蛇寮のハーマイオニー   作:強還元水

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第四章 組み分けの儀式―1年編

 〈1991年‐9月〉

 

 キングス・クロス駅の壁を通り抜けるのは非常に魅力的な経験であった。

 

 ハーマイオニーは世界が変わる瞬間をもう一度体験したくて、壁を再び通り抜けようかとも思ったが、万が一にでもホグワーツ急行に乗り遅れることがあってはならないと、思い直した。列車に乗り遅れるなんてことになったら、人生で最も最高な体験を逃してしまうことになる。

 

 列車にトランクを載せたハーマイオニーは、通路で話している上級生たちを躱しながら、馴染みの顔を探して通路を歩いた。いくつかのコンパートメントを通りすぎたところで、ダイアゴン横丁に一緒に行った自分と同じマグル生まれの男の子2人を見つけた。コンパートメントには2人のほかに数人の生徒がいたが、幸いなことに空席がある。

 

 ハーマイオニーはノックをして扉を開けると言った。「ごめんなさい、ディーン。ここに座ってもいいかしら?」

 

 ディーン・トーマスは笑顔で顔を上げると頷く。「勿論、どーぞ」

 

 ハーマイオニーはコンパートメントにトランクを運び入れると、ディーンの手を借りて頭上の棚にトランクを置いた。そしてテリー・ブート(マグル生まれ)の向かい側に座ると、他の生徒たちを見まわした。インド出身と思われる双子の女の子の一人と金髪の女の子が絶え間なく話し、1人の黒髪の男の子は不安そうに小さく俯いている。

 

 「ねぇ、みんな、この子はハーマイオニー。ハーマイオニー、まぁ覚えてるだろうけどこいつはテリーで、こっちはネビル。それからスーザンにラベンダー。で、2人はパーバティに、パチル」

 

 「こんにちは!」ブロンドの髪のラベンダーが元気よく挨拶し、ネビルが恥ずかしそうに小さく手を振った。

 

 「またなの?」スーザンがネビルを小突いた。「貴方のお婆様が挨拶はしっかりするようにっておっしゃってたじゃない」

 

 ネビルは顔を青白くすると小さな声で「お会いできてうれしいです」と呟き、そっと手を伸ばした。

 

 ハーマイオニーが妙な気まずさを感じながらその手を握ったとき、ネビルの膝の上から何かが飛び出した。下を見てみると、それは手の平位の茶色のカエルだった。ネビルは慌てて捕まえようと立ち上がったが、スーザンの足に躓いて盛大に床に倒れる。カエルは主人の様子など見もせずに外へ出ようとするが、ディーンによって捕まえられた。

 

 「ペットを離しちゃダメだよ」ディーンは明るく笑ってカエルを手渡した。ネビルは顔を赤くしながら「ありがとう」と言った。

 

 しばらくしてスーザンが他の友達に会いにコンパートメントを出ると、ファッション雑誌を一緒に見ているラベンダーとバーバティーを除くと、だれも喋らなくなった。

 

 ハーマイオニーは教科書でも読もうかと思ったが、1人でもいいから友達を作りなさい、という父の言葉を思い出して、一瞬躊躇した後に話を切り出した。

 

 「みんな、ホグワーツに4つの寮があることは知ってる?」みんなが頷くのを見てハーマイオニーは続けた。「みんなはどこに入ると思う?」

 

 「おばあちゃんは僕がグリフィンドールに入るって言ってるよ」ネビルは半分泣きそうな声で言った。「パパもママもグリフィンドールだったから」

 

 「私もグリフィンドールね」バーバティーが自信に満ちた様子で答え、ラベンダーもそれに同意する。

 

 「レイブンクローだったら良いかなー」パドマは迷いがちに呟いた。

 

 ハーマイオニーは会話を広げようと、覚えた学校の知識を思いだしながら喋った。「ハッフルパフも悪くないと思うわ。『ホグワーツの歴史』という本には善良な人が入るって書かれてたもの」

 

 ディーンが頷いた。「僕も少しその本を読んだけど、話に聞くほどハッフルパフは悪くない寮だと思うよ」

 

 「スリザリンもそうよね」ハーマイオニーは会話が続くのを楽しみながら言った。「今活躍している魔法使いはスリザリン出身の人が多いし」

 

 6人は急に黙り込んで、ハーマイオニーをジッと見つめた。

 

 「えっ、なに?」

 

 ラベンダーは若干の恐怖を顔に浮かべて身を乗り出した。「スリザリンは絶対ダメよ」

 

 ネビルは何度も頷いて言った。「闇の魔法使いはみんなスリザリン出身だよ」

 

 「ホグワーツの4分の1の生徒が悪に染まるっていうの?」ハーマイオニーは眉をひそめた。

 

 「勿論、全員が闇の魔法使いになるわけじゃないわ」バーバティーは顔をしかめる。「でも、残された連中も弱い者いじめの嫌な奴よ」

 

 「そう……」ハーマイオニーは野心が時にモラルの線を越えることがあるのを知っていた。しかし、それだけでここまでスリザリンが嫌われるとは思えない。

 

 「でも、たった一度の組み分けで悪人かどうか見分けられるかしら? だってまだ11歳よ」

 

 「サラザール・スリザリンは悪人だったわ」

 

 「他の創設者たちがマグル出身者を受け入れることを決めた時、彼は学校を去ったの」パドマがバーバティーの言葉に補足した。

 

 「名前を言ってはいけないあの人はスリザリンだった」バーバティーは恐る恐る呟いた。「それに有罪となった死喰い人も、スリザリン出身ばかりだったわ」

 

 ハーマイオニーは唇を噛んだ。「死喰い人ってどんな人?」

 

 「名前を言ってはいけないあの人の手下よ」

 

 「それは誰?」

 

 「それは……あなたも知っているはずよ」

 

 「いいえ、知らないわ」

 

 「もしくは、例のあの人ね」パドマは呆れた様子で肩をすくめる。「普通は名前で読んだりしないのよ」

 

 「例のあの人?」

 

 ハーマイオニーはダイアゴン横丁で購入した歴史書の中に、その名前が書いてあったことをぼんやりと思いだした。魔法界の歴史書は前後関係や横の繋がりが明らかにおかしかったりして非常に読みにくく、はっきりとは思い出せないが、その名前は近代の戦争編に載っていたような気がする。

 

 歴史書の近代編では、なにかと戦争を取り上げていた。魔法界ではつい最近、強大な闇の魔法使いを筆頭にした勢力と大きな大戦があったようなのだ。だとすると、みんなが名前を呼びたがらない人は、フランス語風の発音の人かもしれない。

 

 「その人は……もしかして、ハリー・ポッターに敗れた人?」

 

 ハーマイオニーは強大な闇の魔法使いが1歳の赤ん坊に倒されたという記述を読んだ時の馬鹿らしい気持ちを思い出しながら尋ねた。

 

 「そう、その人よ」

 

 「1981年10月31日の事件ね」日付を思い出すのは簡単なことだった。「その人は両親を殺害したけど、赤ん坊であったポッターを殺すことは出来なかったのよね」

 

 「ええ」と、パドマは囁いた。「彼は唯一生き残ったの」

 

 「いずれにせよ」バーバティーはみんなの顔を見回した。「例のあの人の支持者はスリザリン出身だったわ」

 

 「闇払いに殺されたエバンも」

 

 「それからアズカバンにいるドロホフもね」

 

 「レストレンジ家の人も全員。2人の兄弟に加えて、ベラトリックス・レストレンジ」パドマの言葉を聞いてネビルはビクッと体を震わせた。

 

 「スリザリンは異常な寮なのよ」

 

 「ルシウス・マルフォイも死喰い人だったわ」

 

 「でも彼は放免された」

 

 「絶対死喰い人だったのに、ね」

 

 次々とスリザリンの悪い例を上げられても、ハーマイオニーの懐疑的な気持ちは変わらなかった。スリザリンから多くの優秀な人材が輩出されていることは知っていたし、みんなが挙げる例は偏見に満ちているような気がしたのだ。

 

 とは言え、その事を指摘したとしても、この場で建設的な議論をできるとは思えなかったので、ハーマイオニーは素早く話題を変えた。

 

 「ねぇ、誰かクィディッチチームの試験を受けようと思っている人いる? 見たことはないけど、凄く面白そうなスポーツだったわ」

 

 「うん、僕は受けようかなと思ってるよ」ディーンは素早く返答し、ハーマイオニーを救った。「僕は長い間サッカーをやってたんだ。きっと活躍できるよ」

 

 「空を飛ぶというルールが加わるけどね」と、ハーマイオニーはからかった。

 

 「確かに。しかもボールは足で蹴れないかもしれない」とディーンは笑う。

 

 「私は見てるだけで十分ね」

 

 「僕も見てるだけで十分……。おばあちゃんに絶対反対されるし。すっごく危険な競技だと思ってるんだ」

 

 ハーマイオニーは再び楽しい雰囲気が出来上がりつつあるのを感じ、ホッと溜息を吐いた。

 

 

 「誰かヒキガエルを見なかった? ネビルのがいなくなったの」

 

 ハーマイオニーは赤毛の少年が自分の膝元にいる薄汚れたネズミに杖を向けているのを見て動きを止めた。

 

 「見なかったって、さっきそう言ったよ」と赤毛の男の子が答えるが、ハーマイオニーはそれをスルーした。

 

 「あら、魔法をかけるの? それじゃ、見せてもらうわ」

 

 魔法は本当に不思議な物であった。ダイアゴン横丁から帰った日に、教科書を読んで魔法を唱えてみたが、どれも普通に考えれば有り得ない現象を起こすことが出来た。数日後にマクゴナガルから学校以外では魔法を使ってはならないという警告文が家に届き、それ以来使うことが出来なかったのだが。

 

 「あー……いいよ」

 

 男の子は咳払いした。

 

 「お陽さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ」

 

 男の子は杖を振ったが、ネズミはねずみ色のままぐっすりと眠っている。

 

 「その呪文、間違ってないの? まあ、あまりうまくいかなかったわね。私も練習のつもりで簡単な呪文を試してみたことがあるけど、みんなうまくいったわ。もちろん、教科書は全部読んだわ。それだけで足りるといいんだけど……私、ハーマイオニー・グレンジャー。あなた方は?」

 

 赤毛の男の子は黒髪の細い男の子をチラッと見てから「僕、ローン・ウィーズリー」と、もごもご言った。

 

 「僕はハリー・ポッター」

 

 「本当に?」ハーマイオニーは声を少し上げた。

 

 ――ハリー・ポッターは1981年の時点でおよそ1歳。なら、あとは簡単な算数で入学するのは1991年。他の人がハリー・ポッターがいることに気が付く前に知れたのはラッキーだったわ。彼と友達になれる大きなチャンスよ。有名なハリー・ポッターと友達になれれば、学校でたくさんの友達を作れるかもしれない。

 

 「私、貴方のこと全部知っているわ。——参考書を2、3冊読んだの」

 

 「僕が?」とハリーは呟き、僅かに顔を赤くした。

 

 「まあ、知らなかったの? 私があなただったら、出来るだけ全部調べるけど」

 

 ハーマイオニーはそこで顔を見て、ハリーが不快な思いをしているのに気が付き、慌てて話題を変えた。

 

 「2人とも、どの寮に入るか分かってる? 私、いろんな人に聞いて調べたけど、グリフィンドールが最高だって言ってたわ。レイブンクローもそんなに悪いようじゃなかったけど」

 

 2人の男の子が何も答えなかったので、ハーマイオニーは内心慌てふためいたが、すぐに解決手段を思いついた。

 

 「それじゃあ、もう行くわ。ネビルのヒキガエルを探さなきゃ。2人とも着替えた方が良いわ。もうすぐ着くはずだから」

 

 ――いきなり友達になることは出来なかったけど、親切な女の子として印象が残ったはずだわ。

 

 コンパートメントを出たハーマイオニーは笑みを浮かべて安堵した。

 

 

 「いったい何やってたの?」

 

 ハリーのコンパートメントに入ると、床いっぱいにお菓子が散らばり、ロンはねずみの尻尾を掴んでぶら下げていた。

 

 「こいつ、ノックアウトされちゃったみたい」ロンはハリーにそう言いながら、もう一度よくねずみを見た。

 

 「ちがう……驚いたなあ……また眠っちゃってるよ」

 

 「マルフォイに会ったことがあるの?」

 

 「『例のあの人』が消えた時、真っ先にこっち側に戻って来た家族の1つなんだ。魔法をかけられたって言ってたんだって。パパは信じないって言ってた。マルフォイの父親なら、闇の陣営に味方するのに特別な口実はいらなかっただろうって」

 

 ロンは振り返ってハーマイオニーに言った。

 

 「で、何かご用?」

 

 ハーマイオニーはロンを軽く睨んで話した。

 

 「2人とも急いだほうが良いわ。ローブを着て。私、前の方にいって運転手に聞いてきたんだけど、まもなく着くって。2人とも、喧嘩してたんじゃないでしょうね? まだ着いていないうちから問題になるわよ!」

 

 「スキャバーズが喧嘩してたんだ。僕たちじゃない。それで、よろしければ着替えるから出て行ってくれないかな?」

 

 「いいわよ」ハーマイオニーはこの雰囲気を知っていた。「みんなが通路で駆けっこしたりして、あんまり子供っぽい振る舞いをするもんだから、様子を見にきてみただけよ」

 

 ハーマイオニーはそのまま出て行こうと思ったが、悔しくて捨て台詞を言わずにいられなかった。

 

 「ついでだけど、あなたの鼻、泥がついてるわよ。知ってた?」

 

 ハーマイオニーはきびすを返すと、コンパートメントを後にした。

 

 

 「グレンジャー、ハーマイオニー」とマクゴナガルが呼んだ。

 

 ハーマイオニーは1年生の群衆の間を掻き分けるようにして進み、椅子に近づく。椅子に座ると、マクゴナガルは薄汚い、古い帽子を頭にかぶせた。帽子はずり下がって目にかかり、世界は真黒になる。

 

 低い声が頭の中で響いた。「ふむ……面白い」

 

 ハーマイオニーは驚いて僅かに飛び跳ねる。

 

 「勤勉で分からないことがあるのを嫌う。強い正義感もあるようだ。それにハッフルパフも悪くない」

 

 「スーザンがハッフルパフでした」列車で会ったスーザンは非常に親切で親しみやすかった。「ジャスティンもそうです」

 

 「しかし君はチームの一部として活躍するのを望んでいないうえに、他の人に対する信頼が欠けているようだ。ふむ、強い欲望をいくつか持っている。やはり、知識への欲求がとりわけ凄まじい。レイブンクローに適していると言えよう」

 

 「レイブンクロー?」テリーはレイブンクローに入るだろう。だが、彼はあまり話さない。仲良くできるか少し不安だった。

 

 「ふーむ……、君自身はどこに入りたいと思っているのかね?」

 

 「私は……わかりません」

 

 「君は正義感が強く、正当な栄光を欲していて、グリフィンドール気質だ。そして、知識への欲求が強く、努力も怠らず、自分の力を認めてくれる存在が欲しいと願い、レイブンクローの気質も持っている。だが、ここではレイブンクローやハッフルパフは除外しておこう。君はロウェナやヘルガの望んでいる者よりも、ゴドリックの望んでいる者に近い」

 

 「では、グリフィンドール?」ハーマイオニーはパチルやラベンダーがグリフィンドールに入ったことを思い浮かべた。

 

 「いや、スリザリンという選択肢もある」

 

 「スリザリン……」

 

 「嫌かね?」帽子は笑い声を上げる。

 

 「列車の中で闇の魔法使いを輩出する寮だってみんなが言ってました」

 

 「ふむ……」

 

 「だからスリザリンの人間はすべて悪だと」

 

 「ふむ……」

 

 「スリザリンに入れば私も悪に染まるんじゃないですか?」

 

 「それは分からない。分かるのは、君が賢く、野心的で、自分の才能を発揮したいという願望を持ち、サラザールが求める人材であることだけだ」

 

 「でも、その野心を叶えるために多くの者は闇の魔法使いになるではないですか?」

 

 帽子は長い間を作った。

 

 「確かにそうだ」

 

 「じゃあ、やっぱりスリザリンは悪なのですか?」

 

 「それだけで悪かどうか判断することはできない。闇の魔法使いが多く排出されるから悪の寮という訳ではない。悪かどうかの判断は人によって異なる」

 

 「でも闇の魔法使いを輩出するということは――」

 

 「スリザリンは闇の魔法使いを輩出することでも有名だ。だが、それはスリザリンが生徒を堕落させることを意味しているわけではない。スリザリンに入る生徒は誰もが野心を抱えており、復讐心が強かったり、力への欲求が強い。彼らの欲望は時に様々に変化し、その者を闇に貶めるのだ。だが、はっきりと言っておこう。闇に染まらずに大きく飛躍する者はいるのだ。スリザリンの生徒は賢く、完璧主義者で、臨機応変なのだから、飛躍の幅は計り知れない。スリザリンは成功するために最も近い道なのだ。……もう一度尋ねよう。君はどこに入りたいと思っている?」

 

 「わかりません……」

 

 「それは問題だ。ハーマイオニー・グレンジャー」自分の名前を呼ぶ帽子の声は冷たく、ハーマイオニーはぶるっと小さく震えた。

 

 「君は何がしたい? 何を望む? どんな人物になりたい? 自分の才能を認めて貰いたいか? 名誉あることを成し遂げ、称賛されたいか? 私は君が最も成功できる寮を知っているが、入る寮は君が決めるべきだ」

 

 「私は……誰よりも優れた魔女になりたいです」

 

 「単純な答えだ。私はもっと……。とにかく、君の学校生活が楽しみだ。君は多く悩むだろう。だが、その事によって君は自分の欲望を正確に知り、大きく成功することが出来るはずだ。……ゴドリックは私を呪うだろう。こんなにも優秀な生徒を手放すのだから」

 

 「スリザリン!」

 

 ハーマイオニーは帽子が最後の言葉を広間全体に向かって叫ぶのを聞いた。

 

 スリザリンのテーブルから大きな拍手が上がり、他の寮からは小さな拍手がいくつか聞こえた。帽子が長く悩む間に幾人かの上級生は居眠りをしていたようだ。

 

 帽子を渡すために横を向くと、マクゴナガルは表情を引き攣らせていた。ハーマイオニーはグリフィンドールとスリザリンが犬猿な仲のこと、それからマクゴナガルがグリフィンドールの寮監であることを思いだし、少し残念に思った。

 

 次に上座の来賓席を見ると、校長のアルバス・ダンブルドアが呑気な顔で小さな微笑を浮かべていた。しかし、その目はしっかりとハーマイオニーを見つめている。視線を横にずらすと、黒髪に黒いローブの男もハーマイオニーをジロリと見つめている。

 

 中央で組み分けを待っている1年生に視線を移すと、ハリーは小さく拍手していたが、他の知り合いは用心深い目でハーマイオニーを見つめ、ロンは明らかに睨みつけていた。

 

 少し悲しい思いをしながらスリザリンのテーブルに移動すると、他の1年生が挨拶してきた。

 

 「トレイシーよ」

 

 「ハーマイオニーよ」

 

 ハーマイオニーはトレイシーという少女の隣の席に座った。

 

 テーブルを挟んだ斜め右側の大きな女の子が手を差し出した。「ミリセント・ブレスロード」

 

 「よろしく」ハーマイオニーは若干緊張しながら握手を交わした。

 

 ハーマイオニーの向かい側の大きな体の男の子は何も言わず、悲しそうな表情を浮かべて、何も載っていない大きな皿を見つめていた。その横に目線をずらすと、別の男の子も同様に皿を見つめている。

 

 「ごめんなさい」とはっきりした声が斜め後ろから聞こえた。「その席、譲ってもらえないかしら?」

 

 ダークブラウンの髪のすらっとした女の子がハーマイオニーを見つめていた。ハーマイオニーは「グリーングラス・ダフネ」と呼ばれていたことを思いだした。

 

 「ええ、もちろん。貴方はダフネ?」

 

 ダフネは頷くと、トレイシーとハーマイオニーの間に座った。それからすぐにブロンドの髪に青白い顔の男の子が堂々と歩いてきて、皿を見つめていた2人の男の子の間に座った。

 

 「ミス・グリーングラス。こんなところで会うとは」その少年は薄ら笑いを浮かべながら気取った声で言った。

 

 「まったくね」とダフネは素気なく返事する。「前に会ったのは、貴方が服を早く作らせるためにマダム・マルキンに怒鳴った時だったわね」

 

 「金をたくさん払ってるんだから質の良いサービスをしてもらうのは当然さ」と男の子は悦に入って笑う。「それに、君も早く仕立てて貰うのを望んでいたような気がするが?」

 

 「ええ、だって、高貴な家の者を待たせるだなんて、礼儀がなっていないでしょ?」ダフネは馬鹿にしたように小さく笑うと、会話をやめて、トレイシーに話かけた。

 

 「おい、なんで2人とも皿を見つめてるんだ。馬鹿みたいだぞ」

 

 隣の2人を注意した気取った男の子は、ハーマイオニーに初めて気が付いたようで、眉を寄せた。

 

 「君は誰だい?」

 

 「ハーマイオニー・グレンジャー」大体の力関係を理解したハーマイオニーは出来るだけ印象良くしようと笑顔であいさつし、手を伸ばした。

 

 その男の子は差し出された手をジロジロと見つめながら尋ねる。「グレンジャーか、もしかしてフランスに家族がいるか?」

 

 ハーマイオニーは従兄弟がフランスで誰かと結婚していたことを思いだして頷いた。「ええ、いるわ」

 

 男の子は冷めた目でハーマイオニーの顔を見つめると、しばらくして手を握り返した。

 

 「マルフォイだ。ドラコ・マルフォイ。まぁ、当然知っていると思うけどね」

 

 「もちろん」それは嘘であったが、ふさわしい答えだったようで、ドラコは頷いて「こいつはクラッブで、こっちがゴイルさ」と紹介した。

 

 それから暫くして、楽しそうに他の生徒と話していたドラコが聞いた覚えのある生徒の名を言った。

 

 「つまりウィーズリー家のやつが僕に近づいてきたんだ! 自分の汚らしさにまったく気が付かないでね!」

 

 嫌な感じの笑いが起こる中でハーマイオニーは言った。

 

 「私列車で彼に会ったわ」ハーマイオニーは友人を得るため、自分の地位を上げるチャンスを窺っていた。「彼薄汚れたネズミを黄色に変えようと魔法を唱えていたんだけど、失敗してたの」

 

 マルフォイは面白そうにハーマイオニーを見た。

 

 「それに鼻に泥が付いていたの。ドラコが言ったように自分の汚さに気が付いていないんだわ」

 

 ハーマイオニーは罪悪感を感じたが、ロン・ウィーズリーが列車で失礼であったことや、組み分けが終わった後に睨めつけてきたことを思い浮かべて、ウィーズリーが嫌われるのは当然なことだと自分に言い聞かせた。

 

 ドラコは鼻を鳴らした。「ウィーズリー家は貧乏だから滅多に風呂に入れないんだろう。服も洗濯できていないかもしれない」

 

 「ドラコ、今日は念入りにシャワーを浴びなくちゃね。悪臭を取るために」ダフネがそう言うと、皆が笑った。

 

 「ねぇ、席変わって貰える?」組み分けを終えた子がテーブルにやって来てハーマイオニーに言った。

 

 ハーマイオニーが立ち上がろうとすると、「そっちの子と変わりなさいよ」とダフネが自身の2つ左隣の子を指した。

 

 どうやらこの寮にははっきりとした階層があるようだ。そしてハーマイオニーはある程度信用を得れたようで、少なくとも一番下では無いようだった。何だか社会実験のようで、ハーマイオニーは今の状況が面白かった。

 

 


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