蛇寮のハーマイオニー   作:強還元水

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第三章 ルシウスの懸念

 ドラコに手紙を出した日の晩、ハーマイオニーはなかなか寝付くことができなかった。しかし、ハーマイオニーにできることはただ待つことしかなかった。

 

 翌日、ドラコから自分は元気だという手紙が届いたため、ハーマイオニーの不安は軽減された。しかし、それは事細かに状況を知らせるものではなく、ハーマイオニーの中にある奇妙な感覚が無くなることはなかった。だが、ハーマイオニーがドラコに不満を持つことはなかった。ドラコが事件の詳細を知っているとは思えなかったからだ。ルシウスやナルシッサが事件について何かを知っていても、ドラコには決して話さないだろう。

 

 それで、ハーマイオニーは結局黙って待つことにした。その間、ハーマイオニーは図書館を避け続けた。再びジェイクと顔を合わせるのが嫌だったのだ。ジェイクもまた、自分と会うのを嫌がっているような気がした。

 

 土曜日の朝、ハーマイオニーは6時に目を覚ました。シャワーを浴びて、服を着て、朝食には30分を費やした。そして自分の部屋で読書をし、時たま時計を見上げて、カチカチと針が刻んでいくのを見つめた。テリーに声をかけ、荷物を車に運び込み、家を出発した時、時刻は9時15分になっていた。

 

 

 ハーマイオニーはロンドンの歩道でテリーと別れを交わし、『漏れ鍋』へと入った。まずはカウンターに行こうと歩みを進めた時、トランクがふわりと浮上した。久しぶりの魔法だ。ハーマイオニーは自然と笑顔を浮かべた。

 

 「ハーマイオニー!」

 

 振り向くと、階段からナルシッサ・マルフォイが降りてくるのが目に入ってきた。ナルシッサは高価な宝石で飾り付けられた深緑の服を着ていた。柔らかそうな髪はロールパンの様に頭の両端でまとめられ、先端がきらめいている銀のピンで留められていた。

 

 「ナルシッサ!」とハーマイオニーは明るい声を出し、ナルシッサの胸に飛び込むようにして抱き着き、抱擁を交わした。

 

 「久しぶりね、ハーマイオニー。早速だけど、ダイアゴン横丁に向かってちょうだい。彼らにすぐに追いつくと思うから。トランクは私が部屋に運んでおくわ」ナルシッサはそう言って、浮かべていたトランクを二階へと運んでいった。

 

 ダイアゴン横丁に着いてから彼らに会うまでに、1分ほどしかかからなかった。明るく金色に輝くドラコとアストリアの髪、明るい黒髪のダフネ、深い黒髪のノット、彼らはよく目立っていた。最初にハーマイオニーに気が付いたのはアストリアだった。アストリアは目を見開き、満面の笑みを浮かべると、ハーマイオニーに抱き着くために駆けだした。

 

 「ハーマイオニー!」とアストリアは叫び、力強くハーマイオニーを抱きしめた。「久しぶり!」

 

 アストリアが離れるとドラコが近付いてきた。「やあ」

 

 ハーマイオニーはゆっくりと微笑を浮かべた。何とも言えない暖かさのようなものが全身を包み込んでいた。「ドラコ、久しぶりね」

 

 一瞬の躊躇のようなものが2人の間を流れた。しかし、ドラコが腰回りに手を回してハーマイオニーを捕まえ、キスの為に引き寄せたため、それは一瞬で霧散した。ハーマイオニーはドラコの腕の中でリラックスしていた。夏に抱いた小さな疑惑はすぐに泡となって消えた。

 

 ハーマイオニーはアストリアの甲高い喜びの声を聴いて、そっとドラコから離れた。体が熱く、自分の顔が真っ赤に染まっているのが容易に予想できた。ドラコを見ると、自信に満ちた薄ら笑いを浮かべていた。

 

 ダフネとノットが接近してくるのがドラコの肩越しに見えた。嫌悪感を露わにするノットはダフネに低い声で何かを囁いていた。ダフネはギョロリと目を動かしてノットを睨みつけると、打って変わって明るい表情でハーマイオニーに声をかけた。「こんにちは、ハーマイオニー。夏は楽しかった?」

 

 ハーマイオニーはしっかりとドラコの手を握りながら答えた。「ええ、まったく問題はなかったわ。貴女は?」

 

 「アストリアも元気にしていたし、楽しかったわ」とダフネは穏やかに言った。そして妹に対して気味の悪い目を向けた。

 

 アストリアはダフネを睨みつけて小さく唸った。「ダフネは私が防衛術で自分よりもいい成績をとったから怒っているの」

 

 ダフネは鼻を少し大きくして言い返した。「私が何て言ったか覚えてる? ルーピンは狼男だったの」

 

 「それで?」とアストリアは鼻を鳴らした。「成績を付けた時、ルーピンはまだ先生だったわ。私が『O』を得たのは変えられない事実よ」

 

 ダフネは呆れたように頭を振った。「おかしな思考ね」

 

 「羨ましいならハーマイオニーに勉強を教えて貰えば? そうしたらダフネだって『O』が得られるわよ」アストリアはそう言って舌を突き出した。

 

 ダフネは腕を組んで顎を持ち上げ、動じていない様に装っていた。しかし、ダフネの顔は少し赤くなっていた。

 

 気まずい雰囲気になるかと思った時、ナルシッサが合流してきた。見ると、ルシウス・マルフォイも数メートル後ろを歩いていた。そして、ルシウスの傍には厚化粧をした魔女がいた。メモ帖が2人の間で浮かんでおり、羽ペンが死に物狂いで走り書きをしている。

 

 「ルシウスは予言者新聞のインタビューを受けているわ」とナルシッサが説明した。そして通りに沿って歩くように促した。「邪魔しないであげてちょうだい」

 

 ハーマイオニーは肩越しにルシウスの言葉を聞き取るために全神経を傾けた。「誰も今の魔法省に満足していない」とルシウスは記者に言っていた。「先日の事件への対応はまさしく国家の不名誉そのものだった。省は我々皆を失望させた。彼らは我々市民を保護することさえできていないというのに、一部の声にだけ耳を傾け、マグルの保護に尽力し、多くの時間と人力を無駄にした。省はマグルについて考える前に、我々市民と、それから自分たち魔法省のことを考えるべきである」

 

 チラリと後ろを振り返ると、考えふけった様子で魔女が頷いていた。ハーマイオニーはその魔女を以前にも見たことがあるのに気が付いた。リータ・スキーター、日刊預言者新聞の記者だ。

 

 「あなたは現政権が誤っていると思いますか?」

 

 「私はコーネリウスを知っている。彼は良い人だ。しかし、私は彼が間違った魔法使いの忠告に耳を傾けすぎていると思っている。ワールド・カップの事件は、コーネリウスの身内によって引き起こされた最新の大事件だ」

 

 「最新の大事件?」

 

 「昨年のシリウス・ブラックに関する全ての失態もそのうちの一つだ。ブラックを捕まえるために魔法法執行部が何を提案したか覚えておるかね? そう、彼らが提案したのは、ディメンターの群れを子供たちに近づけることだ。そして送り込まれたディメンターは、遅くとも、11月までの段階でブラックが城へ入る方法を得たということを発見した。普通その報告を受ければ、我々の子供たちを保護するために闇祓いを城に派遣するだろう。しかし、アメリア・ボーンズはそうはしなかった。彼女は何もしなかった」

 

 「さらに驚くことに、ダンブルドアはルーピンがブラックと古い学友であったことと、収監されていたブラックとの面会を強く望んでいた事、それから狼憑きであることを知りながら、教師として雇ったのだ。この情報は確かな筋から得ている」

 

 「恥ずべき行為です!」とリータは高笑いするように叫んだ。「その行為のせいで1人の学生が攻撃される羽目になったわけですね。そして、2年前の事件の裏で1人の教師が不可解な状況で亡くなったのも、ダンブルドアのせいだという話があります。ダンブルドアは随分と高齢になりましたが、まともな判断ができなくなっているという話は本当だと思いますか?」

 

 ルシウスが背後で力強く頷くのが分かった。「その事は私が何年も前から指摘していることだ。私がホグワーツに通っていたときから、彼は年を取りすぎていた。それは20年以上も前のことだ。リータ。物事を正しく分別するためには感傷を一度忘れなければならないのだ。誰もが知るように、老齢というものは人を衰弱させる。ダンブルドアは約1世紀の間学校に貢献してきた。私は新任の者に指導を任せるときが来ていると思っている」

 

 「あなたの意見はホグワーツの理事たちと一致していません。それがあなたが92~93年の間に理事を辞任した理由ですか?」

 

 「そうだ」とルシウスが重苦しい声で言った。「理事たちは道理が分かっていなかった。彼らは老人を尊敬するあまり、物事の本質が見えていないのだ。私は学校内部の、ダンブルドアのおべっか使いによって投票で物事が決まる腐りきった機関が、すでにもうどうしようもない段階に来ていることに気が付いたのだ。しかし、今では早まりすぎたと感じている。私が理事に留まっていれば、狼男が学校に入ることに断固として反対していた。そして、現在、正気を失った闇払いが学校に入ろうとしていることにも勿論反対していた。彼のことはご存知かね?」

 

 「おかしな目ムーディ、ですね」

 

 「ムーディは誇大妄想的だ、というのはよく言われることだが、それはかなり控え目な表現だ。おかしな目ムーディと人々に呼ばれるのにはわけがある。彼の気品の無さと突然の発作は余りにも有名だが、それは時として無罪の人間にまで及ぶのだ。私は何もしていない貧しい子供が盗みの容疑で髪をむしり取られたと聞いたことがある。彼が息子にどんな逝かれ狂ったイデオロギーを染み込ませようとするかについて考える度に私は寒気がする。私のたった1人の息子は、逝かれた男に教育を受ける必要はまったくない。私は休み期間中に息子に魔法の指導をするのだが、その成果もあってか、去年は狼男が教師だったというのにもかかわらず、最高の成績を収めた。まともな大人に教育されれば、子供と言うのは順調に成長するものなのだ。その逆もまたしかり……なのだが」

 

 ハーマイオニーは隣でドラコが笑顔を浮かべるのを見た。ハーマイオニーはそっとドラコに肩をぶつけて、小さくウィンクした。

 

 「さあ、買い物を始めましょう」とナルシッサが言った。そしてルシウスとリータから子供たちを引き離した。

 

 「私は今年、ある行事が計画されているという噂を耳にした。私はそれによって……何かが起きてしまうのではないかと頭を悩ませている」

 

 去り際に目にしたルシウスの表情は先程までの演技かかった表情とは違って、真実味のある不安そうな表情であった。

 




インタビュー時の口調を確認せずに書いたので、リータの口調は後で修正すると思います。

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