蛇寮のハーマイオニー   作:強還元水

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第十九章 久しぶりの再会

 久しぶりに再会した時、ドラコは目に見えて安心していた。ハーマイオニーとドラコが離れていたのは2、3週間ほどだったが、その後からハーマイオニーはドラコとどう接したら良いのか分からなくなっていた。それはドラコにも同じようなことが起きていたようで、2人の関係はクリスマス休暇以前のものへと戻った。しかし、完全に戻ったというわけではなく、一種の緊張感のようなものが2人の間に常に流れていた。

 

 2人はその空気が見えない振りをし続けた。学期が終わり、ロンドンへと向かうホグワーツ急行に乗ってもそれは続いていた。しかし、ハーマイオニーはロンドンで別々の家に帰る前に、ドラコと話をする必要があると思い立ち、列車の廊下にドラコを連れ出すことにした。

 

 「ドラコ、私は何が起きているか、お互いに分かっている必要があると思うの」

 

 「起こっていること?」

 

 ハーマイオニーは頷いた。「ええ。私たちの間で起こっていること」

 

 「何のことだ?」とドラコは当惑したような表情を浮かべる。

 

 ハーマイオニーはため息をついた。「さあ、ドラコ。何かあるでしょ? 私のことは気にせずに話して」

 

 ドラコは手をポケットに突っ込んで、肩を竦めた。「何もないよ」

 

 「その、私達は上手くいってないでしょ」とハーマイオニーは切り出した。だが、どのように自分の心配を表明したらいいのか分からなかった。「貴方は余り話しかけてこないし」

 

 「僕が話しかけると君が不機嫌になるからじゃないか」

 

 「あれは、その」

 

 ハーマイオニーは自分にも多少なりとも悪かった部分があると認めなければならなかった。病院から退院した後、ドラコはハーマイオニーを非難すると同時に心配してくれ、それから事件のことを尋ねてきた。事件のことを聞くことは、誰もがするであろう自然な行動だ。しかし、ハーマイオニーはとてつもなく無愛想で、ぶっきら棒に質問を躱したのだ。ペティグリューやブラック、それから事件の詳細について、ドラコに話すことは出来なかった。ハーマイオニーはダンブルドアとの約束に固執する余り、質問の躱し方を間違えたのだ。

 

 「……私をガールフレンドにしたいと思っているなら、他の女の子とイチャつくような行為はやめて欲しいの」

 

 「他の女の子とイチャついてなんかない」

 

 「あら、ダフネとの行為は覚えてないのかしら?」ハーマイオニーは静かに鼻を鳴らす。「貴方は彼女と非常に親しそうに見えたわ。今までにそんな様子はなかったのに」

 

 「それは誤解だ」ドラコは両掌を胸の前に立てて抑えるようにして主張した。「僕たちはエッセイと宿題に取り組んでいただけだ。君は忙しそうにしていたから、成績の良いダフネに協力してもらっていたんだ」

 

 「でも、貴方は楽しんでいるように見えたわ」ハーマイオニーは腕を組んで睨んだ。「私と勉強している時よりも」

 

 「君は課題に関して真剣すぎるんだ。余りにもね。ダフネは……」

 

 「優しくて楽しい?」ハーマイオニーは目を細めてじっと見つめた。

 

 ドラコは露骨に顔を顰めた。「そんなこと言ってないだろ。ハーマイオニー、何だかパンジーみたいだぞ」

 

 うんざりだと言いたげなドラコの口調にハーマイオニーはすぐさま反応した。「パンジーみたい?」

 

 「言い過ぎたよ。とにかく、僕は下心を持っていたわけじゃない。まあ……」

 

 「まあ、なに?」

 

 ドラコは考え込み、躊躇しているそぶりを見せた後、「父上は彼女と仲良くして欲しいみたいなんだがね」と些か予想外の方へ話を転がした。

 

 「なぜ?」

 

 「ここの所、少しややこしい事態になっているんだ」

 

 「どういうこと?」

 

 「父上と彼女の父親が……何やら一緒に動いているみたいなんだ。2人はお互いに僕とダフネを欲しがっていてね」

 

 ハーマイオニーは窓の外に目を向けた。緑色の芝生が高速で通り過ぎていく。「それは私達の関係に影響するの?」

 

 ドラコは肩をすくめて曖昧に答えた。「僕にはわからない」

 

 酷く混乱させられる話題だった。ハーマイオニーはまさか自分がよくあるマグルの物語のヒロインのような立場に立たされるとは思ってもみなかった。そして同時に、約千年の歴史を持つ家系と戦い、男の子と曖昧な関係の正体を探る危険な旅に出たくはないという思いを抱いた。それはハーマイオニーの優先するものではない。

 

 

 ——多分、パパが正しかったんだわ。

 

 具体的な物が見えてくるのは10年、あるいは20年後なのだ。その年月の間にどれだけ人や思いが変化するのか、経験したことが無いとはいえ、ハーマイオニーにもそれはわかっていた。

 

 「ドラコはどうしたい?」

 

 「なに?」

 

 ハーマイオニーは真っすぐにドラコを見つめた。「貴方は私の親友よ。私は貴方に幸せになって欲しい。貴方はどうしたいの?」

 

 「いや、分からない」とドラコは首を振った。そして立て続けに口を開いた。「先のことなんて分からないさ。でも、物事がややこしい状態じゃなかったとき、僕は幸せだった。それに、僕は君に傍にいて欲しいと思っている」

 

 「私は、私達の関係がなんであるのか、貴方の口から聞きたいの。貴方が友達でありたいと言うなら、私は全然それでも構わない」

 

 「いいや、僕はただの友達ではいたくない」

 

 「じゃあ、私がガールフレンドであることを望むのね?」

 

 「ああ」

 

 「分かったわ」とハーマイオニーは頷いた。「それはつまり、貴方は私のボーイフレンドだってことよ。ボーイフレンドには他の女の子に目移りして欲しくないわ」

 

 「僕の心は決してよぎらない。約束するよ、ハーマイオニー」

 

 

 去年の夏の終わり。それがハーマイオニーが最後に父親に会った日だった。

 

 ハーマイオニーの父親はキングス・クロス駅で待っていた。テリーは微笑んで、ハーマイオニーのトランクを受け取った。そして2人は青いセダンに乗って家へと走り出した。

 

 9か月、それは中々の長さだった。ハーマイオニーはどうして去年の夏に自分たちが口論していたのか、はっきりと思い出すことが出来なかった。だが、それが単純な構造であることは分かっていた。両親はハーマイオニーのことを考え、手厚く保護したいと考えていたのだろう。見知らぬ世界に娘を送り出す気持ちを考えれば、ハーマイオニーにもその行いを理解することは出来た。けれども、2人は余りにもハーマイオニーの世界について知らなかった。

 

 車の中は暑くて、息が詰まって、ハーマイオニーのエネルギーを体から奪い去っていた。たぶん、それは環境だけでなく、怪我にも原因があるのだろう。ハーマイオニーは腹部に残る小さなギザギザの傷跡を服の上から撫でた。聖マンゴから来た癒者が言うにはその傷跡を完全に消すことが出来るそうだが、ハーマイオニーはあえて残すことにした。その理由はハッキリとはしなかったが、かっこいいとか、案外安っぽい理由なのかもしれないとハーマイオニーは思っていた。

 

 2人は徹底的とも言っていいほど黙りこんでいた。

 

 テリーはヘンリーに比べて詮索をしない方だった。ヘンリーは常に物事を知りたがって、——「学校はどう?」「成績はトップだった?」「どうして私たちの手紙に返信しないの?」——とやら、手紙を送りつけてきていたのだが。もちろん、ハーマイオニーは今年度も学年で最も優秀な成績を収めた。しかし、ほとんど死にかけていたため、その事を両親に知らせることは出来なかった。手紙を催促する手紙が来たということは両親が怪我をしたことを知らないということなのだろう。ハーマイオニーはその事に安心する一方で、去年の事件のことと言い、何も情報を渡していないことに対して罪悪感があった。

 

 「ごめんなさい」車が信号で止まった時、ハーマイオニーはポツリと呟いた。

 

 「何?」

 

 ハーマイオニーは肩をすくめて、他の車が別の方向に走りすぎるのを見ていた。「去年、私は余りにも子供過ぎた」

 

 テリーは前方を真っすぐに見つめながら喋った。「謝罪する必要なんて無いさ。あれはみんながもっと上手く立ち回るべきだった」

 

 「私はパパの休日を潰したわ。ママの休日も」

 

 「ママはがっかりしていたけど、もう気になんかしてないさ」

 

 「私は子供みたいに我儘な振る舞いをするべきじゃなかった」

 

 「ハーマイオニー、お前はまだ子供だよ。親に迷惑をかけて全然良いのさ」

 

 「パパ、私はもう子供じゃないわ」とハーマイオニーは大きなため息をひとつ吐き出した。

 

 「家を出て行くまでは小さな子供だよ。いや、僕達が嫌だと言うまでお前は僕達の大事な娘だな」

 

 ハーマイオニーは鼻を鳴らした。「夏の終わりには15になるのよ?」

 

 「本当に驚きだよ。見る度にドンドン成長していく。ハーマイオニーが大きくならなければ良いのにと思ってしまうぐらいにあっという間だ」テリーは恐らく冗談を言っていた。

 

 「私は子供でいたくないわ」

 

 ハーマイオニーは窓の外をミドルフォール通りが流れていくのを見た。2、3年前までそこでは少年たちがサッカーやバスケやらをして騒いでいたのに、今日は誰もいなかった。ハーマイオニーは喧しい叫び声が聞こえない通りを見て、少し寂しい思いを感じた。

 

 「ハーマイオニーが自分自身をより高い位置に引っ張っていこうと努力しているのは知っている」再び信号で止まった時テリーが神妙な雰囲気で呟いた。「でも、お前は休むことを覚えるべきなんだ。ママはハーマイオニーの未来に期待している。僕ももちろんそうだ。でも、時々立ち止まって休んでもいいんだ」

 

 「……そうね」

 

 「勉強で燃え尽きることはあってはいけない」

 

 「わかってるわ」

 

 「1つの学校に7年間いるのは、僕からすれば気が重くなるほどの長さだ。でも、お前はそれを活かせてしまうのだろう。僕はそれが少し恐ろしくもあるんだ。全然根拠何てないのだけどね。ハーマイオニー、自分らしさを保つためにも休む時間っていうのはとても大切なんだ」

 

 「パパ、人間の魂を吸いだすことが出来る生き物がいるって知ってた?」車が住宅地の方へ入ったところでハーマイオニーは呟いた。

 

 テリーがブレーキを踏み、車が若干前後に揺れた。テリーはゆっくりと歩道に車を寄せた。

 

 「魔法使いじゃないから、パパには彼らが見えないわ」とハーマイオニーは言い、テリーに顔を向けた。「でも、彼らはこの世界にちゃんと存在している。彼らは人間の恐れと感情を餌としているの。彼らが襲ってきたら、何の抵抗もすることもできずに、口から魂を吸い取られてしまうわ」

 

 テリーは訝しそうな顔つきでハーマイオニーをじっと見つめた。

 

 「とはいえ、彼らは魔法使いの刑務所で管理されているから、パパが心配する必要はないわ。でも、私は心配なの」

 

 「僕が心配していないのに、ハーマイオニーが心配する必要はないんじゃないか?」

 

 「必要あるわ。私は魔女で、彼らが気がかりだもの。それに、私は何の準備が出来ていないときに襲われるのが一番嫌だから」

 

 「ハーマイオニーは世界の他のどの女の子よりも準備しているだろ?」とテリーが小さな微笑を浮かべたが、ハーマイオニーは首を横に振った。

 

 「十分には程遠いわ」

 

 2人は数分の間、車に乗っていた。中は非常に暑かった。しかし、ハーマイオニーは父親と一緒にいられることが嬉しかった。父親が自分のために必死に言葉を探してくれていることが嬉しかった。去年の夏には、あれほど鬱陶しいと思っていたはずなのに。

 

 「ママと一緒に選んだプレゼントがあるんだ」とテリーが話を切り出した。「まあ、最初に提案したのは僕なんだけど、ママも良い考えかも知れないと言ってくれたんだ」

 

 テリーは一度車から降りると、後部座席から平たい箱を取り出してきて、ハーマイオニーに手渡した。

 

 「何なの?」

 

 「ほら、開けてみてくれ」

 

 箱には黄色と黒のユニフォームが入っていた。ワトフォードのユニフォームだ。

 

 「彼らは今年、物凄く活躍したんだ。きっとハーマイオニーも欲しがると思って」

 

 ハーマイオニーはそれを箱の中から持ち上げてみた。ワトフォードのユニフォームは古くて、少し縮んでいるように見えて、屋根裏に放置されていたかと思うほどの状態だった。「これ、誰のユニフォーム?」

 

 「ホーズ・ポーターのだ。今シーズン、彼は本当に凄かったんだ」

 

 「私がそれを知っていると思う? 日刊預言者新聞にはサッカーのこと何て載っていないのよ?」ユニフォームの反対側には大きな文字で『POTTER』と書かれている。

 

 「でも、少しでも思い出を分かち合いたかったんだ。僕達はほとんど離れ離れだから」

 

 「……ありがとう、パパ。今度こそみんなで試合を見に行きましょ」ハーマイオニーはワトフォードのバッジの輪郭をそっと指でなぞった。

 

 




以上でアズカバン編は終了となります。後書きは殴り書きに近い状態になると思いますので、ご注意ください。苦手な方がいるであろう後書きです。


さて、途中でハリーが未来で死ぬことに気がついてプロットを書き直さなければならないといったハプニングもあったのですが、どうにか3巻編を終わらせることが出来て一安心です。いやー、ホント温かい感想に助けられまくりでした。


さてさて、ハーマイオニーによって原作とは違うストーリーになった訳ですが、そのことによって一部の伏線が消えたことにお気づきになったでしょうか?
その最たるものはハリーとペティグリューが会話をしていないという所です。その影響で、『ハリーが3巻で命を救ってくれたため、ペティグリューは最終巻でハリーを助けた』という原作の流れは消えました。頑張ってくれハリー。

次からは炎のゴブレット編になるわけですが、炎のゴブレットってあまり良いイメージが無いんですよね。子供の頃に炎のゴブレットの映画を観たのですが、今までとは違って怖い雰囲気が強くて結構ビビりながら観てました。闇の帝王が復活する時にハリーの腕を切るシーンがありますけど、アレは特にヤバかった。一瞬のシーンなんですが、超怖かった。まあ、ストーリーはめちゃくちゃ面白いんですけどね。ハリーポッターで2番目くらいに好きなストーリーです。因みにアズカバンは映画シリーズで2番目に好き。

という訳で、そんな暗いイメージを抱きながら炎のゴブレットのプロット(超簡易的な骨組みだけ)を考えました。ハーマイオニーが暴れてくれると思うので、楽しみにしていてください。なお、変更する可能性もあり。

炎のゴブレットはかなりの調べ物をしながら執筆することになると思いますので、投稿するのがいつ頃になるかは不明です。マーリンの髭!

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