丈夫なはずよ。絶対にね」
いつものようにお姉様には励ませられる。だが、不安は一向に消えなかった。もしも、ミアが死ねば分かるはずだが、どこにいるかまでは感覚共有を切った今では分からない。人探しの魔法を使っても効果は現れず、心配と不安だけが心の中で積もっていた。
本当に死んでいなければいいが、もしも、もしものことがあれば、私は......。
「こら。そんな暗い顔しないの。気持ちは分かるけど、ミアのお姉ちゃんなら......
お姉様の話は、まるで自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
やはり、お姉様も普段通りには見せているが、私に心配をかけないように、無理をしているのだろう。
そう思うと、ミアのためにも、お姉様のためにも元気を出さなければ、と思い始めた。
「はい......グスッ、もう、大丈夫ですっ」
「良かった。でも、もう少し笑顔で迎え入れるようにはしなさいよ。少し引き攣った笑みになっているわよ?」
「わ、分かりました! ......こ、こうです?」
「まぁ......そうでいいと思うわよ。ねぇ、レナ。紅魔館のみんな、特にフランやルナはまだ子供だから、感情を上手く操作できないの。だから、今日もそばに居て、面倒を見てあげてね」
「......はい、分かりました。私はお姉ちゃんですしね。妹達を安心させてきますね!」
張り切って部屋を出ると、何を思ったのか、扉に前から動く気が起きなかった。
姉の前ではああ言ったものの、まだ不安が拭いきれてなかった。
しばらく部屋の前でじっとしていると、突然、部屋の中からすすり泣く声が聞こえてきた。
「......お姉様......」
部屋の前でボソッと小さな声で呟くと、私は静かにお姉様の部屋を後にする。
......姉が、実は私達が寝た後にもミアを探しに行っていることを知っている。いつも、一人で泣いていることも知っている。一番不安に駆られているのが姉だということも知っている。
なのに、感情を表に出さず、皆に心配をかけまいと一番頑張っているのも知っている。......本当にバレていないかはともかくとしてだが。
他にも、パチュリーや美鈴、咲夜達もそれぞれの方法で、ミアを探していることも知っている。
だからこそ、一番血が濃く繋がっている私が、頑張らないと。
──まずは、フランとルナを安心させないとね。
そう決心すると、私は真っ直ぐフラン達の部屋へと向かった────
始まりは違えど、交わる二つの異変